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6.この世界の魔法

「それで、こいつが?」

ハジメは待ち合わせ場所で、そう無造作に声をかけられた。

ここはいつもの訓練場ではなく城門の外、そこからさらに1時間程歩き、道から外れた広い草原の中に居る。

こんな場所、日本に居た頃には見たことも無かった。そのせいで余計に異世界に来た、と言うのを実感している。

「あぁ、迷い人だ」

無造作にかけられた言葉に困惑して固まっていると、横に居たグレンが返事をする。今この場には7人居り、全員が完全武装だ。

まずハジメ、今回の中心人物で重要人物。腰にショートソードを装備していて、新品の革鎧も装備している。慣れてないせいか少し動きづらそうで、どう見ても初心者ですと言った様相である。

どちらも国家フォーサイシアの兵士の基本装備で、外に出るためにグレンから借りた物だ。ロングソードの方が良いのでは、とグレンにアドバイスを受けたが、普段木刀で使い慣れているショートソードにしている。

次にリリア。こちらもショートソードを2本を装備し、鎧も装備している。リリアの装備はどちらも自前で、特に剣に至ってはリリアお気に入りである。

今日はずっとピリピリしており、恐怖を感じて声をかけられずにいる。

そしてグレン。こちらはロングソードを装備し、使い込まれた防具を着込んでいる。装備の使いこみ具合は最前線の指揮官、と言うよりも最上位の冒険者と言われた方が違和感がない。

ハジメが知る人物はこの3人で、他は初めて会う人たちである。

「はいはい。ライファさん、少し落ち着いて。リリアがちゃんとしているのだから、大丈夫ですよ」

最初に声をかけて来た男性をなだめる様に女性が微笑む。のんびりした印象を与えるが発せられた声は力強い。彼女はリズウェル。グレンの妻だ。

こちらも装備は使い込まれており、防具の装飾はグレンそっくりだ。武器は槍を持っている。

冒険者として動いてないためランクは持ってないが、隙の無さや威圧感はハジメと比較にならない実力者と言う事が分かる。元兵士は伊達ではない。

そして残り3人はAランク、その中でも最上位に位置するPTの3人が来ていた。

最初声をかけて来た男性がライファ。肩程まである巨大な剣を背負い、それでいて重量を感じさせない程身軽に動いている。

ハジメと身長はそれほど変わらないが筋肉質ではあり、それ以上に『剛力』と呼ばれる体質で他の人よりも格段に強く力がある。

「そうだぞライファ。今回の目的は意味もなく絡む事じゃない」

「キョウヤ、それは分かってるが……リリアちゃんに付いた悪い虫なら叩き潰すべきだろう?」

恐ろしい会話をライファとしている男性がキョウヤ、ライファと同じAランクの実力者だ。

こちらは腰に剣を装備しているが、背中に弓も背負っている。キョウヤはライファと話をしているが、ずっとハジメを警戒している。

「いいから、そこで話していても進まないから。本題入るよ」

そこで後ろに居た女性が2人を止めるように割って入る。

ここにいるAランク最後の1人、ヒカリだ。この人もハジメと同じ迷い人で、先の戦争を戦い生き残ったベテランだ。「こっち来て長いから、名字は捨てちゃったよもう」と笑っており、ただの「ヒカリ」を名乗っている。

こちらは刃の中央当たりに綺麗な宝石を組み込んだ手斧を2本装備している。

「それじゃあ、簡単な説明と注意事項だ」

ヒカリの言葉を引き継ぐように、グレンが口を開いた。


魔法とは。

便利ではあるが素晴らしい物でもない。道具であり、使い方を間違えれば自分を殺す物だ。

大きく分けて3種類。

1つ目、先天魔法。

自分の命を使い、魔法と言う形で使う。使いすぎれば当然命を落とす。今から確認するのはハジメにこの適性があるか、だ。使えれば冒険者と活躍できる場所は増えるだろう。ただ、そのまま使わせるわけにはいかない。

安全に使えるようにするために訓練が必要でな。威力は落ちるが命を使わずとも使えるようになる。

そのように変遷したのが二つ目、大気魔法だ。当然先天魔法は使えなくなるが、こちらに変える方が圧倒的に良い。

そして最後の3つ目、便利魔法や日常魔法と呼ばれる魔法だ。

恐らくハジメも使えるだろう。多少の得意不得意はあるだろうがな。ただ、戦闘に使えると思うな。あくまで『便利』だ。


内容を噛みしめる。先天魔法……最初に会った時に言っていた「命を削って使う」とはこの事だろう。

グレンの目と言葉に、ハジメがゴクリと唾を飲む。この圧は最初に出会った時の圧に似ている。

「し、質問です」

「なんだ」

「何で便利魔法が戦闘に使えないんですか」

「あぁ、それはだな」

ハジメの疑問にグレンが悩むと、近くに居たキョウヤに目を向ける。その目線に頷くと、

「見ていろ」

キョウヤはハジメに一言言うと、目を閉じて何かに集中し始めた。その様子にハジメが困惑していると、

「ウォータ」

そう呟き、蛇口から水が出るかのように指先から水が流れ始める。その間、約10秒。戦闘だったら致命的な隙となる自殺行為だ。

「こんな感じで時間がかかるんだ。ハジメが敵だったら待ってくれるか?」

「……いいえ」

「その通り。出るのもこれぐらいで威力なんて無いに等しいからな。夜に打つ光源(ライト)とかだったら目潰しの効果があるかもしれないが、まぁ奇襲ならそのまま切った方が早い」

「なるほど。分かりました」

ハジメの言葉に満足したようにキョウヤが頷くと、説明の続きをグレンが引き継ぐ。

「ハジメ。これから先天魔法の適性と、日常魔法の使い方の確認を行う」

「は、はい」

ハジメが返事をすると、他全員の緊張が一回りましたのを感じた。

「手を上に向けて、『ファイアボール』。自分の頭のサイズぐらいの炎の玉を思い浮かべなさい。それぐらいなら、先天魔法でも消費はかなり少ない」

グレンはそう言うと、頭よりもっと小さい、手のひらの上に拳サイズの炎を()()()作り出した。それはポンッ、と上空に飛ぶと、小さな爆発を起こして消えた。

「『ファイアボール』……その、詠唱とかは?」

「昔はしていたが、今はないな。詠唱は威力を上げる、イメージをより強固にするために使うが、それだけの威力が求められる場合がもうない。そもそも使える人が少ないからな」

「……分かりました」

グレンの言葉に、ハジメは目をつむり自分のイメージを固めていく。

カチッ、と誰かが剣を手にかけた音がしたが気にしない。

炎の玉。頭ぐらいのサイズ。今のグレンさんのようなイメージ。

両手を上に上げ、手のひらを上に向け、集中する。体の中に何かが渦巻く感覚がする。

――イメージを固める。太陽のような。

体の中の渦巻く何かが、手のひらに集まる感覚がする。これだ、と言うイメージを沿って声を上げた。

「『ファイアボール』!」

周囲の緊張が走った次の瞬間、


指先に、マッチぐらいの小さな……いや、ギリギリライターぐらいの火が灯った。

「……えっ」

魔法が使えた感動もあるが、イメージよりも圧倒的に小さい結果に呆然とした。急いで確認するが、どれだけ確認してもファイアボールには程遠い。

――これだけ?

人をこれだけ集めておいて結局これしか起こらなかった事の恥ずかしさにイメージがブレて、その小さな火も風で消えた。


「ハジメ、体調は大丈夫か?」

火が消えてすぐ、恥ずかしさに穴があったら入りたい通り越して埋まりたい状態で固まっているハジメにグレンが声をかけて来た。グレンの斜め前にはライファが立っており、それはまるで盾のよう。

他の人は距離を取ったままだ。

「大丈夫です。ただ……す、すみません。次はちゃんと出すので」

「……いや、1度で出せない場合先天魔法の適性は無い。それぐらい、分かりやすい魔法なんだ」

「その……ごめんなさいこんな結果なのにこんな大事にして」

「気にしてないから大丈夫だ。他の魔法も確認しておけ、得意不得意の可能性もあるから」

「はい」

次こそは、と思いハジメは深く息を吸い集中する。


そのハジメの集中は、悲しい結果で帰って来た。

『ウォータ』と言って出てきた水はキョウヤより弱い、チョロチョロとした寂しい勢いの水で、『ウィンド』と叫べば団扇と良い勝負。

試しに唱えた『アイス』では、小さな雪の粒が風に飛んで行った。せめてもの思いで『ライトニング』と唱えたが何も起きず、悲しみから膝を折って地面に手をついたら強めの静電気が流れた。


「安心しろ、ハジメは普通の冒険者って事だ!」

膝を折った状態のハジメの背中を、ライファがかなり強めに叩く。

その後ろではグレンが本当に嬉しそうに笑う。

「そうだぞ。使えるのが良い事ではないからな」

「そんなの――」

「使えるからこそ、苦労した奴だって居るんだ」

ハジメの言葉をライファが遮る。その言葉に顔を上げると、ライファはハジメを見ていなかった。

「……忘れらようがない、昔の話だよ」

ライファが見ていたグレンは、そう吐き捨てる。先ほどまでとは違う何かを抱え込んだ儚い笑みが、色々あったんだよと表情だけで語っている。

――戦争を生き抜いた。

ヒカリが言っていたその意味が、何となく見えた気がした。


そんなグレンを、それ以上に辛そうに見ていたライファが、

「便利魔法はちゃんと使えたんだ。練習はしとけ。火をつけようとして爆発とかしたら笑えないからな」

無理矢理作った笑みで言葉を紡いだ。


最初来た時にあった嫌な緊張感は、無くなっていた。

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