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【3節終了】『英雄たちの愛娘』~迷い込んだ世界にチートなんてありませんでした~  作者: 西日爺
1節 知らない世界

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19.ハジメとリリア

3月14日、2話更新の1話目になります。

独り、膝の上に置いた握った手を見つめて悩んでいた。

邪魔だ、と言われた。実際、ついて行っても何も出来なかっただろう。少しづつ冷静になる頭で考えられるようになっていた。

危険だ、と言われた。何も出来ない邪魔者は周りに危険を及ぼすと。何も出来ない自分が嫌になりそうだった。


だから?


覚えている。(ハジメ)が何も出来ず、時間をかけてここまで成長したのを。

知っている。リリアが辛く後悔し悩み、けれどその(責任)を背負い、(ハジメ)と向き合おうとしたのを。

見ている。リリアが死を背負おうとしたのを。背中しか見せなかったが、その背中で語っていた。


なら(ハジメ)に何が出来るのか?

ずっと、リリアの帰りを待つ間考えていた。



「無事帰ってきたな」

サシウスはずっと窓の外を眺めていたが、そう言うと席を立つ。全員が帰ってきた事に安心して雰囲気が和らぐと、ハジメをちらりと見た。

「おい、お前はどうする」

その言葉にハジメは顔を上げると、真っすぐにサシウスを見た。今までの悩んだ雰囲気は無く、何かを決意したようだ。

その表情に、サシウスは何かを感じたのかニヤリと笑う。ハジメはその表情を正面から受け止めると、口を開いた。

「リリアに、会う事は出来ますか」

「知らん。呼ぶことは出来るが、会うかは本人に聞かないと分からん」

サシウスはそれだけ言うと、ハジメの返事を待たずに部屋から出て行った。少しだけ、ほんの少しだけ、小さく響く足音は嬉しそうだった。


「おい」

サシウスはすぐに戻ってくると、背を伸ばし座っていたハジメに声をかける。ハジメはその声を受けるとすぐに立ち上がり扉の方向へ向く。

そこには、少し汚れが目立つリリアが困ったように立っていた。

「呼ばれたけど、何?」

リリアは部屋に入らなかった。言い合いの後だから何をされるのか分からないらしく、少し警戒している。

その表情は何かを抱えた様に、泣いていると勘違いするぐらいような作り笑いを浮かべている。

人の死は堪えるのだろう。けれどリリアはしっかりと抱えながら、抱えきれない分が表情として零れている。

そんなリリアの悲しみと辛さを感じると、ハジメはスッと頭を下げた。

「リリア、俺が悪かった。俺を殴ってくれ!」

空気が固まった。リリアに至っては理解が出来なかったのだろう。今までの辛そうな表情も全て消え、固まってしまう。空気もリリアも動き出すまでに時間がかかった。

「……なんで「分かった!」

「え、ふごっ!?」

ハジメのおかしな発言にリリアが困惑から最低限復活した直後、そのすぐ後ろに居たエリスが空気を壊すように、喜んでドロップキックを決めに飛び込んだ。

予想外の声と動きにハジメが顔を上げた瞬間、腹にエリスの足が突き刺さる。

鈍い音と誰かの「あっ」と困惑する声、「ぷっ」と噴き出す声が効果音となるなか、ハジメはエリスを受け止めた。

「お……う、うお……」

小柄なエリスとは言え、全力で飛び込んだ強烈な衝撃に耐えきれない。ハジメは1歩、2歩と後ろによろよろと下がり、そのまま腹を抱えて倒れ込む。エリスは起き上がると、ハジメの惨事に満足しながらリリアの後ろへと戻っていった。

当人だったはずのリリアは想定外過ぎる出来事の連続に、エリスを説教する事も出来ずに呆然としている。

一番後ろでは様子を見に来ていたヒカリが、一連の流れに腹を抱えながら、なんとか笑いを堪えていた。

「……あ、あのさぁ!俺はリリアに言ったんだ!エリスにじゃないし、それは蹴りだ!」

「リリアに変な事言ったハジメが悪い。帰ったきたばかりで疲れてるんだから、ハジメの変な趣味に付き合う必要はない」

エリスはそう言うと、腕を組んで満足そうにする。それを怒ったのは、呆然としていた状態から復活したリリアだ。

「た、例え変な趣味だとしても、人にドロップキック(跳び蹴り)しちゃダメだから、ね?」

リリアはまだ困惑しているのだろう。上手く怒ることが出来ず、悩みながらだ。

「趣味じゃなくて。あのさ。あぁ、もう、いってぇ……」

ハジメは痛みに堪えながら起き上がる。まだ腹を押さえており、威力は充分だったようだ。

「あの、大丈夫?」

「……後で説教するけど、何とか大丈夫」

リリアが心配そうに近寄ると、ハジメはリリアを見る。ハジメの覚悟を秘めた目をリリアはしっかりと見つめ返す。

「それで?」

リリアが促すと、ハジメは深く息を吸って落ち着こうとする。痛みに堪えながらも思いを口にした。

「……俺は今日、何も出来てないって改めて分かったから」

ソフィラと練習して、少しでも戦えると思った。人が死んだ時、だからこそ何かが出来ると思った。

けれど現実はそんなに甘くない。それが出来る()()では何も()()()()。必要な事はまだまだ多い。

「俺は何も出来ない。けどリリアを支えたいと思ったんだ。でも、今の俺じゃ出来る事は少ない」

ヒカリに「リリアを危険に晒すだけ」と言われた。それに気づかされた時、ハジメは自分の無力さを改めて自覚した。どれだけリリアに甘えていたかも。

今のハジメには、リリアを支える事も、力になる事も出来ない。本当に足手まといだ。

「だから、リリアが辛い時はサンドバックにでもなるから。俺に当たって良いから。リリアが少しでも楽になるなら、辛かった事を俺にぶつけて良いから」

考える時間を貰えたハジメは、討伐に動くリリアの姿を思い返していた。いつもと違う、ピリピリとした雰囲気の中にどこか辛そうな気配を含んだ姿を。

そこで気づいた。リリアだって、人の死は辛いんだと。

なら、ハジメには何が出来るのか。いつだったか、ハジメの事を「サンドバック」と表現した。練習でボコボコにしていたからだろう。

他にも出来る事はあったかもしれない。けれど今のハジメに出来る事はこれだけだった。

「……キミって、よく分からないね。どうしてそういう発想になったの?」

「リリアの力になりたいと思ったんだ。でも今の俺は弱いから、何も出来ない」

リリアの言葉に、ハジメは辛そうに笑いながら自分の体を見下ろす。

元の世界だったら、きっと色々あっただろう。出来ない事も多かったが、出来ることだってあったはずだ。

だがハジメは迷い人だ。全てを失い、この世界で再び積み重ね、ここまで生きてきた。まだこの世界に馴染もうとする状態で、本当の意味で渡せる物は何もない。

だからこそ、その身一つで何が出来るか考えた。

「何が出来るか考えたら、それしか思いつかなかった。それでもリリアが楽になるなら良い、そう思うくらいにはリリアにお世話になったから」

ハジメに言葉にリリアが困ったように微笑んだ。そのまま少し悩むと、ハジメの目を見つめ返す。

「分かった。なら、目を瞑って」

「……さすがにそれは怖いんだけど」

「いいから」

リリアの言葉に、ハジメは仕方なく目を瞑る。何をされるか分からないが、素直に目を瞑って力を抜く。反射的に力を込めないように。何をされても、リリアが怪我をしないよう。

――ポンッ

次の瞬間、ハジメの顔を包み込むように、少しひんやりとした優しい衝撃が広がった。

「えっ」

ハジメが驚いて目を開けるとそこには、ハジメの頬で暖を取るかのように手を当てたリリアが居た。目を合わせると慈愛に満ちた、とても優しい笑みを浮かべた。

「キミがそこまで気にする必要は無いの。だから、これだけ」

「遠慮しないんで大丈夫。必要だったら良いんだから」

「うん。だからこれだけ。せっかくだし、少し温まらせて。寒かったんだよ」

「……うん」

リリアのひんやりとした、少し土や血で汚れた手を頬で感じながら、小さく頷く。リリアも嬉しそうに微笑んだ。


2人とも完全に気を抜いていた。

だからこそ、気づかなかった。

ハジメの後ろに、小さな影が静かに近寄っていた事に。


その小さな影は殺気が見えそうな程怖い表情を浮かべながら跳ぶと、短い棒のような物をハジメの頭部に振り下ろした。

「いっ!?」

「ひゃ!?」

振り下ろされた衝撃と痛みに驚いたハジメと、ゴツンと言う鈍い音と声に驚いたリリアが声をあげる。眺めているヒカリは笑いの限界を超えており、壁を殴りながら懸命に耐えている。

「いい加減リリアから離れろ、ハジメ(このくそ野郎)

「何すんだエリス!」

ハジメが殴られた頭を押さえながら犯人(エリス)に文句を言う。

リリアを奪われたと暴れそうになった子が、この状態を素直に受け止める訳がない。限界ギリギリで殺意を鞘に仕舞ったナイフで、ハジメをぶん殴った。

そのエリスはハジメを殴って満足したのか、驚いて離れたリリアにしがみ付くと満面の笑みでハジメから引き離した。

「リリアは私の。ハジメには渡さない」

「違う!殴るな!」

あんまりな発言にハジメが怒るが、エリスはリリアから離れない。その後も文句を言うが、一切気にせずにリリアを抱きしめ続けた。

意味が無いと悟ったのかハジメは文句を言うのを諦めて、ため息を吐くと苦笑いをしてリリアを見る。

巻き込まれたリリアは苦笑いを返して、空いた手でエリスの頭をとても幸せそうに撫でた。

それはまるで兄妹(きょうだい)がじゃれ合うようだった。



ヒカリは笑いを堪えきれず、地面に転がっていた。

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