【第2章】
【2】
【新撰組頓所内 救護室】
布団がしかれ、2人の姿が確認できる。
1人は布団に寝かされ、何ヵ所かに包帯がまかれており、時折苦悶の表情を現す。
もう1人はそのふもとに座り、額に手を当て、ぶつぶつと何かを呟いているようである。
『………甘美たる花の精たちよ、
この者に慈悲深き癒しを。。】
手が微かに光り、
苦悶を浮かべていた男の表情が和らぐ。
『ふぅ、、、
とりあえずはこれで大丈夫かな。』
少しおいて、
布団に寝かされていた男の目がゆっくりと開いた。
『ん、、、
ここは? …お前は??』
寝おきだからか、うなされていたせいか、男は記憶が定まらない様子でぼんやりとしている。
『あっ、、、目覚めたんですね! 良かったぁ!』
男にしては小柄な身体、美形といっても差し支えない顔から、安堵の声がもれる。
『斎藤さん、
もうかなりボッコボコにされて酷い怪我だったから、意識戻らないかと思っちゃいましたよぉ !』
斎藤と呼ばれた男が布団から起き上がろうとする。
『ぐっ、痛ぅぅ…!』
起き上がった瞬間、全身を走る激痛に思わず顔をしかめる。
『あぁ、あぁ、無理しちゃダメですよ。。
一応僕の【式】で気休め程度には治療してますけど、、、
』
ふーっと大きくため息をついて
、
『あなたは大人げない新八さんの【地の式】でぼっこぼこにされて気をうしなってたんですから。。』
『………!!』
斎藤は思い出した。
選抜試験で、新八と試合をして、ぼこられたのを。
『くそ、、あの筋肉ゴリラ!!
なんかむちゃくちゃなことしてなかったか?
身体が石になったり、地面が割れたり!!』
斎藤は興奮気味だ。
『まぁ、まぁ、安静にしてくださいね。。』
『ふーーっ』
斎藤は深く深呼吸をする。
自分の身体を見渡す、あらゆる場所に包帯がまかれている。擦り傷多数。色んな箇所に打撲もあるようだ。
そして目の前にいる優男。
こいつが俺を治療してくれたようだ。
『………どうやら世話になってしまったみたいだな。。
………ありがとう。』
斎藤は視線を少しそらしながら礼をいった。
『うわぁ、、、ちょっとびっくりしちゃいました!!
斎藤さん、お礼いうようなタイプに見えなかったので。』
小悪魔ぽく笑う。
『どういたしまして。
あ、自己紹介まだでしたね。
』
『僕は沖田総司といいます。よろしくお願いします』
正座して、ちょこんと頭を下げる。
斎藤もつられたかのように
『…あぁ、斎藤一だ。よろしく頼む。』
どちらからともなく2人は微笑んだ。
これは総司の人なつっこい性格と、持ち前の優しい雰囲気のせいなのだろう。
向日葵のような屈託のない笑顔は、人斬り集団の新撰組の中でも、隊員たちの癒しとなっているのであった。
【同刻 新撰組 副局長部屋】
囲炉裏を前にして2人の男が座っている。
手前には屈強な肉体の持ち主であり、先ほど、斎藤と試合をした新八。
その奥には、
細身ながらも、威圧感あふれる佇まい、聡明そうな顔つき、
髪は今でいうオールバック。
その目は人の何手先をも読んでいそうな思慮深い黒い瞳。
のちに新撰組の
【鬼の副長】と呼ばれる、
戦略の鬼才・土方歳三
である。
土方は、対面している新八の顔の大小多数の擦り傷、着物の腹の部分に薄く染みた血、
それらをざっと見渡したあと、
キセルを手にとり煙を吐き出す。
『……で、どうだったんだい?その博徒崩れの実力は?』
土方はニヤリとする。
新八は目の前にきた煙を手で払いながら、
『………本当に剣術を習ったこともないようなチンピラのケンカ剣だった。』
土方は煙をはきながら、
さらにニヤリとする。
『そのチンピラのケンカ剣に、我らが新撰組2番隊隊長・
あの永倉新八が【式】を使ったんだろう??』
土方のニヤニヤは止まらない。
しばらくして新八はぼそりと呟く。
『素人丸出しのケンカ剣ではあるが、
ヤツは無意識に【式】を使っていた。
…ヤツの【式】は当初は【風】かと思ったが、どうも違う。
俺も知らない別のなにかだ。』
ぱぁぁん!!
土方が手を叩く。
『剣術をかじったことのないヤツが【式】を使える。
さらにあの新八さえもマジにさせる力を秘めてる、、、
てことで間違いないな?』
『あぁ、そうだ。』
新八は少し納得いかない様子ではあるが肯定した。
土方はキセルを右手にもち立ち上がる。
『そいつはとんだ逸材だな!
剣術の基礎を身に付けさせろ。
そうだな。
総司に教えさせるか。
事と次第によっては、
例の件の【切り札】になるかもしれん!!』
キセルを左手でパンと叩く。
『近藤さんはまだしばらくは会津から帰ってこれねぇ。
とりあえずは例の件は
俺たちだけでカタつけなきゃならんだろう。
』
新八は嬉しそうな土方を目にやる一方、
先ほどの斎藤との試合を思いだしていた。
斎藤の【式】は無意識から発生する空間を切る力。
木刀を振るたびに真空波のような渦が襲ってくる。
対する俺の【式】は【地の式】。
刀への鉱石変化による攻撃防御力の向上。
さらに自らの身体の防御を固める【金剛】をも使用した。
斎藤の【式】が【風の式】ならば、通常なら金剛化された俺の身体には傷は入らないはず。
だが、金剛化した俺の身体を貫通するということは、
さらに高度な風の式か、
または、全く違う別の式となる。
勝負自体は傍目からみれば、
俺の圧勝に見えただろう。
だが、負けたのはそれは
【今の斎藤一という男】
だ。
ヤツは総司の元で、
剣術の基礎を学び、
自らの【式】を自在に操れるようになれば、、、
『……一筋縄ではいかんな。』
新八は苦笑いにも似たような顔をしたのであった。
【数日後】
新撰組頓所 道場内。
その中央には沖田総司、斎藤一の両名が立っている。
斎藤の怪我はだいぶ治ってきていた。
『では、斎藤さん。
今日からは新撰組隊士としての剣術修行を受けてもらいます。』
総司は相変わらず穏やかな口調で斎藤の目をみて話す。
『わかっている。新撰組隊士となったからには勿論そのつもりだ。
……で剣術指南をしてくれるヤツは誰なんだ? ここには俺とお前しかいないようだが。』
斎藤は辺りをキョロキョロ見回している。
総司は相変わらず微笑みながらかえす。
『あはは、イヤだなぁ。
僕ですよ。
僕が指南するよう言われてます』
『……は? え、というかお前、剣術使えるの?』
斎藤は唖然とした表情。
『もぅ、失礼だなぁ。
僕、それなりに強いんですよ
…じゃあまず、軽く立ち会いしましょうか。』
総司は斎藤に竹刀を渡す。
お互いが対峙する間合いをあけ、
『では、かかってきてください』
総司は構えをとる。
『……怪我してもしらんぞ。』
斎藤も構えをとった。
斎藤は総司という人間を嫌いではない。
いやむしろ、怪我を治療してくれた恩や、その優しい性格に好意的なものさえ感じていた。
なので総司に怪我をさせたくはないな。。
そういう思いもあり、
全力で竹刀をふるってはいなかったところもある。
が、、、、
それでも曲がりなりにも新八を本気にさせた剣である。
その斎藤の上段からの一撃は、
総司に瞬時にいなされ、
次の瞬間、斎藤の頭にパァン!!と軽い衝撃が訪れた。
『はい。一本です。
次は本気できてくださいね。』
斎藤は驚愕した。
確かに舐めてかかったのもあるが、総司の竹刀の振りが全然見えなかったからだ。
ジリッ…
『おや、、、本気になってくれたみたいですね。』
総司と対峙する斎藤の瞳は真剣なものに変化していた。
『いくぞ!!』
斎藤は長身をいかした左側からの胴払い。
シュン!!
風斬り音と共に、
竹刀には前に新八との戦いで見せた【真空波】も微かながら発生している。
『へぇ、、、これが斎藤さんの【式】ですか。。』
竹刀から繰り出される真空波、
竹刀同士なら砕けちってもおかしくない威力はありそうですね。。
……ならこれで。
沖田は竹刀が重なる瞬間、
小さく呟くように、
『花の式 沙羅双樹…』
と唱える。
沖田の竹刀の回りが薄い緑に発光する。
斎藤との竹刀が交わる瞬間、
斎藤の真空波を中和したかのように消失した。
交差した竹刀をスッとぬいて、
スパァァンと、また斎藤の頭に面を決める。
面を決められた斎藤は唖然としている、
『な、なんじゃそりゃー!!』
斎藤が思わず叫ぶ。
総司は竹刀を片手でパシパシしながら、
『うん。。無意識のうちの真空波的なこれ、なかなか脅威ですね』
あははっ、と笑いながら軽くいとも簡単にいう。
『…いやいや!!
、お前なんで、そんなに強いんだ!!』
斎藤は興奮している
『あ、僕、一応、
天然理心流と、
北辰一刀流の免許皆伝持ってますから。』
あははっと笑う。
『なっっ?』
斎藤はまた驚愕。。
『…という訳なんで、
僕が指南役、納得してくれたと思います
ので、
まずは
素振り1000回
左右反転500回
はい、開始です!』
総司がパァンと手を叩く。
斎藤は圧倒的な実力を見せつけられては従うしかなかった。
『はい!、姿勢が悪い~』
『はい!、右肩上がりすぎ~』
『はい!、突きはまっすぐ正面に~~』
『あ、素振り1000回終わりました?
じゃあ、あと1000回追加で。』
……総司は実はスパルタだったのである。