34.x.ギルド掃除
その日の夜半、ギルドの日中業務が終わった後にアスティア達3人はギルドに集まっていた。
渡されたバケツにラナラスが魔法で水を張ると、モップで掃除をしていく。
アスティアがそうして床を少し濡らすと、ラナラスが乾いたモップで拭いて行く。エントランスの広い場所ではあるため作業量は多いが、アマラは別の、各部屋の掃除に行っている。
「こっちは人数足りてるから、部屋の方に回ってくれ」
何故なら、ギルド職員が一緒に行っているからだ。罰と言っても、作業に加わるだけ。人の出入りも多いため、毎日掃除しなければすぐ汚れだらけになる。
陣頭指揮を執っているのはオルビ。掃除自体は30分もかからないだろう。
「それで、凄く気になってるんだけど」
「ん?」
アスティアは隣で一緒に床を拭いているギルド職員の男性に声をかける。慣れている様子でアスティアよりもどんどん綺麗にしていき、声をかけられても手を止めない。
「今日はギルド業務していないよね?何してるの」
「ペナルティだよ。俺は1日だけど。ほら、手を止めないで動かして」
男性―ハジメは口を動かしながら掃除を続ける。濡れモップで拭いた後をラナラスが、何故かいるハジメにかなり驚きながらも綺麗にふき取っていく。
「一体何したの」
アスティアが口も動かしながら手も動かす。床は綺麗に見えていたが、拭くたびに水がどんどん汚れていく。
ハジメは周りをキョロキョロと見て、目的の人が居ないのを確認するとぼそりとペナルティの原因を零す。
「ギルドの備品を壊したんだよ。通常は数日のペナルティなんだけど、今回は温情で1日だけ」
少し困ったように、少し楽しそうに、不思議な感情を含んでハジメが笑いながら言う。
「サイシアの経験が長いハジメでも、やらかすのね」
「……あっ」
アスティアが納得していると、ラナラスが何かに気付いて声をあげた。
その声に驚いてハジメとアスティアの視線が集まると、ラナラスはビックリして手で口を塞いでしまう。
――カーン
手を離したことでモップが倒れ、とても綺麗な音が部屋中に響き渡る。
その音に部屋に居た全員の視線が集まると、ラナラスが「すいません、すいません」と泣きそうになりながら謝って、倒したモップに慌てて手を伸ばした。
「よし、これでこっちの掃除は終わりだ。お疲れさん」
エントランスの掃除が終わると、オルビが声をかけて解散となる。各部屋の掃除に行っている人たちが戻ってきていないが、もうすぐ戻るだろう。
アスティアとラナラスは、アマラを待って机の一角で待っている。
「ちゃんとしてる人たちで良かった。これなら安心できる」
ハジメを呼び止めて一緒に座っていたのだが、夜間業務のオルビも「1人で寂しい」とちゃっかり混ざった。
そんなオルビが安心したようにアスティアに話しかける。
「ペナルティだから当然だと思うけど」
アスティアが当然と言った感じに返すと、オルビが困ったように肩を竦める。
「それぐらい真面目な奴なら良いんだけどな。中にはまともにしない奴が居るんだよ」
ギルドの奥から持って来たカップにお茶を注いでそれぞれに差し出す。アスティアはお礼を言いながら飲むと、やっと一息つく。
「それ、ダメじゃない?」
「物凄くダメ。ペナルティ期間が延びるか、信頼度が落ちて依頼受注を弾かれるか。酷いと王都退去もありえる」
オルビの真剣な言葉にアスティアとラナラスが恐怖で体を震わせる。その様子にオルビが問題ないと小さく笑う。
「2人の様子だったら問題ない。もう1人の方も、付いている人からは「全く問題なし」って途中経過来てるから安心しろ」
その言葉を聞いたラナラスが胸をなでおろした。
「そう言えば」
その様子を見たアスティアが、何かを思い出したようにラナラスに声をかけた。ハジメとオルビがその声に釣られてラナラスを見る。
「ラナラス、さっき何かに気付いたよね」
「え?」
「ハジメのペナルティ」
「あー……」
アスティアの確認に、ラナラスが困ったようにハジメを見る。ハジメが困ったように首をかしげると、ラナラスは口を開いた。
「聞いて、良い?」
「うん」
そこまで言うと、ラナラスが周りをキョロキョロと確認してから声をかけた。
「ハジメの、ペナルティの、原因が、備品破壊、って」
「そうだよ」
「壊した備品、って、木刀?」
「……」
ラナラスの追及にハジメが一瞬固まると、ラナラスと同じように周りをキョロキョロと確認する。
アスティアは「あっ」と浮かんだ心当たりに声をあげてしまい、知っているオルビはニヤニヤと笑っている。
目的の人が居ない事を確認すると、ハジメは唇に人差し指を当てて「しー」と秘密にするように、少し困ったように微笑んだ。
「気にしちゃうから、アマラには秘密ね」
アマラのペナルティは、アスティアとラナラスと同じ30日間。
温情を受けていたのはハジメだけではなかった。




