58.謝罪の意味
11月21日、2話更新の2話目になります。
「アスティア、良いか?」
隊商が止まって少し経った頃、クロッサが人を連れてやってきた。連れてきた人に見覚えがありエリスは尻尾を逆なでてて警戒し、リリアでさえも腰の武器に手を伸ばしてしまう。
「どうしたの?」
アスティアが顔を出すと見たくない顔を見て一気に殺気が広がる。それでもすぐに深呼吸すると殺気を抑えた。
「……どうしました?」
先ほどまでと違い、まるで能面の様に無表情になった。しかしその怒りを隠した表情に、クロッサが連れてきた人は何も言わずに頭を下げる。その姿にアスティアの怒りが増す。
「何でしょうか、あなたの謝罪を聞いてる時間は無いのですが」
「……ラナラスさんとハジメさんのために、宿の部屋を1つ取りました。休めるようにしてるので、使ってください」
頭を下げたまま言ってきた。言葉の真意が理解できず、その場の全員がクロッサを見る。
「空きは無かったんだがドロスが同室を説得したから、自分にあてがわれた部屋を提供したいと言って来たんだ」
「……ドロスさんは、それで良いのですか」
まるで最大の敵を相手するように、アスティアは怒りをグルグルと回しながらも冷静を装う。そのため、恐怖を感じるほどに言葉は丁寧だ。
ドロス――ドロス・アルファ・サイシアはその圧のある言葉を頭を下げ続けながら受け止める。
「はい。どうかお2人が休めるよう、使ってください」
「……だってさ。ハジメ、どうする」
今までの圧を全て消し飛ばしハジメ達を見る。そこには怒りは無く友人を心配するばかりだが、ハジメは傷に響かないように小さく首を横に振る。
「俺は良いからアスティア達で使って。俺が居たら落ち着かないだろうし」
「良いの?」
「うん。慣れないベットより、慣れてるテントの方が落ちつくから」
「……分かった。遠慮なく使わせてもらうよ」
アスティアはそのまま荷馬車に戻ると、アマラとの話し声が聞こえる。荷物をまとめているみたいだ。
「あ、あの。ハジメさんは」
それに困っているのはドロスだ。大怪我させた2人に提供するつもりがハジメが辞退。考えても居なかったらしく呆然としている。
「俺に必要なのは時間です。ラナラスはゆっくり休む必要はありますが、俺はベッドまでは要らないですので」
「しかし!」
「それに、隣に俺が居たらラナラスも休めないと思います」
「で、でしたら今から話を付けてくるのでお待ちください」
「今からですか?もう他の方は動いて、部屋に行ってると思いますけど」
ハジメの冷静な言葉にドロスは固まる。馬車が止まってから時間が経っている。その間に既にスノーライトの面々は準備を終えているだろう。
そんな話をしていたらアスティア達の準備が出来たらしく荷馬車から降りて来る。ラナラスはアマラに優しく抱っこされていて、まだ寝ている。
「クロッサ、待たせてごめん」
「気にすんな。こっちだ」
クロッサはすぐに先導するとドロスを置いて行く。ドロスはそのまま立ち尽くしエリスからの殺気をヒシヒシを受け続ける。
「……本当に、すいませんでした」
少しの沈黙後、再び頭を下げる。ハジメはその言葉に小さくため息を吐いた。
「分かりました。もう気にしていませんので」
「……」
「先頭の馬車が動き出しました。街の中に入らないようなので街の外でテントを張るのでしょう、その場所は危ないので自分の馬車に戻ってください」
「……本当に。すいませんでした」
ドロスは再び謝罪すると、素直に帰っていく。
その背中をエリスは嫌そうに眺め、リリアは無表情を取り繕った。
「――ふぅ」
リリアとエリスが建てたテントの中、ハジメは毛布を被って横になっていた。いつも通り仕切りを作ってあるが、反対側には誰も居ない。
エリスがラナラスを様子を見に行っておりリリアもついて行った。ハジメを1人にするを嫌がっていたがラナラスの状態が分からず、エリスが1人で行くとアスティアに襲われる可能性もあったためだ。
「――すぅ……」
ハジメは横になってすぐにうとうとしてしまう。相当疲れていたのだろう、2人を待つつもりだったが体が持たなかった。
「痛っ……はぁ」
寝返りを打とうとして、腕に響いた痛みで目が覚める。自分が寝ていた事、痛みで起きた事。自分の体の不甲斐なさに溜め息が出てくる。
そのまま寝る事も出来ずボーッとしていると、スタスタとなじみのある足音が2つテントに近づいてきた。
「え、大丈夫!?」
「ハジメ!?」
「ちょ、あ……うおおおおお……」
リリアとエリスは普段だったらそのまま仕切りの向こう側に入るのだが、ハジメの状態が不安だったらしく仕切りを開いて確認した。ハジメが横になっていた姿に慌てて駆け寄ると傷の場所も忘れて触ってしまう。
まだ寝るには早い時間なので、倒れたのだと勘違いしたらしい。
「「あ、ごめん」」
2人の口から謝罪の言葉が無意識に出るがハジメは痛みで何も言い返せない。少し経って痛みが落ち着くと、泣きそうなリリアと不安そうなエリスと目が合った。
「だ、大丈夫だから不意打ちで攻撃しないで」
「してない!」
ハジメの軽口にリリアが焦ったように返す。エリスは一切気にせず、おでこに手を当てて熱を確認したり包帯の部分を確認して傷が開いていないか確認する。問題がなく一安心したら、そのまま頭を撫でてきた。
「いつもは起きてる時間だからびっくりした」
「すごく眠かったんだよ。疲れてたのかな」
「怪我が酷かったからだと思う」
エリスは心配そうに呟くと仕切りを持ち上げて反対側に行った。寝るのかな、とリリアと見送ると自分の毛布を持って帰ってきた。
「え?」
ハジメの困惑もよそに、エリスは左側でしがみ付くように丸くなった。
「エリス?」
「……夜、寝てる間に何かあったら嫌だから」
エリスは不安そうに呟くと、ぴったりとくっ付いて離れる様子がない。引きはがす事も出来ないので背中をトントンと優しくさする。
リリアも優しく頭を撫でるとエリスは安心したのかどんどん力を抜いて行く。
「――すぅ……すぅ」
かなり疲れていたのだろう、すぐに寝息が聞こえて来る。起こさないように手をどかすと、エリスの温かさに安心したのかハジメの体にも眠気が戻ってくる。
「それじゃ、私も寝るね」
「うん、おやすみ」
リリアも疲れたのだろう。寝ようとするので言葉を返すと、何故か仕切りを外した。疑問に思う間もなく照明を消されると、リリアが近くで横になった音が聞こえた。
「……」
エリスを中央に、かなり変則的な川の字になる。いつもと違う状況に少し困惑しながら、けれど安心を感じているとリリアが指を優しく掴んできた。掴む、と言うよりは覆うが適切に感じる程に優しく、控えめで心配そうな掴み方。
「……」
指では掴み返すことは出来ないが、それでも少し力を入れて触り返す。リリアも気づいたようで、愛おしそうに握り返してきた。
「落ち着かなかった」
「諦めて」
ハジメの寂しそうな言葉に、先ほどまで周囲警戒をしていたリリアが隣に座ってかなり本気で叱る。
今は翌日、少し昼を過ぎた時間帯。昨日は到着が陽が落ちた後だったため、荷の運び出しは今日の朝から行われた。
「でもハジメが居ないと大変だな。俺からは言いづらいが、早く復活してくれると助かる」
いつも一緒に運んでいたスノーライトの仲間が言葉を選びながらもハジメの復活を願い、配られたスープとパンを食べている。ハジメも同じ物を貰っており、何もしていない罪悪感があるが素直に口を動かす。
「当分ダメ。この街にいる間は何もさせない予定だから」
「えっ」
リリアの言葉にハジメが驚くと、本気の怒りを含んだ目線が送られたので黙る。けれどハジメの納得していない様子に、エリスが睨みながら微笑む。
「当たり前。一番重い怪我をしてるんだよ」
「はい」
エリスの追撃にもっと小さくなる。それでもハジメが冗談を言えるくらいには大丈夫と分かったため、周りから安心のため息が小さく響く。
しかし直後、一部の人が警戒や怒りを含んだのに気づくと、3人はその視線を追った。
「!!」
「エリス、大丈夫だから落ち着いて」
特にエリスは酷く、尻尾を逆なでナイフを抜きそうになるのでリリアが慌てて止める。ハジメも手を掴んで止めるが、怒りをぶつけられた人は怯えもせず暗く沈み込んでいる。
「どうした?」
その場に居たサカムが聞くと、その人――ドロスは何も言えずにその場で下げた。
「あなたがそんな行動をしたって、ハジメの怪我は治らないんだよ!」
「エリス!」
止めなかったら殴りかかりそうに怒りを叫ぶエリスに、リリアが全力で止める。それでも止まらないエリスをハジメが慌てて抱きかかえる。
その状態を危険と判断し、サカムが間に入った。
「リリア。エリスを連れてちょっと離れてろ。エリスは少し落ち着け」
サカムの言葉にエリスが腹を立てながらも引く力を抑える。そのままどうしていいか分からず立ち尽くすと、リリアが手を引いて距離を取る。
「それでだ、ドロス。どう言った要件だ?」
本来、依頼者との関係なため崩れた口調はよろしくない。しかし長く共にして今後の仕事とも関わる可能性が高いため、自然と全員が崩れた口調になっていってる。
「ハジメさんに、謝罪をしたくて」
「だ、そうだが」
サカムがハジメに目を向けると、ハジメは少し呆れたような微笑で返す。
「昨日の夜に謝罪は受けました。気にしていない、と」
「でも!」
ドロスが後悔するように叫ぶが、ハジメは気にしない。それが余計に後悔と罪悪感を生み、ドロスは何も返せない。
「ドロスは、」
動けない2人にしびれを切らしたサカムが少し呆れを含み、言葉で視線を集める。
「どうされたいんだ?謝罪を受けてもらいたいのか。拒否されて、怒りをぶつけられたいのか。八つ当たりにあって、罪悪感を減らしたいのか」
「……」
サカムの厳しい言葉にドロスは固まる。その様子に呆れると、深くため息を吐く。
「座れ。そのままじゃまともに会話も出来ないだろう」
ドロスが素直に座ると、サカムは近くの仲間に「食う物持ってきてやれ」と話しかける。ハジメ達と同じ物をすぐに持ってくると渡した。
「ハジメ。謝罪はこれで何度目だ?」
「2度目。昨日の夜に来て、また来た」
「なら、自分のやらかした事の重さを昨日のうちに理解した、ってとこか」
「……」
サカムの問いかけにハジメは気にせず答えると、ドロスは顔を伏せて動かない。
ハジメは何をして良いのか分からず、代わりにサカムが対応してくれそうなのでただ話を聞いている。
「ドロス。やった事の重さを理解したんなら何しに来た。謝罪か」
サカムの優しく問いかける言葉にドロスは悩んで口を閉ざす。けれどすぐに口を動かすと、ポツポツと後悔を話し出す。
「……あの後、クロッサさんにも色々と言われました。私の行動による被害、迷惑、怪我人。それでやっと、自分が何をしたのか理解しました」
誰も何も言わず、静かに聞く。
「ハジメさん。本当に、申し訳ありませんでした」
頭を動かす事も出来ず、俯きながら後悔を滲ませる。
一番困っているのはハジメだった。もう終わりにしていたつもりが相手が気にし続けている。その事にどう対応して良いか分からなくなっていた。
救いの手はサカムから伸ばされた。
「それでドロスはどうされたいんだ?」
「……許されたいいんだと、思います」
「誰に、何のために?」
「……」
その質問に悩み、答えが出せずに沈黙する。その様子をサカムは鼻で笑うと、スープを一飲みした。
「許してもらいたいが許されない事をした。その自覚があるから何も答えられない、ってところか」
「……本当に、すいませんでした」
ハジメは昨日も聞いたその謝罪に苦笑いを浮かべると、ドロスの手にある食事を勧める。
「一旦食べましょう。夕方までやる事があるのに、そのままじゃ倒れます」
ドロスは動けず、手に持つ食事を眺める。動かないドロスにハジメがどうしようもなくなり、サカムに視線で助けを求めると周りに聞こえるぐらい大きな溜め息を吐いた。
「そうだな。お前は何をして良いのか分からない程に許されない事をした」
「……」
「サカム!」
求めていなかった追撃の言葉にハジメが困惑する。しかしサカムの言葉は終わらない。
「その許されない事を、許されるギリギリのレベルにしたのがハジメだ。違うか」
「……」
何も言えずにドロスが固まる。けれどサカムは気にしない。
「誰だってミスはする。ミスをした事が無い人間なんていねぇ。この場に居る全員、大なり小なりミスをしている」
言葉に連れられてドロスが顔を上げると、まずハジメと目が合った。どこか困ったような、何を言って良いのか悩んでいる。
次にサカムと目が合うと少しの怒りが混じっていた。仲間を傷つけられて怒ってはいるが、それ以上は無い。
そのまま周りを見ると、様々な視線と合う。怒り、困惑、同情。
少し怒ってる人も居れば、微笑を向けるだけ、ハジメのように苦笑いを返す人も居れば、まるで自分が怒られているように小さくなってる人も居る。
「でも俺は、許されないミスをしました」
「そうだな。そのせいでハジメが大怪我をして、ラナラスが寝込んだ。でもそれだけだ。死人も出ず、被害は出たがまだ何とかなる、許してもらえるギリギリのラインで止めた」
ドロスの諦めた表情はそのままだが、どこか心が落ち着いたらしい。しっかりと言葉を聞き、前を向いた。
「責任は果たす必要はあるが、謝罪じゃ何も解決しねぇ。免罪符は貰えるが怪我が治るわけでも問題が解決する訳でもねぇ。必要な時もあるが、今はその時じゃねぇだろ」
「……はい」
「ちゃんと分かっているな。なら、今やるべきことはなんだ」
「……」
ドロスは涙を浮かべるとパンに手を付ける。一口食べると一気に涙があふれるが、気にせずに食べ進めた。
「……誰も死なないで良かったよ」
サカムの独り言はドロスの耳に入り、小さな嗚咽の中に響いた。
ドロスはパンをスープで飲み込むと、小さく鼻をすする。
顔を上げるとハジメと一瞬だけ目が合い、本当に小さく「ありがとう、ございました」と呟き頭を下げる。
ハジメにその声は届かなかったが、微笑み返すと少し冷めたスープを一気に飲み干した。
ちょっとした裏話。
投稿始めて1年、この作品も1周年になりました。が、今回は特に関係ありません。
そんな事よりも今書いてる3節ですが、今必死に書き溜めと推敲をしています。せっかくなので、まぁ誰が喜ぶか分かりませんが『3節は今年中に投稿し終えます』ので。
2回言います、『3節は今年中に投稿し終えます』。まぁ大変!
これで終わりみたいなノリですが終わらず来年も続きますので、この作品とキャラ達を好きになって頂けると幸いです。




