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【3節終了】『英雄たちの愛娘』~迷い込んだ世界にチートなんてありませんでした~  作者: 西日爺
1節 知らない世界

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9.冒険者のお仕事

魔法の適性を確認してから約4か月、この世界に来て半年以上が過ぎた。1年ももうすぐだ。

この世界も基本的に四季はあるが全体的に涼しい。一番暑い時期でも25度超えないぐらいの涼しさなのでとても過ごしやすい。今は少し涼しくなってきた頃だ。

冬はその分かなり冷える。だがありがたい事にこの辺りは雪が少ない地域である。年に数回降るぐらいだが、寒いせいで1度積もると長く残る。


最近は訓練も過激さが減り平和になった。

ハジメが剛力を顕現したせいで頑丈になり、戦える力が付いてきたため過激にする必要がなくなった、が真実である。

剛力顕現で強くなったことにハジメは喜んだが、合わせて剛力について詳しく聞いた。それによると、喜んでばかりもいられなかった。

まず戦いが雑になりやすい。ハジメは話にならないが、剛力には圧倒的な力を持つものが多い。技に頼らずとも何とかなるのだ。

他にも武器の強度が足りずすぐ壊れる、獲物と正対する位置を担当することが多いため負傷率が高くなる、無茶をする人が多く死亡率が極端に高い、と言う現実がある。それでも有用なのは変わらず、リリアからは「使い方の問題」と言われ、気を付けている。

そんなリリアとの訓練は週1度に減った。剛力のおかげで戦闘だけならCランクを目指せる状況で、後は体力と経験、そして知識になったからだ。

その中でも経験は今すぐ何とか出来る物ではなく、外に出てからと言う事になっている。目下の問題は体力と知識だ。

その問題を埋めるためランニングの時間を増やしたり、本を読む時間を増やした。また空いた時間で、ミノルから食材の解体を教わっている。

それと合わせて武器や防具を買うためのお金を貯めている。剛力がある今、良いランクの武器を買わないとすぐ壊れる可能性が高いとリリアに言われた。今まではギルドの仕事だけだったが、それでは当初の予定より少し時間がかかる。

そこでハジメは、何か良い手はないかとグレンとリリアに相談していた。


「こんにちは。修理場から宅配を請け負った冒険者です」

その結果、ハジメは台車をゴロゴロと押しながら、ある1軒のお宅に来ていた。

2人に相談したところ、冒険者の仕事は町の外に出るだけでなく町中の仕事も多いと教わった。

外に出るよりも収支の面で劣るが、安全性の高さ、貢献度に応じたランクアップの優遇、町の人からの覚えの良さ、などの利点がある。立地を覚えるのにも丁度良いから予定より早いが冒険者登録をして仕事してはどうか、と。

ハジメはその言葉から冒険者登録をして、一番下のFランクから働きだした。今している依頼は、大物の荷物運搬だ。

目の前の扉がガチャ、と開くと高齢の女性が出てきた。

「あら、ありがとう。やっと直ったのね、不便だったのよ」

女性はハジメが運んできた物――身長ぐらいある振り子時計を嬉しそうに眺めた。しかしすぐに困ったように、家の中を見る。

「でも、どうしましょう。今は私しか居ないから運べないのよ」

「大丈夫ですよ、運び込みますので。どこに置けば良いですか?」

「え?重いわよ。大丈夫?」

「はい。よっ、と……どちらに運べば良いですか」

ハジメが軽々と、それでいて丁寧に持ち上げる。

「あら、まぁ……。でしたら、こっちですよ」

そんなハジメの力に驚きながらも、女性がハジメを先導した。


ハジメは荷物運搬なら剛力は活躍する、と思っていたのだが人気が無いらしい。

まず、外に出て採集や狩りをした方が収入は圧倒的に大きい。そのため少しでも腕に自信があれば外で稼ぐ。特に剛力はその特性上、戦闘において力を発揮しやすい。ならば町の中で稼ぐよりも外で稼いだ方が良い、と考える者が大半だ。実際それは正しい。

またその力の強さゆえに荒い者がほとんど。荷物運搬など丁寧さが必要な仕事では性格的に合わないのだろう。

ちなみに他の人からも人気は高くない。

ハジメは一人でやったが、大物は基本的に複数人で行う。見た目の金額は悪くないのだが、人数で割ると町中の依頼では低い部類。しかも時間と手間、物品を丁寧に扱う精神的疲労や体力を使った上での成果を考えるとやりづらい、と二の足を踏むのだ。

そのため依頼が後回しにされやすく、ハジメとしては選びやすかった。

ちなみにギルドの職員の仕事も続けている。お昼ご飯までは職員として仕事をして、午後は冒険者である。

そういう冒険者は珍しいが、反対にギルド職員にはよくいる。特に今はギルドの仕事が落ち着いており、ハジメと似たようなスケジュールで働いてる人が居るぐらいだ。

この世界での生活にも慣れ、ハジメは『異世界に就職した』気分になっていた。



――嫌な、視線だな。

仕事が終わり訓練場で日課のランニングをしていたところ遠くから嫌な視線を感じていた。悪意や怒りを強く含んだ視線に、走りながらも神経を使わされる。

――こっちで色んな経験したせいかな。あっちじゃこんなの分からなかったのに。

ぼんやりと考えながらも足は止めない。前に比べてペースはかなり上がったが、リリアに置いて行かれたペースにはまだ届かない。それでも大きく離される事はもう無いだろう。それぐらいに体力も速度もついてきた。

「……あ、忘れるところだった」

リリアと晩御飯の予定を入れていたのを思い出す。早めに切り上げて準備するつもりだったのにさっきの視線で忘れるところだった。

――紹介したい人が居るって言ってたけど誰だろう。

ボンヤリと考えながら、先ほど感じた嫌な視線を意識の外にどかして片付けを始めた。


ちょっと新しい、と言っても古服屋で買った安物だが、その中でもしっかりしている服に着替えて待ち合わせ場所で待つ。ギルド前を待ち合わせ場所にしたため時々通る知り合いに手や会釈で挨拶しながら、日が落ち始めるこの世界(日常)をのんびり眺める。

――慣れたなぁ。

日本に居た頃よりちゃんと生活している感覚に心の中で笑う。将来なんて何も分からなかった頃と違い、今は明確な目的と命を天秤に乗せて生きている。死が怖くないと言ったら嘘だ。死ぬのは当然怖い。でも、生きる事をしっかりと見ている感覚が楽しい。

リリアを待ちながら、壁に寄りかかりながらぼんやりと思う。冒険者としての知識がついてもっと城壁の外()が近くなったら、また違う事を思うんだろうな、とよく分からない事が頭をかすめる。

――それにしても紹介する人って誰だろう。

ハジメが今日呼ばれたのは、リリアから食事をしたいと言う提案から始まった事だ。いつもと表情は変わらないが、お腹の前で組んだ手の指が少し困ったように動いていたのが印象的だった。

「ごめん、お待たせ」

考えていると、すぐ横まで来ていたリリアが肩を叩きながら声をかけてきた。人が多かったこともあり、気配にも全然気づかなった。いつもの防具は着ていないが、ズボンはいつもと同じ。だが涼しくなった事もあり長袖をしっかり着込んでいる。腰に剣を装備しているのはいつも通りだ。

「大丈夫、今来たところだから」

「そう言ってもらえると嬉しい。寒かったし、お店行こうか」

「うん。場所も分からないしお願い」

挨拶もそこそこに、歩き出す。リリアの服装がカジュアルで本人も楽しそうだったので、一緒に居るハジメに嫉妬の目線が周りから向けられる。が、一緒に居るのが悲惨な目にあっていたハジメと気づくと同情と憐みの視線に変わった。文句を言うべきか悩むところだ。

「それで、紹介したい人って?」

最近の事とかを軽く話しながら、ハジメが今日呼ばれた理由を確認する。ハジメの言葉にリリアが少し困ったように視線を逸らした。

「あ~……私がよく組んでる冒険者でね。良い子なんだけど……」

と呟く。ただ、そこから先は説明出来ずに止まってしまう。

「ごめん、細かい事は会って話すから」

そう言いながらお店の前に到着する。歩き始めてからそれほど時間は経っておらず、ほんの数分だろう。ギルドのすぐ近くだった。

リリアが扉をガラガラ、と開けると中は大盛況。座れるような席が無い程だ。

「はい、いらっしゃい。席がいっぱいなので待つか相席――あら、リリアちゃん」

「おばちゃん、こんばんは。もう来ています?」

「うん、来てるよ。いつもの奥の個室ね。食事はエリスちゃんが既に頼んでるけど、何にする?」

「えっと……キミは食べれない物ある?」

「ないよ。なんでも食べられる」

ハジメは急に話を振られて驚くが、好き嫌いは少ないのでそう答える。

「じゃあ、ご飯物のオススメ2つといつものサラダ、肉を適当に」

「はいよ。それでリリアちゃん、その男はまさか!」

おばちゃんがハジメを見ると、目をキラキラさせてリリアに聞く。表情だけで「ついに春が!」と言ったところか。しかしリリアは残酷だった。

「サンドバックです」

おばちゃんの期待のこもった声を、リリアが真面目に吹き飛ばして歩き出す。付いてこいと言う事なんだろうが、まさかの回答にハジメは唖然を通り越してクスリと笑ってしまう。リリアはそんな2人を無視してどんどん進んだので、置いて行かれないようしっかりとついて行く。

おばちゃんだけがその回答に予想外過ぎたのか、固まって立ち尽くしていた。


「エリス、待たせてごめんね」

リリアが扉の前に立つと、中からの返事を待たずに扉を開けて中に入って行った。ハジメが中を見ると椅子が4つとテーブルがあり、既に女の子が座席に座って食事をしていた。リリアより少し若いぐらいだろうか。リリアとハジメは同い年なので、ハジメから見ても少し若いぐらいになりそうだ

――猫耳、それに尻尾。確かこっちの本で読んだ……ケットシー、だったかな。

その人は頭に猫耳があり、揺れる尻尾が見える事からも人ではないのが分かる。こちらではケットシーと呼ばれ、猫の耳や尻尾が付いている種族だ。全体的に器用なのが多いが、力が弱く戦闘は苦手らしい。

「あなたは……」

リリアが慣れたようにその少女――エリスの頭を撫でながら隣に座り、ハジメがその反対側に座ろうとした。

するとエリスは撫でられた手にも気づかずに立ち上がり、ハジメを睨め付けながら口を開いた。武器を持っていたら、ハジメに切りかかりそうな勢いだ。

エリスの行動は予想外だったのか、リリアもびっくりしてエリスを見つめている。

「え?」

ハジメも急に声をかけられて、座ろうとした体勢で固まる。そんな状況を気にせず、エリスは言葉を続けた。


「あなたは、リリアに酷い事してるくそ野郎の泥棒猫!」


せめてもの救いは、ここに居た人以外誰も聞かなかった事だろうか。

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