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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

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66-1.ハジメの見る過去

12月26日、2話?更新の2話目になります。

全てが終わった後、エリスと顔を合わせた。

リリアと一緒に会いに行き、お互いのわだかまりが解消したことに気付くと涙を浮かべる。そしてその勢いのままハジメのお腹を全力で殴った。

何度も、何度も。

納得するほど殴るとそのまま声をあげて泣き始めてハジメにしがみ付く。ハジメが全てを受け止めて優しく抱きしめると、リリアも一緒に抱きしめた。



「……」

数日後。

ハジメは静かに、腰ぐらいの高さの石の前に立っていた。隣には一回りぐらい大きな石。その隣にも同じような石が理路整然と並んでいる。

そして並ぶ石のほとんどに名前が書いてあり、目の前の石にも名前が2つ掘ってある。

――ルウ・アルファ

――ユイ・アルファ

2人の、墓標。

ここに来たい、と思った事は1度ではない。けれど何度も躊躇し、来ることが出来なかった。

それでも向き合い背負う覚悟を固め、グレンに頼み込んでここに来た。

その覚悟を示し、この世界に生きる人として、この世界の墓参りの形式に従って行いたい。

ハジメがグレンに詳しく聞いてみると花を飾る習慣はないとの事。食べ物やお酒を持ってきて、その場で()()に食べるのが基本。なので2人が好きだったと言うお酒を持ってきている。

「いつ来てもここは綺麗だな。俺以外にもこまめに誰か来てるんだろうな」

グレンはそう言いながら、桶と一緒に補修跡が目立つタオルを持ってきていた。そのまま水を魔法で貯めると、汚れ一つない墓標を丁寧に拭き始める。

「グレンさん、俺にも――」

「悪いが俺にやらせてくれ」

ハジメの申し出を拒否すると、グレンは汚れ一つ残さないように丁寧に、本当に丁寧に拭き始める。その寂しそうで辛そうで、けれどそれを表に出さないよう抱え込む姿に何も言えなくなる。

拭いている間、ハジメはその後ろ姿と墓標を心に刻み込む。

「(ハジメ・アルファ・アズマと言います。リリアさんに、お世話になってます)」

その背中と墓標を見つめ、ハジメは心の中で挨拶する。

当然、何も返事は帰ってこない。

自己満足と言われるかもしれない。

それでも、自分にとって必要な儀式を進める。

「(挨拶が遅くなり、すみませんでした。この世界で生きる覚悟が足りませんでした)」

覚悟はしていたつもりだった。けれどどこかで甘えがあった。

その甘えが大切な者を貶し、取り返しのつかない状況になる所だった。今回向き合えたのはリリアの優しさのおかげだ。それを忘れてはいけない。

「(俺はまだまだ未熟です。一緒に同じ夢に向かって歩くには、実力も覚悟も、何も足りません)」

あらためてハジメは自分の未熟さを見つめる。けれどそれは甘えからではない。

リリアが感じた辛さと絶望を、隣で支えると決めたからここに立っている。

「(それでも、リリアと一緒に生きる覚悟を、認めてください)」

返事は当然返ってこない。それでも自分の意志を墓標にぶつける。


不思議と、綺麗になった墓標が微笑んだような気がした。



「聞いていいですか?」

「なんだ」

コップを2つ墓標の前に置き、持って来たお酒を4()()で飲んでいた。本来はもう少し度数が高いが今酔うのも良くないので、水で割って味わっている。

それでもお酒に慣れていないハジメは、普段だったら絶対に聞かない事を聞いてしまう。

「何でグレンさんは、戦争英雄(ネームド)の名を貰ったんですか?」

ずっと不思議だった。同じように活躍してグレンと共に戦い、生き残った他の人は貰っていない。

ライファも、キョウヤも、ヒカリも。

けれど何故かグレンとリズウェルだけがその名を名乗っている。

最初は(名誉)があるからと思っていたが、何か違和感がある。

「……」

グレンはコップに注いだお酒を静かに眺めると一気に飲み干し、そのまま仕舞う。そして墓標の前に2つ並べたコップを取ると、1つをハジメに渡してきた。

「そうだ、な。リリアには絶対に話さないでくれ」

ハジメを見ずに呟いた言葉。ジッと墓標を眺めて記憶(思い出)を掘り起こすと、返事を待たずに言葉を続けた。

「俺が。いや、俺とリズウェルが貰う予定の戦争英雄(ネームド)は『ブレイブ』だった」

「ブレイブだった?」

名と言葉に違和感を持つが、グレンは墓標と目を合わせ続ける。

「断ったんだ。ルウとユイによって助けられた(人生)、英雄なんて名乗りたくなかったからな」

「……」

グレンは静かに、揺れる水面を眺める。そして覚悟を決めた様に一気に飲み干すと、空になったコップ越しに墓標を眺める。

「だからリリアを引き取る時に、ルウとユイが名乗るはずだった戦争英雄(フィアレス)を使えるように頼んだんだ」

「え」

信じられない言葉に、声をあげてしまう。驚き震えた手に、持っていたコップから零れたお酒がかかる。

「――俺たちは、俺は、リリアから家族(ルウとユイ)を奪った。俺たちが生き残るために」

「……」

罪を吐き出すようなグレンの独白に違うとは言えない。そんな意味のない慰め(事実)を求めてるのではない。ただ覚悟を、大切な者を背負う思いを吐き出してるだけだ。

「だから何かしら、2人の何かをリリアに遺したかったんだ」

「それが、戦争英雄(フィアレス)の名……」

グレンはそれ以上言わず、静かに墓標を見つめる。それはリリアの親としてではなく、大切な友を亡くした一人の男だった。

「ルウは俺にたくさんのモノを残した。実力も、立場も、命も。でも俺に出来る事は何も、もう何も残っていないんだ。だからせめてリリアの事だけは、本当の娘のように向き合う。甘やかすわけでも鳥籠の中の鳥にしてもいけない。本当の親として接する。自己満足かもしれない。それでも俺に残された唯一の事なんだよ」

「……」

重い懺悔にハジメは何も言えない。

生き残った重さ、生きる重さ、背負った重さ。その重さに耐えて立つ1人の大人に、子供(ハジメ)の覚悟など小さい物だ。それでも大人になるために、大人を見る。

「……っ」

「おい、無理するな」

グレンを真似て飲んでみる。度数を落としてあるはずだが、慣れないアルコールに少し咽そうになる。けれど耐えて、少し息を吐くと不思議と心に何かが残る。

「……今の話は、全部墓場まで持って行きます」

「そうして欲しい」


グレンが返す苦笑に、ハジメは静かに前を向く。

背負う事を許された重さは未来を目指し、ハジメをほんの少しだけ大人へと近づける。

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