【第3章】
【3】
【新撰組 道場内】
道場の中央にて、
目を瞑り、精神を集中している斎藤。
少し離れたところに総司が立ち、その様子を見守っている。
ジジッ、
ジジジッッ……
斎藤の身体の周りの空気が揺れはじめ、
ビュウゥゥッと、
次第に音は大きくなり、
身体の周り全体から、
真空の渦が発生して空間に歪みを作りだす。
『はい。その【静】の状態を、60数えるまで維持です。』
総司が声をかける。
…
……
『ふーーっ、』
斎藤を精神集中を続けるが、
自身内部に、
【式の発動】を抑えている反動により、全身がピリピリと痙攣に似た衝動と鋭い痛みが走る。
、『はぁ、、、はぁ、、、』
自然と呼吸も荒くなるが、
なんとか60数える間、内部で式の制御に集中する。
パンッ!
総司が手を叩く。
『それでは、
体内で制御していた式を、
目標に向かい解放するイメージで木刀を振ってください!』
斎藤は道場端、距離にして20メートルほど離れている、
目標の木製の人形にむけ、
上段から一気に刃を振り下ろす。
『はぁぁぁっ!!』
ヒュュィィンと甲高い音ともに、
木刀からは、
幾度に分かれた何重かの
真空の渦が繰り出され、木製の人形を縦と横に、
細かく分断した。
パチパチパチ……
『流石ですね。
だいぶ完成されてきてますよ。』
総司が拍手をしながら近づいてくる。
『はぁっ……はぁっ……はぁっ…』
斎藤は肩で息をしながら、
こくりとうなずき、薄く笑う。
『体内に式を滞在させて技の威力をあげる【静】、
そして、攻撃に転ずる時に解放する【動】。
この2つを常に意識することが何より大事です。』
総司が人差し指をピンとたて、
『これを幾度も鍛練することにより、
例えば体内に10貯めた【式】を2ー2ー3ー3と分けて繰り出せたりできるようになりますよ。
…まあ、今の斎藤さんは、
10貯めた式を、
10全部だしてる形ですね。』
と解説する。
『はぁっ、はぁっ、
……全く簡単に言ってくれる。
……【式】を学んでわかったけど、
総司、お前、本当に化け物だな。。』
斎藤は少しずつ呼吸を整えながらも皮肉をいった。
『僕みたいな、
幼気な少年に化け物なんて酷いなぁ、、、
』
総司は少し拗ねた表情をしたが、
やや真顔になり、
『でもね、
【式】を正式に学び、
3ヶ月程で、ここまで制御できて、あれほどの威力を発揮できる斎藤さんも相当の化け物ですよ。
』
と斎藤を称賛する。
『……ありがとよ。
だけど【式】を知れば知るほど、お前を遠くに感じるよ。』
総司は左右に首を振り、
『斎藤さん、
【式】は通常、
適性のある限られた者が、
さらに修練を積み重ね、
やっと使えることができる
【天受】の能力なんですよ。
それを無意識化でも、修練なしに【式】を使えた貴方は、
それだけでも才覚に溢れてますよ。』
フフッと笑い、
『……きっと僕より潜在能力は高いはずです。』
と呟く。
『でも、斎藤さんの【式】は、
僕も今まで見たことのない力です。
新八さんも言っていましたが、
【式】の形成は【風の式】に近いようですが、
どうやらそれとは別物みたいですね』
総司は顎に手をかけながら続ける、
『例えば僕の式、
【花の式】は、沖田宗家から伝わる伝承型なんで、本当に小さな頃から習得に鍛練させられてきました。』
…
『…おいおい、
沖田宗家てのは、お前みたいな化け物級のやつが何人もいるのか?』
斎藤は呆れ顔でかえす。
『あはは、
…まあ、これでも一応、
沖田宗家の中でも神童、とか呼ばれてましたからね。
僕が歴代で一番、【式】適性は高かったみたいですね。
それに、両親や叔父叔母はもう亡くなっているので、今は兄弟がいるだけですね。』
『………そうか。
すまない、悪いことを聞いたな。』
沖田は17歳前後、
両親が老齢で他界するには早すぎる。
戦で亡くなったのだろう、、
斎藤は安易に訪ねた無作法を詫びた。
『いえ、気にしないでください。両親も沖田宗家の誇りを掲げて生涯を全うしましたから。』
『……やはり、両親は【戦】でか?』
斎藤は思わず聞いてしまった。
んーーー、
と少し間をおいて、
『まあ、【戦】ではありましたね。
ただ藩や、人同士の戦いではなかったですね。
父も母も、宗家のため、幕府のために誇らしい最期だった、と僕は思っていますよ。』
『???』
斎藤は首をかしげる。
総司を斎藤に背をむけて、
ボソリと、
『…沖田宗家は元々、その性質ゆえに、短命なんです。。
そして僕も、、、、』
消えいるように呟くが、
斎藤には勿論聞こえていなかった。
くるり、と総司は前をむき、
話を仕切り直すかのように、
『そういえば斎藤さんのご家族のこと、知りませんでした。
お元気なのですか?』
『………。』
斎藤は家族のことを聞かれ、少し躊躇した。
それは今の斎藤がここにいる起因ともいえる理由があるからだ。
…しかし、総司の家族のことを聞いておきながら、自身の事は話さないとなると卑怯だな、
と感じた斎藤は淡々と話し始めた。
『……実は俺も武家の家系だ。
いや、家系だった。…と言った方が正しいな。』
『?…だった?』
『あぁ、俺には双子の妹がいてな。俺の本家では双子は
【凶兆】とされていてな、
幼い時に妹共々、本家から離され、寺院で暮らしていたんだ。』
『なんでも過去に双子が産まれた際に、跡目争いかなんかで本家が滅亡しかけたらしい。それ以来、斎藤本家では双子は間引くべし、と言われててな。
すでに長男もいるし、争いの種は残したくないし、体のいい厄介払いて訳だな。』
沖田は黙って話を聞いている。
自身の内情となにか被る部分があったのか、ただ静かに斎藤の目をみながら頷く。
『まあ、それで寺院での生活がイヤになり、妹を連れて京都に流れついてきたんだ。』
『斎藤さんも、大変だったんですね。
……じゃあ、双子の妹さんは今もお元気なんですか?』
………。
少しの間があり、
斎藤は少し苦悶の表情をして、
『……寺院から逃げだした俺たち兄妹が生きていくためには金が必要だった。
俺は金を稼ぐために【博徒】、要はチンピラみたいな汚い仕事もしたんだ。』
斎藤は怒りからだろうか、
全身が強く震えあがり、
『土佐藩の藩士にイカサマ博打をしかけて、、それがバレて土佐藩のやつらに俺は追われる羽目になったんだ。
その報復に妹も巻き込まれてしまい、
捕まり凌辱され、足の腱まで切られてしまったんだ!!』
斎藤は苦々しくいい放った。
『……じゃあ、斎藤さんが新撰組に入隊した理由は、、、』
『あぁ、土佐藩への復讐
、
それと同時に妹を治療する金が欲しかったからだ。
…ここにいれば両方が叶うからな。』
『……そうでしたか。。』
道場が一気に静まりかえる。
お互い無言の空間が続く中、
静寂を破ったのは斎藤の方であった。
『……だからな。
俺は強くなりたい。
いや、強くならなきゃいけないんだ。』
総司は、
斎藤の目に復讐の色を帯びているのと、同時になにか決意の強い力を感じた。
パンッ!
総司は手を叩く。
『では、斎藤さん!
目標のために修練、頑張らなきゃ、ですね!』
総司は満面の笑みを浮かべた。
『……あぁ!!』
斎藤も力強く返事をする。
『お話が長くなっちゃいましたね。では、修練再開しましょう』
総司はハッと思い出したかのように
『そういえば、
斎藤さんの【式】なんですが、名称があったほうが良いと思います!!』
『…名称??』
『はい。【風の式】に似てる部分はありますが、僕の知ってる【風の式】とは違うんですよね。
なんというか、
斎藤さんの【式】は、
空間を裂く、みたいな?』
『空間、、、裂ける、、、。』
んー、
2人して考える。
『なあ、総司、【式】て勝手に名称をつけてよいのか?』
『はい。僕のように宗家相伝のは【花の式】て名称がはじめからありますし、
新八さんも【土の式】という相伝ですが、
斎藤さんの【式】はおそらく、斎藤さんが【式の開祖】てことになりますからね』
『……【烈】。』
斎藤が呟く。
『??』
『【烈の式】、
て名称はどうだろうか?』
ぽんっ、と総司が手を叩く。
『【烈の式】、良いですね!
なんか空間裂いて、破裂させっさぞー、て意思を感じますね。』
フフッ、と総司が笑う。
『決まりです!
斎藤さんの式は【烈の式】です。』
『あぁ!』
『じゃあ、ついでに斎藤さんのあの【真空波】にも名称つけましょう。
技にも名称をつけることにより、自分自身の【静→動】の際の起点になるんですよね』
『そ、そうなのか、、、?』
うーん。。。
また2人して考えこむ。
『んー、総司なんか決めてくれ。』
斎藤が投げた。
『え?僕が?
うーん。
受けた側からすると、
真空の牙が荒々しく噛みついてくる印象でしたね、、、 』
んーー。
ぽんっ、と手を叩く。
『……まんまですが、
【荒噛】、
はどうですかね??』
『【荒噛】か、、、
…うん。
悪くないかもしれんな。
よし、それでいくか。』
『はい!』
『ではでは。』
総司が切り出す。
『手合わせです。
木刀による真剣勝負!!
今回は僕も手は抜きませんよ。本気できてください!!』
総司は本気の目で木刀を斜め上に構える。
斎藤は薄く笑い、
すぐに真剣な目で総司を見つめかえし、木刀を斜め上に重ねる。
沖田
『天然理心流
【花の式】 沖田総司、、』
斎藤
『【烈の式】 斎藤一、、』
2人
『いざ、参る!!!』
斜めに重ねあった木刀が、お互い離れる。
総司は上段構え。
対する斎藤は左利きを活かした左中段構え。
ジリリッジリッ、、
お互いの間合いを確認しつつ、互いに一歩、二歩下がる。
総司は斎藤の目の動き、
左腕の動作を探る。
うん。悪くない。
前に対峙した時より全然隙がなくなっている。上達しましたね。
…では、試させてもらいます。
総司は上段構えから、そのまま斎藤の肩に斜め上から斬りつける。
瞬速の刃。
ひゅんっ、と風斬り音がなる。
斎藤はそれに反応して、
木刀の束手前の部分で受ける。
キィィィーン!
木刀が重なる共鳴。
斎藤は総司の木刀を受けたまま、滑らすように【突き】の移行させる。
おっと。。
総司は斎藤の突きを上体を反らしながら交わし、
交わしながら木刀の先端を斎藤の右銅に滑らす。
斎藤も瞬時に反応し、
それを木刀の背で受けとめた。
斎藤がニヤリと笑う。
斎藤さん、本当に強くなりましたね。
3ヶ月前とは見違えるほどに。
では、、、
基本剣術での攻防は終わり。
それでは、見せてもらいましょうか、、、
貴方の【式】の力、
【烈の式】を!!!
総司は後ろに跳び、間合いを斎藤から2メートル程とる。
いきますよ。
さあ、受けれますか?
総司は木刀に式を込める。
木刀はうっすら桃色の光を放つ。
現在は【静】の状態、
わずか1秒ほどで【動】に移行させる。
総司は地面を蹴り、
斎藤の右下半身へ飛ぶ。
跳びながら同時に斬り払い。
斎藤が反応して、それを避ける。
避けた瞬間、
総司は刀の軌道を上へ振り上げる。
相手の利き腕とは反対の、
下段攻撃からの、上に振り上げる二段構えの必殺の技、
【花の式 月花美人】
斎藤は下段攻撃はかわせたものの、下からの瞬速の振り上げには対応できず、顎の先端を砕かれた。
『ぐっ、、がっっ!』
斎藤はよろめく。
もしこれが真剣での勝負ならは、斎藤の顎から先は脳天まで真っ二つにされていたことだろう。。
顎を砕かれた!?
いや、大丈夫だ。
まだ戦える。それより追撃は
、、、、
ないだと?
総司め、、、
真剣勝負といいながらも、
俺が立ち直る隙をわざと与えてきてやがる!!
なめやがって!
くっ、、、
冷静になれ、、、
頭に血をのぼらせたまま勝てる相手ではないはずだ。
ふーー、、、
…総司め、
あえて追撃はせずに、
こちらが攻撃するのを待ってやがるな。
総司の【静→動】の移行速度は、今の俺ではとても真似できない。
総司は華奢な身体つきゆえに、腕力はあまりないが、技に優れている。
ならば、俺が今唯一戦える武器は、
総司に勝っている純粋な腕力、
それに【烈の式】を乗せる!
斎藤は総司を見据え、
【静】へ。
本来なら総司はこの段階で斎藤を叩くことはできるが、
今回は斎藤の力をみるべく、
上段構えのまま静観していた。
総司との距離は2メートルほど。
初速から全力でいく。
斎藤は左斜め上に木刀をあげ、
総司の肩めがけて、
一気に振り下ろす。
【烈の式 荒噛】
木刀本体の先端の先に、
幾重にも分かれた真空の牙が、
総司の肩や上半身をめがけて、襲いかかる。
キィィィーン
キィィィーン
と空間を裂く牙を総司は緑に発光させた木刀で消滅させていく。
ちっ、、あれは前にみた
総司の式、【沙羅双樹】か!
あの緑の光に触れると、
式を相殺できるようだ。
しかし、捌ききれなかった空間の牙が総司の顔や手を薄く裂いていく。
このままだと微々たるダメージしか与えられない。
【沙羅双樹】を貫くほどの技でなければ、総司に勝つことなどできない!
…
…では、これならどうだ?
斎藤はくるりと、上半身をまわし、変則的な左からの胴払いに、全力の式をこめる。
この一撃に全てを賭ける!!
【烈の式 閃狼薙】
技の名称は戦いの中思いつきだ。
ただ、
狼の牙ような、一撃で相手を屠る、乾坤一擲の技でありたい、
そう願った。。。
斎藤さん、顎の傷は浅いみたいですね。
もしこれば真剣なら勝敗は決していましたよ?
さらに、
僕の本来の【月下美人】は、
跳びこみ下段払い
→上への切り上げ
→さらに上から首を狙う斜め振り下ろし、
の3段攻撃です。
が、あえて今回は二段で止めました。
…?
斎藤さん、
静から動への移行もだいぶ早くなりましたね。
上段からの攻撃、
【烈の式 荒噛】
5、7、10、、、
大小の空気の牙が不規則に噛みついてきてます。
威力も3ヶ月前に比べると上がってますね。
さすがにこれを【式】なしで受けると僕も無傷ではいられないですね。
総司は持っている木刀に式をいれる。
木刀は緑色に発光して【荒噛】を相殺していく。
【花の式 沙羅双樹】
僕の沙羅双樹は、
簡単にいえば防御結界。
発光圏内に入った攻撃を
無力化、無効化する力。
沙羅双樹とは【無常】を示す花。
ただ身体全体を【沙羅双樹】で覆うのは、
僕自身の命を糧に咲かせなければならないため、
基本は刀身にのみ使い、
それで攻撃を捌き、無力無効化する。
キィィィーン キィンキィン!!
痛っ、、、!
刀身だけじゃ【荒噛】を捌ききれない!?
腕や、顔に噛みつかれてしまってますね。。
もうっ
、僕の顔を傷つけるなんて、
信じられないなぁ!
もう少し沙羅双樹の範囲を広げないと、、、かな。
…そして、【荒噛】の最後尾の牙が通りすぎた瞬間、
僕の【月下美人】を今度は
完全に3段で決めて決着にしますかね。
斎藤さん、
もう、あなたは立派な
新撰組隊士ですよ。
腕前も、新撰組全体でも、
5本の指にはいる強さです。
貴方なら、、、
……僕がいなくなったあとの新撰組を任せることができます。。
うん。
あれが最後尾の牙ですね。
これを捌いたあと、
完全版の【月下美人】に入らせてもらいます。
??
斎藤さんが上半身を捻っている?
攻撃の体勢を変える?
…隙だらけですよ?
僕がそれを見逃すとでも?
甘いですね。
【花の式 月下美…… 】
!?
最後尾の牙が、変化してる?
これは?
牙が3つに分かれた?
いつのまにこんな技術を!
くっ、 しまった。
パシッ パシッ パシン!!
3つに分かれた牙を捌いた、ほんの一瞬の間に、
斎藤さんの左胴払いの間合いに入ってる!??
こ、これも【式】?
【荒噛】とは違う技。
速い!!
牙? 違う、
これは真空の閃光??
刀身のみの沙羅双樹では受けきれないか?
俺の全力を込めた、
左からの【式】を乗せた胴払い、
【烈の式 閃狼薙】
【荒噛】を無理矢理止めた形からの体勢から放ったせいから、
背骨や腰骨が折れてるのではないか?、、、
、
と思う位に身体中が痛い。。
骨がギシギシときしむ。
『ぐぐっっっ! 』
【荒咬】の攻撃動作中断からの、
【閃狼薙】への移行は身体を逆方向に捻る形になり、さらに渾身の全力を乗せたために反動も激しい。
『これで、、、
…噛み尽きろぉー!!!』
斎藤が怒号をあげる。
斎藤の渾身の刃が、
光となり、総司の左胴に届く!!
『勝った!!!』
斎藤はほぼ確信した。
しかし、総司の左胴に当たるほんの寸前、
総司の木刀から緑色の発光が消え、一瞬にして、
桃色の発光に変化。
さらに総司の木刀が、
桃色の光の閃、
いや、これは
【光の桜の花びら】なのか?
光の花びらが、幾重に分かれ、こちらに向かってくる!?
花びらは、
斎藤の顔に広がり、
同時に肩、胴、足、
と全身を照らし、
同時に強烈な痛みが貫いた。
斎藤は後方に5メートルは跳ばされ、大の字に床に倒れた。。
『がはっ、、、
今のは一体、、、
うぅ…』
斎藤はそのまま意識を失った。
道場中央には、
木刀を斜め上につきだす形で握り、ハァハァと肩で息をしている総司。
『はぁ、、はぁ、
斎藤さん、流石です。
僕に、、、
【花の式奥義 百花繚乱】
を使わせた人は、、、
土方さん以来初めて、
…ですよ。』
ゴホッ!
総司は咳をする。
受け止めた手にはほんのり血で滲んでいる。
『さすがに【沙羅双樹】に
【月下美人】、、、
とっさにとはいえ【百花繚乱】まで使ってしまいましたからね。
…毒の侵食を深めてしまいましたかね、、、』
と心で呟く。
『斎藤さんは、、、?』
斎藤の側に近づく。
まさか、命までは奪ってはないと思うが、
咄嗟で、
【百花繚乱】をほとんど手加減なしで放ってしまった。
『さ、
斎藤さん、、、
大丈夫ですか!??』
『うっ、、う、、』
良かった。
気を失っているだけみたいだ。
『ふー、、、良かった。』
総司は倒れている斎藤の横にちょこんと座る。
『………
斎藤さん、、、
本当に強くなりましたね』
総司は微笑みながら、
少女のような顔になり、
斎藤の頭を撫でた。
まるで、
母親が子供の頭を撫でるように。。
『うぅ、、、!』
『あ、気がつきましたか?斎藤さん。すぐに動かないほうがよいです。
…すいません、咄嗟のことで
あまり手加減できませんでした。』
総司は申し訳なさそうに謝罪する。
『つぅ、、、
謝るな。
そもそも真剣勝負のはずだった、、、だろ。
手加減は、む、無用だ。』
斎藤は痛みにこらえながら呟やく。
『それにしても、
最後の全身を照らされた光の花びら、あれは、、、?
俺は【式】をのせた渾身の胴払いが確実に命中した、、、
と、あの時、確信したんだ。』
総司は微笑みながら聞いている。
『でも、気づいたら、
俺は四方八方を同時に砕かれ、、、倒れていた。』
総司は少し間をおいて、
『僕はあの時、
斎藤さんの【荒噛】の牙を、
【沙羅双樹】で無効化しつつ、反撃の隙をうかがってました。』
『しかし僕の反撃の初動より速く、斎藤さんのあの【式】を乗せた左胴払いが迫ってきて、、』
斎藤は、
『あぁ、俺の全力を乗せた左胴払い、
【閃狼薙】(せんろうなぎ)
は、確実に当たったと思った』
と呟く。
『あの技、【閃狼薙】て名付けたのですね。
うん、良い名ですね。
その【閃狼薙】は僕の木刀だけの【沙羅双樹】で防ぐのは無理ぽかったので、
あの一瞬、
【沙羅双樹】を解除、
その瞬間に【静】で10ためていた、残りの5を使い、
今の僕が使える最高の技、
【花の式奥義 百花繚乱】
を使わせてもらいました。』
『【百花繚乱】?
あれはそういう名前の技なのか、、、
なんというか、
対応不能、防御不能みたいなイカサマのような強さの技だよ…』
『あははっ、
【花の式奥義】ですからね
強くないと困りますから』
イタズラぽく総司は笑う。
『まあ、詳しく説明すると長くなるんで、簡単にいうと、
僕自身の体内にためた【式】を全方面に放射するみたいな?』
『えっ、、
なんだそれ、、、
もはや剣術の域こえてない?
もはやイカサマですらないだろ!!』
『まあまぁ、
【奥義】ですから。
それにいつでも出せる訳ではないからですね』
んーーー、
斎藤は納得いかないようだ。
【式】を学べば学ぶ程、
総司の力の強大さがわかる。
『……この、イカサマ式使い!』
こつん、
と総司の頭を軽く叩く。
『あっ、
いったいなぁ。。もう。』
ちょっと拗ねたような顔で
斎藤を見つめかえす。
『斎藤さんは、、、
もっともっと、、
強くなれますよ』
んー、と両腕を伸ばしながら語る。
『…そうか? いくら修練しても、お前に勝てるとは思えないぞ?』
斎藤はソッポを向くような形で顔だけを左にむける。
『僕より、
、、、
もっと、遥か先の高みに
…たどり着いてくださいね。』
総司は誰に聞こえないように
呟き、
満面の笑みを浮かべた。