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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
3節 天才と凡才

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45.魔法で戦う者達

普段の4割増しの文章量となっています。

「リズウェルやリリア以外とやるのも久しぶりだな」

屋内訓練場に辿り着くとどこか楽しそうにしながら、グレンは期待するようにストレッチを始めた。グレンの動きはスムーズで机仕事で鈍っているようには一切見えず、どう見ても普段からしっかり動いてる人の動きだ。

ハジメとアスティアはその動きを見ながら一緒に体をほぐす。グレンと言う強者と戦う緊張と興奮を冷静に見つめて自分の状態を確認していく。

「でも、びっくりですよ。まさか2人()グレンさんと戦えそうな人が居るなんて」

リズウェルはそう言葉にしながら持って来たマットを地面に敷き、クッキーとコップを並べて座った。

アマラは一緒にマットに座りながら、その様子を少し悔しそうに眺める。その様子にリリアが気付くと、慰める様に微笑む。

「アマラが悔しがる必要はないから。グレンさんは別格」

「それは分かってる。でも、あそこに立てない事が悔しい」

「悔しがれるのは良い事だけど、今回だけは例外。アマラが大怪我する」

リリアはそう言いながら、どこか不安そうにハジメとアスティアを見る。グレンと戦える、と判断はしたがそれでも不安なのだ。

アマラも悔しさを消し、2人を不安そうに見つめる。

「分かってる。リリアとの訓練でも2人は凄い。私じゃ足元にも及ばない」

「大丈夫、比較対象がすごいだけでアマラも充分出来てるから」

「……なのに私はダメなの?」

「ダメ。グレンさんとやる時は、私でも失敗したら大怪我するから」

リリアの鬼気迫った言葉に、アマラが何も言えずに固まる。隣で聞くラナラスが怯えながらも聞いてきた。

「そ、そんなに、な、なんです、か?」

「私よりは安全ですよ」

言葉を返したのはリズウェルだった。気にせずのんびりとクッキーを食べ、普段と変わらない様子である。ただし手元には槍を模した棒を置いており、リズウェルも戦えるのだろう。

「……」

「何ですかリリアちゃん。まるで『比較論です。大気魔法込みだと2人とも物凄く危険です』とでも言いたそうな――」

「そんな事ありません」

リズウェルに心を読まれたリリアが慌てて遮る。リズウェルは遮られたのを楽しそうにしているので、分かってて言ってるのだろう。クスリと笑うとその先を続ける。

「でも、危険なのはその通りですよ。どうしても、そういう時代を生きてましたからね」

少し寂しそうに言いながらリズウェルはグレンに視線を向ける。もう終わった時代に寂しさと喜びを感じながら、次の世代の力を嬉しそうに見ている。

「それにほら、始まるみたいですよ。ハジメさんが先のようです」

少しアスティアが距離を取り、グレンとハジメが正対して構えた。

「ラナラスさん、アマラさんも。良く見ていてください」

リズウェルの力のこもった言葉に、ラナラスの視線が戦いに向く。リズウェルの視線も戦いに向いている。


「これが、魔法を使った戦い方ですよ」



「っ……え?」

1本目は一瞬だった。「最初から真剣に来い」とグレンが言うのでいつもの様子見も加減もなく、全力で1本を取りに行く。

フェイントも回避も動きも全部警戒した中での1撃。しかしハジメが踏み込んだ瞬間、急に足元が無くなったような感覚を味わった。このまま無理に立て直すと怪我をしそうだったため、諦めて体を投げる様に体勢を崩す。

転がった体勢から慌てて目線を上げると、グレンに木刀を突きつけられていた。

「えっ」

「大丈夫か?怪我しづらいように気を付けたんだが」

ハジメは突きつけられた剣も気にせず、後ろを振り向く。しかし踏み込んだ位置には何も残っておらず、周りと同じただの地面でしかない。

「今のに対応出来るぐらいには戦えるようになったんだな。リリアのおかげか?」

「今のは……?」

「何だと思う?」

ハジメの疑問は、グレンは答えを出さず問いかけとして返す。それでも自分の体に起こった事を考えると、答え(予想)は頭に浮かんでいる。

「分からないけど、予想はつきました」

ハジメはそう答えると、距離を取って再び構えた。その様子にグレンは満足そうに微笑みながら同じ様に構える。

ただ先ほどとは違い愚直に踏み込まず、足元を警戒しながらジリジリと距離を詰める。

「すぐそう言う対応を考えられるのは良いぞ」

ハジメの動きの変化に対して、グレンは大きく動かない。それでもジリジリと動くハジメを警戒し、細かく木刀の構えをずらす。

気づいたのは、次の瞬間だった。

「……こんな事も、出来るんですね」

あと少し、一気に踏み込めばグレンに木刀()が届く。そこまで近寄ったところで、ハジメは足元の違和感を感じて後ろに跳んだ。グレンは追いかけもせずその場でほんの少し微笑む。

「良く気づいたな」

「警戒、してましたから」

「警戒してても気づかない奴が多いんだぞ」

そう言いながらお互い、ハジメが跳ぶ前に居た地面を見る。ほんの少し傾斜が()()()()おり、もう少し進んだら足が引っかかるような段差になっていた。

ハジメは直前に気付き、このままではまずいと慌てて距離を取ったのだ。

周りから見たらとても地味だろう。けれど戦いは高度な読み合いと予想からなる駆け引きの応酬だった。

「それじゃ今度はこっちから行くぞ」

グレンの、まるで散歩に行くかのような軽い発言。しかし実力差は重くのしかかり、ハジメに出来る事は既になかった。


「何、あれ?」

ハジメの惨状をアマラは理解出来なかった。ラナラスも分からず困惑している。

触れてもないのに転がる、何もないのに飛ぶ、逃げる。それが理解できず、何が起きてるのかも分からない。

けれど、アスティアは様子が違った。ハジメの足元を注視し、何が起こっているのか理解すると冷や汗を流している。

グレンが主体的に攻めるようになってから、ハジメの転がり方が悪化した。グレンの木刀を受ける前に転がり、出来るだけ距離を取って逃げる。

グレンの間合いに入ると躱すのも受けるのも上手く行かず、その場で転がり1本取られる。

今回は本数制限をせず訓練としてやっているので、もう何本取られたかも分からない。

「足元の土を動かしてるんですよ。踏み込もうとしたら無くなったり、動いたら足が引っかかるように盛ったり」

リズウェルの解説に足元を見る。言葉を頼りにじっくりと見ると、ほんの少し地面が動き、凹んだり盛ったりしたのがやっとわかった。

「あんなの、怪我するんじゃ」

「大怪我しますよ。だから事前に確認したんです」

緊張よりも、起きてる事への恐怖が上なのだろう。アマラが冷や汗を流しながら呟くと、リズウェルは気にしない様子でクッキーに手を伸ばす。

「き、危険過ぎ、ません?リズウェル、さん、が、相手した、方が」

「私はグレンさん程強くありませんから、ハジメさん相手だと本気を出さないといけません。それに、魔法だけなら私の方が危険なんですよ」

「えっ?」

ラナラスが不思議そうに見るが、リズウェルの表情は変わらない。

「グレンさんは土系統の適性があるので今みたいに戦えますが、私は適性がないので戦闘で使える程安定しないんです。私の適性は火と水ですね」

リズウェルはそう言うと、太い氷の針の様な物を作る。そしてその氷を的確に近くのコップ全てに入れた。

「炎じゃどうやっても火傷を負わせます。水も氷にして急所(目とか)を狙うので、どう頑張っても大怪我します。でもグレンさんなら、相手の実力次第では大怪我せずに済みますから」

グレンもかなり手加減している。けれどハジメは手も足も出ず、慣れない状況にそろそろ限界が近づいてきた。

「これが魔法を使って戦うと言う事です。ラナラスさん、どうですか?」

問いかけにラナラスは何も返せない。今目の前で広がる戦いは、強者が武器(魔法)を使いこなして辿り着いた境地だ。

そうでなければ武器(魔法)を使って戦えない。それほど不便な物なのだ。


そしてラナラスには、到底届かない。


「終わりの様ですね。これだけ耐えれるなんて、リリアちゃんの指導の賜物です」

ハジメが膝を着いて立ち上がれなくなった。

諦めた(心が折れた)と言うよりは、足が限界の様子。まだまだ戦う意志はあるようだがプルプルと震えており、立つことも難しそうだ。

「ハジメさんは動けなさそうですね。アマラさん、運んでもらえますか」

「私?」

「戦いの前のアスティアさんに頼むわけにはいきませんから」

アスティアも手も足も出ないだろう。それでも戦う前に余計な疲労を貯める訳にはいかない。

リズウェルの言葉にアマラが動き出す。そのままハジメの前に立つと、立ち上がらせようと手を伸ばした。ハジメは苦笑いを浮かべながら手を掴むが、足が震えて動かない。

「ハジメ。早く、ちゃんと立って」

「待って無理。足が震えてて。少し待って」

「……めんどくさい」

「え、あ、ちょっと待って!」

立てないハジメにしびれを切らしたアマラは、ハジメの背中に手を入れるとヒョイと持ち上げた。

「待ってアマラ!お願い待って降ろして!お願いですから!」

「煩い。アスティアの邪魔になるからさっさと離れる」

「それでも待って!お願いだから」

俗に言う、お姫様抱っこだ。暴れても危険なためハジメは文句を言うしか出来ないがアマラは一切聞く気が無く、そのままドンドンと運んでくる。

その様子にエリスは呆然と口を開き、ラナラスは驚き、リリアは少しの悔しさと羨ましさを混ぜたような不思議な表情を浮かべた。

その姿をリズウェルは楽しそうに眺める。

「頼む、俺をそんな目に見ないでくれ」

「……何変な事言ってるの」

そのまま雑に降ろされたハジメはとても恥ずかしそうに顔を隠すので、リリアが呆れて言葉をぶつける。

けれどリズウェルは気にせず、次の戦いに目を向けていた。

「ほら、アスティアさんの戦いが始まりますよ」



アスティアの戦いは、ある意味ハジメの一歩先を行っていた。

当然ハジメと同じで、ほとんどぶつかる事が出来ず転がされ続けている。それでも数度鍔迫り合いまで持ち込む事は出来た。元々対応力はとても高いのだ。事前にハジメとの戦いを見れた事も大きい。

けれど鍔迫り合いはすぐに押し負ける。グレンの方が力があるため、何も出来ずに1本取られている。

それでも足元から来る土魔法(魔法攻勢)に対してはいくつか対応策を見せれた。踏み込みを変えたり、動きを変えたり。だが良い戦いには程遠い。

そのため限界はすぐに来た。普段と違う行動を取ると言う事は、慣れていないと言う事。

疲労はハジメ以上に溜まっていた。

「あっ」

それはそのまま、大きな疲労は失敗へと繋がる。限界に来た疲労により今まで対処出来ていた土魔法(魔法攻勢)に対応出来なくなった。

急に作られた段差につまづいてこけてしまう。それでも何とか、怪我をしないようにうまく倒れる事は出来た。

だが限界だったアスティアはもう立ち上がる事は出来ない。

「アスティアも充分戦えるな」

「ありがとう……ございます」

倒れたまま荒い息を吐きながら、グレンの誉め言葉に何とか返す。

限界を超えて続けようと木刀を杖代わりに立ち上がろうとするが体は動かず、起き上がる途中でドサッと倒れてしまった。

「ハァ……ハァ……」

「大丈夫か?」

「大丈夫……です……まだ――」

「限界だな。終わりにするぞ」

「いえ、もうちょっ――え、きゃ!」

「ダメだ。これ以上続けたら怪我をするぞ」

グレンはもう終わりだと木刀を雑にベルトに差すと、動けなくなったアスティアをお姫様抱っこで持ち上げた。

まさかそんな風に動かされると思っていなかったアスティアは、とても可愛い悲鳴を上げる。しかしグレンは一切気にしていない。

「あ、あの!グレンさん!降ろしてください!」

「ん?いや、動けないだろ?」

何を言ってるんだ、と言った感じで一切気にしない。けれどアスティアにとってはたまったものではない。

「そうじゃなくて!グレンさん、近いです!」

「全く近くないと思うが。はい、お疲れさん」

グレンは一切気にせず、リズウェル達の元へと行くと優しく降ろした。かなり恥ずかしかったらしく、アスティアは顔を真っ赤にして固まっている。

「グレンさん。女の子はもっと優しく扱うべきですよ」

そんなグレンをリズウェルが諫める。そんな怒られ方をされると思っていないグレンは、本気で困った顔をする。

「優しく運んだつもりなんだが」

「作戦行動中の運び方でした。もっと優しく、ですよ」

「そうだったか。すまなかった」

「いえ。あの、大丈夫です」

どこかずれた謝罪に、アスティアは顔を真っ赤にしながら小さく返す。その可愛らしい様子にリリアが笑わないように目を逸らした。

「……」

その反応にアスティアが目線だけで文句を言う。けれどリリアは気づかず、笑いそうになるのを頑張って堪えている。

「それでだ。2人とも怪我や違和感はないな」

楽しそうなリリアを遮り、グレンがハジメとアスティアに確認をする。2人は自分の状態を、特に足首や膝周りを確認するが問題は無い様子。

「私は大丈夫です」

「俺も問題ありません」

「そうか、良かったよ。やり過ぎたかと心配した」

グレンは安心した様子で一息吐く。これでもかなり手加減している。魔法で攻撃したが怪我しづらいように気を付けたし、鍔迫り合いでもそれ以上の攻撃をしなかった。

そこまで気を付けても簡単に怪我をさせてしまうのがグレンだ。完璧に対応できても、何かしらの怪我があってもおかしくなかった。

「ハジメは信じられないくらい強くなったな。それでも場数と対応幅が極端に狭い。色んな人と試合すると良い。アスティアは良い相手になるんじゃないか」

「はい」

まだ少し震える足を撫でながらグレンのアドバイスを聞くと、アスティアに目線を向ける。まだ顔は真っ赤だが「負ける気はないよ」と言うかのようにニヤリと笑った。

グレンは視線で楽しそうに会話する2人を見ると、次にアスティアに目線を向ける。

「アスティアは訓練不足だな。リリアの訓練をもう少し受ければ一気に強くなると思うぞ」

「リリア先輩の訓練を、ですか?」

「そうだ。自分の状態を的確に判断できるようになる。どんな状況でも落ち着いて判断出来るようになって、戦った事が無い相手でも対応できるようになるからな」

グレンはどこか嬉しそうにそう言うと、一緒になって座り準備してあったクッキーを頬張る。

しっかりと味わうと疲れた体を水で潤す。そして、今までの様子を考えながら眺めていた少女に声をかけた。


「それで()()()()。どうするか決まったか?」


この試合は何のためか。

ハジメとアスティアの実力確認ではない。

グレンの、魔法で戦う者の戦い方を見て、ラナラスの将来を考えるためだ。

集まった視線にラナラスは2度深呼吸をすると、唇を噛みながらグレンを見つめ返す。それは、答えを決めた表情だった。

それでも落ち着かないようで、再び深呼吸をすると、口を開いた。


「わ、私は、このまま、先天魔法を、使い、ます」


「ラナラス……」

静かに聞いていたアマラが、辛そうに言葉を漏らす。アスティアも辛そうに見つめるが、ラナラスはその視線に気づいていない。

「私は、すごく、弱い、です。大気魔法に、治し、たら。きっと、何も出来なく、なる」

「……」

「だから、戦う、ための。……武器が、欲しい、です」

ラナラスの覚悟に、リズウェルが深くため息を吐いた。その音に気付くと、2人の目が合う。

「気づいてるでしょう、命に関わりますよ」

「……それでも、です」

「その武器は、使い捨てに()()()武器ですよ」

「されません!」

ラナラスが力強く否定する。その声はとても大きく、屋内訓練場に響き渡り、反射し、何度でも帰って来た。

その覚悟を受けてなお、元帥夫人(リズウェル)はラナラスを睨む。とても強く、立場と実力を込めたその視線をラナラスは泣きそうになりながら正面から受け続ける。

「……しないし、させない。ラナラスは大切な、家族」

その無言の言い合いを止めたのはアマラだった。覚悟を込めた言葉はその場の全員の耳に届き、場の空気をほんの少しだけ和やかにする。

「そうです。ラナラスは私達の大切な家族です。そんな事、させません」

その言葉を追うように、アスティアも返す。それでも元帥夫人(リズウェル)は険しい顔をしたまま2人を睨む。

「どれだけ覚悟を持っても、戦いに必ずはありません。あなた達が覚悟しても、先天魔法が必要な時はあります」

「分かっています」

「分かっていません。簡単にその言葉が出る時点で、あなた達は何も分かっていま――」

「分かっていますよ!私達()弱くてラナラスに頼らないといけないことぐらい!」

アスティアの絶叫に、リズウェルは目を見開く。けれどすぐに悲しそうに目を細めた。悲しさと意志の強さが混じった不思議な視線を、アマラもアスティアも怯まず受け止める。

「……もっと強ければ、なんて、何度思ったか分かりません」

何かを吐き出す様に呟いたその言葉を元帥夫人(リズウェル)はじっと聞き入れる。

「その覚悟があるなら、()()守りぬきなさい。もっと強くなりなさい。大切な仲間(家族)なのでしょう」

「命を賭けても」「当たり前です」

元帥夫人(リズウェル)は間髪入れずに帰された2人の覚悟(言葉)を満足そうに受け入れると、再びラナラスを見る。その表情は少し辛そうで、悲しそうだった。

「ラナラスさんは、覚悟を持ってください」

「覚悟、です、か?」

「あなたの()を、2人に預ける覚悟です」

周りで聞いていた人も固まる。恐ろしい言葉にラナラスは深く息を吸うと、泣きそうになりながらも覚悟(こころ)を込めて見つめ返す。

その表情を確認すると、リズウェルはようやく険しい視線を無くしてとても優しく微笑んだ。

「良い仲間(家族)をお持ちですね」

リズウェルはそう呟くと、ラナラスを優しく撫でて抱きしめる。

ラナラスは何も言わずに嬉しそうに、まるで母親の様な優しさと温かさを素直に受け入れた。

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