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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

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54.レイド代表連合

何故かここ数話、文字数がこれまでの約1.5倍になっていますが私は元気です。

「どうすっかな」

試合を終えて戻ってきたアマラを労いながら、クロッサが困ったように空を見上げる。その様子が気になり、落ち込んでいたのも直り普段通りになったハジメが不思議そうに尋ねる。

「何がですか」

「時間だよ。2人の訓練試合(エンターテインメント)が想定してたより早く終わり過ぎちまったんだ」

「それはす――」

「謝罪するなよ。お前たちの実力を見誤ったのが悪い」

ハジメの言葉を遮りクロッサが気楽に笑う。ただ悩みは解決せず、リリアとアスティア、デンドンまでも一緒になって悩み始める。

「今から夜ご飯の準備にしますか?」

「夜が長くなるから見回りの負荷が増える。まだ移動が数日続くから、それは避けたい」

「それでも、このままで暇を作る方がストレスになりかねませんよ」

「そこが問題だ。いっそ、ハジメとアマラでもう1戦頼むか」

武器(木刀)が何本折れるか予想が付かないです」

「だよなぁ。じゃあ、これしかないか」

「何か案があるの?」

手が無いと諦めたように見せたクロッサがどこか楽しそうに溜め息を吐くと、いそいそと木刀を拾い上げた。

「リリア先輩。1戦(時間稼ぎ)頼む」

「おい、ふざけるな。それは俺だろう」

真っ先にデンドンが止める。ちなみに文句を言いながらも一緒に木刀を拾い上げており、クロッサが言わなかったらデンドンが同じことを言っていた。そのまま2人で睨み合うが、リリアと戦う事を考えると体力を消費するわけにも行かず言い争いで止まっている。

2人の争いに溜め息を吐くのはリリアだ。

「もう、2人ともすぐこれなんだから……」

これを『女性(リリア)を巡った戦い』と書けばどこか色っぽさが見えるが、実際はその女性と戦う権利の奪い合い。色っぽさの欠片も無い、恋愛小説のオチにしたらスマホやキーボードが飛んできそうだ。

「仕方ねぇ、これしかねぇか」

「……はぁ。背に腹は代えられねぇか」

2人の言い争いはすぐに終わり、深いため息とともに結論が出たらしい。その2人の様子にリリアも苦笑いすると、よく使う木刀(ショートソード)2刀を手にするとさっさと歩き出した。

「どっちがやるんですか?」

結論が気になったアスティアが声をかけると、2人の苦笑いで返される。

「「どっちもだよ」」

「え?」

綺麗にハモった予想外の言葉にアスティアが固まる。けれどその反応も気にせず、リリアの後を追おうとする。

「時間がなかったり、タイミングが被るとよくやってるんだよ」

「一度も勝った事は無い。それでも手加減をほんの少し控えめにするから、勉強になる」

2人が楽しそうに話しながら戦いに向かう。しかしその表情はとても辛そうに見えた。

「大丈夫ですか?辛そうですが」

アスティアの言葉に2人は立ち止まると一気に真顔になって、一字一句同じ言葉を吐き出した。

「「精神的にくるんだよ」」

その綺麗なハモり方に、聞いていた人は笑いそうになってしまう。

「分かるだろ、無手なのに何もさせてもらえないんだぞ」

「2人がかりならって2刀持つが、それでも絶望的な実力差だ。俺はこんなに弱いのか、って感じるぞ」

「おかげで立場が無価値に感じるがな。だからって避けてもいられねぇし、落ち込んでも意味が無い」

どこか楽しそうに、けれど辛そうに広場の中央で待つリリアの元へと向かう。

その姿にうずうずして、しかし立場上行けずに我慢している人が1人いた。強く手を握り、その背中を見るしか出来ない。

「良いと思う。こういう時ぐらい、遠慮しないで行って」

その事に気付いたアマラは背中を押そうと、自分が使っていた木刀の取手を向けた。驚いて顔を見合わせるが、返ってくるのは優しい微笑だけだ。

「良いのかな」

「良い」

アマラは不安を強く肯定すると、ニコリと微笑み木刀を受け取る。

「ねぇ」

「ん?」「あ?」

押された背中()は素直に口を動かし先を行く2人に声をかけた。


「ちょっと待って、それは聞いてないんだけど」

「そう変わらねぇだろ。2人が3人になっただけだ」

「凄く大きいよ」

リリアは近づいてくるクロッサとデンドンの陰に1人いる事に気付くと慌てた。けれどクロッサは全く気にせず楽しそうに笑う。

そう、3人だ。クロッサとデンドンと一緒に、リリアの予想外の1人が紛れ込んでいた。

「良いじゃん。武器持った時のリリア先輩に勝てた事無いんだから」

「例えそうだとしても、アスティアは強いんだよ。最近の練習でも、時々1本取られてるんだから」

「1刀でも持ってたら勝てた事ないよ。勝ったのは無手だし、それも時々じゃん」

リリアの困ったような言葉をアスティアは笑うとクロッサ達と一緒に構える。

「3人なら、流石のリリア先輩も本気出さないと厳しいでしょ?」

「本気出しても厳しいんだけど」

「大丈夫、リリア先輩なら行ける」

絶対的な信頼を寄せて、アスティアが楽しそうにリリアを見る。デンドンもクロッサも、目の前にいる強敵(リリア)に対して期待と楽しみを持って試合開始に備える。

「あぁ、もう!知らないからね!」

話を聞く気の無い3人に諦め叫ぶと、リリアはスッと構えた。


「マジかよ、おい見ろよ」

アスティア(ギルドのリーダー)も混じるのかよ、流石にそれは考えなかったぞ」

それは周りで見ている人にも驚きとなって広がった。

リリアが1人歩いて行った時点でクロッサかデンドン、それかそのどちらもで訓練試合(エンターテインメント)を行うのは予想が出来ていた。

今までリリアの圧勝、信じられない程の技術の攻防は守られている(見ている)人に安心と信頼を与える。

「だがどうなんだ、アスティア(ギルドのリーダー)の実力って?」

「知らん、お前は?」

「全く。指示や管理は相当上手かったが」

そこに混じったアスティア。見ている人は誰も能力を知らず今回が見るのは初めて。リリアを基準に考えており、期待よりも不安と心配が広がっていく。

「……」

「アマラのパーティリーダーでもあるけど、どうなんだろう」

その人たちに混じって同じように眺める2人も居た。

アビエスは言葉も出ずただ茫然と試合を眺め、フィルマは少しワクワクしながら眺める。

「……」

アビエスはただ自分より強い人を悔しさもなく眺めた。これから始まる、手が届かない攻防とやり取りを。


「ふっ!はっ!!」

先に仕掛けたのはデンドンだった。3人の真ん中に立ち、攻防の中心となって仕掛けて行く。立場が上がっても戦闘や戦術に手を抜かず戦い続けており、未だに実力は成長途中の逸材だ。

「……」

リリアはその攻撃を全て躱し、デンドンの隙を突くように前に出ようとする。それを防ぐように左右からフォローが入る。下手に前に出たら2人の餌食になるだろう。

「(アスティアは想定以上だな)」

フォローを受けながらデンドンは安心して攻めを続ける。実力が足りないなら諦めて下げる、そう思いながら始まった戦いだがアスティアは予想以上だった。

デンドンとクロッサは何度も組んでおり、お互いの得意不得意もはっきり理解している。しかしアスティアは初めて組むため、どれほどか分からず期待していなかった。

「くっ」

「あぁ、もう!」

思考に意識が持っていかれて隙が出来たがフォローするようにアスティアが前に出た。リリアは1本取るつもりだったらしく、動きを潰された事に文句を言う。

「あ、やべ――あああああ!」

が、対応出来なかったのが1人居た。クロッサもフォローに入ったがリリアの方が上手、振られた木刀を躱すと最小限の力で勢いを流し、いつものように高々と放り投げる。

「代わります!」

普段だったらこの隙にデンドンを仕留められる。その動きに気付いたアスティアが間に入り、リリアの迎撃に入る。

「だからアスティアが混じるの嫌だったの!」

「私は本気のリリア先輩とやれて最高だよ!」

お互いに叫びながら攻撃を捌く。けれど手数で有利なリリアがすぐに押し込み、アスティアはギリギリで躱し木刀で受け、何とか対応していく。

「くっ」

しかし現状2対1。デンドンがフォローに入ると、一気に形勢は逆転する。躱し切れずリリアが距離を取ろうと下がった瞬間、先ほど飛ばされていたクロッサが戻ってきて挟み撃ちの形になった。

「え、あああっ!」

「邪魔!」

「おわっ!ごふっ」

しかしそこはリリア、見えてないはずなのに紙一重で躱すと、上手く流して体勢を崩しアスティアにぶつけようとした。しかしお互い何度もやりあった仲、アスティアもその攻撃を予測し、近寄ってくるクロッサの下をくぐり反撃に出ようとする。

「「だよね」」

リリアはその反撃を予想して距離を取っていた。そしてアスティアも距離を取るのを予想して、踏み込まずにその場で待つ。お互いの経験(読み)に笑いあう。

「クロッサ、大丈夫か」

「下が草原で良かったよ」

投げられ損となったクロッサは地面に突っ込むが、デンドンの手を借りてすぐに立ち上がった。その状態を見て、アスティアは自分が何をやったのかやっと気づき青ざめる。

「あ、ごめんなさいつい」

「気にしてねぇよ。あれで反撃を食らう俺が悪い」

「でもすごかったな。あの状態でクロッサに邪魔、って言いきったぞ」

「え……あ、ごめんなさい!叫んじゃいました」

余裕のないアスティアの言葉に2人が笑う。アスティアはどう謝罪して良いか分からず青くなるが、2人はすぐに構えリリアに備える。

「デンドン、良いな?」

「もちろんだ。アスティア、お前が中心となって戦うぞ」

「え、でもデンドンさんの方が人との戦闘に慣れてるはずです」

デンドンはアスティアのフォローを鼻で笑うと、ニヤリと微笑む。

「敬語も敬称も要らん。今必要なのは、そんなくだらない格式(言葉)じゃなくて実力(能力)だ」

「全くだ。こんな楽しい戦い(祭り)をそんなくだらない事で汚してたまるか」

「本気、ですか?」

アスティアが呆然と呟くと、デンドンが笑う。

「本気だ。だから、本気のリリア先輩を見させてくれよ」

その言葉にクロッサも笑う。

「俺たちじゃどう頑張っても見れないからな。こんなチャンス、2度とないかもしれないし」

アスティアを中心に2人が構える。1人ならどうあったら勝てない強敵に、最善の布陣で迎える。その事が楽しく、アスティアも構えるとリリアと向き合った。

「……全力で行くから、合わせてね」

――合わせられない実力なら、興味ない。

そうとしか取れない煽りに、2人の心も燃え上がる。

「クロッサ、しくじるなよ」

「デンドンこそ、いつもの俺じゃねぇぞ」

3人がゆっくりとに近寄ってくる。その姿にリリアは苦笑いをすると迎え撃つために構える。

「だから嫌だったんだよ。アスティアが混じったら、本気で相手しないと行けないんだから」

リリアは嬉しそうに呟くと、近寄ってくる強力な3人を迎え撃った。


「何だよ、あれ」

まるで演武のような戦いにアビエスは呆然と呟く。

ハジメに実力で負けて、今目の前に広がるのはそれ以上の戦い。武器と武器のぶつかり合いはほとんど聞こえない、小さな摩擦音と静かな駆け引き。そして互いに躱すと確信しているから振れるキレのある武器の音がそこにはあった。

「すげぇよな。合わせてるアスティアさんも凄いけど、対処しきってるリリアが天才だ」

反対にフィルマはとても楽しそうに言葉にする。本来、1対2で勝つためには圧倒的な実力差が要る。それを1対3、集団戦とも言える状況で捌き切っているリリアの実力にありきたりな言葉しか出てこない。

「デンドンさんだって凄い実力者だぞ。なのになんで俺と年齢変わらない奴が統率して戦ってるんだ」

「そりゃ、実力があるからだろ。お前が戦ったハジメと似てるけど、もっと洗練されてる感じだ。やっぱリリアの系譜なのかな」

アビエスはフィルマの考察も耳に入らず、戦いを冷静に見る事が出来ない。

これまでの自分のプライドが壊れる感覚。実力を疑ってしまう感覚。

「凄いな、ほんのちょっと連携がずれてたら押し返しそうだぞ」

初めてとは思えない程にアスティア達の連携は取れている。

それでもリリアはそう簡単にはいかない。

3人の中だと、どうしてもクロッサの実力は落ちる。そのためリリアはそこを狙おうとするのだが、アスティアが上手くフォローしている。

そしてクロッサもそれを理解しているからこそ、自分を囮にして反対サイドのデンドンを生かそうとしている。

リリアもそれを理解しているがデンドンだけでなくアスティアも的確に対処しており、クロッサの隙が隙にならず、木刀を躱すたびに辛そうに下がり続けている。

「……天才」

その光景に誰にも届かない程小さく言葉が漏れる。

アビエスと近い年齢の人が、自分よりも圧倒的に強い人を相手に集団戦をされて、それでも多少不利程度で対処している。少しでも失敗したら押し返せるほどに。

「才能の、差」

零れてしまった言葉は自分の心に突き刺さり、流れ出る涙にすら気づかなかった。


「(無理!)」

リリアは心の中で叫ぶと、アスティアの的確な攻撃を捌き切れずにどんどん下がっていく。下がり過ぎると周囲で見てる人が危険なので、柵はないがこれより下がってはいけない。

しかしアスティア達の連携を捌き切れず、その場にとどまる事が出来ない。

「くっ!」

後ろから聞こえる歓声を気にする余裕もなく、一気に踏み込んだアスティアを無理矢理横に逸らす。

けれど状況は好転しない。アスティアは投げ慣れており、当然対処も出来るようになっていた。投げられないように上手く体重移動をして耐えるので、デンドン側に転がすしか出来ない。

「ちっ」

アスティアが邪魔でデンドンは踏み込みが出来ず、クロッサへのフォローが無くなる。完全に浮いたクロッサをリリアは逃さず、仕留めに入った。

「あぶね」

「あっ」

仕留めたら後は2人と思ったが、クロッサの動きにリリアは大きな隙を晒す。

フォローがない事に気付いたクロッサが2歩近く下がり距離を取ったのだ。余裕のなかったリリアは反応出来ず、隙となってしまう。

「もう!」

その隙に対応できないなら、とっくにこの戦いは終わっている。デンドンは転がったアスティアを跨ぎ、決定的なはずの隙に攻撃を狙う。

「くっそ!」

そこは流石のリリア、すぐに気付くとデンドンの1撃を綺麗に躱して足払い、今度はクロッサが近づいて来れないように足元に転がす。そのまま距離を取って仕切り直そうとした。

「……流石にそれは避けれないよ」

そう誰もが思ったところでリリアは降参する。その背中には跨がれたデンドンの後ろを一気に追いかけ、木刀を止めたアスティアが居た。



「ここまでして、やっと1本か」

倒れたデンドンを引き上げながら、クロッサが呆れて呟く。デンドンも疲れ切っているようで深くため息を吐く。

「全くだ。急造の連携とは言え完璧で、しかも全部対処されたが何とか押し切って1本だ」

「最後もギリギリだったからね。デンドンが逆に転がされてたら負けてたのは私達かも」

「それは言いすぎ。逆に転がしても多分負けてたよ」

木刀を腰に戻しアスティアも疲労困憊で笑う。それほどギリギリの戦いに、周囲からは賛辞と興奮が届く。

「にしても」

「あぁ」

「ホントに」

クロッサが悔しそうに呟くと、何を言いたいのか察したデンドンが頷き、アスティアも同調する。意味が分からないリリアだけは小首を傾げるが、3人は周りに聞こえない程度の声で思いを吐き出した。

「「「嬉しくない」」」

「えっ」

予想もしていない言葉にリリアが固まる。しかし3人は気にせず悔しさを言い合う。

「3人がかりだぞ、3人がかり。しかも完璧に対処されて、結局人数で押し込んだ形だし」

「リリア先輩の本気を見れたのは嬉しいが、アスティアのおかげだ。2人じゃいつも通りだったろう、またまだ実力が足りない」

「始めて1本取れたけど実力差を実感しただけだし。これなら負けた方がすっきりしたかも」

「だな。それならもう1本、って頼みやすかったし」

「確かに。アスティアも連携が上手かったから、もう少しやりたかったな」

「でも――」

「それなら――」

「これはどうだ――」

「……」

リリアが呆れるのも気にせずに3人は感想を言い合いながら笑う。勝ったのにあんまりな言葉にさすがのリリアも腹を立てたのか、腰に戻していた木刀に手を伸ばした。

「贅沢言いすぎ」

「いてっ」

「うっ」

「きゃっ」

リリアが木刀で頭をこんと優しく殴ると、3人とも驚いて声をあげる。

けれど当然と言える文句に気付くと、謝罪しながら全員で笑いあった。

私事ですが28日から実施されたなろうチアーズプログラム、せっかくなので当作品を設定しました。

別段変わる事は無いはずですが、広告が増えたりするためこちらに明記させていただきます。



抜けていた敬称の追加(2025/11/11)



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