表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/80

57.命の優先順位

11月21日、2話更新の1話目になります。

アスティアが落ち着きラナラスの元に行くと、ハジメが限界を迎えた。

「ちょっと!」

「ハジメ!」

倒れる直前、リリアとエリスが駆け寄って支える。2人がかりで何とか支えるが、それでも力が抜けた人と言うのは物凄く重い。立たせる事は出来ずゆっくりと座らせる。

「……」

アスティアはハジメの事を一切気にする余裕も無くラナラスの元へ駆け寄り、そのまま手を握る。

「……」

意識は戻ったが動けないらしく、ラナラスは弱々しく握り返すとぼんやりと微笑みを向ける。先天魔法の影響はかなり大きいらしい。

その様子にクロッサとデンドンは頷き合うと、クロッサが代表して声をかけた。

「アスティア、ラナラスの様子は?」

「……意識は戻ったけど、まだ分からない。しっかり休ませたい」

「すまないが約束できない。出来る限り早く出発する」

「なっ!」

クロッサの言葉にアスティアが怒りを見せるが、すぐに意味を理解すると悔しそうに唇を噛む。

冒険者に重傷者も出ており、このまま野営にして休むのが本来()求められる。しかしそれは冒険者(護衛する側)の思い。重要なのはスノーライト(護衛される側)に被害を出さない事。

エレメンターウルフから逃げるように他の動物が逃げた今、これ以上魔獣が来る可能性は低い。とはいえ危険な場所には変わりない。しかも冒険者(護衛する側)に負傷者や戦えない人が居る以上、運悪く戦いが発生した場合、被害がどこまで広がるか分からない。

――ならば負傷者を気にせずに移動した方が良い。

アスティアは混乱しながらも冷静に判断してしまう。そしてそのまま何も言えず、動けないラナラスの手をに握り続けるがなんとか言葉を絞り出す。

「……サカム、リリア。今の私じゃ、多分指示がおかしくなる」

泣きそうな言葉にサカムは真っ先に頷くと、周りをちらりと見た。

「分かった、一時的に指揮をもらう。クロッサさん、どれだけ時間を貰える?」

「……30分だ。出来るか?」

「分かりました。お前ら!傷の治療が終わった奴からエレメンターウルフの解体と片付けだ」

「俺らもだ!馬とエレファントホースの状態を確認したら飯と水を与えろ!馬車の状態確認したらすぐに出発だ!」

急いでいると分かってるからこそ、サカムは時間を確認するとすぐに動き出す。他に重傷者はおらず、ハジメとラナラス以外は全員手当済み。サカムの言葉ですぐに動き始める。

けれどアスティアはそのまま動けず、ラナラスの心配をしている。

何もしないギルドのリーダーを誰も咎めない。まるで空気が止まったように、アスティアとアマラがラナラスの手を握り続ける。

「きついよな、仲間がボロボロになるのは」

その様子に心を痛めながら、サカムがハジメ達の元へ歩いてきた。指示はこれ以上要らないようで、準備はどんどん進んで行く。

「サカム、指示ありがとう。私達は何すればいい?」

ハジメの状態を確認しながらリリアが話しかける。リリアもエリスも手や服にハジメの血が付いていて怪我の重さが良く分かる。

「気にしないでハジメの様子を見ていろ。無理する必要はない」

「無理なんて一切してないから。何すれば良い?」

「顔色悪いぞ」

「……」

サカムの指摘にリリアが黙る。その様子にサカムが小さく微笑む。

「リリア達に頼まないと行けないこと以外はこっちでやる。少し休め、精神的にやられてるぞ」

「……分かった、ありがとう」

リリアがお礼を言うと、ハジメも小さく頭を下げる。エリスはサカムに一切目を向けず止血は終えると他に傷口が無いか調べている。そこで左手の傷を見つけ、慌ててリリアに魔法で水を出してもらうと洗浄と確認を始める。

サカムはその様子に安心すると、周りの様子を見に行った。


周りがせわしなく動くなか、ハジメの止血が終わったので邪魔にならないようにラナラス達の元へと向かった。まだふらつくが歩けるぐらいは回復したので、リリアとエリスに体を支えてもらいながら辿り着く。

「――ぃ――――?」

「大丈夫か、だって」

ラナラスがハジメの惨状に驚き、小さく口を動かした。小さすぎて聞こえなかったが、アスティアが何を言ったのか教えてくれた。

「まだ痛いけど、大丈夫。ラナラスは?」

「……」

ハジメの言葉に、ラナラスは儚げに微笑む。普段の付き合いが無かったら微笑んでるかすら分からない程の弱さだった。

「アスティア、聞いて良い?」

「何?」

立っているのも辛いので、ハジメがゆっくりと座る。エリスはさっさと座るがリリアがとても丁寧に座らせた。ハジメの重さにふらつきながらも頑張って支えるので、心配してるのが良く分かる。

「先天魔法って、いつもこんな感じなの?」

「うん。意識があるから普段よりは軽いけど」

「軽い?これで?」

「うん。先天魔法使った後は1晩は意識戻らないし、翌日も動きが悪い」

アスティアの言葉に呆然としていると、視界の端でラナラスがバツが悪いように微笑みを歪めた、ように見えた。アスティアは全く気にせず、安心させるように微笑む。

「だから、今回は少しだけ安心した」

辛そうに言うアスティアにハジメはこれ以上何も言えない。この状態からも分かる、先天魔法は重い。けれどそれを軽いと感じてしまう状況、それが良いのか悪いのか分からない。

「確認したいんだが、大丈夫か?」

周りがバタバタしている中、デンドンが近寄って声をかけてきた。リリアとハジメが目線を向けると、少し申し訳なさそうにしている。

「どうしたの?」

「リリア達の馬車の荷物少しどかすんだが、運んじゃダメな物を確認したい。お前らの荷物もあるよな」

「どかす?」

「ラナラスを寝かせる場所を作るんだ。全部は無理だが、出来るだけ他の馬車に荷物を分ける。そうすれば横になれる場所ぐらいは作れるはずだ」

ありがたい申し出だが今動けるのはリリアだけ、ハジメを放置してまで行って良いのか不安になってしまう。

リリアが心配そうにハジメを見ると、ハジメは苦笑いを返す。

「ごめん、まだ動くの辛いから頼んでいい?」

心配する必要はないと言うハジメの様子に、リリアが安心したようで微笑む。

「指示だけだから私でも大丈夫。それよりもキミは1人で大丈夫?」

「エリスが居るから」

「……分かった。そこで休んでて」

リリアは立ちあがると、デンドンと話しながら歩き出そうとする。

「私も行く」

その歩みを止めたのはアスティアだった。ずっとふさぎ込んでいたのに立ち上がりしっかりと動いたので、驚いて目を向ける。

けれどアスティアは気にしない。

「時間も無いし早く行こう。運んでくれる人が待ってるよね」

「それはそうだが。アスティア、大丈夫か?」

「もう大丈夫。迷惑かけたね」

デンドンの心配も気にせず、アスティアはさっさと歩き出す。先に行ってしまうので2人は慌てて追いかける。

「ちょ、ちょっとアスティア!大丈夫なの!?」

リリアは急ぐアスティアに声をかけるが止まらない。駆け足で隣に並ぶと、アスティアは前を見る。

「大丈夫じゃない。でも、叱られたから」

「叱られた?誰に?」

「ラナラスに」

リリアが驚いているが、アスティアは気にせずに続ける。

「やる事あるよ、って。力出ないはずなのに、それでも全力で握り返して見つめてくるの。なら、応えないと」

「……アスティアは強いね」

「弱いよ。でも、大切な仲間には強い所見せたいから」

アスティアはそのまま進む。デンドンが遅れて合流すると、そこは既にリリア達の使っていた馬車だった。


荷物の移動は滞りなく終わった。ラナラスが問題なく寝れる場所は作れたので、アマラが抱えるとすぐに馬車へと運んでいく。毛布をあるだけ敷いて、その上に横にするとすぐに寝てしまった。

ハジメも邪魔にならないようにエリスに支えられながら馬車に入るが、ハジメも横になれるスペースは無い。

そのため御者台に座り、柱に体を預けて休める。エリザベス(エレファントホース)は既にいたが、馬車と馬車の間が近いため少し狭そうだ。周りでは人が動いているのに自分達だけ休んでいる事に最初は罪悪感を覚えたが、限界で動けなかったため素直に休んでいる。

――ピー!ピー!!

少し目を瞑っていると笛の音が響いた。準備が終わったらしく周りの馬車にも人が乗り込んで行く。

エリスも周辺警戒が終わったらしく御者台に戻ってきた。

「ハジメ、反対側行って」

「なんで」

(無事な)手貸して」

まるで邪魔だと言わんばかりにハジメを御者台の反対側に押し込む。無事な左腕を掴んで様子を見たいらしいので、素直に反対側に移動する。

エリスはハジメの隣に滑り込むと、怪我の酷い右腕は出来る限り触らずに確認する。そして自分の膝にハジメの左手を置くと、脈を取り包帯が緩んでないか確認する。最後にハジメが熱を出してないか確認したら一安心したようでその手を握った。

「エリス?」

「……」

手を振りほどけないため声をかけるが、心配そうに掴んだまま離す様子が一切ない。

「問題ない?」

その後すぐにリリアも帰ってくると、心配そうにハジメを見る。問題ない事と微笑みを返すとエリスを挟んで反対側に乗り込んだ。

「……」

リリアも心配なのか丁度近くに来ていたハジメの手を控えめに触れる。摘まむと表現するのすら控えに感じる程、指先が触れるぐらいのもの。不安も混じったその行動をハジメは素直に受け入れる。

――ピー

出発の笛の音が鳴ると、前の馬車からゆっくりと動き出す。

動き出しの衝撃が傷に響き力を込めると、リリアの手がよりしっかりと摘まんだ。



これ以上襲撃は起きなかった。通常よりも少し速度を上げて隊商は進んで行く。休憩も馬たちの補給のみの最低限度で進む。

それでも予定では翌日に着く道程。日は既に落ちていて、ギリギリ空が明るいだけ。通常だったら移動は避け、野営をしている時間だ。

「クロッサも心配なんだろうね」

リリアがハジメの手をずっと摘まみながら呟く。エリスも握り続けており、2人ともハジメの事が心配なのだろう。

「こんな時間の移動、本当だったらしないもんね」

「うん。道に何かあったら危険だし、魔石も消費するから」

リリアの言葉通り、それぞれの馬車で照明を取り出し周囲を照らしている。ハジメ達の馬車も、先ほどリリアが照明を取り出してセットしていた。

「でも多分、そろそろ着く」

エリスの言葉でもっと先を見ると、道の先、小さな明かりが見えてきた。


「気は抜けないけど、一安心かな」

そのまま少し経つと先頭が到着したらしく馬車が止まり、リリアはハジメの指を優しく掴みながらぼそりと呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ