表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダンジョン攻略に機動兵器は欠かせない


 こんなはずじゃなかった。

 北条秋斗が思い描いていたダンジョン攻略はもっとファンタジーに満ちていたはずだった。



 ガトリング砲が先輩を穴だらけにして、レールガンが同期を粉々に吹き飛ばし、背後からマナブレードで貫かれた隊長が床に転がっている。



 自分たちと同じく『機動兵器』を操る人間たちによって日本所属のダンジョン攻略メンバーは壊滅しかかっていた。


 こんなはずじゃなかった。

 北条秋斗が思い描いていたダンジョン攻略はこんな人間同士の醜い争いではなかった。



 ーーー☆ーーー



 ダンジョン。

 その入り口が複数観測されたのは今から十年ほど前のことだった。


 広大な空間に多くの階層、複雑なギミック、既存の生物学では説明できない魔物。異空間内に広がるダンジョンはまさしくファンタジーそのものであった。


 そこまでが一般的に公表されている情報だ。

 それだけでも北条秋斗の好奇心を刺激するには十分すぎた。


 ファンタジーへの猛烈な憧れ。アニメやゲームの中と同じ摩訶不思議な世界を一目でもいいから見てみたかった。


 だが、ダンジョンの入り口は国によって管理されており、一般人が足を踏み入れることは絶対にできない。


 日本においてダンジョンに入るには国営として新たに設立された『冒険者ギルド』に入隊することが必須だった。


 ……今にして思えば冒険者ギルドなどといっそ陳腐な看板を掲げていることに疑問を抱くべきだった。ゲーム感覚の誘発。危機感を下げるのが目的なのだと。


 ダンジョン攻略中のあらゆる死傷事故に関して一切の責任を問わないという誓約書まで書かされておきながら多くの人間が集まっていた。この辺りはネット内の契約など内容をろくに読まずにとりあえず了承する癖がついてしまっていたのかもしれない。


 それ以上にその時の北条秋斗は好奇心で頭がいっぱいだったのもあるだろうが。


 何はともあれ彼は中学卒業を機に冒険者ギルドに入隊した。


 そんな彼を含む新入隊の者たちを出迎えたのはそれこそ漫画やアニメの中でしか見ないような二足歩行の兵器(ロボット)だった。


 全身に張り巡らされた帯のように光る『炉』は既存のエネルギーの埒外にあるマナを半永久的に生み出し、兵器のエネルギー源になっている。


 足にローラースケートのようにキャタピラが、背部には加速用ブースター、各関節部には重力制御装置が搭載されているのでブースターとの併用で空を駆けることもできるという。


 また各種カスタム装備用としてガトリング砲やロケットランチャー、果てはプラズマ砲やマナを利用したブレードなど好きに選べる。


 まだダンジョンに入っていないのに『ファンタジー』が広がっていた。


 三メートルはある純白の巨人──ダンジョン攻略用人型機動兵器『天照』の開発者である白衣の女はこう語った。


『世間には隠匿されているけど、実を言うと世界の技術レベルはここ十年で跳ね上がっていてね。技術革新のオンパレードってわけ。なぜか。そんなのダンジョンのおかげに決まっているよね』


 彼女は語る。

 公には秘密にされているが、ダンジョンには複数のボスたる魔物が存在しており、その魔物を討伐するとどこからともなく魔法道具がドロップするのだと。


 ドロップする魔法道具の効果は様々。だけど一つだけ共通しているのは既存の法則を無視した効果を発揮するということだ。


 例えば浄化の魔法道具。人体に害なすものの影響力を無効化する。つまりものによっては核兵器の起爆時の反応さえも無効化することで大国が蓄えてきた兵器をガラクタに変えられる。


 そうやって魔法道具単体でも世界の勢力図をひっくり返す力があるが、それだけではない。


 魔法道具から放射された炎で熱した鉄や魔法道具から溢れた水に浸した紙などが既存の物理法則を無視した性質を宿すこともある。


 つまり魔法道具を使えばただの石ころにだって世界をひっくり返す属性を付与することができる。それらを組み合わせることで『ファンタジー』のような兵器も作成できるということだ。


 その成果物が機動兵器となる。


 ……ダンジョンを構築する床や天井は電波などあらゆる影響を跳ね除ける性質があるので無人機が使えない。それさえなければダンジョン攻略は無人機が主流になっていた『もしも』もあったかもしれない。


 またどんな兵器や魔法道具でもダンジョンを構築する全ては壊せないので破壊し尽くして瓦礫の中から必要なものを手に入れる、などという方法も使えない。


『──世界各国はこぞってダンジョン攻略に力を入れている。全ては技術革新を成し遂げる高度な魔法道具のために。火に鉄に核反応、そんな順序を無視して強大な力を授けてくれる禁断の果実の争奪戦。そのための冒険者ギルドであり、機動兵器「天照」ってわけ』


 ダンジョンさえも現実的な利権に塗れていた。


 せっかくのファンタジーに水を差す事実だったが、それでもまだこの時の北条秋斗はダンジョンへの期待を失ってはいなかった。


 何せダンジョンそのものは確かにこの先にある。

 ダンジョン攻略の目的が利権に塗れていようとも、ダンジョンが未知の領域であることに変わりはないからだ。


 だから、脊髄に極小ファイバーを埋め込んで『天照』と接続することで特殊な訓練なく手足を動かすように操縦できる(プラズマ砲などの照準さえも搭載された高度な演算装置が全自動でやってくれるので大雑把に狙いを定めるだけで十分)のでろくな訓練も必要とせず。


 だから、広大な空間に多くの階層を駆け抜け、複雑なギミックを突破し、既存の生物学では説明できない魔物を蹴散らしていく非日常に北条は確かに興奮していて。


 だから、ボスの魔物さえもこれまでの小競り合いでパターンを掴んでおり、適切な作戦を立てられたために犠牲者ゼロで討伐することができた。


 今回討伐したのは比較的浅い階層のボスだったためにドロップした魔法道具もそこまで珍しいものではないだろう。


 実際の効果は地上に持ち帰って調べるにしても、やはり深い階層のボスのほうが強力で珍しい魔法道具をドロップするのが普通だからだ。


 それでもこの時の北条秋斗は達成感に胸を熱くしていた。


 まさしくファンタジー。

 普通に生きていたら体験できない刺激に満ちていた。


 だから。

 だから。

 だから。



 ズッッッジャア!!!! と。

 隊長が背後からマナブレードに貫かれた。



「な、あ?」


 時速にして四百キロ。

 それだけの速度を叩き出していても極小のファイバーを脊髄に埋め込み『天照』と接続することでろくに訓練もしていない北条たち新人を含む五十人近いメンバーが一糸乱れることなく広大なダンジョン内を駆け抜けることが可能だった。


 そんな中で、だ。

 その青い機体は『出現』したのだ。


『天照』には各種レーダーが搭載されているが(いくらダンジョン内の壁や天井が電波等を遮断してレーダーを無効化するとはいえ開けた場所であれば問題ないはずなのに)その機体は文字通り至近距離に『出現』としか言えないほどいきなり現れ、ろくに抵抗もできずに隊長がやられたのだ。


「隊長!? 貴様よくも──」


 先輩の男の声が途切れる。

 レーダーに無数の味方以外の反応あり。遠くの曲がり角から飛び込んできた(つまり壁でレーダーを遮断して隠れていた)機体の群れがドガドガドガァッ!! とガトリング砲やプラズマビームを撒き散らしたからだ。



 そこからは、もう、記憶が曖昧だった。

 とにかく逃げるしかできなかった。



「……い。おいっ、クソガキ! こっちを見ろ!!」


「ッ!?」


 ガヅン、という衝撃に我にかえる。

 小突かれたのだと気づくのにたっぷり五秒は必要だった。


「ひとまず撒けたみてえだぞ」


「う、あ……?」


「考えなしに行動したってどこかで殺されるのがオチだ。今後の方針を考えるためにも落ち着け」


 そこで、ようやく。

 北条は周囲に視線をやるだけの余裕が戻ってきた。


 声をかけてきたのは同期のゴロツキのような男だった。他にも同期の無表情な女子高生やバニーガール、後はおどおどしている小柄な女の先輩のようだ(機体で顔は見えないが、通信を繋げることでモニターに顔が映し出されていた)。


 それだけだった。

 五十人近いメンバーがいたというのに、この場にいるのは北条を入れても五人だけだった。


 他に逃げ切っている仲間もいるかもしれないが、あの奇襲で多くの仲間が死んだのは間違いない。


「なんで……ここはダンジョンだろ。ファンタジーなんだ。未知のわくわくに満ちているはずなのに、なんでっ、機動兵器が、同じ人間が俺たちを殺しにくるんだ!?」


「そりゃあどれだけここがファンタジーみてえでも、あくまで現実世界でしかねえからだろ」


 にべもなく切り捨てるゴロツキ。

 彼は先輩に目をやり、


「で、あいつらはなんだ? どこのどいつが俺たちを殺そうとしてんだ?」


「に、日本以外のどこかの国のダンジョン攻略メンバーだと思います」


「あん?」


「他国が手に入れた魔法道具を横から奪う、そんなのは日常茶飯事です。ダンジョン内であれば死体の隠蔽も簡単なのは当然として、世界中で示し合わせたようにダンジョン攻略に携わる者は誓約書であらゆる死傷事故に責任を問わないよう縛りつけているんですから」


 全てはお膳立てされていた。

 殺し合ってでも利権を奪い合う。いっそ国家上層部は善良な市民の目がないダンジョン内であれば人権を無視した『戦争』がやりたい放題とでも思っているのか。


「あっ、あの、ダンジョンは広大です。今回のように比較的浅い階層でも新たなボスが発見、討伐がなされることもあるほどにです。なのにダンジョンは一つで、入り口は世界中に無数に存在します。つまりどこからでも入りたい放題。えっと、ダンジョン攻略の本番はドロップした魔法道具を無事に持ち帰るまでとも言えます」


「聞いてない……。そんなの聞いてないぞ!?」


「ひっう!?」


 思わず北条が叫ぶと、先輩はびくっと肩を震わせて小動物のようにバニーガールの後ろに隠れ、胸の辺りで握りしめた拳をプルプルさせながら、


「し、新人には伝えないのが通例なんです。だって、その、本来なら他国の敵機を食い止める別の部隊がいるわけで、普通ならあんなに多くの敵機に襲われることはなくて……」


「本当に? 俺たちは使い捨ての人材でしかないから伝えなかったんじゃないか? そう考えればいくら『天照』が簡単に操縦できるからってろくに訓練もさせずに実戦投入した理由も説明できる! 優秀な人材を育成するコストにも限りはあるからなっ。本命は手塩にかけて育てた別働隊、作戦が成功するかどうかは初めからその勝敗に託していたんだろうが!!」


「うぅっ」


 正しいからこそ、何も返せずに小さくなる先輩。


「はいはいこんなにちっこくてかわいい先輩を虐めるのはそこまでにゃあ。どうせ先輩だって上からの指示で雁字搦めだったんだろうし。今は生き残るためにどうするか考えるべきだワン」


「……同じく」


 バニーだってのに猫とか犬とか混ざっているガールや声音から感情の起伏が読み取れない女子高生の言葉に北条はガシガシを頭を掻きむしる。


「そうだな、その通りだ、くそったれ! 先輩、今のは完全に八つ当たりだった。悪かった」


「い、いえいえっ」


「んじゃ仲直りできたところで今後の方針を考えるか。これからどうする?」


 ゴロツキの言葉に北条は何も返せなかった。


 どこかの国のダンジョン攻略メンバーに命を狙われている。ダンジョンは電波などを遮断するので他のメンバーや別働隊が生き残っていたとしても連絡はとれない。もちろん地上とだなんて不可能だ。


 そして床や天井はどんな兵器や魔法道具でも破壊できないので一か八か全てぶち抜いて最短最速で逃げるなんてこともできない。


 敵機がどれだけ残って、こちらを追っているかは不明だが──


「はいはーいっ。敵の狙いは魔法道具っしょー。だったらこのまま見逃してくれるかも? だってドロップした魔法道具は隊長が持っていたし。今頃死体を漁ってお目当てのモノを手に入れてご満悦だにゃあ」


「……確かに」


 そんな話の流れになると、先輩はなぜかびくびくびくう!! とこれまでで一番大きく全身を震わせていた。


 やがて。

 本当に小さく。

 こう言ったのだ。


 右手。これまでずっと握りしめていたその手を開いて。


「そ、そのう、ドロップした魔法道具……ここにあるんですぅっ。思わず拾っちゃったんです敵に見られていたら狙われるのは確実なんです本当にごめんなさいぃいいい!!」


 そこには黄金の鍵が輝いていた。

 ドロップした魔法道具。敵が最も欲している、つまりは命を狙われる最大の理由がだ。


「どうするんだ?」


 これで見逃してもらえるかもという可能性はなくなった。先輩が魔法道具を拾ったのを見られていなかった、というのは願望にもほどがある。何せ敵は魔法道具こそを追い求めていたのだから、注意深く観察していたはずだ。


 つまり。

 だから。


「ついさっきフルメンバー揃っていてもあれだけ一方的にやられた敵に俺たち五人だけでどう対抗しろってんだ!?」



 ーーー☆ーーー



 北条の『天照』の装備は左手にプラズマビームガン。右手にマナブレード。


 プラズマビームガンはシンプルにプラズマをビーム状に射出するタイプ。


 マナブレードは圧縮して超高温となった(マナ)の刃を瞬時に展開する装備であり、普段はエネルギー節約のために柄のみで所持している。


 その中でも北条が選んだのは通常の剣タイプではなく、マナの刃が柄の上下から飛び出す仕組みになっていた。


 格好いいからと選んだが、下から飛び出しているブレードは使い方がイメージしにくく、現状では普通の剣としての使い方しかできていない。


 他の四人の武装は同じではないが、敵も同じような装備は揃えているはずだ。武装に差がなければ後は圧倒的な数に押し潰されるだけだ。



 ーーー☆ーーー



 どうしようもなかった。

 運良く見つからずに逃げられるなんてことはなかった。


 敵機、青の機動兵器の群れが迫る。

 日本型と同じく二足歩行、ただしダンジョン内は飛行での移動を前提にしているのか脚部にキャタピラはなかった。


 数は二十近く。

 もちろんこれで全部ではないだろう。分散しての索敵を行っても問題ないと判断されたくらいにはあの奇襲で北条たちの戦力は削られてしまったということだ。


 数だけでも四倍。

 そして何よりこちらは別働隊のような本命ではなく、新人が四人に先輩ながらも別働隊に選ばれていない実力の女だけ。


 単純な数だけでなく力量さえも敵が上だった。


 だから。

 だから。

 だから。



「よし、先輩今だ!!」



 注意深く観察していれば気づけたはずだ。


 床、そしてその直上の天井を四角く区切るように切れ目があることに。


 よく考えれば気づけたはずだ。


 魔法道具を拾っている、すなわち既存の法則に縛られないその力が使えることに。


 先輩が鍵をかざす。

 ひねり、開く。



 瞬間、二十近い敵機を取り囲むように壁が出現したのだ。



「アイテムボックス。定番も使い方次第ってな」


 ──どうせその魔法道具を捨てても差し出しても殺される可能性が高いのならば、いっそのこと使って勝機を掴んでやろう、とは北条の言葉だった。


『新たに手に入れた武器で絶望的な状況を切り開く。そんなのファンタジーなら定番なんだから』、と彼が告げてからどうにかみんなで黄金の鍵の能力を調べた。


 黄金の鍵、その能力。

 その鍵で触れた物質を取り込み、いつでも取り出すことができる。それがわかってからは早かった。


 何せアイテムボックスそのものなのだ。

 ファンタジーの定番なのだ。

 ファンタジーへの憧れ、好奇心だけでこんなところまでやってきた北条秋斗が定番の活用方法を考えてこなかったわけがない。


『アイテムボックス、ああその黄金の鍵な。その強みはいつでも出し入れできることだ。となれば、うん、利用するならダンジョンの壁とかか。絶対に壊れない、ってのはあくまでこれまでの話。実際に壁をくり抜く形で収納できたし、これなら罠をつくれるぞ』


 まず罠を仕掛ける地点の床とその直上の天井を薄くくり抜くように収納してちょうどいい切れ目を四角く区切るように用意する。それとは別に切れ目の分だけ縦にすれば切れ目も含めて天井まではまり込むよう(敵機にバレないよう別のフロアの)床の一部を収納しておく。後は敵機を罠の地点まで誘導し、くり抜いた切れ目にちょうどはまり込む形で敵機の四方八方に事前に収納しておいた床を壁のように立てて取り出せば『敵機は絶対に壊せない檻』が出来上がる。


 上から下まで(『天照』の演算装置任せで)隙間なく取り囲んで、なおかつ切れ目にはめ込んでいるので破壊でもしない限りは脱出できないが、アイテムボックスという例外以外ではダンジョンを構築する床や天井は破壊できない。


 ゆえに敵機はどう足掻いても檻を突破することはできないのだ。


 黄金の鍵の能力を調べている時に動いている対象は収納できない、という制約が見つかったので直接敵機を収納するという手っ取り早い攻略方法は使えなかったが、これでも十分通用することは証明された。


「いける。これを繰り返していけばどれだけ敵がいても全部無力化できる!!」


「ハッハァ、甘いなァ!!」


 閃光が走る。

 先輩の背中がマナブレードで斬られたのだ。


「なっ!?」


 装甲が引き裂かれ、血が噴き出す。

 先輩が倒れる。


 黄金の鍵がその手からこぼれ落ち、先輩の背後に『出現』した青き敵機が奪う。


 サウンドオンリー。

 敵機からの通信が突き刺さる。


「これで必勝法は封殺された。後はじっくりテメェらをぶち殺すだけだなァッ!!」


「う、おおおっ!!」


 北条は咄嗟に左手のプラズマビームガンを敵機に向ける。引き金を引く。この距離、タイミングなら回避は難しいはずなのにお構いなしだった。


 その時にはもう敵機は消えて、隣に視界の端をかすめてレーダーに反応ありゴロツキの背後──


「後ろだ避けろお!!」


「ッ!?」


 咄嗟に前に加速するが、避けきれずにゴロツキの背部がブレードで裂かれる。致命傷ではないが、ブースターがやられたのか挙動がおかしい。つまり二度目はない。


 その時にはもう敵機は消えて、そして火花が散る。背負っていたバズーカ砲ごと女子高生が斬られる。


「お嬢ちゃん!?」


 バニーガールの悲鳴のような声を聞きながら、北条は奥歯を噛み締める。


(瞬間、移動……)


 バズーカ砲が盾になったおかげで真っ二つということにはならなかったが、それでもダメージは決して軽くない。


(最初のフルメンバーが襲われた奇襲の時だってそうだった。あの敵機はいきなり『出現』して隊長を貫いたじゃないか!!)


 記憶が曖昧になるほどの衝撃だったなんて言い訳にはならない。これは致命的だ。


 どこからともなく現れたその理由。

 瞬間移動。


 すなわち敵機も魔法道具を使っている。


(アイテムボックスは奪われた。こっちの切り札はなくなって、向こうには瞬間移動という特大の切り札がある!!)


 数の優位なんて意味をなさない。

 ゴロツキがパイルバンカーなどの近接特化、バニーガールがジャミングなどの妨害特化、北条秋斗が左にプラズマビームガン、右に特徴的なマナブレードとバランスよく装備を整えていようともこちらの攻撃は仕掛けようとした瞬間に消えて避けられる。


 敵機の武装は現状確認できる限りではシンプルなマナブレードのみだが、瞬間移動という超常が彼我の武装差を容易く覆していた。


(どうする?)


 考える時間なんてそう長くは残っていない。

 瞬間移動の使い手は今にも瞬時に間合いを詰めて攻撃を叩き込んでくる。


(どうすれば生き残れる!?)


 そして。

 だから。



「ハッハァッ!! さあ次はどいつを殺して──」


「きゃんきゃんうるさいな、腰抜けが」


「……、あ?」



 言う。

 言い放つ。


 命を賭けるには弱い材料しか揃っていないが、それでも全滅を阻止するにはこうするしかないからこそ。


「魔法道具がなければ何もできない腰抜けが!! ちょっと凄い装備が手に入ったからってはしゃいじゃってさあ!! 格好悪いったらないよなあ!!」


「……テメェ」


「音声だけか? 顔も見せろよ。図星で顔真っ赤にしている最高に笑える顔をよお!!」


 乗ってこい、と祈る。

 もうこれくらいしか彼らが生き残る道はないからこそ。


「はぁ。安っぽい挑発だな。それで瞬間移動の魔法道具を使わずに突っ込んでくるとでも期待したか? だとしたら哀れなくらい甘いなァ。これは殺し合いなんだ。油断なんてするわけないだろうがァッ!!」


 敵機が消失する。

 挑発でもって瞬間移動を使わずに突っ込んでくるように誘導することはできなかった。


 ゆえに、必然。

 必殺の一撃が北条秋斗を貫く。



 その寸前だった。

 後ろに飛び出した北条のマナの刃が背後に『出現』した瞬間の敵機を貫いた。



「が、ぶ……っ!?」


「あの挑発は賭けだった」


 マナブレード。それもマナの刃を柄の上下に展開する──つまり床と平行に柄を持って展開するだけで前だけでなく後ろにもマナの刃を突き出すことができる。


「とはいっても逆上させて瞬間移動抜きで突っ込ませようとしたわけじゃない。逆だ。俺を殺すために瞬間移動してほしかったんだ」


「テメェ……」


「お前はずっと背後にしか瞬間移動していない。いいやそれしかできないんだ」


 隊長の時はわかる。死角から襲うのは理にかなっている。


 だが、女子高生の時は? バズーカ砲を背負っているのにわざわざ後ろに瞬間移動して斬りつける理由は? 結果としてバズーカ砲が邪魔で致命傷を与えられなかった。


 別に後ろからじゃなくても瞬間移動による攻撃なら通ったはずだ。なのに敵機はあえて後ろからにこだわっていた。


 なぜか。

 敵機が使っているのはそれしかできない魔法道具だからだ。


 ドロップ品奪取のために魔法道具を持ち出すのは結構だが、撃破されれば逆に奪われる。そのリスクを考えればあまり高性能な魔法道具は出し惜しむはず。少なくとも比較的浅い階層でドロップした魔法道具を奪うために持ち出すのなら『それなり』の魔法道具であるべきだ。


 使い勝手はそこまでよくない。

 そう予想して賭けた。


 とはいえ普通にマナブレードを後ろに振るったりプラズマビームガンの銃口を向けていては流石に敵機も避けられただろう。


 だがマナブレードの柄を床と平行にして持っているだけならば。普通のマナブレードだと思い込ませて後ろにもマナの刃を瞬時に展開可能だというのがバレなければ無防備に瞬間移動した敵機をそのまま貫ける。


 それこそ北条を雑魚だと軽く見て、馬鹿にされたと逆上して魔法道具抜きで突っ込んできたら実践経験の乏しさからそのまま負けていたはずだ。


「全力できてくれてありがとう。おかげで生き残ることができた」



 ーーー☆ーーー



 そこからはアイテムボックスと瞬間移動の魔法道具を使って敵機を撃破しながらダンジョンを脱出することができた。


 それから一週間後。

 北条秋斗はダンジョンに潜っていた。


 どうにか治療が間に合って助かった先輩が言う。


「他のみんなもそうだけど、あんな目にあったら逃げると思っていたんですけどね」


「先輩だって」


「わたしは、そのぅ、お金が必要でして」


 キミは? と問いかけられて、北条秋斗は改めて眼前の光景を見やる。


 ダンジョン。

 摩訶不思議な世界を。


「いくら現実が混ざって悲惨でも、どうしようもなくダンジョン(ファンタジー)に惹かれているから、かな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ