60.おかえりの評価
12月5日、2話更新の1話目になります。
「長かったなぁ」
いつも通っていた城門を超えると慣れ親しんだ街並みが広がる。その落ち着く光景に、ハジメはつい言葉が漏れてしまうのでリリアが注意する。
「まだ終わってないよ。この後ギルドへの報告があるからね」
「そうだけど、やっぱここまで戻ると気が楽で」
慣れ親しんだ街を歩くと、少なくない知り合いから「おかえり」の挨拶を向けられる。冒険者、休みだったらしいギルド職員、常連の店員。
2年も生活すれば、そこはしっかりと生きる場所。ハジメを知る、ハジメが知る人たちとの挨拶が自分の生きている場所を教えてくれる。
現在、ハジメ達は王都を歩いている。
隊商は当初の予定を5日程超えて戻ってきた。今は荷馬車を城門外に並べ、依頼者の人達が荷の受け渡しと整理を行っている。本来だったらハジメやアマラも協力するのだが、各店舗の割り当てなどもあるため対応が難しい。
そのためリリア達と一緒に解散となりギルドへと向かう事となった。ちなみに軍はまだ待機している。今後あるとしたら、強盗や盗難などの人の犯罪。軍が居るだけで防犯にもなるためだ。
「ハジメは気楽でいいね。私は気が重いよ」
一安心したハジメとは反対に、アスティアが少し足を緩めて気が重そうに歩く。その様子をサカムが笑っており、オルビは何か悪い事でも企んでいるようにニヤニヤしている。
「リーダーとして問題なかったか、の確認もあるからな。この手紙には何が書かれているんだか」
オルビはそう言うと、クロッサとデンドンから受け取った手紙を見せる。2人からは何の手紙かは聞かされておらず、受け取った時にはお互いを牽制し合うような変な目線を送られていた。
そのためアスティアは何か悪い報告ではないかと気が気でないのだ。
「多分、時期的にもあの手紙だと思うがな」
「だろうな。でも、その予想を言うのはフェアじゃないから」
サカムもオルビも何の手紙か察してるようだが何も言わない。そのためアスティアの進む速度はどんどんと遅くなり、そのたびにアマラとラナラスに背中を押されていた。
その辛そうな様子に、流石のエリスも一緒に背中を押すのを手伝っていた。
「帰ったな。全員無事で何よりだ」
全員が居るのに安心すると、サシウスは笑顔を向ける。ギルドでも一番広い部屋、ハジメが新人教育を受けた部屋で今回参加したギルドのメンバーは座っていた。
先ほどまでの安心した空気は少し薄れ、ギルドマスターとの対面に緊張は広がってる様子。
「さて、さっさと終わらせるぞ。追加や個別の依頼料は後になるが、共通の依頼料は今配る」
その言葉に部屋の隅で待機していた職員が動き出すと、それぞれ金貨2枚を配っていく。少し浮足立ってる人も居る。
「あの、サシウス?これは?」
追加で手紙を4通渡されたアスティアは、冷や汗を流しながら声をあげる。先ほどオルビが持っていた2通とは別に、知らない手紙も置かれていた。
「なんだ、知らないのか?」
「……苦情、でしょうか」
隊商レイドでは色々やらかした。
圧を込めながら文句を言ったり、依頼者に殴りかかろうとしたり、指示を放棄してラナラスに付きっ切りで看病しようとしたり。
その記憶に怯えながら言うと、サシウスが吹き出して笑う。そして笑いながら中身を確認しろとジェスチャーを送った。
そして同じように別の物を渡された2人も困惑気味で確認していた。
「昇格?」
「私も?」
ハジメとアマラ。2人にも書類が回ってきていた。ハジメはDランク、アマラはCランクへの再昇格。その書類だった。
「問題があれば報告があるが、それも一切ない。実力も問題なかったらしいから、なら充分だろう」
サシウスは当然と言った様子でオルビを見ると、しっかりと頷いて返す。だがアマラはどこか納得いかないらしく少し不思議そうに書類を見る。
「どうした、不満か?」
「……私、エレメンターウルフに何も出来なかった」
呟いた懺悔に場が少し重くなる。けれどそれを笑って吹き飛ばしたのはサカムだった。
「気にする事は無い。Aランクじゃないんだ、誰だって得意不得意はある。エレメンターウルフには厳しかったが、他はほとんど問題がない。充分昇格に値すると判断したから話が来た、それだけだ」
「サカムの言う通りだ。報告を受けたが問題なし。ギルドが自信をもってCランクと言えるから再昇格の話を出したんだよ」
サシウスとサカムの誉め言葉にアマラが嬉しそうに書類を見る。そしてすぐに冒険者タグを外すと近くに居た職員に手渡した。
「ハジメは言わずもがな、だな。この隊商レイドの間も経験を積んで、実力を付けた。サカムとオルビから昇格して問題ないと来ていたからな」
「はい」
向けられた期待と信頼の視線を、緊張しながら受け取る。その表情にサシウスは小さく頷く。
「良い表情だ。ランクが上がっても驕るなよ。ハジメもタグを出しとけ、更新してすぐ返すから」
その言葉にハジメも冒険者タグを出すと、近くに居たギルド職員に渡す。知った顔が少し緩んでおり、一緒に昇格を喜んで居るのが分かる。
「えっ!」
そしてその話が終わった頃、意を決して手紙を開いたアスティアが声をあげて立ち上がる。急な動きに視線が集まるがその事にも気づかず、慌てて残りの手紙を開けると書かれている内容に驚き過ぎてサシウスを見てしまった。
「サシウス、これってもしかして」
「そうだ。Bランク昇格試験への推薦状だ」
サシウスの言葉に場は驚きと賞賛が広がるが、アスティアは理解できずに推薦状を何度も見直す。それでも書かれている文字は変わらない。
「クロッサ、デンドン、サシウス、グレンさん……」
アスティアは落ち着こうと推薦状に書かれた名前を読む。豪華な面々に周りから驚きの声が漏れるが、余計に緊張してしまい耳に入らない。
「推薦者は3人で良いんだがな。グレンからも推薦が来るとは思わなかった」
サシウスが嬉しそうにするがアスティアが呆然としている。
「アスティア、大丈夫だから気にすること無いぞ。俺も似たようなものだから」
「サカムも?」
救いの手を差し出したサカムは、小さく頷く。
「俺も試験を受けるからな。俺の推薦者はサシウスにクロッサさん、それと知り合いの元Bランクがしてくれている。今年こそは受かりたい」
「……今年こそって言った?」
「2回落ちてるんだ」
サカムが他人事のように笑うが、アスティアの緊張がより広がる。
「気にすること無いぞ、受かる方が珍しいからな。毎年国中から人が集まるが合格者はほとんど居ない。多くても両手、少ない年は0人もある」
「……」
サシウスの恐ろしい言葉にアスティアが固まる。けれどサシウスは気にせずに説明を続ける。
「試験は来月だ、詳細は自分で調べろ。その推薦状は5年有効だが、推薦を下げられる事もある。だから問題は起こすなよ。まぁ問題を起こすような奴には推薦は来ないし、大丈夫とは思うな」
締めとなった言葉に、顔を青くしながらもアスティアの背筋が伸びた。
そこで解散となると、せっかくなのでサカムから試験内容を聞くことになった。そこで内容を聞く限り、本当に資格試験の様な形らしい。
魔獣や魔物知識に薬草関連、他にもそれぞれの町の特産などを聞かれる。
他にも中学レベルの算数や数学の知識を聞かれるらしいが、冒険者はこの手の知識に弱い。難易度としては孤児院名の能力を二回り上げたほど。
サカムのように孤児院名なしでも試験を受ける人も多いため、結果的に合格者は極端に少なくなっているらしい。
「それでも、Bランクまで上がれれば色んな所から声がかかるからな」
サカムの言葉に全員が納得する。冒険者でCランクと言えば実力的にはかなり上位、しかもしっかりとした知識まであるとなれば冒険者にしておくには勿体ない。クロッサのように引き抜かれる事も多く、CランクになれたらBランクを目指す人は多い。
「でも推薦ってなるとしてくれる人は少ないよね」
「そうだ、だから推薦されるのは相応の能力があり信頼されてるって事だ。良かったな、アスティア」
「……今はその期待が重い」
サカムが揶揄うとアスティアが突っ伏した。
試験が行われる。それは違う方向にも問題が発生する。
「部屋が足りない?」
「はい」
リリアが聞くと、考えてもいなかった言葉が返ってきた。
これまで泊まっていた兵士寮。隊商レイド期間は部屋を解約し、持っていけない荷物はとある人に預けていた。再契約と宿泊に来たのだが、驚きの言葉が返される。
「間に合わなかったか」
リリアがやらかした、と言った感じで呟くとハジメやアスティアも目をパチパチとさせて言葉の意味を噛みしめる。
「どういう事?いつも空き部屋はあるよね」
「昇格試験があるから人が集まるの。そのせいで混みやすいんだけど、今年は早かったみたい」
アスティアの質問に、リリアが見るからに失敗したと言った表情を浮かべる。
「他の宿探すしかないかな」
「そうなりそう。兵士寮って便利で使いやすいからありがたいんだけど」
旅疲れもあり早く休みたい、そう考えて使い慣れた場所に来ただけに少し憂鬱になる。
「あ、あの。空いてる部屋は何部屋ですか」
そこで何かに気付いたラナラスが受付に声をかける。受付の人は宿泊状況の書類を開くと、部屋を確認し始める。
「えっと、ですね。1人部屋が2つ、と。3人部屋が1つです」
「1人部屋、は、2人宿泊、出来、ますか」
「可能ですよ。ベットの数が変わらないのと、1人部屋の値段ではなくなりますが」
「だって」
ラナラスの確認に、全員が驚く。アスティアがすぐにアマラに視線を向けると、小さく頷く。
「エリスはそれでも良い?」
「良いよ」
リリアとエリスも2つ返事、悩まずにすぐに帰ってくる。
言わずもがなハジメは1人部屋のため、確認する相手は居ない。
「助かったよ」
ハジメの誉め言葉にラナラスがきょとんとするが、少し照れたように顔を伏せた。
「い、いえ。6人で、来た、から。6部屋、と思われた、の、かな、って。部屋が、ない、ではなく、足りない、だったので」
ラナラスの注意力にハジメが驚くと、アスティアが嬉しそうにラナラスの肩を抱く。
「ね、私達が王都まで何で来れたか分かるでしょ」
「本当だよ」
リリアの心の底から納得に、ラナラスは顔を真っ赤にすると小さくなっていった。
最近は1話7000文字超えるばかりでしたので、元の4000字前後で投稿すると「少ない!」と感じる様になってしまった今日この頃。
皆さんは、いかがお過ごしでしょうか。




