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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

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48.意味のない密談

「(……嘘、もう1時?)」

朝、と言うよりも日が昇るのもかなり先の夜、いつもよりちょっと遅い時間に目を覚ました事にリリアは驚きながら静かに体を起こす。

普段だったら0時には起きてしまうのに、普段と違う状況にも関わらずしっかり寝た自分に呆れる。

「(エリスは、ちゃんと寝れてるね)」

呆れを胸の奥底に押し込みエリスを見ると、毛布に包まってリリアのすぐ横で寝ていた。寝る前の悩み事や辛そうな様子は無く、気持ちよく寝ている。

その様子に安心しいつも通り外に出ようと、近くに置いていた武器と本、そして照明を手に取ろうと周りを見た時だった。

「(……え)」

ふいに目に映ってしまったモノに驚き、声をあげそうになったがギリギリ舌の先辺りで止まる。

何の事は無い、ハジメの寝姿が目に入ったからだ。背中を向けており顔は見えないが、起きた様子はなく毛布がゆっくりと上下している。

何故ハジメの姿が見えるのか動揺しながら周りに目を向けて、いつも仕切りに浸かっている幕が端っこで転がっていた事に気付く。

「(そっか。寝る時、仕切り幕を張るの忘れたんだ)」

そこでやっと原因に思いつき、一息つく。本来、異性であるハジメがすぐ隣に寝ていると言う事は良くない。けれど動揺したものの、ハジメの事を異性として全く警戒していない自分に笑って(微笑んで)しまう。

「(このままは良くないけど、張ったら起こしちゃうかな)」

エリスをちらりと見て、けれど起こすのも忍びなくどうしようか悩む。が、

「(……まぁ、大丈夫か)」

ハジメの背中から感じる不思議な安心感に、物音一つ立てずにテントから抜け出した。



「(普段より寝れたせいかな。ちょっと調子が良い)」

テントから少し距離を取り、適当な岩に座る。

周りのテントはほとんどが暗闇。いくつか照明が付きっぱなしではあるが、中の影が動いてる様子は無いので純粋に消し忘れだろう。

そんな中、丁度近くを見回りの兵士が通った。暗闇の中にいるリリアを警戒しゆっくりと近づいてきたので、軽く手を上げて挨拶をする。けれど暗闇で誰か分からなかったらしく警戒しながら近寄ってくるので、照明を付けて誰であるか教えた。

リリアであることに気付くと警戒した事を兵士は静かに謝罪した。けれどリリアは気にしたそぶりも見せず、軽く手を振って問題ないよと返す。

「(兵士も大丈夫そうかな。今回は新人も2人居るって聞いたけど、そこまで気にしないで大丈夫かも)」

そのちゃんとした対応に安心すると、持って来た本を開き静かに読み始めた。先天魔法について書かれている本で、リリアはこれまでにも何度か読んだことはある。

のだが、感覚的な部分あり細かい部分が理解できず苦労した本だ。ラナラスの先天魔法の問題でグレンから再び借り読み始めたのだが、それでも苦労している。

「(でも、分かっておけば少しは役に立ちそうなんだよね)」

苦労しながらも自分にそう言い聞かせ、終わりのない勉強を再び始めた。



「クロッサさん?」

「やっぱりリリア()()だ」

読み始めてからどれだけ時間が経っただろう。いつもよりも安全な状態だったため本に集中してしまい、人が近寄って来たのに反応が遅れた。それでも相手が声をかける前に、冒険者なら満点合格を出される反応は流石である。

「こんな時間にどうしました?」

「それは俺のセリフなんだが」

クロッサは気にした様子もなく雑に胡坐を組んで座ると、疲れを溜め息に乗せる。

「お疲れのようですね」

「初日はな。慣れてないメンバーの手際が悪いから、どうしても仕事が増える」

「……だとしても、ここで寝ないでくださいよ」

クロッサはそのまま寝そうな勢いで目を瞑るのでリリアが止める。

「それはリリア先輩もだろう。こんな時間に何してるんだ」

「目が覚めてしまったので、邪魔にならないよう本を読んでたんです」

リリアが本を見せる。クロッサは確認するとすぐにリリアを嫌そうに見た。

「リリア先輩、それはそうとして丁寧な言葉使いは止めてくれ。凄く気持ち悪い」

「依頼者と受注者ですから」

「だとしても今はオフ(プライベート)だ。リリア先輩にその言葉使いされると話しづらい」

「……クロッサは言葉使いにはずっと苦労してたもんね。今も苦手?」

「苦手だ。だから問題ない相手はずっとこの調子だ」

普段のリリアに戻ったのに安心すると、クロッサは砕けた調子(冒険者の頃のよう)になる。

「それならさ、その呼び方止めない?」

「無理だ。人前なら気を付けるが、こういう時ぐらい許してくれ」

リリアの文句を一切気にせず、クロッサが本当に楽しそうに笑う。何度もやったやり取りだ、リリアも諦めており気にしない。

「にしても、今日見た限り今年のギルド新人は良いな」

そして今日の冒険者の動きを思い出しながら、クロッサが楽しそうに褒めた。

「でしょ」

飾りのない誉め言葉にリリアが嬉しそうに言葉を返す。

クロッサは楽しそうな声にニヤリと返し、思い出す様に星が瞬く空を視界に入れた。

「アスティアだったか、今回のギルドのリーダー」

「うん。優秀でしょ」

「優秀だ。言葉使いも良かったし、設営も周りを見てフォローに回ってくれた。動きを見る限り、実力もあるだろう?あれだけ優秀なのに全く名前を知らなかったんだが」

「それは仕方ないよ、サイシアに来て2ヶ月しか経ってないから。他から流れてきたの」

「それでか。あの様子だとかなり苦労したんじゃないか」

クロッサの言葉にリリアは苦笑いしか返さない。黙っておく、と言う意図の苦笑いをクロッサは尊重する。

「それに剛力コンビだ。推薦が親方だったし、ギルドも信じられないくらい信頼していたから了承はしたが、判断は間違ってなかったな」

クロッサが思い出したように悪い笑みを浮かべる。それは冒険者の顔ではなく、新しい人材を見つけて欲する顔だ。

「そんなに?」

「そんなにだ。ハジメ(男性)の方は本当に剛力だよな、って思うぐらい学があって穏やかだ。野営の準備もかなり助かった」

少し渋い顔をしながらもハジメを高く評価する。聞いて欲しいのだろう、と言う意図を察し、リリアは会話を続ける。

「評価高いけど、その表情の理由は?」

「多分、剛力としてはかなり弱いよな。そして実績が少なすぎる所だ。これだけ優秀ならもっと前から話題になるんだが、俺らの方でも話に出たのはここ1か月。孤児院名(ロストネーム)を取ったのも最近だろう。何か裏がありそうでよ」

今回はそれも調べるつもりだった、そんな感じで言葉を濁すとリリアがクスリと笑う。

孤児院名(ロストネーム)を取ってからは特に成長著しいからね。この世界で生きる覚悟が出来たんだと思う」

「その言い方、リリア先輩はやっぱり何か知ってるのか?」

「うん。アイツ、迷い人だよ」

「……」

リリアがとても嬉しそうに言うが予想外過ぎる言葉にクロッサは固まり、驚きから大声を出しそうになるのを必死に堪えていた。そのまま叫びそうになった息をゆっくり深く吐き出すと、文句を言うようにリリアを睨む。

「おい、そんなの知らないぞ」

「知らないと思うよ。知ってる人は限られてるもん」

「……まさかアマラ(女性)の方も迷い人、とかねぇよな」

「私が知る限りは無いよ。アスティアと一緒に流れてきたから」

クロッサは混乱を抑える様に星が一面に浮かぶ空を見上げる。しかしリリアは追い打ちをかける。

「混乱してるところ悪いけど、評価聞いてもいい?」

リリアは揶揄うように笑いかけると、クロッサはすぐに落ち着き苦笑いを浮かべる。

「面倒見が良い。それにハジメ(男性)の方より相当力もあるだろう。俺はこっちの方が欲しい」

クロッサの予想外の評価に、リリアが驚いて目を見開く。しかしクロッサの評価はそれで終わらない。

「言葉遣いはまだまだだがな。ただこの辺は経験と指導で何とかなるから、スノーライト(うち)で1から育てたい」

「あげないよ」

まさかの引き抜く宣言にリリアも本気で拒否する。しかしクロッサは気にしない。

「良いじゃねぇか。こっちだって優秀な人間は欲しいんだ。全員よこせ」

「嫌だよ。盗って行かないでよ」

「リリア先輩も一緒に引き抜くから安心しろ」

「それとこれとは話が別」

「レイドはそのためにやってるんだろうが」

「違うよ、お互いの交流会でしょ」

スノーライト(うち)が新しい人員を探すために赤字覚悟で開いてるレイドだぞ」

「嘘言わないの。圧倒的に黒字でしょう」

「「……」」

2人、かなり危険な会話をしながら睨み合う。

片や現Cランクでギルドの書類仕事もしている、スノーライトの義父(身内)を持つリリア。

片やスノーライトで責任者を任される程に実力があり、元ギルドBランクのクロッサ。

お互いが双方の組織に詳しい2人、何か言おうにも深くまで知っているため意味をなさない。クロッサが眠気でハイになっている事もあり、かなり問題のある会話になって来た。

「……クロッサ、いい加減寝たら?おかしくなってきてるよ」

「仕方ねぇだろ。久々にリリア先輩に会えて楽しかったんだから」

もう滅多に出す事の出来ない冒険者としての顔を出しながら、クロッサは楽しそうに笑う。

けれどさすがに眠気が強いのだろう。あくびをしながらよっこいしょ、と言わんばかりに立ち上がった。

「じゃあ、俺は寝るわ。リリア先輩も早めに寝ろよ」

「うん。おやすみ」

クロッサは軽く挨拶すると自分のテントへと向かう。


リリアはその後ろ姿からすぐに目を離すと、1人で再び本を読み始めた。



「……ミィ?」

エリスの不思議な声を目覚まし時計にハジメの意識が覚醒する。外はまだまだ暗く、人が動いてる気配もない。

「あれ?」

「おはよう、どうしたの」

エリスの困惑した声に軽くあくびをしながら体を起こすと、まだぼんやりとした感じのエリスと目が合った。

「あれ?」

仕切り幕が無く、寝起きのエリスと見つめ合う。エリスが寝ぼけて潜り込んだ、とも違うこの状況にハジメもそっくり同じような声をあげて、エリスと目を合わせたまま一緒に小首を傾げた。

「……忘れてた」

先に頭が動き出したエリスが悩みながら周りを見ると、いつもだったら張っている幕が地面に転がっていた。そこでようやく仕切り幕を張るのを忘れていた事に気付く。

「そう言えば、昨日はすぐ寝ちゃったな」

ハジメは軽くあくびをしながら昨日の事を思い出す。そのままジッとするわけにも行かないため、寝ぼけた頭も動かすため固くなった体をミシミシと動かした。

「リリアは?」

「多分、どこかで本を読んでると思う」

ハジメが聞くとエリスは周りを探し、リリアが読んでいた本と照明、そして武器(ショートソード)が無い事に気付く。

ハジメも一緒に確認すると、準備も最小限に武器(ロングソード)を持って動き出す。

「ハジメ、どこ行くの?」

ほとんど何もせず動き出したので、エリスが不安そうに声をかける。そんな不安を一蹴させるよう微笑むと、ハジメはさっさとテントの外へと向かう。

「リリアを探してくるよ。エリスはその間に着替えとか済ませちゃって」

ハジメは適当な理由でエリスの朝の準備の時間を作ると、静かにテントから滑り出た。


「(居た)」

テントから潜り出てすぐ、近くで本を読んでいるリリアを見つける。暗いため照明は付けたまま、少し寂しそうに本を読んでいた。

「(……ちゃんと寝れてるのかな)」

その様子に少し不安になりながらさっさっと近寄っていく。周りはまだ静かなため、迷惑をかけないよう出来るだけ静かに進んだ。

「ん、え!?」

「リリア、朝早いから静かに」

「んっ!」

正面から近寄ったのだが気づくまで時間がかかり、あと数歩で肩を叩けるぐらいまで近寄れてしまった。そこまで近くづとさすがにリリアが気づき、ハジメが近くに居た事に驚いて声をあげてしまう。

「……もう、そんな時間?」

「多分」

リリアはすぐに落ち着き、出来るだけ小さく言葉にする。ハジメは時計を持っていないため、リリアの懐中時計(ポケット)を指差すしか出来ない。それでもうっすらと明るくなり始めているため5時過ぎくらい、だろうか。

「早い人はそろそろ起き始めると思う」

「それもそうだね」

リリアは体をぐっと伸ばすと、凝った体をほぐす。そのまま立ち上がるとハジメと一緒に自分たちのテントへと向かった。

「エリスは?」

「もう起きてた。今は準備してると思うよ」

「なら私も急いだほうが良いね」

「ゆっくりでいいよ。まだ誰も起きてないし」

「それでもキミを待たせるのは――」

「良いから良いから。それよりも、朝起きた時ビックリした」

「うん、私も。仕切り幕忘れてたよね」

「そうそう――」


2人はのんびりと歩き出す。

穏やかに、楽しそうに、お互いの隣に安心して。

私事ですが、自宅のクーラーが壊れました。

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