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7.別れ

 アイラの入学について、両親に説明することとなったが、フリマランの態度に思うところのあったブラッドは、一人で説明に行くと言い出した。


 だが、見ず知らずの人間にいきなり説明されるより、知り合いの口から説明した方がまだ揉める可能性が低いだろうということで、結局フリマラン一人を残して三人でアイラの家に向かった。


 突然の国からの使者に、バルコフもケランも最初は驚いていたが、アイラの入学については揉めること無く静かに受け入れた。


「こんなことになってしまって申し訳ない」


 頭を下げるイルゲンに、バルコフもケランも決して声を荒らげることをしなかった。


「先生、そう謝らんで下さい」


「そうですよ。頭を上げて下さい。別に先生が悪い訳じゃありませんよ」


「しかし、私のワガママで、折角受け入れて頂いたと言うのに」


「先生。俺も妻も、いつかこんな日が来るんじゃないかってなんとなく思ってたんです」


「私達も好きでやったことですから。そう自分を責めないで。それに、アイラ一人を送るのは心配だけれど、先生が近くで見てくれるなら安心して学校にやれますよ」


 アイラをからかうようにケランが笑顔を向ける。


「お母さんそれどういうこと! 先生が居なくたって一人でやっていけるもん!」


「よく言うわよ。朝だって一人で起きられないくせに」


「それは、まぁ、そうだけど」


 アイラの言葉尻の弱々しさに、バルコフもケランも笑う。


 バルコフは真面目な顔に戻ると、ブラッドを見た。


「で、ブラッドさん。学校ていうのは具体的にどこで、いつから行くことになるんです?」


「場所は首都レブ、学校は秋口に始まりますが、制服の用意など諸々準備がありますから、数日中には迎えを送りますよ」


「数日て、そりゃまた早いな」


「逃亡防止、か」


 誰に言うでもなく、イルゲンがそうポツリと呟く。


「......正直、それもあります。私としてはギリギリまで親元に置いておきたいんですが、説明した通り余裕のある状況ではありません。特に、アイラさんのように幼い頃から魔術に向き合っている方は貴重なんです」


 申し訳なさそうに話すブラッドに、バルコフもケランもイルゲンに向けたように優しく声をかける。


「俺達も、この国がどういう状況なのはよく理解しています。どうか、アイラを宜しくお願いします」


「私からもお願いします」


 そう言って頭を下げる二人に、ブラッドは慌てて止めるように両手を振る。


「止めてください! 私も、命令とは言え自分が何をしているのかは分かっていますから。お約束します。アイラをきっと立派な魔術師にすると」


「だってさ。先生もいるしそれに学校には他にもすごい魔術師がいるんだから、もっとすごい魔術師になって帰ってくるから!」


 アイラが得意気に胸を張る。


「そりゃ楽しみだ。そしたら、俺も母さんもアイラに養ってもらうかな」


「ふふん。期待して待っててよね!」


 後日ブラッドが従者を連れて迎えに来ることとなり、この日は解散となった。


 夜、アイラがベッドで横になっていると、バルコフとケランが部屋に入ってきた。


 二人は、ベッドの横にしゃがむとゆっくりとアイラに話しかける。


「お父さんもお母さんもどうしたの?」


 起き上がろうとするアイラにケランが止めるように優しく頭に手を置く。


「ずっと小さいままだと思ってたけど、子供の成長て早いものね。この前まで畑を走り回ってるだけの子供だったのに、首都の学校で魔術師を目指すようになるなんて」


「ずっと一緒に居られるなんて思っては無かったが、こんなにも早くその時が来るなんてな」


「? 勉強のために首都には行くけど、もう二度と会えなくなる訳じゃないじゃん」


「ああそうだな。アイラ、よく聞いて。もしかしたら学校は、アイラが考えてるよりも楽しいことばかりじゃないかもしれないし、辛いことの方が多いかもしれない」


「うん」


「だけどな、アイラならどんなに困難なことがあってもきっとやっていける。なんたって俺とケランの子だからな」


「そうよアイラ。アイラならどんなに辛くてもきっと立派な魔術師になれるわ。でも、もし本当に辛かったら、いつでも帰ってきていいんだからね」


 ケランが優しくアイラの頭を撫でる。


 帰ってきていいなんて言ったが、バルコフもケランも一度学校に入れば、簡単に帰って来れなくなるのは分かっていた。


 ブラッドの説明によれば、学校はただの魔術師の育成ではなく、兵士として使えるようにするのが目的だ。


 過酷な戦場で生き残れるようにするには、学校が過酷な場所であることは想像に難くない。


 それでも、二人がアイラを止めなかったのは、彼女の学校に行きたいと言う意思を尊重してのことだった。


「大丈夫だよ。なんたって私は世界一の魔術師になるんだから、どんなことがあってもへっちゃらよ!」


 無邪気に笑うアイラ。


「そうね。お母さんもお父さんも信じてるわ」


 そう言ってケランは、アイラの額にキスをした。


「おやすみアイラ」


「うん。おやすみなさい」


 数日後、ブラッドは約束通アイラを迎えに来た。


 フリマランを連れてこなかったのは、ブラッドの気遣いからであった。


「アイラ、これを持っていきなさい」


 イルゲンから手渡されたのは、木で出来た杖だった。


 アイラの背丈程あるその杖は、先端が渦巻いており、重くずっしりとしたものだった。


「先生は一緒に来ないの?」


「荷物の準備やら色々やらなければならないことがあってね。なに、入学する頃には学校で会えるさ」


「そうなんだ」


 てっきり一緒に行くものだと思っていたので、イルゲンが一緒ではないことでアイラの顔に若干不安の色が出る。


 それを察してか、バルコフとケランが元気付けるようにアイラに小さなガラス瓶のペンダントを渡す。


「これは?」


「お守りだ。父さんと母さんで作ったんだ」


「魔術は掛かってないから、役に立たないかもしれないけど」


「ううん! ありがとう。スッゴく嬉しい」


 アイラは、ペンダントを首にかけると、瓶を傾けて眺める。


 瓶の中で、朝日を取り込んだ細かい鉱石が、光を反射している。


「アイラさん、そろそろ」


 アイラの荷物を積み終わり、ブラッドが後ろから声を掛けてくる。


「うん。それじゃ、行ってくるね」


「行ってらっしゃい」


 アイラは、バルコフとケランとハグをする。


「学校に着いたら、友達を作りなさい。きっとあなたの助けになるから」


「うん分かった。お父さんもお母さんも元気でね」


 別れを惜しみながら、ブラッドに連れられ馬車に乗るアイラ。


 馬車が出発して、二人の姿が見えなくなってもアイラはしばらく村の方を見つめていた。

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