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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

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53.生きてきた実力

その日は、すぐにやってきた。長い旅だが2日はすぐだ。

前日は丁度ハジメ達の夜間の見張りタイミングだったが、訓練試合(エンターテインメント)に備えて休ませてもらった。それが問題ない程、実力者が揃っている。

そして翌日、移動を早めに切り上げると広い草原で設営となる。

いつもと変わらない設営。しかし一通り終わると小さな草原に集まる。

そこには何もなく、人だかりになるだけだ。ただ広い、座席も柵も何もない広い空間。

けれどそこは、興味と実力で作られた闘技場だった。



最初はハジメとアビエスだった。

周囲を人に囲まれながら、目の前で構えるアビエスを見る。

リリアともアスティアとも、アマラとも違う構え。ハジメたち冒険者と違い、人との戦いを優先した人達。

「ルールは5本先取を基本とするが、状況によってこちらで止める。その場合、素直に応じる事」

「「はい」」

クロッサが代表して2人の中央で立つとしっかりと宣言するので、2人はしっかりと返事をする。クロッサはすぐに距離を取ったので、2人とも武器(木刀)を握りなおした。

「ハジメ負けるなよ!」

「強さ見せてくれ!」

「頑張れ!」

そんな2人に対して、ではなくハジメだけに対して声援が飛んでいた。声援の下は依頼者(スノーライトの人)達、特に一緒に荷運びをしていた面々だ。ずっと一緒に仕事をしてきた仲間の雄姿を楽しみにしている。

「俺の声援はないのか」

「一緒に仕事すればあったかもよ」

対面するアビエスが寂しそうに愚痴るのでハジメが茶化す。その言葉に少し不機嫌そうにハジメを睨むと訓練試合(エンターテインメント)が始まった


「うおおおお!」

アビエスは周りの人が驚くほどの声で叫ぶと、威圧するように一気に近寄ってきた。

元々が人を相手するため、冒険者と違い最初の一撃が重要視される。

相手を威圧し、動きを止め、1撃で倒す。

そうすれば周りを助ける事が出来て、自分を守る事にもつながる。

「……」

ハジメは反対に、その威圧も全く気にせずに迫りくるアビエスを待っていた。

魔物や魔獣、何をしてくるか分からない人ではないモノを相手する冒険者。

相手の手を出来る限り確認し、受けず、仕留める。

それはある意味、軍とは対極に位置する者でもある。

どっちが良い、と言うわけではない。どっちが悪い、と言うわけでもない。

想定する敵が違うだけでそれぞれの向き不向きと言う話である。

今回で言えば人対人、軍の方が向いてるだろう。実際アビエスは動きも良く、Dランク上がりたての冒険者だったら何も出来ずに1本取られていた。

「はぁ!……え」

「……」

「え、あ」

「1本」

しかしそこはリリアに鍛えられてきたハジメ。()()()()に対応できないなら、これまでの訓練は全て無駄になる。

飛び込むように振り下ろされた木刀を自分の木刀で軽く受け、勢いをずらすと足をかけて転がす。アビエスは何が起こったのか分からないらしく、立ち上がる事も出来ずに突きつけられた木刀を眺める。

「(思っていたよりも戦える)」

ハジメは深く息を吐くと、1本取れた喜びを心の奥に仕舞い次の1本に向けて集中する。

同時に、ハジメを応援していた面々から歓声が上がった。


「あれが、剛力?」

剛力()使ってないだろ。ほとんど受けずに流したし」

「だな、剛力()関係なく強いぞ。俺たちともいい勝負しそうだ。後で時間貰うか」

その戦いを眺めていた軍から困惑の声がひそひそと聞こえて来る。

剛力()で押してくるはずの相手が、技術で軽々と圧倒したのだ。しかも若いとは言えかなり実力を信頼されているアビエスを、だ。

しかも、どう見てもハジメは本気を出していない。そのことからも底知れない実力を感じている。

「ここまで出来るのか……」

それはデンドンも一緒だった。もっと良い勝負をする、そう思っていたようだが今の1本で実力差を感じている。

「やっぱハジメは相手の力を使うの、上手だよね。私もあれ対処するの苦手で」

アスティアが今の動きを観察する。その言葉をリリアが小さく笑う。

「アイツが聞いたら多分怒るよ。そもそもその状態にさせないくせに、って」

「そりゃあ、あのぶつかり方したら私の負けだから」

リリアがハジメの真似をするのでアスティアが笑いながら答える。

「おい、何だあれは」

「なんだって、見たとおりですよ」

その様子を一緒に見ていたクロッサが信じられないと言った様子で話しかけてきた。ただしその視線はハジメから外さず、面白いおもちゃを見るかのように睨んでいる。

「何だよ、あの受け流しの上手さ。リリア先輩が仕込んだのか?」

「仕込んでないよ。私が練習相手をしてたから、真似してるだけ」

「真似じゃねえ。ちゃんと力の流れを理解して、自分の技術(もの)にしてるじゃねぇか」

クロッサの誉め言葉に、リリアが複雑な表情を浮かべる。嬉しそうな、悔しそうな、不思議な表情だ。

「……2本目、始めるみたいです」

その会話を無視してアスティアが2人の戦いを見つめる。先ほどはアビエスが前に出たが、先ほどの反省からかジッと立ってハジメを眺めるのみ。

「様子を見てる、と言うよりは怯え(びびっ)てる」

一緒に見ていたアマラが呆れるように呟き、アスティアとリリアが小さく頷く。

先ほどの1本は、2人の実力差を感じるのに十分すぎる一瞬だった。アビエスの1撃を受け止めても反撃出来る、そう言う動きをしたうえで、あえて剛力()を使わずに今まで鍛えてきた技術(もの)で決める。

力でも、経験でも、技術でも、ハジメの方が上だと見せつける1本だった。その1本に動揺しているのはアビエスだけではなかった。

「アビエスだって悪くない。それどころか、あの年齢であれだけの事が出来る優秀な奴だから今回隊商レイドに連れてきた。だが何だあの差は」

デンドンが恐怖を感じながら呟く。アスティアが誇らしげにほんの少し胸を張る。

「当たり前だと思います。ハジメはずっとリリアの訓練を受けてきたらしいですから」

「……リリア先輩。まさか、俺たちにしてる訓練をハジメにずっとしてたのか」

「そうしないと戦えないぐらいに弱かったんだよ。急いで実力付けないといけなかったし」

「だとしても、あの訓練をしちゃいけない」

一切褒めていない、デンドンのドン引きするような言葉にリリアは困ったように苦笑いを返す。

そして会話もそこそこに試合を興味深そうに眺める。

「アビエスも動きはかなり良いんだけど、アイツ手加減してない?」

「そりゃ、アビエスじゃ話にならないよ。ハジメの普段の練習相手は誰?」

「アスティアだね」

「それは最近の話、それまではずっとリリアだったでしょ。おかげでハジメの戦い方って戦いづらいんだよね」

アスティアの分かりづらい誉め言葉と自慢にリリアが微笑む。

そんな会話は気にも留めず、訓練試合(エンターテインメント)はさっさと進む。

動けないアビエスにハジメが気楽に近寄って行った。


「くっ」

ブン、とアビエスがただ距離を取るために武器を振り回す。しっかり腰は入っているが基本も何もない、ただ少しでも距離を取るための威嚇だ。

「……」

ハジメはそれに対して何も言わず、ほんの少し距離を取って躱す。リリアのようにギリギリで躱すほどの技量は無いが、それでもどこか余裕のある躱し方にアビエスの焦りは増える一方だ。

「くそっ!」

近寄られないように、何度も何度も振り回す。ハジメは気にせず、ゆっくりとタイミングを計った。

「(ここかな)」

大振りを誘うと、出来た隙に一気に踏み込んだ。アビエスは慌てて木刀を振り戻すがもう遅い。ハジメは戻ってくる腕を掴むと武器も使わずに勢いを利用して、まるで一本背負いのように投げた。

「あっ……え?」

地面は畳ではなく固い土、草原とは言え受け身も怪しい人を叩きつけたら大怪我してしまう。なので上手く体を滑らせて勢いを殺すと、そのまま出来るだけ優しく地面に置いた。

「……」

それでもドンと言う衝撃が体を襲う。アビエスは何が起きたか理解できない。したくない。

分かるのは、徹底的に手加減された。その上で、圧倒的に負けた。

「……」

同年代の中でも勝率が良く、今後もっと上に行ける。そう言われ、自分でも優秀だと思っていたアビエス。それでも当然格上は居る。

けれどそれは、ベテランなどの経験を積んだ上級者相手。同年代のハジメにここまで圧倒的に、実力差が分からない程の完敗は初めてだった。

「……ぁ」

自分は、自分が思っているよりも圧倒的に弱い。

その真実(結果)を叩きつけられると、アビエスはそれ以上動けず、起き上がれなかった。



「……始めてちゃんと勝った気がする」

「その割には喜んで無いね」

「そうかな?」

アビエスが動けなくなり、訓練試合(エンターテインメント)は終わりとなった。落ち込むアビエスに同僚が肩を貸し、その姿に落ち込みながらハジメが戻ってきた。不器用な笑顔を浮かべながらの勝利報告に、リリアが優しく頭を撫でる。

「キミが落ち込む必要はないよ。あの程度で落ち込んで折れるなら、そう遠からず折れてるから」

「……」

普段だったら恥ずかしいと文句を言うのだが、本気で落ち込んでいるらしく素直に受け入れてる。

「それに、元々へし折ってもらう予定だったでしょ」

リリアはすぐに撫でるのを止めると、少し怒りを込めてデンドンへと目を向ける。デンドンはその怒りを素直に受けながらも、こちらを見ようとしない。

「その通りだ。が、ここまで実力差がある(へし折れる)とは思わなかったんだ」

少し後悔したようなデンドンの呟きをアスティアが小さく笑うと、少し呆れたようにハジメを見た。

「そりゃあ、ハジメはちゃんと実力ありますから。私が王都(サイシア)に来た時でさえ、Cランク()とほぼ互角だったんですよ」

「そうは言っても負け越してたし。今は全く勝てないよ」

「ギリギリの負け越しね。ハジメに圧勝出来なかったから、悔しかったんだよ」

アスティアが言葉で追いかけるのでハジメは降参と言った感じで肩を竦めた。言葉で勝ったのを確認すると、アスティアはすぐにデンドンを見る。

「それで、アマラともやりますか?」

「もちろんだ。フィルマにもしっかり理解してもらわないとな」

これで訓練試合(エンターテインメント)は終わりにならず、もう1戦の準備も始める。軍の実力がどれほどか知った今、アスティアとしてはさせたくなかったが本音だが、デンドンにそう返されてしまっては拒否もしづらい。

と言ってもアマラは既に準備が完了しており、気負いながらもすぐに前に出て行ってしまった。

フィルマも深く息を吐くとアビエスの惨状を心にしっかりと刻み込み、戦いへと向かう。

「……アマラ?」

「何?」

歩き出したアマラの背中がいつもよりもほんの少し大きく見えた違和感に、アスティアが声をかけた。しかしアマラは普段通り、何も変わりなく返事をする。

「……実力、見せてやって」

「うん。任せて」

その姿にアスティアは言葉をかけて送り出す。

アマラの背中がさっきよりも大きく見えた。


訓練試合(エンターテインメント)はクロッサの号令も待たず、すぐに始まった。

既にお互い臨戦態勢、フィルマと睨み合いながらアマラも静かに構える。

フィルマは何故か大きく動かず、にじり寄りながらこちらの様子を見ている。アマラは元々こういう戦いは苦手だったが、ずっと練習していた事もあり身についてきた。

それでもハジメには勝てず、完璧に決まった時は押し切れる場合がある程度。最近では完璧に決まっても対応される事があるため、そこからまた練習になっている。

そのためこの睨み合いはやり辛さはあるが、何とかなっている。

ジリジリとお互いにじり寄りながら、お互いに出方を伺う。

「(()()()()。力に振り回されちゃダメ、ちゃんと使う)」

ハジメに言われた事を思い出す。この戦いはその言葉をより実感する。

フィルマの動きから、アマラの一撃を躱してカウンターを狙っている事には気づいている。一気に踏み込めば間合いは届くが、間違いなく負けるだろう。

「(剛力らしく行けば(全力で振り回せば)負ける。)」

アマラはその事を自覚し、ゆっくりと距離を詰める。フィルマも同じ様に詰めていくため、傍から見るととても緊張感のあるジリジリとした戦いになっている。

「(……情報と違う)」

それはフィルマにとっても一緒だった。冷や汗が流れるのも気に留めず、目の前にいる強敵(アマラ)に意識を集中する。

既に惨敗したアビエスだったが、ハジメの情報は収集して軍として対策を研究していた。

――力で戦えない程弱い、無力(剛力のまがい物)

だからこそ一気に攻めて、中途半端な剛力()で押して来たら流して仕留める。そういう対策を考えて、実行しようとした。その結果がこれだ。

「(情報と実際は違う、って本当だな)」

ハジメはアビエスからの仕掛けを流し、何もさせずに潰した。フィルマから見てもずっと鍛えてきたと分かる、素晴らしい技術だった。

「(アマラも一緒だ。仕掛けてきた所を躱して勝つ、だったはずのに)」

ゆっくりと近づく間合いに対策を考えながら、けれど答えは出ていない。

「(こうなったら自分を信じるしかない)」

辿り着いた結論に、フィルマは笑みが隠せない。いつもどこか、どんな相手でも心に余裕があった。

勝てる、勝てないではない。自分の実力を把握し、相手の実力を理解し、動きを決める。その動きが出来たら勝てる、出来なかった負ける。

負けた原因は自分、研究と対策不足。

だから鍛える。相手より鍛えれば勝ち、出来なければ負け。

これまではそんな単純な問題だった。

「楽しい……」

近づいてくる答え(アマラ)に笑みと言葉が零れた。勝てる勝てない、ではない。出した答えがそもそも違う、何も考えていないと怒られる感覚。

それが楽しくて、ゆっくりと近づいて行く。答えがない戦いの結末が楽しみで、自分の実力(これまで)を問われている。

そして、決着はすぐにやってきた。


「(勝った!)」


ギリギリ間合いに入った瞬間、反応速度はフィルマが圧倒的に早かった。普段の訓練の方向性、対人に特化してるからこその反応、アマラが動き出すよりも早く振り抜き、決着がついた。

つくはずだった。

アマラも遅れて振り抜くが、反応では完全では負けていた。

「ぐっ!」

ガンッ、と周囲の人にまで届きそうな凄まじい音と小さな呻き声が響く。

「……ははは」

フィルマの木刀の動き出しは早かった。しかしアマラの、剛力の力を全力で使った振り回しには速度で勝てなかった。

実際はただ振る速度の差なのだが、まるで後の先のようにアマラの木刀はフィルマの木刀を吹き飛ばした。フィルマは想像もつかなかった事象に乾いた笑いしか出て来ず、衝撃が響く手首を抑えている。

「全力出しちゃったけど、大丈夫?」

アマラの言葉と視線を追うと吹き飛ばされた木刀が転がっており、半ばで折れ曲がり()の字になっていた。周囲の人からは紙一重の駆け引きとアマラの勝利に歓声が上がっているが、耳に入らない程にお互い冷静な興奮の中に居る。

「大丈夫、衝撃にびっくりしただけ。痺れるけど、すぐに収まる」

フィルマはそう言うと自分の手首の状態を確認し、問題ないと分かると満面の笑みを浮かべる。初めて会った、何も予想が出来ない相手。その事が楽しく、しかし武器が壊れこれ以上戦えない事が寂しく、複雑な感情が渦巻いた結果笑顔が止まらなくなっていた。

負けました(またお願いします)

この場でもう1本を戦うには、実力が全く足りない。

その事をすぐに自覚すると綺麗に頭を下げ、微妙にずれた思いと言葉がするりと零れ出た。


「アマラよくやった!」

これ以上続けられないとアマラが戻ってくると、アスティアが叫び、満面の笑みのラナラスに迎えられた。

リリアは安心したように微笑み、エリスはガッツポーズで喜ぶ。

ハジメはまだ少し落ち込みが残っているのか喜び方は控えめだが、それでもその笑顔は勝利を喜んでいる。

「大切なモノ」

誰にも聞こえない、自分の耳にすら聞こえない程小さな声で呟く。

けれど覚悟(言葉)は心に届き、仲間たちの出迎えを微笑みで受け止めた。

誤字の修正:1ヶ所(2025/11/10)

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