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【3節終了】『英雄たちの愛娘』~迷い込んだ世界にチートなんてありませんでした~  作者: 西日爺
1節 知らない世界

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15.ソフィラとの訓練

武具屋の裏には、広めの庭が作られている。正面からは小さく見えた家だが、奥には広い空間になっていた。周囲のお店の裏側を共同広場として使っているようで、他店の様々な雑品も少しだけ置かれていた。

今は誰も居らず武具屋が使い放題のそこに来ると、ハジメはすぐに素振りを始めた。今回は剛力を確認する意味もあるので、既に使っている。

「ふっ……ふっ……」

今までとの重量や長さの違いに違和感はあるものの、すぐ慣れるだろう。それよりも持ち手の安定感や重心の綺麗さに驚く。

――慣れるなんて話じゃない。今まで以上に振れる。

途中で剛力を解除して振ってみるが違和感はほとんどない。これまでの訓練が生きているのだろう。

そんなハジメを、近くで準備運動をするソフィラが楽しそうに眺める。

「ねぇリリア、ハジメ君って本当に剛力なんだよね?」

ソフィラは部屋から出てきたリリアを確認すると準備運動に一区切りをつけて話しかけてくる。だがその目はハジメから逸らさない。

「そうだよ。嘘だと思った?」

「思った。だって話してても傲慢さも雑さもない。しかもちゃんと武器を使()()()としてるじゃない。今の素振りだって、ちゃんと武器の特性を探してる」

ソフィラが感心したように見る。リリアの後ろから来ていたニルグは悪い笑みを浮かべていた。

「坊主の武器を作るとなったらライファの愛刀(ウツギ)ぐらい苦労しそうだ。ソフィラ、しっかりと確認しな」

「はいはい。ニルグ老はエルフ使いが荒いですよ」

ソフィラが肩を竦めながらも再び準備運動を始める。先ほど以上に楽しそうに、真剣に。


ハジメの素振りは先ほどまでは正面への振り降ろしだったが、今は袈裟切り、横薙ぎなど色々を試している。ソフィラはそれを嬉しく思いながらも表情には出さず、ハジメに話しかけた。

「ハジメ君、準備は良い?」

「はい。ただ、その……」

ハジメがかなり困った様子で、木刀を色んな振り方を試す。それでも納得出来ないのか、首をかしげる。

「何か変?」

「いえ、とても使いやすいんですが、慣れてないので上手く止められるか自信なくて」

ハジメのその言葉にソフィラはポカンとする。が、すぐ表情を戻して笑った。

「そこは大丈夫よ。振り抜きさえしなければ、ちゃんと躱すし止められるから」

「えっ、大丈夫ですか?」

「失礼ね。ここに弟子入りする前はCランクの冒険者だったのよ。リリアには勝てなかったけど」

ソフィラは苦笑いしながら正面に木刀を構える。ハジメの持つ木刀と同じサイズだ。

「5本で良い?」

「はい」

急に増した緊張感にハジメは深く息を吐くと、木刀を正面に構えた。

「「よろしくお願いします」」


先手はハジメだった。お互い確認するかのような正面からの面打ち。スムーズではあるが、あえて初動も全て見せた、お互いの実力を確認するための1撃。

ソフィラもそれを理解し、木刀で受け止める。ゴン、と鈍い音を響かせてその場で完璧に受けきった。

「えっ」

驚いて下がったのはハジメだった。今までの練習相手はリリアばかりで、今の一撃を正面から受け止められたのが初めてだったからだ。

「何驚いてるのよ。それぐらいだったら、上手く受け流せば私でも止め切れるわよ。手加減なんてしないで良いわよ」

「ちゃんと全力ですよ」

ハジメが肩を落とす。剛力が弱かったからだろう。ソフィラはハジメが手加減してるのだと勘違いした。

ハジメが下がって距離が開いた分、今度はソフィラから詰めた。いつもよりも広い、ロングソードの間合い。少しの差だがそれが違和感となりやり辛さを生む。

受ける、躱すは何とか出来ているが、それでもやり辛さは抜けない。

「やり辛そうね」

「それは、物凄く!」

一呼吸付きたく、ハジメは一歩踏み込むと力を込めて弾き飛ばそうとした。

が、ソフィラはそれを読んでおり正面から受け止めず横に流す。ハジメは完全に体勢が崩れるが、そのまま転がって距離を取ろうとした。

「はい、1本」

それを許すほどソフィラは甘くない。転がって起き上がろうとすると、突きつけられた木刀と目が合う。

「……リリアと良い勝負だと思うんですが」

「それはまだリリアが本気を出してないだけよ」

ソフィラはそう言うとクルリと後ろを向き、距離を取ろうとする。

ハジメも起き上がると軽く肩を動かし、再び正対する。

2本目の始まりに声かけは無かった。



「嬢ちゃん、坊主が剣握ってどれくらいか分かるか?」

「1年も経っていません」

「……迷い人だったな。元の世界で握ってたか分かるか?」

「この世界に来てからと本人は言ってます」

2人の戦いを見ていたニルグはリリアに確認を取ると、再び戦いに集中する。その目は楽しそうにしており、まるで新しいおもちゃを見つけたようだ。

「経験がまだまだ足りねぇな。剛力か疑うぐらい非力だが、力はある。ただ、あれだけ力があってソフィラに遊ばれてるようじゃダメだ。だがそれ以上に体の使い方が上手い」

2本目もすぐソフィラが取った。ハジメの方が力はあるのだが、ソフィラの力の使い方が上手く、追いつけていないのだ。

「あれじゃ、力を使わずに技で戦う動き方だ。剛力の戦い方じゃねぇ。嬢ちゃんの影響か?」

「……」

「褒めてるんだよ。あれならちゃんと、力も技も両方揃う。良い師匠を持ったんだろ」

ニルグが楽しそうにハジメの動きを見る。力を上手く使えていないが、力に振り回されている感じもない。ただ技だけはしっかりしており、ソフィラにも何とか食らいついている。

それでもハジメに勝機はない。良い勝負だが、それはあくまで実力を確認するために手を抜いているソフィラと、である。再びハジメの力を上手く流されて、転がされたところで3本目もソフィラが取った。

今はまだ1本も取れないだろうが、伸びしろは充分とあるニルグには見えた。

「ふん、良い武器作ってやらねぇとな」

「ニルグ老、違います。今日はオーダーメイドの相談じゃなくて、武器を買いに来ただけです。予算もないですよ」

「……そうなのかい?てっきり作る話と思ったのだが」

「一応、金貨3枚準備させましたが」

「それは……うちの良いロングソードと防具で終わりだ」

「そのぐらいを想定してました。そもそもあの様子じゃ、剛力用の巨剣渡しても使えません」

「それは……そうだ。……いや、坊主の様子ならやりようはあるぞ。良いのぉ、アイデアが湧いてくる」

先ほどの悪い笑みはどこへやら。今のニルグは楽しそうに笑う。

「お、そろそろ良い勝負になりそうじゃないか」


「ちょっと、ロングソードは慣れてないんじゃないの!」

「慣れてないですよ!ソフィラさんを参考にしているだけで、す!」

「そりゃあ、どうも!」

先ほどの技のぶつけ合いに力の要素が増えだすと、ソフィラが押され始めていた。ソフィラが力負けしだしたので技で対応しようと色々試したが、思った以上にハジメが対応できてしまったからだ。

そもそも普段相手をしているリリアだと剛力では当たりもしないため、ほとんど技の練習になっていた。

今回、ソフィラも上手いがリリアほどではない。技の不足を力の差で誤魔化せる事に気付いて、ハジメが力で押し始めたのだ。

「あぁ、もう!上手い剛力は、厄介ね!」

「そりゃあ、どうも!」

リリアと長くやっていたため、ハジメは力だけで戦う方法を知らない。もし力だけで戦っていたら技術で圧倒され、ソフィラの足元にも及ばなかっただろう。だがハジメはしっかりと訓練してきた。だからこそ良い勝負が出来る様になっている。

「ふっ!」

ハジメが最初と同じように力で弾き飛ばそうとする。ソフィラも上手く流すが、今度は流し切れずバランスを崩して尻もちをついた。

「……やっと、1本」

「まさか新人に1本取られるとはね」

「リリアに鍛えられましたから」

ハジメは笑うと、ぴょんぴょんと後ろに跳ねて距離を取る。まだ戦いは終わっていない。


「おいおい、すごいなあの坊主」

「……ここまで出来るのは、私も予想してませんでした」

ハジメがしっかりと1本取った事に2人が驚く。実力確認が目的だったのでソフィラも本気を出していなかったが、それでも1本取れるほどとは思ってなかった。

「でもソフィラも本気を出し始めたな。坊主が全く対応できてない」

次の1本は、本当に酷い状態だった。ソフィラがフェイントを混ぜ始めるとハジメが対応しきれず、すぐ体勢を崩していた。


「これで4本目、後1本ね」

「……1本取れたのに自信が砕けそうです」

ハジメは一切反応が出来なかった。上段に振り下ろされた木刀を受けようとしたら、当たった瞬間に横に跳ねて軌道が変わった。

想定外で固まったハジメは慌てて後ろに跳ぶが、そこからの追撃を捌くには体勢が悪すぎる。1合、2合と合わすたびに立て直せない状態になる。それだけでなく、そこでも木刀の軌道がどんどん変わる。

どうしようもなく転がったハジメに、木刀を突きつけられた。

ソフィラは額に浮かんだ汗を拭きながら、にやりと笑った。

「ハジメ君に簡単に負けるようじゃ、私の立場が無いからね」

「大丈夫です、ソフィラさんの立場はちゃんと伝わりましたから」

そう言って、何とか立ち上がる。

――どう足掻いても勝てない。

ハジメはぶつかり合いから技では圧倒的に勝てないのを理解していたが、力だけなら有利と気づいていた。だからこそ力で受けたのだが、それの意味が完全に無くなった。

経験の差は大きい。相手に合わせて技を変えて、動きを変えられるのだ。様子見を止めたソフィラには、ハジメでは手も足も出ない。

――いや、そんなの当り前だ。しっかりと見て、出来るだけの事をする。

ソフィラは既に距離を取って構えてる。それを見て、ハジメも覚悟する。

――勝てなくても、やれるだけの事をする。この先の糧にする。

ハジメが立ち上がって構えると、ソフィラが再び切りかかる。今度は下から切り上げるように振られた。

ハジメはそれを受けるが、先ほどと同じように軌道が変わる木刀に翻弄される。本気になったソフィラ相手に、ハジメでは太刀打ちできない。

どんどんと体勢を崩し敗北するだろう。ただハジメにも意地がある。

「ふっ!」

「ハズレ」

最後に突きつけられる体制を作りに来る、ハジメはその攻撃に山を張って全力で弾き飛ばそうとしたが読まれていた。

簡単に躱されると、ハジメに出来た致命的な隙に木刀を突きつける。

「終わり」

勝敗は既に決まっていた。


そんな2人の様子を、ニルグは真剣な表情で見ていた。

「……対応出来てねぇが、それでも見えてはいるな。嬢ちゃん、坊主にどういった訓練してきたんだ?」

賞賛よりも呆れが強めに混ざった声で、ニルグはリリアに聞く。リリアも何を聞かれているのか察したうえで、出来る限り誤魔化す。

「一応ですが、剛力無しでDランク目指せるぐらいと言われてました」

「1年足らずで、だったな。……動きを見る限り、坊主は頭良いんだな?」

「はい。私と一緒に事務仕事してました」

ニルグが呆れたようにハジメを見る。その目は、先ほどのおもちゃを見るような楽しそうな目でなく、何故か同情が混じっている。

「……現時点でDランクは行ける。経験積めばCランクはすぐ」

一方的な戦いだったが、ソフィラも余裕が無いのが見て取れる。結果以上にソフィラを追い詰めている。

「嬢ちゃんと事務仕事出来るならBランクは問題ねぇな。それ以上は訓練次第か」

ニルグがそこまで考えを零したところで、呆れたようにため息を吐いた。

「坊主を訓練したのは嬢ちゃんだよな?」

「えっと……はい、一応は」

ハジメは土まみれ汗だくの負けた状態で大の字に倒れて空を見上げているが、どこか満足そう。

ソフィラも同じくらい汗だくでかなりギリギリの勝負だったように見える。ハジメ(新人)ソフィラ(元Cランク)を追い詰めた、その事実にニルグはどんどん呆れが強くなっていた。

「……嬢ちゃん、坊主にどういった()()()訓練をしてきたんだ」

「……。」

リリアは何も言えず、目を逸らした。

世界観の練り直しと調整により、金貨枚数変更(2025/5/14)

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