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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
2節 弱い『力』

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34.剛力を求める者

お昼を食べた後、ハジメはアマラを連れて街のとある一角に来ていた。ちなみにお昼ご飯はリリアがご馳走しており、3人が頭を下げていた。

「もっとお金が余裕出来た時にでも、後輩に奢ってあげて」

と、リリアが奢られる気の無さそうな3人に笑いかけたことでその場は収まった。

食べている最中アスティアが泣き出したので、リーダーとして相当なプレッシャーだったのだろう。

アマラが「ごめん」と呟きながらアスティアを抱きしめ、ラナラスは一緒に泣いていた。

「それで、どこまで行くの?」

「もうすぐだから。ほら、あそこ」

食事を終え30分ほど歩いて中心部から離れた頃、アマラがどこまで行くのかさすがに不安になって聞いてきた。

目的地はもうすぐだったようで、ハジメが少し先、空き地になっている建設中の住宅へと視線を向ける。丁度お昼休憩なのか、人は居るが作業はしておらず、わいわいと雑談しているのが見えた。


「親方!ハジメが来た!」

「分かった!こっち連れてこい!」

ハジメが顔なじみに声をかけると、そのまま連れていかれる。周りの目が集まる事にアマラが少し警戒しているが、ハジメは一切気にせずに先に進んで行く。

その先にはハジメから見ても少し小柄な男性――親方と呼ばれたドワーフが図面とにらめっこをしていた。ちなみに、ハジメも親方と呼ばれている以外名前を知らない。最初聞いたが、「親方と名乗っている」以上の自己紹介をしなかった。

「連れてきた」

「今日も早かったな。ハジメ、もう少し休憩だからそれが終わってからだ」

ドワーフは顔も上げず図面とにらめっこしながら何かを書き込む。書き込まれるものは日付のような数字が多いので、作業予定だろう。

「親方、紹介したい人が居まして」

「ん?あ、誰だ、嬢ちゃん?」

ハジメの言葉に親方は顔を上げると、アマラが居る事に気付く。親方の視線の強さにアマラが一瞬引くが、それでもすぐに気を取り直した。

「アマラ・クドラ。ハジメに紹介されてきた」

「ん?ハジメに?おい、どういう事だ」

親方はハジメに確認を取ると、ハジメは普段と変わらない様子で話す。

「俺と同じ、そして俺より強い剛力。使えるかと」

「剛力?」

ハジメの言葉に、親方は試す様にアマラを見る。その視線にアマラは緊張し、ピンと背筋を伸ばす。

「……使えるか使えないかは関係ない。作業量で依頼出してるから、人数分の給金は出さんぞ」

「分かってる。最初はアマラの指導しながらになるけど、ちゃんと依頼分は仕事するから」

「何言ってるんだハジメ」

「えっ」

親方はそこまで言うと、2人を手招きする。

「そんな勿体ない事出来るか。来い、やる事説明する」


「嬢ちゃん、こういう現場の経験は?」

「初めて。です」

「敬語も何も要らん」

親方はそう言うと広げた図面を指差していく。アマラが困惑してハジメを見ると苦笑いを返される。ハジメも親方相手の言葉使いには苦労していた。

ただ、親方の元で働いている人たちは親方同様言葉遣いを一切気にしないので、楽でもあった。ただ親方への言葉遣いも雑なので、最初の頃は不安で慌てた。

「ハジメに頼みたかったのは1階部分だ。土台組み立てを数日で終わらせたくて、力を借りたかったんだ」

「ずいぶん急な話だ」

ハジメが困ったように肩を落とすと、それ以上に親方が肩を落とした。

「戦争終わって長いからな。あの頃に直すはずだった建屋が老朽化で限界が来てるんだと。次も控えてるし、忙しいったらありゃしねぇ」

愚痴を言いながらも指で指示を出していく。任せたい柱、位置、作業の流れを大雑把に説明していく。

ハジメはこれだけで理解していけるが、この場合問題なのはアマラ。

一切経験がなくこの場に来たため、説明の大半が分からない。何とか追いつこうにも、早すぎて置いて行かれている。

「ハジメ、行けるか?」

「予定通りに行くかは、やってみないと」

「ま、待って!」

親方の確認もそこそこにハジメが動き出そうとすると、アマラが止める。「あ、忘れてた」と言わんばかりにアマラに視線が集まる。

「ん?分からなかったか?」

「お、追いつけない。指示通り運べば良いの?」

「初めてだったな、すまん。もう1回説明する」

アマラの言葉を親方は一切気にしなかった。今度は丁寧に説明を始める。

その間ハジメは他の作業者に挨拶に向かう。知った顔、知らない顔、握手や雑談をして作業の準備に向かった。

「嬢ちゃんに頼みたいのはこれだ、柱の移動と組み立て。他の奴でも出来るんだが、人も時間も必要だ。だが嬢ちゃんは違うだろう」

親方の丁寧な説明に、アマラもやっと理解できる。だからこそ、忙しいはずの今、その先を聞いてしまう。

「組み立て?」

「柱があるだろ。あのまま立てても上で組むのが大変だからな。横になってるうちに組み立てて持ち上げるんだ。俺たちじゃ持ち上がらないが、嬢ちゃんなら上げれるだろ。そうすれば作業が楽になるからな」

親方が1つ1つ丁寧に説明していく。アマラが1つ1つ理解できるよう、アマラは全力で理解するよう頑張って聞いている。

「嬢ちゃん、剛力の強さは?」

「そこそこ、だと」

「……ハジメを基準にすると?」

「かなり強い、と思ってる」

「あー……」

アマラの言葉を聞くと、親方が悩みだす。力が強いと言う事は、それだけ物を壊す危険が高い。力が強い事は重要なのだが、強すぎても困るのだ。

アマラも壊す可能性があるのを自覚しているのでどうしようかと悩んでいると、ハジメが挨拶を終えて戻ってきた。

「親方、どうした?」

「嬢ちゃんの剛力、強いんだよな?」

「そうだけど、多分問題ない」

「あ?」

ハジメの気にしていない言葉に親方は困惑を言葉にし、アマラはハジメを見る。

「アマラ、俺と戦った時の最後、覚えてる」

「覚えてる。私の練習中の戦法」

「あの感覚で少しずつ、丁寧に使うの。()()()()。アマラなら上手く使えるはず」

ハジメの言葉にアマラが驚き、悩みながら自分の手を見る。けれどすぐにぐっ、と握ると前を向いた。その様子に親方が不安を消し飛ばすと、図面から離れて休憩していた作業員達の元へ向かう。

「大丈夫そうだな。嬢ちゃん、分からない事は?」

「えっと……柱の見分け方が分からない。1つ1つ違うらしいけど、自信がない」

「それは柱に書いてあるから見な。分からなかったら周りの奴らに聞け」

アマラの質問から説明をちゃんと聞いていたと安心すると、親方はすぐに楽しそうに答えた。


この現場に、遠慮と言う言葉はない。

「一旦下げろ!ハマりが悪い、少し削る!」

「はい!」

「こっちは支えるから、そっち持ち上げろ!次!組み立て準備!」

「嬢ちゃん、それじゃねぇ!隣だ!あぁ、もう、誰か教えてやれ!」

「ハジメ、それまとめて近くに寄せろ!一気に組むぞ!」

「嬢ちゃん力入れ過ぎだ!抑えろ!」

そもそも剛力と言う優秀な力持ちを休ませると言う考えを持たない、剛力以上の脳筋集団だ。剛力を人型の重機、ぐらいにしか見ていない。

居るなら全力で使い、全力で仕事を進める。ハジメたちを休ませるのは勿体ないと休憩は最小限、瞬く間に家の骨組みが組まれていく。

それは大量の柱と剛力コンビの体力を限界まで消費して、急ピッチで進められていった。

「後は……ん、あ?」

「親方、持って来た柱、全部組み終わった」

作業が止まり親方が次を、と進めようとすると作業員の1人が少し呆れたように状況を伝える。

「もう?3日分は持ってきてたぞ」

「それが終わったんだ、全部。剛力が2人居たし」

速過ぎるペースに困惑と呆れを混ぜながら、座り込んで動けないハジメとアマラを見る。最初1時間程は慣れないアマラに合わせてハジメは指導の面を強くして作業を進めていた。

が、少し経つとアマラの優秀さが際立った。力があり、ハジメと同様に傲慢さ(剛力らしさ)がない。周りの指示もちゃんと聞き、どんどん作業も早くなる。力があるから、多少無茶のある早くなったペースにも対応出来てしまう。出来てしまった。

そのため、作業は加速度的に上がり2人の体力を犠牲に、予定を大幅に超えて進んでしまったのだ。

「しゃあねぇ、これじゃ作業にならねぇな。作業場から持って来れるか?」

親方が困ったように近くの作業員に確認する。その作業員も同じくらい困ったように記憶を探る。

「持ってきても時間が無いかと」

「だなぁ。運ぶだけならハジメに頼む必要もない」

その言葉に、困った様子で空を見上げる。日が傾き始めており、もう少しすると街灯も灯される時間。既に暗くなり始めている空には、すぐに暗く静かな夜が訪れるだろう。

「よし、今回の依頼はおしまいだ。ハジメ。明日の夕方にでも次の指名依頼の連絡出すから、確認しろ」

「はい」

疲れ切ったハジメだが、親方の強制連行(指名依頼)命令(相談)に何とか返事を返す。

()()()、だったな」

「は、はい!」

親方の呼びかけに、アマラが驚いて声をあげる。親方の手には2つの飲み物があり、ハジメとアマラに手渡した。

「ちゃんと出来ていた。ハジメより力がある分しっかり仕事を覚えたら物凄くありがたく頼もしい」

親方の素直な賞賛であったが、親方の表情は厳しかった。

「が、まだ任せられない部分や不安な部分があるから単独の依頼は出せん」

「……はい」

親方の飾らない言葉にアマラが少し落ち込む。しかし言葉はそこで終わらなかった。

「だから次も、出来ればハジメと一緒に来い。問題ないと判断出来たら、その次からはアマラにも指名依頼を出せる」

「えっ」

アマラが驚いて親方を見る。すると親方は2人に何かをポイと投げ渡す。広げて受けた手のひらに落ちたそれは、1枚の銀貨だった。

「あれ?予定より多いのでは?」

「今日は2人がかりで3日分の仕事をしたんだ。作業時間が減って助かった分も含めてる、素直に受け取っとけ」

3割程増えた給金にハジメが驚いて確認をすると、親方は笑って返す。そんなハジメ以上に、アマラが渡された銀貨を慌てて握る。その感覚が信じられず親方に声をかけた。

「お、親方さん!これ、ほ、ホントに?」

「親方で良い。そうだ、今回の依頼料だ。今日で仕事は終わり――おい、アマラ、どうした?」

親方が慌てた理由、それはアマラの瞳から涙が零れていたため。アマラは涙を一切制御出来なかった。

「だって、やっと……これで、みんなが……」

アマラはそこまで呟くと、人目もはばからず泣き声を上げ始める。

想定外の事態に親方が助けを求めるよう、慌ててハジメに目を向ける。けれどハジメはアマラの不安と安心を知っているからこそ、泣き続けるアマラの背中を優しく撫でるだけだった。


アマラが落ち着いた頃には、既に日は半分ほど沈んでいた。アマラは謝罪をしていたが、訳を知っているハジメは何も文句を言わず、「お疲れさま」と微笑むだけだった。

「アマラおかえり」

「ハジメもおかえり、問題なし?」

ギルドに戻ってくると、アスティアとエリスが2人を労って挨拶を送る。リリア達は雑多に並ぶ丸机の1つを占領していた。すぐに合流すると、空いてる席を勧められる。

「ただいま。アスティア達は大丈夫?どうだった」

孤児院名(ロストネーム)のおかげで今後の目途がついたよ。ギルド職員として雇って貰えるって」

アマラの不安に、アスティアが少し疲れた様に返す。聞くとつい先ほどまで試験と面接を受けていたそう。

一緒に怒鳴ってしまった受付の人に謝罪とお菓子を渡した。かなり良いお菓子を買ったため、手持ちは数枚の銅貨のみ。宿は先払いだったので数日は大丈夫だが、この額では今日のご飯も厳しい。

それでも、「私たちが悪かったから」と覚悟を決めていた。

「私からはこれ」

「アマラ!?」

「銀貨!?」

アマラは結果報告に、机にカランと銀貨を置く。信じられない物を見た様子で、アスティアとラナラスは大声を上げてしまう。

「静かに。声大きすぎるよ」

エリスが呆れたように窘めるが、2人の耳には届いていない。口をわなわなと震わせ、アマラを見ている。

「これで数日は持つから、その間に私も稼ぐ。大丈夫、ギルドの給料出るまでは私が何とかする」

アマラの自信に満ちた言葉に、ラナラスとアスティアが泣き出す。

――大丈夫。

ずっと不安の中だった生活に、やっと光明が見えたのだった。


2人が落ち着いた頃、今後の予定の交換も兼ねて6人で打ち合わせをしていた。ギルドの仕事内容の詳細や今後の予定、特に今回は急ぎでお金が必要なため、通常1ヶ月払いの所を一時的に10日払いに変える申請をしたり。

「そうだ、アスティアに聞きたかったんだけど」

「何?」

そんな中、リリアが何かを思い出したようにアスティアに声をかけた。ただの雑談、そう言った様子に他4人は軽く耳だけ傾けながら、各自の作業を続ける。

「拒否された依頼って何?高ランクの依頼なんて、ずっと出てなかったはずなんだけど」

リリアが不思議がるように聞く。

元々、相当な事がない限り高ランク(Cランク以上)の依頼は出ない。

そんな依頼が簡単に出るほど危険だったら国は崩壊するだろう。そもそもDランク依頼すら滅多に出ないよう、普段からベテラン勢が奮闘している。

「ウルルの森中層に大型の魔物が発見されたから、警戒と討伐依頼があったの。討伐報酬も銀貨6枚で高かったからつい、ね」

余裕なかったからなぁ、とアスティアが苦笑いを浮かべる。慣れていない場所での討伐は、普段以上に危険を伴う。土地勘も慣れもないため、捜索もまともに行かず疲労ばかりを貯めるのだ。

「それは危なかったね。さすがに無謀だよ」

「反省してる」

リリアの優しいお説教に、アスティアが本気で反省したように頭を下げる。耳だけ傾けていたラナラスとアマラも一緒に頭を下げていた。

「中層か。俺たちも行くなら気を付けた方が良いのかな」

「だろうね。いつ出た情報だろう、気づかなかった」

ハジメが心配を言葉にすると、リリアも反省気味に言葉にする。アスティアは仕方ないよ、と言うかのように首を横に振る。

「昨日の朝出た情報みたいだから、仕方ないと思う」

つまり、その日に出た真新しい情報に飛びついたという事になる。リリアが「危険過ぎだよ」とアスティアに文句の視線を送ると、少し小さくなる。

「その大型の魔物って何?」

そんなアスティアに救いの手を出す様に、ハジメが聞く。アスティアはその救いの手を掴むように「えっと」と記憶を探るように少し悩んでから言葉にした。

「オーガだったよ」


――助けてくれ。


ハジメの記憶の奥底にあった誰かの思いと言葉がゆっくりと、けれど確実に心を揺り動かした。

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