46.出発準備
「みんな、準備は大丈夫だね」
アスティアの言葉に、ギルドに集まった『隊商護衛ギルド』参加者は各自荷物を持って立ち上がる。
2ヶ月近い旅路となるため荷物は大き目だ。特に今回、ハジメは紹介なども予定しているためそれようにしっかりとした服装が必要だったため荷物が多めだ。
どういうお店で買えばいいか分からなかったため、オルビに頼んで買い物に行っていた。例えるならオフィスカジュアル、その中でもかなりカジュアル寄りのさっぱりとした服を新しく買う事になった。
見た目もあるが、何より本質は冒険者。戦う時に支障をきたさない事を優先している。
銀貨3枚とかなり高価だったが「ハジメなら今後ランクも上がって必要になるから、買っておいて損はないぞ」とオルビから嬉しい評価を貰っている。
ちなみに人と会う時用の服装なため、今は普段通りの森歩き用の服装だ。
「……」
そしていつも通りだが、知る人から見ればほんの少しだけ不機嫌そうなリリアも同じ予定を立てている。今回が3度目だが身長が伸びていたため、前の服が少し小さかったため新しい服を買いに行っていた。
アスティア達も一緒に買いに行ったらしいが、そこで何かあったらしい。詳しく聞いてもリリアは少し顔を赤くして「何もなかった」としか答えない。絶対に言わないと言う固い意志を感じたので、アスティアに何をしたのか問い詰めたら「可愛い服を色々と着せただけだよ」ととても満足そうな答えが返ってきた。
服装に関しては実用一点張りのリリア。
森歩き用の長ズボンと長袖、それに合わせたベスト等の上着がほとんどのため、見栄え重視の慣れない服で着せ替え人形させられたんだろうなと同情する。
少し、ほんの少しだけ。
見たかったなと言う思いは心の奥底に眠らせた。
人と荷物が多いため邪魔にならないよう城門の外、道から少し外れた場所で待ち合わせをしていた。そこでは前日から準備が進められており、大柄な男性が世話しなく指示を出している。
その指示に従い、多数並んだ馬車に荷物を積み込んでいる。食糧と思われる木箱から始まり、家具や小物などの売り物などをどんどん入れていく。
アスティア達はほんの少しタイミングを計り、一瞬余裕が出来たところを話しかけた。
「今年もよろしくお願いします。今回、ギルドのリーダーを担当するアスティア・タウ・クドラです」
「おう、今年もよろしく頼む。長い旅だ、お互いラフに行こう。俺が責任者のクロッサだ」
大柄の男性――クロッサはそれだけ挨拶すると、大きな傷が目立つ顔でチラリとアスティアを見たがすぐに視線を戻して指示に戻る。
「気をつけろ!ケガするぞ!――すまん、出発前は忙しくてな。正式な挨拶は後にさせてくれ」
運び方が悪かったのだろう。荷の重さにバランスを崩す人が居たため、大声で注意する。大きな傷とその体格から威圧されてもおかしくないのだが、指示と言葉はとても穏やかだ。
「予定より早いが、すぐに出れるか?」
「荷物を積み込めば出れますが」
「なら、すぐに準備を頼む。スノーライトの積み込みが予定より順調でな。軍も既に来てるから、準備が完了次第出たいんだ」
「分かりました。ギルドの馬車はどちらにありますか」
「向こうに2台用意してある。スノーライトの荷は積み込み途中のはずだから、協力も頼めるか」
「分かりました」
本当に忙しいのだろう。アスティア達に「向こうだ」と指さすと、再びアスティア達から目線を外すと荷の指示を始める。
「それじゃ、行くよ」
初のリーダー業務の緊張を表に出さず、アスティアはギルドチームに声をかけて動き始める。臨時リーダーのはずなのだが、その行動は様になっている。
名ばかりのはずだったのに、その堂々とした姿はリーダーとしての評価を確実に積み重ね始めた。
「うわ……」
「マジかよ……」
綺麗に並んだ馬車の横を通り、言われた方向へ進むと特段目立つ馬車が3台並んでいた。他の馬車より二回りは大き、ギルドメンバー全員がが余裕で乗り込めそうな馬車だ。
そして、その馬車を引いている馬も普通ではない。ばん馬を三回りは大きくしたような巨大な馬が引いていた。誰も想定していなかったらしく、ギルドのメンバーからは驚きの声が漏れている。
「何だ、あれ……」
それはハジメも同じで、見たこともない大きさに足が止まってしまう。
「あぁ!エリザベス、勝手に外さないで!」
ギルドメンバーが近寄って行くと、そこで荷の積み込みをしていた人の悲鳴が響いた。その巨大な馬が勝手に馬具を外すと、こちらに近寄って来たからだ。
「えっ」
ハジメが驚きと恐怖から声をあげてしまうが、他の人も同じだった模様。武器を抜くまではしないが、武器に手をかけたり逃げる準備を始めている。
そんな中、アスティアがかばうように前に出る。けれどすぐにそれを止める様にリリアがより前に出ると荷物を置き、まるで抱きしめるかのように腕を大きく開いた。
「ベス!何でここに居るの!?」
巨大な馬―エリザベスはリリアに近寄ると、頭を押し付ける様にスリスリと押し当ててきた。しかし体格差があり過ぎるためリリアは一気に持ち上げられると、そのまま背中に滑り落ちた。
「久しぶり、元気してた?今回は一緒なの?」
「……」
「そっか。今回はよろしくね」
予想外過ぎる絵面に場の空気が凍っているが、リリアは気にせずに背中を撫でながら話しかける。エリザベスは何も話さないが、しっかりと会話は行えているようだ。
「大丈夫ですか!?ギルドの方々ですよね、すいませんエレファントホースが勝手に」
「エレファントホース?」
先ほど悲鳴を上げた人が謝罪と様子見に駆け寄ってきた。リリアの様子から問題ないと安心して「びっくりした」で終わったのだが、聞きなれない言葉にハジメが疑問を返す。
「魔獣です。スノーライトでも2人働いているのですが、今回は軍に居た1人も参加する事になったんですよ」
魔獣と言う恐ろしい言葉にハジメは一瞬固まる。しかし他にいる2匹も敵対する様子もなく素直に積み込みを待っており、他の人も警戒していないので問題ないのだろう。
困惑している様子のハジメに、アスティアが不思議そうに見てくる。
「どうしたの。知らないの?」
「見たことなかった。魔獣って危険だと思っていたから」
「危険な魔獣も多いけど、全部が全部じゃないよ。共生している魔獣だとかなり一般的。町中だと滅多に見れないけど」
アスティアはエリザベスを面白そうに眺める。大きいため威圧感はあるが、リリアと話す姿はとても楽しそうに見える。
――ピー!ピー!!
「「あっ、荷物積み込み急いで!」」
そんな会話を叩き切るように、笛の音が響いてきた。荷の積み込みの終わりが近づいてきたのだろう。周りはほぼ積み込みが終わっており、残っているのはギルドメンバーと、細々としたものだ。
笛の音に気付いたアスティアと積み込みを中断していた人が慌てて動き出す。
「お待たせしました、ギルドの方々はこちら2台です」
「分かった、ありがとう」
そうして連れてこられたのは、恐らくエレファントホースが引く巨大な荷馬車と、二回り程小さな荷馬車だった。
「リリアさんは大きい方にお願いします。エリザベスが引いてくれないので」
「分かりました、こっちですね。アスティア、私の荷物もお願い」
「了解」
その人がとても困ったように呟くので、リリアも呆れたように呟く。しかしエリザベスは気にしていない。アスティアも苦笑いを浮かべながら置きっぱなしのリリアの荷物を持つと、一緒に歩き出した。
リリアに合わせて大きい荷馬車に女性組が集まったため、自然と小さい方の荷馬車に男性陣が集まる。
「ハジメ。こっち手伝って」
けれどすぐに女性陣の方に問題が発生し、アマラがハジメに声をかけた。ハジメはすぐに気付くと、自分の荷物をオルビに押し付ける。
「分かった。オルビ、俺の荷物をそっち積んでおいて」
「はいよ」
エリザベスの馬車に荷を積み込んでいるが、どうもスノーライトの荷も残っているらしい。ハジメに助っ人要請がかかり、大急ぎで積み込み作業が始まる。
荷の積み込みを待つ間、ラナラスが状況を確認しに男性陣の荷馬車に来た。
「こっちは、大丈夫、です、か?」
「少し狭いぐらいで、大丈夫だぞ」
「よかった、です」
「女性陣の方は大丈夫か?」
「もう少し、かかり、そう、です」
男性陣は人数も多く荷馬車も狭いため、荷の積み込みも入っていたスノーライトの荷の確認も終わった。半分近くを荷が占領しているため、実際に乗れる範囲は狭い。
「……なぁ、流石にこっち8人は狭すぎねぇか?」
その様子に、一緒に乗る冒険者が呟く。ギルドメンバーは職員含めて13人。うち女性はリリア、エリス、アスティア、アマラ、ラナラスの5人。
男性陣は8名のため、荷馬車サイズに対して少し人数が多い。
「それでも、仲間外れはなぁ」
「……ハジメを移動するのはどうだ。いつも向こうのメンバーと組んでるし」
「それだ」
オルビがその状況を改善しようと思いついた案に、その場にいる全員が頷いた。ハジメは向こうの荷馬車に乗り込んでアマラと一緒に荷を積み込んでおり、こっちの様子に気付いていない。
荷馬車の中ではアスティアとリリアが荷の確認を行っており、出発準備はすぐ終わるだろう。
「ラナラス、良いか?」
「はい?どう、しました?」
「積み間違えがあったんだ。これを女性陣の馬車に積み込んでくれるか。時間もないし、そのまま出発になるはずだから」
「これ、ですね。分かり、ました」
オルビが話しかけると、ラナラスが不思議そうに聞いてくる。
細かい事を伏せてハジメの荷物を渡すと、ラナラスはそれ以上疑問を持たずに自分たちの馬車へと向かった。
「……よし、これで少し広くなるな」
オルビの優しい言葉は、その場では同意に満ちていた。
ラナラスが積み込んでいる荷物の山に、静かにハジメの荷物を追加した後。
――ピー!
そろそろ出発だと言う合図が響き、荷の積み込みは慌てて進んだ。荷はそこそこあるが、ハジメの手助けもありすぐに終わった。
すぐに出発できるよう人は既に入っており、アマラが荷を馬車の中に送り、それを受け取ったハジメは渡される荷をリレーのように受け取り中に居る人に渡していく。
「これ、最後」
その言葉と共に、アマラは剛力を解除すると乗り込んでくる。剛力のまま乗り込むと流石に馬車が痛むためだ。それはハジメも同様で、剛力を使わずに作業をしていた。
「最後?これが?なんで俺の荷物がこっちに?」
とても見覚えるのバッグに驚いて声をあげるが、素直に受け取る。
困惑しながら自分が乗るはずだった馬車を見るとオルビがこちらを見て「ごめん」と顔の前で手を合わせる。そのまま会話を拒否するかのように幌を閉じた。
予想外過ぎる状況に「狭かったからな」と無駄に冷静になりながら「なんで?俺どうなるの?」と言う不安に固まる。
「……」
「どうしたの?」
自分の荷物を抱えたまま固まっていると、荷のチェックを終えたリリアが声をかけてきた。ギギギと壊れか機械のように首を回すと、まるで捨てられた子犬のように呆然したままリリアに目線を向ける。
「あれ?なんでキミの荷物がこっちに来てるの?」
「……向こうが狭いからって、追い出されたみたい」
「……ぷっ」
ハジメの救いを求める子犬の様な声と目に、リリアが吹き出した。後ろで聞いていたアスティアも、笑いそうになるのを無理矢理息を吐いて堪える。
そのままアスティアは何かに悩むとすぐに結論をだし、7割ぐらい笑いながら手を伸ばす。
「仕方ないからこのまま乗って。向こうは狭いんでしょ」
「そりゃあこっちに比べたら狭かった、かも」
そう言いながらハジメは自分の荷物を渡す。馬車の中は半分近くスノーライトの荷物で埋まっているが、まだ余裕がある。ここに5人、ハジメが入ると6人で移動することになるが、それでも男性陣の馬車に比べたらマシだ。
「何かあった時に男手が居ると楽だから、そのためと思って」
「……そう、するよ」
アスティアはそのまま荷物置き場へと持っていくのでハジメは肩を落とし諦めて、自分が座れる場所を探す。
「……」
「……」
馬車の中を見回すと、ちょうど端で座っていたエリスと目が合った。
やることが終わって邪魔にならないようにしていたようだが、ハジメの雑な扱いが面白かったのだろう。笑いをこらえている。
口角は上がりきっており、目も笑っている。肩も震え、それでも限界ギリギリで耐えており後ほんの少しのきっかけで笑いそうだ。
「ミッ!ちょっと何する――ぷっ、あはは……」
その顔が癪に触り頭をワシワシと雑に撫でる。エリスは文句を言うが、限界だったのだろう。文句を言うと同時に笑い始めた。
その様子にハジメは文句も言えず、八つ当たり気味にエリスの隣にドサッと詰めて座る。「狭い!」と文句が聞こえたが無視すると、ぶり返したのかすぐに笑い声に変わった。
――ピー
どこかから出発を知らせる笛が鳴ると、少しの時間を置いてからガタガタと馬車が動き始めた。




