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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

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64.凡才VS天才

12月19日、2話更新の2話目になります。

その日、リリアは家へと帰るとエリスと顔も合わせずにずっと手紙を見続けた。

どれだけ読んでも、差出人は書いてない。

どれだけ読んでも、宛名は見つからない。

どれだけ読んでも、日付すら書いてない。

「……」

(らしさ)のほぼない、まるで練習帳から引っ張り出した文字。

それでも何故か、ハジメが書いた文字だと分かる。

それでも何故か、ハジメの意思を感じ取る事が出来る。

それでも何故か、ハジメの葛藤を読み取る事が出来る。

「……」

リリアはその文字を読みながらただぼんやりと時間が過ぎるに任せた。

会ったら何をするのか。

何が起こるのか。

どうなるのか。

私は、何がしたいのか。

心に残る寂しさと後悔、そして怒りを見つめながら自分に問いかける。


分からない。

分からない。


暗くなる部屋の中、文字が見えなくなっても、リリアはジッと文字を追い続ける。



翌日、リリアは1人で朝早くから城門の外へと向かった。馴染みの衛兵が心配そうに見てきたが、気にせず進む。

悩みと不安を抱えながらウルルの森に入ると、浅層で簡単な野草採取をする。新人でさえ日銭の足しになるか怪しい収穫量。

それでも自分の悩みを足跡に残すように、森を歩きながら空気に当たる。

日が最大まで上がる頃には答えに近づいてきたらしく、それ以上何もせずに家へと戻ってきてしまった。

途中で買った軽食を食べると、1人静かに手紙を眺める。

今唯一感じる、ハジメとの繋がり。

何を考えているかは分からない。けれどそれを怖いとは思わず、ただその考えを探そうとする。

見つかるはずのない答えを探しながら、ただ時が過ぎるのに身を任せる。それでも時間が近づいてくると、小まめに懐中時計で時間を確認してしまう。

「……」

約束の時間まで1時間。既に1分も経たずに何度も懐中時計を見てしまっている。

まだ時間はある。そう思っていたはずなのに、既に心はハジメへと向いている。

その事に気付くことなく、つい体が動いてしまった。

今から向かっても、書かれた時間より30分は早く着くだろう。

その事に気付いても動き出した体を止める事は出来ず、ただただ心の進む方向に従う。

日付も書いてない手紙なのに。時間よりも早いのに。

それでも不思議と、必ず居ると信頼して向かっていた。



いつもは誰かと一緒に歩いた道。

ある時はライファ達と。ある時はハジメと。ある時はアスティア達と。

「……」

その道の先、屋内訓練場の扉を開けるとハジメは居た。1人で走っていて、何かを待っている様子はない。

けれど扉を開けた音に気付くと目線を向け、リリアと見つめあう。

「……」

リリアは湧き上がる怒りと絶望を感じながら、久しぶりに見た顔に安心する。その不思議な感覚に、何を言って良いのか分からず黙ってしまう。

「……」

ハジメも何も言わず荷物をまとめた一角へと小走りで向かうと、何かを拾い上げた。そのままリリアに確認も取らず、2本の細い棒のような物を放り投げる。

「……」

リリアはその2本を受け取ると、少しの違和感と共に持ち慣れたサイズと重さに安心する。リリアがいつも使っているショートソードを模した木刀、それとそっくり同じサイズだったからだ。

「……」

リリアは何も言わず、受け取った木刀をぶらんと持ちながらいつもの位置へと向かう。

ハジメも何も返さず、いつも使っている木刀を持つとリリアと相対する位置へと向かう。

「……」「……」

そこに言葉は無く、怒りをぶつけ、怒りをぶつけられ、けれど静かにその怒りを鎮めようと努力する。

「私、機嫌が悪いの。こんな物渡されて怪我無く済むと思ってるの?」

勝手に零れた本音(遠慮ない言葉)。しかしハジメは気にする様子もなく、リリアと向き合う。

「……」「……」

それ以上の言葉は無く、2人とも武器を構えた。


始まりの合図は無かった。

お互いに構えた事を確認すると、ハジメは一気に近寄る。普段からよく見る、本気の突撃。

「……」

リリアはそれを静かに眺めると、しっかりと振り抜かれた木刀を紙一重(余裕)で躱す。それでもハジメは動揺せず隙も少なく、今までの訓練の成果が目に見える。

しかし少なくとも隙はある。大抵の相手なら問題ないが今回の相手はリリアだ。

「っ」

ハジメの腕に軽く触れるとバランスを崩す(壊す)。倒れそうになるところに足をかけられ、耐える事も出来ずに転がる。

それでも戦いは終わらない。転がりながら距離を取ると反撃に向かった。

しかしその動きは意味をなさない。ハジメが反撃するよりも早く首筋に木刀を止める。リリアの読み、練度。勝てるのはAランクでもヒカリぐらいだろう。

「……っ」

1本、そう言おうとしたのにバシッ、と言う音が響いて驚き、リリアが一気に後ろに跳んで距離を取る。手に響いた衝撃と感覚が信じられずにハジメを睨んだ。

「何、考えてるの?私が信用できない?」

「……」

「それとも何?非力()の攻撃は効かないって?」

リリアの怒りが増す。ハジメはリリアに寸止め(勝利宣言)をさせず、腕を入れて庇っていた。

冒険者ランクが低ければよくある対応。実力が足りず止め損なう危険があるからだ。それでも盾や籠手を使うのが一般的、素手で止めるなどありえない。

ましてや相手しているのはリリア。寸止めし損なうなどありえない。

「……」

ハジメは木刀がぶつかった事を一切気にせず再び構える。まるで木刀のダメージなど無かったという反応。それが余計にリリアを苛立たせる。

「本当に、加減しないよ」

ハジメは気にせず構える。今度はリリアから動き出した。

本気を出したリリアはライファやヒカリとも良い勝負をする。しかも近距離の連打になれば互角に戦えてしまうほどだ。それでもライファだったら間合いを生かし近寄る前に仕留めるだろう。

しかしハジメに出来る訳が無い。近寄ったリリアを迎撃しようと木刀を振るがかすりもせずに躱される。危険を感じて一歩下がろうとしたが遅すぎた。

「っ……」

速過ぎるリリアの動きに対応出来ず、無防備に脇腹への一撃を貰う。けれどリリアの攻撃は終わらない。

ぶつかった反発を生かす様に逆方向に体を動かすと、もう片手の木刀で反対側の脇腹へも1撃を決めた。さすがのハジメの表情も一瞬変わるが、けれどそれをほとんど表に出さない。

「効いた?」

リリアは距離を取ると苛立ちをぶつけるが、ハジメは気にせずに再び構える。その反応に腹が立ち、もう自分がどれほど怒っているか分からない。

「本当に、壊すよ」

「……」

リリアの怒りにハジメは何も返さない。だからこそ、リリアは怒りをぶつけ続ける。

「えっ」

次の行動にハジメはつい言葉が漏れた。けれどリリアは気にせずに1刀を落としてハジメへと走り出す。

ハジメはそれでも落ち着いて木刀を振る。何度やってもかすりもしないが、それでもリリアの動きを制限しようとする。

「っ、え、は」

しかし意味はなく、一瞬の隙をついてハジメの腹にリリアの本気の突きが入った。軽いとは言え全体重をかけた突きに、一瞬呼吸が止まる。

けれどそこで終わらない。もし次の攻撃を躱せていなかったらハジメの冒険者人生は大きく変わっていたかもしれない。

「っ」

リリアはハジメの腕を掴み、肘を()()()とそのまま壊す様に転がした。

転がされる直前、何をされるか気づいたハジメは慌てて自分から跳ぶ。持ってる木刀が邪魔で慌てて手を離したが、その分タイミングがほんの少しだけ遅れた。

一瞬ミシッと嫌な音が聞こえ、けれど何とか受けきる。

「くっ」

簡単な事だ。腕を決めた状態で、曲げてはいけない方向に曲げたらどうなるか。

ハジメは自分から飛んで何とか耐えたが、失敗したら腕は壊れていただろう。しかしリリアの攻撃は終わらない。跳んだと言う事は体勢が崩れていると言う事。その状態ならハジメの方が力があるとは言えリリアでも好き放題出来る。間違った動きをすれば砕けるだろう。

「くっ」

時々反応がずれると、ミシッと嫌な音が響く。それでも痛みに耐えて土まみれになりながらも必死に流す。今まで感じたことが無い、本気で()しに来ているリリア。その恐怖を味わいながらも、体が壊れるギリギリで耐え続ける。

しかしそれで終わらない。転がしながらも意識を逸らされるタイミングで木刀で殴られる。お互い不安定な体勢。だから威力は出ないが、それでもハジメの集中力をずらす。

まるで玩具のように好き放題転がされる。

本気のリリアに手も足も出ない。

普段のリリアがどれだけ手加減してるのが良く分かる。

だからこそ。


ハジメの限界(終わり)が近づいていた。


――ビリッ

予想だにしない音が響くと、リリアが何かに引っかかったように動きを止める。力が抜けた隙を逃さず、ハジメは力任せに振りほどくと慌てて距離を取った。体中の痛みを無視して膝をついたままリリアと睨み合う。

「え?……あ」

リリアは何が起きたか分からずハジメを見ると、何か気づいた様子で顔を青くする。ハジメは気にせずリリアを見るが少しお腹が寒い。

目を逸らして(隙を作って)確認すると、着ている服のボタンが吹き飛んでいた。肌着も破れていて、リリアの木刀がハジメの服に引っかかった音だったようだ。

「私、そんなに強く……」

リリアは真っ青な顔で破れた服、ではなくてそこから見えた肌を見ていた。

――先ほど木刀で殴られ、青あざになり始めていた肌を。

「か、肩。違う、腕は大丈夫?」

リリアが今までの怒りからゆっくりと困惑を通りながら冷静に戻る。自分の感情に任せて好きなだけ暴れた後だ、落ち着く余裕も出来た。

だからこそ自分が何をしたのか気づき、ハジメの身を案じる。

「……」

ハジメは気にせず青あざを隠す様に破れた服を整えると、落とした自分の木刀へと歩き出す。

「ちょ、ちょっと!」

木刀を持ち上げるとリリアの反応を気にせずに構えた。その行動にリリアは動揺する。

「本当に、これ以上やったら取り返しのつかない怪我するよ!」

ハジメは忠告も無視する。リリアもどうしていいのか分からないのだろう。つい構え返してしまうと、ハジメはすぐに切りかかった。

リリアは困惑を表す様に広めに躱すがハジメは止まらない。リリアは一切反撃が出来ず、なのにハジメはこれまで通り隙を作らないように、しっかりと訓練を意識して切りかかる。

「っ、もう!」

その繰り返しにリリアが動く。いつも以上にキレ良く躱すと、いつも通り腕を掴んで怪我をしないように足を払う。ハジメが転がるのも待たずに手首を握り直すと、痛みが響くように()()に指を立てる。

「痛っ」

これまでばれないように耐えていたハジメだが、その不意打ちの痛みには耐えられなかった。痛みに驚き木刀を握る手を緩めると、その一瞬を逃さずにリリアが木刀を弾き飛ばす。

「もう大丈夫だから!」

リリアは叫ぶとハジメを転がし、そのまま腕を掴んだままになる。

極めてもない、ただ横にしただけ、ハジメは立とうと思えばすぐにでも立てる。けれど2人とも動けず、その状態のままじっとする。

それでやっと2人の目が合う。互いを心配し、労わるような目線。

同時にハジメが力を抜いた。

そのままお互い、ゆっくりと時が過ぎるに任せる。お互いに言葉を交わせるようになったのに何も言えない。

触れ合う手でお互いの体温がしっかりと行き来した頃、不意にハジメが口を開いた。

「……酷い事、言ってごめん」

押えきれなかった言葉が漏れ出した。その言葉にリリアが目を見開くとすぐに泣きそうになりながら微笑む。

「私も、酷い事してごめん」

リリアが小さく言葉を返す。

困惑と信頼、不安と安心を混ぜ合わせ、安らぎと痛みを合わせて2人は見つめ合っていた。


「こんな目に会ってまで、何考えてたの」

ハジメを倒したままリリアは座ると優しく話しかけた。そのまま、まるでハジメの体温を自分と混ぜるかのように手を握り続ける。

「色んな人に、叱られたんだ。天才(言葉)の意味と、リリアの怒った理由」

ボコボコにされた。それこそ今後の人生(夢も目標)も全て壊しかねない程に。けれどハジメは怒りも何もなく、静かに後悔を続ける。

「リリアの人生全てを否定する最低な罵倒を言ったんだ、怒って当然だよ。それでも一緒に居たいと思ったから。だからリリアと面と向かって話すには、自分の全てを賭けないとダメだと思った。それでどうすれば良いか悩んでここの場所と時間を書いたんだ」

ハジメもリリアの思いを知るように、握られる手で優しく握り返す。今までの危険な戦いが嘘のように、2人で穏やかな時間を過ごす。

余計な言葉は要らない。ただお互いを思い知っているからこそ、出していない言葉でさえ伝わる。

「私が来なかったらどうするつもりだったの」

「それは俺の罪だから」

「……もしかして昨日も?」

「うん。6時には来て、ずっと走ってた」

「いつぐらいまで?」

「覚えてないや。寝る頃までかな」

ハジメが笑って言うと、リリアが後悔したように表情を歪めた。その表情にハジメが微笑む。

「リリアがそんな表情すること無いから。全部俺が悪い」

「でも私は――」

「良いの。俺はリリアの苦しみも、痛みも、絶望も、知らないから。でもリリアと一緒に居るなら知らなきゃいけない」

ハジメが覚悟を決めてリリアを見つめる。リリアはハジメの覚悟を、ただ見つめ返す。

「でも、絶対に誰も教えてくれない。俺が弱いから。だからリリアとちゃんと向き合うには、俺の全てを賭けて知るしかない」

「弱くなんかないよ」

不器用な2人。ならお互いを知る方法も不器用だ。

それでもそれしかないのなら、ハジメは辛くてもその道を選ぶ。

その思いを受け取り、リリアが泣きそうになりながら手を優しく握る。

「ごめんね、痛かったよね」

何の意味もない、自己保身のための謝罪。自分を守るためだけの言葉。

けれどその言葉が出たのが嬉しくて、ハジメは小さく微笑む。


――体は痛い。

リリアが後悔から涙を浮かべるので、思った言葉を表に出さずに涙を眺める。

木刀で殴られたのだ。当然とても痛い。それでもこの痛みは、自分の無知から来た罪だ。


――少し違和感もある。

ハジメは後悔に身を焼きそうになりながら、リリアの後悔の表情を受け止める。

関節を決めながら転がされたのだ。ハジメは何とか受けきったが、限界ギリギリだった。痛みは数日続くかもしれない。

それでもこの痛みはハジメの罪だ。

何も知らず、何も考えず、リリアの人生を否定する最低の罵倒を言ってしまった。

それによって生じた、リリアの心の傷。


だから。

「どうだろう、秘密」

ハジメは笑って言った。

痛いのは当然だ。お互い分かってる。だからこそ「痛くない」と言ってもリリアは責任を感じるだろう。

だから、秘密。

リリアの後悔も、涙も、辛さも、優しさも。

ハジメは秘密にして全て受け入れた。

そう言えば忘れていましたが、『企画:お題で飛び込む新しい世界』に合わせて当作品の前日譚に当たる作品を投稿、一旦完結しました。

『魔法連隊』と言う作品で『18話の短編』と言う矛盾を含んだ作品です。

こちらでは名前しか出ていないリリアの両親をメインにまとめた作品になります。世界観の補填となりますので、ご興味が湧きましたら是非。

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