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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
2節 弱い『力』

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42.アルファ

8月8日、2話更新の2話目になります。

オーガ討伐から10日程が経った。

それで環境が大きく変わるわけでもなく、ウルルの森はいつでも平等に恩恵と危険を与え続ける。

ハジメにとっての影響は少しだけ大きく、食料調達のような力が必要な依頼が無くなり、討伐に参加する回数が少しだけ増えた。

それでも今まで通り、ほんの少しの余裕と危険を含んで冒険者を続けていた。



「あああああっ」

今日もリリアとの訓練はいつも通りだが、普段と違う事があった。

まず1つ目。ここはいつもの訓練場ではなく屋内訓練場を借りている。響く声は建屋に反射され、違う響きをしていた。

そして2つ目。今、空を跳ばされているのはハジメではなくアスティアだ。

アスティアから「リリアとの訓練に参加したい」との言葉から始まった今日の訓練。

まずはハジメが空を飛び、訓練の内容と流れを確認した。眼前に広がった悲惨な訓練にアスティアもアマラもドン引きしていたが。

先に訓練を受けたのはアマラだった。

本当だったら勢いを利用して高く投げ飛ばすのだが、受け身が話にならず落下させたら危険と判断され転がされるのみ。

そして受けるのも攻めるのも隙が大きすぎて延々と転がされていた。最初の頃のハジメ以上に触れたら転がされるレベルで、5分も経たずにアマラが動けなくなった。

ハジメとアスティアで仕方なく端の方に運び、今は最後に残ったアスティアの惨劇になっている。

飛ばす距離はハジメに近いが、飛ぶ回数がハジメの2倍ほどある。ハジメが飛ばされないのは、それほど悲惨な(凄い)訓練を受けて来た成果でもある。

「何でハジメはぴんぴんしてるのよ……」

何とか受け身を取るも転がったまま起き上がれないアスティアが、天井を見上げて恨めしそうに呟く。

見た目と違わぬ体力と集中力を使うこの訓練に、アスティアも動けなくなった。同じ訓練をアスティア以上の時間受けて平然としているハジメに畏怖を込めて呟く。

「頑張ったんだよ」

「……」

ハジメの救いのない言葉に、アスティアは何も言えずに天井を見上げ続けた。


「あああああっ」

少し休憩してから再び空を舞っているアスティアを眺めながら、ハジメはのんびりと座り込んでその光景を眺める。

アマラはまだ動けず地面に突っ伏したまま、それを眺める様にエリスが座って薬草の本を勉強している。分からない部分があると隣に座っているラナラスに聞く。

響く声は恐怖だが、雰囲気は穏やかそのものである。

そしてそんなメンバーだが、先日ランクが変わった。

ラナラスとアマラが()()()()()()()()()ラナラスがEランクに、アマラがDランクにそれぞれ一つずつランクを落とした。実力とランクの乖離を自覚し、これ以上今のランクに居るのは危険と判断したそう。

一緒にアスティアも申請したのだが、こちらは受理されなかった。「リリアに負けた」と言う文句を言ったが「あれは例外中の例外。比較してはいけない」と周りに居た冒険者(リリア被害者の会)に止められていた。

そのため、パーティとしての最高ランクは変わらずに済んでおり活動に影響はない。

あるとしたら、ラナラスが冒険者として動くよりギルド職員として動くことが増えたぐらいだ。

書類仕事が優秀だったこともあり、冒険者としての限界も見えてきた事で「ならギルド職員に!」と言う声が強くなったからだ。

冒険者としても動いているのだがギルドの仕事をしている時間が長いため、周りからはギルド職員として見られている。

「もう、無理……」

そんな事を思い出しているとアスティアが限界に達したらしく、よろよろと歩いてきて倒れた。リリアはその後ろから苦笑いを浮かべて歩いてくる。

流石にリリアも疲れたようで、そのまま座り込む。

「アスティア、初日から無理しない方が良いよ」

「だって、ハジメには安定して勝てる様になりたいの」

アスティアが伸びたまま答える。何度かハジメとも手合わせしたが、勝率はアスティアが少しだけ上。

実力はアスティアの方が上で剛力(力で押す)相手は慣れているのだが、ハジメはタイプが違い苦手としているためだ。

「アスティアは、充分凄い、と思う、よ」

ラナラスが慰めながら魔法(ウォーター)でコップに水を満たしてアスティアに渡す。

「ありがとう。それでもやっぱ、勝てないのは悔しいのよ」

アスティアは悔しそうに水を一気に飲み干す。その勢いにハジメは苦笑いで返す。

そのまま「それにやっと」と言葉を続ける。

「俺も孤児院名(ロストネーム)の申請したからね」

「それよ。私、1回却下されてるのよ。それが申請してすぐ問題なく受理されたって」

アスティアが悔しそうにハジメを睨む。

言葉通りハジメの冒険者タグは更新され、今の名前は『ハジメ・アルファ・アズマ』と記載されていた。

「そりゃあ、申請すればすぐ受理されるって状態だったから」

「何で申請しなかったのよ」

アスティアの文句にどう答えるか悩んで、結局何も返せず握る木刀を見つめる。その様子に視線が集まるが、ハジメは気にせずに自虐するように小さく笑った。

この世界(ここ)で生きる覚悟が無かったから、かな」

ハジメの言葉にアスティアが不思議そうに首を傾げ、アマラも顔を上げた。リリアだけは優しそうにハジメを見つめる。

「なんか、ランクが下って気がしない」

口を動かせる程度まで回復したアマラがハジメを評価して笑い、アスティアも納得するように頷く。

「分かる。実力も知識も上に感じるんだよね。先輩って感じ」

その言葉にハジメが嫌そうな顔をする。けれどアマラは気にせずに言葉を受け取る。

「ハジメ先輩、か。面白い」

「嫌なんだけど。それに感想が面白いはおかしい」

おもちゃにするような言葉に文句を言うが、アスティアが楽しそうに追いかける。

「ハジメ先輩は良いと思うよ。リリア先輩だって似合ってるし」

「私も?さすがに恥ずかしいんだけど」

「似合ってるよ」

「止めてよ」

リリアとアスティアが楽しそうに笑う。それに釣られて、ハジメもアマラも、エリスもラナラスも笑い出した。

とても楽しそうに、安らぐように。この危険で大変で、どこか身近に感じる世界でハジメは笑う。

「さてと、ハジメ先輩。1戦頼んでいい?」

ひとしきり笑い一休みした後、アスティアが立ち上がりハジメを指名する。

「良いよ。今日こそ勝ち越してやる」

「まだまだ負け越すつもりはないよ」

ハジメは立ち上がると、周りに被害が出ないようにリリア達から距離を取る。

どこか楽しそうにお互い向き合うと、隠し切れない高揚感に笑みを浮かべる。

「「よろしくお願いします」」



「ねぇ、私は?」

先輩として見られなかったエリスが先輩呼びを求めたが、運悪く目が合ってしまったアマラはすっと横に目を逸らした。

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