表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/36

20.夢の先

3月14日、2話更新の2話目になります。

ハジメの目の前には木が立っていた。

樹齢は20年になるらしく、まだまだ成長の余地は大きい。その下には、多数の生きていた者が埋まっている。

「…………。」

ハジメはその前で、ただ静かに眺めていた。何かを思う訳でも、何かを考える訳でもない。

ただ目の前にある(墓標)を眺めていた。

「……大丈夫?」

オーガ討伐から数日後、ハジメはこの場所にやってきた。連れてきたリリアは不安そうにハジメを見る。

ここは共同墓地。遺体を焼き、灰と骨を埋めている。救出される事のなかった遺体には何も出来ないが、何かしら帰ってきたモノは埋葬されている。

「…………」

ハジメは何も返事をせず、ただ目の前にある(墓標)を眺める。何かを言おうと口が動くが、けれど何も口に出来ずに再び口を閉じる。

ここに眠るハジメの知り合いは一人だけ、しかも知り合いではあるが敵に近い存在。けれど、目の前で人が亡くなったという衝撃を再び思い出し、ハジメの心は揺さぶられ何も言えずに居る。

冒険者の終わり(ハジメの目標の結末)。どれだけの準備をして、最善を選んでも避けられない可能性のある最後。

遊びでは済まされない。その事を改めて自覚させられる。

「……ね、ねぇ」

一緒にエリスも来ていたが、ハジメの普段と違う様子に怯え、リリアの服を摘まんでいる。

「……なぁ」

「……何?」

ハジメの口からただただ漏れた息に、リリアが返事をする。そのままハジメは何かを考える様に口を動かし、けれど言葉にできず閉じる。それを何度か繰り返した。

「……リリアのご両親も、ここに眠ってるの?」

「ううん。お父さんとお母さんは向こう、個別墓地に眠ってる」

「……そっか」

リリアはそう言うと、この(墓標)の先にある個別墓地を見る。個別墓地は王族や貴族などが眠る墓地だ。そこにルウとユイ(リリアのご両親)が眠っている。

そのままハジメは(墓標)を眺める。その行為に何の意味もない。

「……挨拶、してく?」

「…………」

ハジメは何も返さない。言葉は届いてるはずだが、ただ何も返せずに墓標(生きた証)を眺めている。

そんないつもと違うハジメの様子に、リリアは何も出来ず辛そうに眼を逸らし、エリスは怯えからか、リリアにしがみつき始めた。

「……はぁ」

少し経つと、ハジメは息を吐きだしてクルリと後ろを向いた。その表情はいつもと変わらず、何かを堪える様子はない。

「待たせてごめん。行こうか」

「……大丈夫、なの?」

リリアが不安そうに尋ねるが、ハジメは困ったように笑う。

「うん。リリアのご両親には『リリアに迷惑かけてます』としか言えないからね」

その言葉にリリアが驚いて目を見開く。そして辛そうに眼を逸らす。

「そうじゃなくて。その、辛そうだったから」

「それは、大丈夫。身近な人が亡くなるって初めてだったから、どうすればいいか分からなくて。でも、何となくわかったから」

決定的な結末に、ハジメは未だに受け止め方を決められずに居る。

けれども先に進む(生き続ける)ために、答えを出さなければいけない。

「ねぇ、リリア。この後、訓練お願いしても良い?」

「良いけど、大丈夫なんだよね」

「分からない。分からないけど、ここで止まったら生きていけないから」

ハジメが辛そうに笑顔を浮かべると歩き出す。そのハジメの表情に、リリアは笑って返す。

「……怪我だけは気を付けてね」

「気を付けるよ。でも、リリアが相手なら大丈夫でしょ?」

「そのつもりだけど、その状態だと怪我するよ」

「歩いてるうちに戻るよ」

そう言いあいながら歩いて行く。エリスはまだ怖いのか、リリアにしがみ付いて離れない。少し歩きづらそうだ。

それに気づいたハジメがエリスに視線を向けるが、怖がってリリアの陰に隠れる。ハジメはいつもと違うその反応に困ってリリアを見たが、リリアは笑うだけだった。

来週も続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ