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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
2節 弱い『力』

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36.兄妹

休憩を終えると、再び移動を始める。

中層の中でも比較的浅い、湖がある場所が今回の野営ポイントだ。今回はそこを拠点に、納品用の肉(食料)調達をメインに活動することになっている。

普段はリリア達が受けない依頼なのだが、高ランク依頼(オーガ討伐)のせいで中層に人が入りづらくなっていた。

まだ余裕はあるのだが、それでも不安要素ではある。

そこで荷の運搬に問題のないハジメ(剛力)を含んで活動していたリリアに相談が来たのだ。リリアはハジメに確認をするとすぐに了承を返した。

今回中層に来たのは、そう言う理由だった。


浅層と違い中層の(獣道)の状態は悪いため、荷車はハジメが引いている。リリアは荷車の少し先を歩き、偵察、と言うよりは地面の状態確認をしている。

「そんな落ち込む事ないのに」

その様子を、エリスは荷車に寝転がりながら見ていた。ハジメはその意味が分からず、困惑しながら聞く。

「照れてるんじゃなくて?」

その様子に、未だに少し恥ずかしいハジメは出来るだけ表情に出さないように荷車を押す。

「何で照れるの?」

「何でって、さっき抱きしめたから」

言葉の意味が分からず、エリスが起き上がりながらハジメを見る。ハジメは自分の言葉で先ほどの事を思い出し、少し照れる。

「ハジメ、足が止まってる」

「……なら降りろ、重いんだよ」

「私が重い訳ないじゃん。ほら、頑張って」

照れて止まった足を再び動かしながら、エリスに文句を言う。しかしエリスは一切気にした様子もなく動かない。

「リリアは一切気にしてないよ」

「そんな事は――」

「あるよ。そもそも、何で気にしないといけないの。変なところでも触ったの?」

「触ってねぇよ」

「なら気にすることないじゃん」

「……」

エリスから冷たく叩き切られ歩くペースが落ちる。それに気づいたエリスがゴロゴロと転がりながらハジメまえ近づいた。

そして「遅い」といつもの鞘入りナイフで突き始めるたのですぐにペースを戻す。

「何でエリスがそこまで言い切れるんだよ」

「ずっと一緒に居たから。リリア、少し困ってるけどいつもと一緒だもん」

「そうなの?」

前を歩くリリアを見るが、ハジメにはいつもと変わらず見える。距離を取ってるから何かあるのだろうと言うのは察せるが、その真意が全く分からない。

「あ、少し速度落として」

エリスはお構いなく声をかけると、急に荷車から飛び降りてそのまま道から外れて森へと入る。ハジメは目線で追いながら指示通り速度を落とすと、エリスは薪になりそうな枝や葉っぱを拾っていた。

「お待たせ、ありがとう」

すぐに戻ってくると、片手で抱えられるくらいの薪を荷車の端に起き、再び乗り込む。今度は寝転がるような事はせず、ハジメの横に座りすぐにでも動けるようにしている。

「なぁエリス」

「うん?」

「俺、リリアが気にするような事したか?」

距離を取ったままのリリアに、さすがのハジメも少し不安になってくる。けれどエリスは、少し寂しそうにハジメを軽く突く(蹴る)

「おい、蹴るな」

「だって腹立つんだもん」

「蹴って良い理由にはならねぇよ」

蹴った事で速度が落ちたため、仕方なく蹴るのを止める。それでもやはり寂しそうに、足をぶらぶらさせている。

「なんだよ」

普段と違うエリスの様子に、ハジメが不安そうに聞く。エリスはそんなハジメを無視して、リリアを眺める。

「負担になった事、気にしてるんだと思う」

「えっ」

エリスの言葉にどんどん距離が空いているリリアを見るが、ハジメにはいつもと同じにしか見えない。

けれどエリスは確信を持っているようで、とても寂しそうに見る。

「負担って、なんで」

「落ち込んで気を使わせたから。そのせいで迷惑かけたって」

「そんな訳ないだろ」

ハジメは少し悔しくなりながら言うが、エリスはハジメを一切見ていない。その事が余計に寂しさを感じさせる。

「うん、そんな訳ないの。でもリリアは気にするの、迷惑かけたって」

「何でそんな……」

「私も分からない。ヒカリさんが言うには、両親が亡くなった時に迷惑をかけ続けたから、もう迷惑かけられないって思いこんでるらしい」

エリスの言葉に、ハジメは何も言えなくなる。けれどエリスは言葉を続ける。

「最近は負担になったって落ち込んだりはしないけど、それでも気にしてる。前はもっと酷かったよ」

「そう、なのか?」

「うん。落ち込むたびに1人で薬草採集行って。落ち着いていつも通りになったら戻ってくる。誰にも落ち込んでるところを見られないようにしてた」

「1人でウルルの森に?危険、過ぎない?」

「浅層で採取してたから大丈夫だよ」

「何でそこまで知ってるんだよ」

エリスの言葉に、リリアに目線を向ける。言われるとどこか落ち込んでいる様子に見えるが、けれど勝手に一人でどこか行く様子はない。

「ヒカリさんが色々教えてくれたから」

ハジメが困惑してエリスを見るが、エリスは寂しそうにリリアに目線を送る。色んな感情がまぜこぜになっており、何を考えているかは分からない。

「でもそのせいで、妹とか娘に見られてる気がする。私だって、リリアの事守りたいのに」

エリスも寂しそうにリリアを眺める。ハジメは何も言葉を続けられず、荷車の重みに体を動かす。

「俺も――」

「無理でしょ。実力も経験も」

ハジメもエリスと同じ思いだと言おうとしたところ、エリスから言葉を被された。一切手加減しないエリスに、ハジメの頬が引きつる。

「エリスは俺を何だと思ってるんだ」

「えっと。そうだねぇ」

エリスはその視線を気にせずじっくりと悩み始める。

しかし急に耳をぴくぴくと動かすと、今までの重い空気を吹き飛ばすようにニコッと笑い、悪だくみをする様に言った。

「出来の悪い弟!きゃっ」

ハジメはイラっとして、車輪を(わだち)から外して荷車を大きく揺らした。



「……」

「固まってないで野営の準備しようよ」

目的地の湖に到着した時、ハジメは今まで見たことのない景色に固まってしまった。

湖へと続く川からは、透明な美しい水が延々と流れ込んでいる。水草が生い茂る水底には時々魚が写っており、綺麗な水の中を元気に泳いでいる。

まるで本の中の世界のような見たことが無い神秘的な光景に感動していると、エリスの突き(蹴り)が脇腹に刺さった。

「野営地はここじゃないよ。もうちょっと向こう。リリアが居るでしょ」

「もうちょっと感動に浸らせてくれないかなぁ」

「今するべきことじゃないから。早く準備しないと日が落ちる」

ハジメの感動は遠慮のないエリスの正論で叩き潰される。ただハジメも理解しているので、素直に動き出した。

その先で待つリリアの周りには、カマドのような石を積み重ねた塊があるので、前に来た冒険者が組んでいたのだろう。

リリアはその状態を確認しながら、周囲を調べていた。

「大丈夫、疲れてない?」

「問題ないよ」

「私も」

リリアに近寄ると、落ち込んでいる様子もなく話しかけてくる。表情もおかしい所は無く、普段通りだ。

「エリスはずっと荷車に乗っていたから疲れてないだろ」

エリスの言葉にハジメが文句を言うが、エリスは一切気にしない。

無視してぴょんと荷台から飛び降りると、湖には向かわずに周囲の森へと向かう。ハジメの事はどうでもいいと言った感じだ。

「いいから、テント降ろすよ」

ハジメが見捨てられた子犬のように悲しくリリアに視線を向けると、リリアも気にせずに慣れた様に荷車からテントを下ろし組み立て始める。誰もハジメを慰めない。

「あ、えっと」

無視された事にショックを受ける暇もなく、まだ手順に自信のないハジメが何をして良いのか分からずに固まった。

気づいたリリアが「えっと」と悩みながら周りを見ると、既に動き出していたエリスに声をかける。

「エリス!一緒に薪とか拾ってきて」

リリアの声かけにエリスが止まって後ろを振り向くとハジメを見た。

「分かった!」

次の瞬間「便利な手が出来た」と言わんばかりにとても悪い笑みを浮かべる。けれどリリアは一切気にせず、ハジメにちらりと視線を向けると一瞬だけ表情を険しくして再びエリスに視線を向けた。

「エリス、気を付けてね」

「……うん」

リリアの言葉に何かを気づいたエリスは、表情を険しくして頷いた。


「この辺り、何か居るの?」

ハジメが薪を拾いながらエリスに聞く。エリスは間伐代わりに近場の枝を落としながら、別に乾いた木々を拾っていく。

「形跡はあるけど変な気配はないし、多分まだ大丈夫だと思う。警戒するに越したことはないけど」

ハジメも何は感じていなかったが、それは問題ないらしい。そこでハジメがずっと気になっていた事を聞く。

「形跡?ゴブリンっぽいけど」

エリスの言葉にハジメが足元を確認する。足跡と思われる倒れた草花や、低い位置の木の実などが取られた形跡を見つけ、周りも確認する。高い位置で採取された跡が無いから、小柄なゴブリンを想定する。

「多分ね。この辺は中層でも浅いから、分布としても妥当」

エリスは言いながら周りを確認する。しかしそのゴブリンは見当たらず、ここに居たのは相当前なのかもしれない。

「近くには居ないと思うけど、一応気を付けて。隠れられたら発見が遅れるから」

「ゴブリンぐらいなら俺でも戦えるから大丈夫だよ」

「その考えは危険。絶対なんてないし、想定外は必ず起こるから」

「……」

エリスの言葉にハジメが黙る。けれどすぐに危険性(甘く見ていた事)を理解し、自分を見つめ直す様に深く息を吐く。

「そう、だね。軽ダンジョン(ウルルの森)は何が起きるか分からない。少し、甘く見てた」

ハジメが自分に言い聞かせるように反省しながら(木の枝)を拾っていく。エリスはその様子に満足すると、一緒に(木の枝)を拾う。

エリスは合わせて晩御飯用に果物を取りながら袋に入れていく。この辺りによく映えている梨のような果物だ。しかし知っている梨よりも甘みが弱く、少し癖がある。

それでも野営においては数少ない甘味で重宝されている

「今日の分はこれくらいかな」

エリスが抱える枝を見て、周りを見る。周囲だけ枝が綺麗に減っており、これ以上取るならばどちらにせよ移動は必要だ。

「うん、こんなもんかな」

ハジメも自分の抱える枝を見て納得する。量も多くなく重くはないのだが、かさばるためとても邪魔ではある。

「それじゃ、戻ろうか」

「そうだね――おいエリス!こっちに置くな、自分で持て!」

「良いじゃん。ほら、偵察するのに動けないから」

エリスはそれっぽい理由を言うと持っていた枝をハジメの枝の上に置き、身軽になるとそのまま歩き始める。

「一緒に歩くなら俺に渡す必要ないだろうが、おい」

「問題ないでしょ、ハジメはまだまだ余裕ありそうだし」

「それはエリスもだろうが」

口喧嘩し(じゃれ合い)ながら進んで行く。エリスは一切気にせず、楽しそうに笑いながらハジメを揶揄う。

「ったくもう」

そんな(気楽)な扱いで話せるのが楽しく、ハジメも少し笑ってしまう。

しかしそのまま雑に扱われるのも癪なため、抱えている枝の重心を少し変え片手で抱えると、空いた手でエリスの頭をワシワシと雑に撫でる。

急に撫でられた事にエリスが驚き、嫌がった風に見せながらも尻尾を楽しそうに振る。

「ちょっと何するの」

エリスは言葉だけ少し強いながらも、とても嬉しそうに撫でられる。それが余計に楽しく、ハジメは声をあげて笑ってしまう。

「エリスが姉って言うよりは、面倒事を兄に押し付ける妹だな」

エリスはハジメに撫でられたままきょとんとする。けれど言葉の意味を理解すると、とても嬉しそうに笑い返した。

「誰がハジメの妹か!」

袋に入れていた果物もハジメに押し付けた。

最初、果物はビワにしようかと思って詳しく調べたら、寒波に弱いらしい。

涼しい地方の世界なので、「違う世界だから」の合言葉を使わずに調べ直して、梨が良さそうだったので採用。リンゴじゃないのは、梨の方が好みだから。


身近な物なのに、意外と知らないもんだね。

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