20.夢の先
3月14日、2話更新の2話目になります。
ハジメの目の前には木が立っていた。
樹齢は20年になるらしく、まだまだ成長の余地は大きい。その下には、多数の生きていた者が埋まっている。
「…………。」
ハジメはその前で、ただ静かに眺めていた。何かを思う訳でも、何かを考える訳でもない。
ただ目の前にある木を眺めていた。
「……大丈夫?」
オーガ討伐から数日後、ハジメはこの場所にやってきた。連れてきたリリアは不安そうにハジメを見る。
ここは共同墓地。遺体を焼き、灰と骨を埋めている。救出される事のなかった遺体には何も出来ないが、何かしら帰ってきたモノは埋葬されている。
「…………」
ハジメは何も返事をせず、ただ目の前にある木を眺める。何かを言おうと口が動くが、けれど何も口に出来ずに再び口を閉じる。
ここに眠るハジメの知り合いは一人だけ、しかも知り合いではあるが敵に近い存在。けれど、目の前で人が亡くなったという衝撃を再び思い出し、ハジメの心は揺さぶられ何も言えずに居る。
冒険者の終わり。どれだけの準備をして、最善を選んでも避けられない可能性のある最後。
遊びでは済まされない。その事を改めて自覚させられる。
「……ね、ねぇ」
一緒にエリスも来ていたが、ハジメの普段と違う様子に怯え、リリアの服を摘まんでいる。
「……なぁ」
「……何?」
ハジメの口からただただ漏れた息に、リリアが返事をする。そのままハジメは何かを考える様に口を動かし、けれど言葉にできず閉じる。それを何度か繰り返した。
「……リリアのご両親も、ここに眠ってるの?」
「ううん。お父さんとお母さんは向こう、個別墓地に眠ってる」
「……そっか」
リリアはそう言うと、この木の先にある個別墓地を見る。個別墓地は王族や貴族などが眠る墓地だ。そこにルウとユイが眠っている。
そのままハジメは木を眺める。その行為に何の意味もない。
「……挨拶、してく?」
「…………」
ハジメは何も返さない。言葉は届いてるはずだが、ただ何も返せずに墓標を眺めている。
そんないつもと違うハジメの様子に、リリアは何も出来ず辛そうに眼を逸らし、エリスは怯えからか、リリアにしがみつき始めた。
「……はぁ」
少し経つと、ハジメは息を吐きだしてクルリと後ろを向いた。その表情はいつもと変わらず、何かを堪える様子はない。
「待たせてごめん。行こうか」
「……大丈夫、なの?」
リリアが不安そうに尋ねるが、ハジメは困ったように笑う。
「うん。リリアのご両親には『リリアに迷惑かけてます』としか言えないからね」
その言葉にリリアが驚いて目を見開く。そして辛そうに眼を逸らす。
「そうじゃなくて。その、辛そうだったから」
「それは、大丈夫。身近な人が亡くなるって初めてだったから、どうすればいいか分からなくて。でも、何となくわかったから」
決定的な結末に、ハジメは未だに受け止め方を決められずに居る。
けれども先に進むために、答えを出さなければいけない。
「ねぇ、リリア。この後、訓練お願いしても良い?」
「良いけど、大丈夫なんだよね」
「分からない。分からないけど、ここで止まったら生きていけないから」
ハジメが辛そうに笑顔を浮かべると歩き出す。そのハジメの表情に、リリアは笑って返す。
「……怪我だけは気を付けてね」
「気を付けるよ。でも、リリアが相手なら大丈夫でしょ?」
「そのつもりだけど、その状態だと怪我するよ」
「歩いてるうちに戻るよ」
そう言いあいながら歩いて行く。エリスはまだ怖いのか、リリアにしがみ付いて離れない。少し歩きづらそうだ。
それに気づいたハジメがエリスに視線を向けるが、怖がってリリアの陰に隠れる。ハジメはいつもと違うその反応に困ってリリアを見たが、リリアは笑うだけだった。
来週も続きます。