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【3節終了】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
2節 弱い『力』

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33.使えなかった魔法は、

「リリア、来てくれてありがとう」

「待たせちゃったね。それで?」

ギルドの一室に人が揃うと、アスティアはリリアへとお礼をした。しかしリリアは一切気にしない様子でソファに座ると、先を促す。

翌日の朝、ハジメはリリアとエリスと共に前日色々とあったパーティと対面していた。ここはいつの日かハジメがヒカリと対面したギルドの一室、今ここには6人の人間が座っていた。

ちなみにボロ雑巾になっていたはずのハジメは元気に来ており、「戦争で手加減は慣れた」とヒカリに言われた時は一緒に聞いたリリアと共に恐怖で震えた。

「そういえば、ちゃんとした自己紹介してなかったね」

元気な(問題ない)ハジメに少し不思議がりながらアスティアは言うと、冒険者タグを見せた。その行動に促されるように、他5人も冒険者タグを見せていく。

「アスティア・タウ・クドラ。一応Cランクって事になってる」

先日リリアに完敗したアスティアは、少し困ったように自己紹介をする。冒険者タグはリリアと同じくCと書かれているが、アスティアはどこか隠したそうにしている。

「アマラ・クドラ。E()()()()()()のCランク」

ハジメと戦ったアマラは、どこか振り切ったように皮肉じみた言葉を発した。エリスを除く4人はギョッとした様子で見るが、アマラは一切気にしていない。

「えっと……ラナラス・タウ・クドラ、です。Dランク、に、なってます」

昨日ずっと後ろで震えていた一番小柄な少女―ラナラスは、3人の中で一番小さな声で言葉を紡いだ。

「私達も。私がリリア・アルファ・フィアレス。Cランクで、一応リーダーみたいになってるよ」

「フィアレス。リリアは戦争英雄(ネームド)?」

義両親(両親)がね」

アスティアが驚いてリリアに聞くと、リリアは苦笑いで返す。次にハジメが冒険者タグを見せる。

「ハジメ・アズマ。知っての通りEランク」

「……本当にEランクなんだ」

アマラが信じられないモノを見る様に、つい先日ランクが上がったハジメの冒険者タグをマジマジと見る。そこに書かれる文字はどう見てもEランクだ。

「エリス・イオタ。Dランク」

エリスはそう言うと黙ってしまう。初対面な事もありどこか警戒しているのだろう。

「……ねえエリス」

「何?」

自己紹介を聞いていたアスティアがぼそりと呟くとエリスを見た。どこかキラキラした目に、エリスが怯える様に体を引きながら答えを待つ。

「撫でて良い?撫でる」

「ヤダよ。ん、ちょっとねぇ!?話聞いてる!?」

エリスの返答を待たずに動こうとしたアスティアにエリスが怯えて席を立とうとする。それを止めたのはアスティアを抑えたアマラと、逃げようとしたエリスを宥めたリリアだ。

「アスティア、落ち着け」

アマラが少し強めに言うとアスティアは一瞬びくりと震え、深呼吸をするとそれまでの落ち着いた様子に戻る。

「……ごめんなさい。私達、ケットシーを近くで見たのは初めてで」

「勝手に含むな」

「うん」

止められて落ち着いたアスティアが謝罪をするが、アマラとラナラスは冷たく切り捨てる。

「それで、頼りたい事って?」

エリスが少し怯えたままだが話が進まないので、リリアが話を促す。アスティアは小さく咳払いすると、ラナラスと目線を合わせ、頷いた。

「ラナラスの事なの」

アスティアのその言葉に、その場の全員の視線がラナラスに集まる。驚いたように目線を落とすが、覚悟していたらしくすぐに目線を上げて視線を受け止める。

「どういう事?」

リリアが穏やかに言うと、ラナラスは覚悟を決めて言葉を紡いだ。

「私、先天魔法、の、適性が、あって」

途切れながらも紡がれたラナラスの言葉に、部屋の空気が一瞬凍った。


先天魔法。

自分の命を使い、魔法と言う形で使う。使いすぎれば、当然命を落とす。

それはハジメが使えず、関係ないと記憶の遠くへ消えていた魔法だった。


「エリス、周りに人は?」

「大丈夫、私達以外居ない」

リリアが冷静にエリスに確認をする。エリスは何も問題ないと言う風に頷く。

「え、そんな警戒するようなことは――」

「まだないけど、確認することによっては警戒しないと行けないから」

リリアの様子にアスティアが困惑すると、リリアは冷静に返す。

「それで、私達に何を聞きたいの?」

リリアが少し睨むようにラナラスに催促する。ラナラスは一瞬怯えるが、アスティアに優しく肩を押されてリリアを見つめ返す。

「先天魔法について、な、何か知りませんか?上手く使う方法、とか、後遺症を、治す方法、とか」

「……」

ラナラスのその言葉に、アスティアとアマラが辛そうに顔を歪める。リリアは口元に手をやって悩み始めた。

そのまま誰も喋れず、場に沈黙が降りる。

「……」

それだけならまだマシだった。リリアの表情が険しく、その緊張が部屋中に広がっていく。そのせいで場はどんどん重くなり、他の人の心臓の音が聞こえてきそうだった。

「……知ってる」

「えっ」

「知ってるの!?」

リリアの呟きが場に広がると、ラナラスが困惑を口にして、アスティアが飛び掛かりそうな勢いで立ち上がった。アマラは驚きから動けないようだ。

「知ってる。ラナラスは、どうしたい?」

リリアが口元に手を当てたまま、何かを悩みながら聞いてくる。何かを試すようなその言葉に、ラナラスは悩みながらもしっかりと言葉を返した。

「う、上手く使えるように、な、なりたい!私は弱くて、2人に迷惑かけてばかり、で」

「迷惑なんてない」

ラナラスの後悔(言葉)にアマラの静かな怒りが追いかける。それを止めたのはリリアだった。

「上手く使う。それなら、上手く使える人を知ってるから紹介できるとは思う。けど」

リリアはそこで区切ると言葉を選ぶように悩む。誰も言葉を挟むことは出来ず、重い沈黙の中、次の言葉を待った。

「……ラナラスの、先天魔法無しでの実力は?」

リリアが絞り出した言葉にラナラスが固まる。けれどすぐに深呼吸をすると、少し辛そうに手を強く握り込んだ。

「……2人の、足元にも、及ばない、です。昨日見た、ハジメよりも、圧倒的に、よ、弱い」

「なら上手く使うなんて考えない方が良い。先天魔法は素の実力あってこそ、まともに使えるから」

リリアの厳しい一言がラナラスが遅い、ラナラスが悔しそうに唇を噛んでリリアを睨んだ。

そこでリリアの視線に含まれる優しさに気付くと、後悔するように目線を落とす。

「ならなんでDランクに?偵察とか戦闘外行動が上手いとか?」

昨日の動きや今日の様子からそこまで強くない、そう判断したハジメが不思議そうに聞いた。それに対してラナラスはより小さくなり、アスティアが困ったように溜め息を吐く。

「先天魔法があったから。ラナラスはそれを期待されてランクを上げられたの」

「え、でもそれって――」

「良くない。でも、おかげで先天魔法の危険性がよく分かったから」

アスティアが後悔するように唇を噛んだ。その様子に、リリアは何があったのか気づいた。

使()()()、のね」

「使った?」

リリアの言葉に、ハジメが理解できずに確認する。リリアは辛そうに説明を続ける。

「先天魔法はね、便利魔法をもっと便利にするの。威力が少しだけ上がったり、発動が早くなったりね。便利魔法単独で戦闘に使えるか、って言われたらかなり難しいけど」

リリアの言葉に、実際に魔法を使ったグレンの様子を思い出す。1度だけだったが早く、そして今のハジメよりも安定した威力だった。

「でも、先天魔法はその先があって」

「先?」

「使えるの、戦闘で。すごい威力で、それこそ敵を倒せるほどに」

「え、凄い事じゃないの?」

ハジメが驚いて声が少し大きくなる。けれど場の空気はどんどん重くなっていく。

その先を引き継いだのはアスティアだった。

「私も、そう思っていたよ」

「……思ってい()?」

過去形の言葉にハジメが困惑すると、アスティアは凄く辛そうにハジメを見た。何かを後悔するかのような視線に、ハジメが固まる。


「使った後、倒れたの。意識を失って、バタリと」


「えっ」

アスティアから零れた言葉に、ハジメが固まる。しかし誰も否定せず、それが真実であることが伝わってくる。

「元々、同じ村出身の私たちはよく一緒に遊んでいてね。ラナラスが先天魔法が使えるって分かった時、冒険者になったの。遊びの延長みたいな感じでね」

懺悔するように言葉を続ける。誰も言葉を挟めず、ただ時間が進んで行く。

「冒険者になってすぐ、村の近くの森でね。いつも通り薬草採集の最中、新しい採集場所探しに少し奥に入ったらゴブリンに襲われて。10体ぐらいだったけど、初めての戦闘で対処出来なくて」

ハジメも何があったのか察する。視線は勝手に、静かに言葉を聞くラナラスへと向かった。

「ラナラスが、使ったの。先天魔法で土を、相手を叩き潰す様に。ほとんど倒したけど2体ぐらい生き残りが居て、でもそれぐらいならアマラと2人で対処出来た」

これまでの落ち着いたよう様子の中でどこか恐怖するようなアスティアに、ハジメは何も言う事が出来ない。

「その後すぐにラナラスが、体が重い、って言って意識を失って。アマラが一緒だったから何とか村まで戻れたけど、目を覚ましたのは翌日だった。そこで初めて、先天魔法の恐ろしさに気付いた」

ミシ、と机が鳴いた。アマラが力を込めてしまったのだろう。すぐにラナラスが「アマラ」と優しくたしなめる。

「でも村の人は信じてくれなくてね。戦闘で疲れただけだって。でも私達はそう思えなくて、このままじゃラナラスが危ないって思ったの。でもその時はまだ村の外に出る力も無かったから、頑張って力を付けて。……ラナラスには何度か無理させちゃったけど」

アスティアが嫌な事を思い出す様に、それでも自分の罪を言葉にし続ける。ラナラスは懺悔を聞くと首を振り、とても優しく微笑んだ。

「無理なんて、してない、よ。2人、が、頑張ってくれた、から、私も頑張った、だけで」

ラナラスの言葉に、アスティアが目元を拭う。そこからはラナラスが引き継いだ。

「それ、で。村の外に出るのに、力とお金を貯めて。その間に、2人とも、ランクが上がって。私たちが外の依頼に、出やすいように、したの」

「それで、外に出たまま王都まで?」

リリアがまるで「よく頑張ったね」と言わんばかりに優しく微笑む。ラナラスは頷くと、困ったように眉を下げた。

「そうだったんだ、けど、そうもいかなくて」

「えっ」

リリアがどういう事か聞こうとすると、ラナラスがアスティアとアマラで顔を見合わせた。アスティアが少し悩み、結局誤魔化せずに苦笑いを浮かべた。

「お金が足りなくてね。途中いくつかの町や村で依頼は受けたんだけど、それだけじゃ厳しくて」

「まぁ、流れの冒険者がよく持つ悩みだね」

アスティアの言葉に、リリアがどうしようもないと苦笑いを返す。

「ギルドで強く出たのも、ごめん。お金に余裕が無くて、かなり焦ってた」

アスティアの言葉に、3人は一緒に頭を下げる。リリアが「やめてよ」とすごく嫌そうに文句を言う。

「頭を下げるなら、受付の子に下げて。あの子は甘いの好きだから、謝る時はお菓子でも持って行くといいから」

「分かった、そうするね」

リリアの言葉に、アスティアが再び頭を下げる。今度は嫌がる事もせず、微笑んで返した。

「私達が相談。違うね、聞いて欲しかったのは以上かな」

アスティアはそこまで喋ると、どこか緊張をほぐすかのように深く息を吐く。リリアは今までと違い、一切悩まずにラナラスを見た。

「先天魔法については、最低でもアスティアぐらい実力が無いと使いこなせない。そう思った方が良い」

「そんな、に?」

「それぐらい難しいの」

リリアの通告に、ラナラスが悩む。その様子にアマラが心配そうに、ラナラスを見た。

「なら、治せ、ます、か?」

「治せる。けれど時間と、多分お金がかかる」

「多分?」

違和感のある言葉にラナラスが疑問で返す。リリアは全てがわかった上で、頷いて言葉を続けた。

洞窟(指定ダンジョン)で半年ぐらい生活するの、魔物とか魔獣を倒しながらね。自分自身じゃなくて大気中の魔法の力を使えるようにするために。倒れた時のような威力の魔法は使えなくなるけど、倒れるような事は起きないはず」

荒療治と言える対策に、ラナラスが驚きで目を開き、アスティアは絶句、アマラは2度3度まばたきをして言葉を理解しようとしている。リリアはその様子を確認したうえで、説明を続ける。

「自分で身を守れるなら食糧費とかで済むけど、護衛が必要ならすごくお金が必要になる。どっちにしろ、すぐには無理だと思う」

リリアの言葉にラナラスは落ち込まず、少し嬉しそうにしていた。これまでどうしようもなかったものの解決策が見えた。それが嬉しいのだ。

リリアはその様子を満足そうに見ながら話を続ける。

「先天魔法が使える人を知ってるから、紹介するよ。魔法についても詳しいから、色々相談に乗ってくれると思う。立場がある人達だから、確認するのに少し時間は頂戴ね」

「本当に、ありがとう、ございます。何とか、解決策が見えて、安心、しました」

しっかり頭を下げる。そこには、これまで背負った恐怖と覚悟を下ろした安堵が見え隠れした。

「それでお金の方だけど。余裕はどのくらい?」

リリアの言葉に、その安堵は一瞬で不安に塗りつぶされる。ラナラスはチラリとアスティアを見ると、とても困ったように肩を落とす。

「宿は先払いだから数日は大丈夫だけど、ほとんど余裕が無くて。大銅貨が数枚しか」

「それは、かなりまずいね」

アスティアの言葉に、リリアが本当に困った様子で悩む。

大銅貨は銅貨30枚の価値があり、普通に生活するなら1人が1日当たりに必要なお金とされている。

ここから、大銅貨30枚は銀貨1枚で1ヶ月、銀貨12枚で金貨1枚が1年分の目安になっている。冒険者のような支出の多い職だと、倍程度が目安になる。

これまでとは違う硬貨価値にハジメも最初は苦労したが、今では慣れて生活の目安に便利している。

つまり大銅貨数枚と言う事は3人分(人数分)を考えると、ほとんど余裕がない。

「アスティアとラナラスは孤児院名(ロストネーム)があるから、出来る事は多いはず。ギルド職員としても手が欲しいし」

リリアはそこまで言うと「でも」と言葉を続ける。

「すぐの支払いは無い、はずだね。店番とかの相談(依頼)も今は無かったはず。外依頼だとすぐ受けれるけどこの辺りに慣れてないと危険過ぎるし、中層ぐらいに行かないと金銭的に足りないし」

冒険者は危険と隣り合わせではあるが、だからこそ危険を避けて動くのが重要でもある。ずっと危険と隣り合わせで動いていたら、それはどんな人間でもすぐに死ぬ。

アスティア達もその事を分かっているので、何も言えずに小さくなるばかり。

先ほどとは違う緊張感が広まり、リリアが諦めて「もう私が貸すしかないか」と考え始めた時、ハジメが「あっ」と呟いた。

急に上がった声に全員の目がハジメに集まるが、ハジメは一切気にせずアマラに目を向けた。

「アマラはお昼の後、時間ある?」

「私?あるけど、ラナラスみたいに頭良くない」

「そうじゃなくて、剛力だよね?」

「そうだよ」

そこまで会話をすると、リリアが何か気づいたように「あっ」と呟く。そのまま目線で「頼んでいい?」と聞くと、ハジメは頷いて返した。

貨幣価値について

当初からずっと悩んでいた設定の1つ。

元々「1日当たり貨幣1枚が生活の目安、1ヶ月が1つ上の貨幣、1年がその上」と言うのを考えており、当初から30枚と12枚区切りは考えていました。現実でも12本1ダース、と言う区切りが既にあるので違和感等は一切ありませんでした。

が、そこからが大問題。

当初は小銭が銅貨、1日が銀貨、月が金貨で考えていたのですが「年で金貨12枚。この世界、金ってそんなに採掘出来るの?」と疑問が生まれて設計し直し。

しかし既に見切り発車で進めており、値段基準も出来てしまっていてさぁどうしよう。

そんな中色んな作品に触れ「大銅貨を1日にして銀貨と金貨をずらすと、年が丁度金貨になる」と気づいて組み直し、合わせて過去に買った武器の値段も相対的にちょっと高くして見直し。

(1年近く働きながら溜めたんだから金貨1枚の方が妥当かな、などと未だに悩んでいるのはここだけの話)

急に出てきた(改)は、こういう理由でした。


お金の話題が出てきたので、そんな裏話です。

つまり、改定を付けた頃=ここの下書きをしていた、と言う……改定付けたのいつ頃だっけ?と言うツッコミは聞きません。

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