撃破祭
あらすじ
剣士であるコングラー・ディルメンクと魔法使いのトムファー・イルアーは、魔王の元へと向かうために必要な鍵のパーツを集めるため、4人の『理の支配者』を倒す旅に出ている。
前回、2人は初めての支配者である『重力の支配者』と戦い、激戦の末、勝利を掴むことができた。
しかし、その代償として、2人は大怪我を負った。
じゃ、本編へGO!
バタンッ
カランッ
コングラーがその場に崩れ落ち、手に持っていた鍵のパーツが床に落ちる。
「コングラー!」
トムファーが急いで立ち上がり、そばに行った時、コングラーは既に意識を失っていた。
当然だ。
あれほどの大怪我を負いながらも、『重力の支配者』にトドメをさすため、全力で剣を振るったのだから。
「おい!コングラー!」
トムファーはコングラーの左胸に手を当てる。
「…………よかった、まだ生きてる」
トムファーはバッグに、拾い上げた鍵のパーツをしまい、空間転移の薬を取り出して、周りに撒いた。
薬が緑に光り、2人はその場から消える。
次の瞬間、2人は、その地下室から最も近い街、『ガルヴァー市街地』の一角にある病院に現れた。
木でできた、小さめな小屋だ。
その病院にいる全ての人、数人の患者と看護師、医師が、ザワザワと騒ぎ出す。
当たり前だ、突然病院に満身創痍の少年2人が現れたのだから。
「き、君たちは……?」
その病院で働く医師だろうか、初老の男性が2人に問う。
「説明は後だ!とりあえず、こいつの手当てを!」
トムファーは物凄い剣幕でその医師にコングラーへの治療を命じた。
「わ、わかりました!」
医師は、慌ただしく治療の準備を始める。
幸運なことに、その病院には患者がほとんどおらず、いたとしても全員軽い怪我や病気だったために、皆順番を2人に、いや、コングラーに譲った。
重傷を負った者より先に治療を受けるのは気が引けたのだろう。
そのため、医師はすぐさまコングラーをベッドに寝かせ、回復魔法を掛けることができた。
「回復魔法『生の活性』」
医師は呪文を唱える。
『重力の支配者』と同じ、人間語の呪文だ。
その医師の目が黄色く光り、みるみるうちにコングラーの体についた傷が消えていき、意識はないものの、健康的な体に戻る。
「それで、あなた方は一体……?」
医師は、2人に疑問をぶつける。
「ああ、すまない、急に現れて怒鳴ってしまって。俺たちは、『重力の支配者』と戦ってきた者だ」
『重力の支配者』、その単語を聞いた瞬間、その場にいた全ての人の視線が2人に集まる。
今の『重力の支配者』が———三代目だという今の『重力の支配者』が誕生してから、数百年が経つ。
その間、向かってきた人間を生きたまま帰したことは、一、二度しかない。
『理の支配者』とは、そういうものだ。
圧倒的な力を持つ。
そのため、重傷ながらも生きて帰ってきた2人に全員の視線が集まるのは、なんらおかしなことではないだろう。
「『重力の支配者』、ですか……それで、結果は……?」
医師は好奇心から、不謹慎とも取れる発言をする。
「ああ、結果は」
ゴソゴソと、トムファーはバッグを探り、『理の支配者』を倒した証、鍵のパーツをゆっくりと掲げる。
それを見て、刹那の静寂が辺りを包んだ後、全員がワッ、と歓声を上げる。
小さな病院は、大きな熱狂の渦にのまれた。
中には泣き出すものもいた。
知り合いを『重力の支配者』に殺されたものだろうか。
「やったぞ!遂にあいつが倒れた!」
その熱波は、瞬く間にその街に広がる。
「おい!聞いたか?『重力の支配者』が倒されたらしいぞ!」
「嘘だろ?!一体誰に?」
そんな声が、街のあちこちで聞こえる。
人が苦手なトムファーが早々に病院を離れ、宿舎に入ろうとした時、騒ぎを聞いて駆けつけた、その街の町長がトムファーに言った。
「『重力の支配者』討伐、誠にありがとうございます」
まだ若いその男は、深々と頭を下げる。
今まで幾度と『重力の支配者』に泣かされてきたのだろう。
『喜び』、その気持ちが顔に滲み出ている。
「是非、今宵はこの街の住民たちと楽しくお過ごしくださいませ」
その晩、『ガルヴァー市街地』では、記念の祭りが盛大に行われた。
街の中央には、いくつもの店が立ち並び、住民や、旅人で大賑わいだ。
トムファーは、街で行われたお祭りに参加した。
半ば強制的に。
「うーん……どんちゃん騒ぎは苦手なんだが」
そんなことを言っているが、口角が少し上がっている。
満更でもないようだ。
コングラーの意識は未だ戻らないため、病院のベッドの上に寝かされている。
そのため、この度が始まって、初めての単独行動となる。
トムファーが祭りの会場に足を踏み入れた途端、人に囲まれた。
トムファーが魔法使いだということは、既に広まっているらしく、
「どんな魔法を使うの?」
「魔法見せて!」
と言った声がちらほらと聞こえる。
しかし、多くの声は、
「すごいなお前!」
「お前強いんだな!」
「尊敬するぜ!」
といった、2人を称賛する声だった。
「サンサル・ガルヴァー以来の救世主だ!」
誰かが言ったその言葉に、トムファーは興味を示す。
「サンサル・ガルヴァー?誰だそれ?」
「なんだ、旅人さん、知らないのか?サンサル・ガルヴァーは大昔にこの街にいた戦士だ!」
随分と強かったようだ。
『ガルヴァー市街地』、街の名前にも使われている。
「サンサルは二代目の『重力の支配者』を倒した英雄だ!銅像も建ってるぞ!見に行くか?」
「いや、遠慮しとく」
「ちなみに、東西南北で最も強かった者一人一人の名が、各『理の支配者』の住処と最も近い街に付けられておるのじゃ」
白髪の、博識そうな老人が説明する。
この老人も熱気の渦に巻き込まれているようだ。
自分の知識を誰かにひけらかしたいのだろう。
「北が『ゴルヴァー市街地』、南が『ミガレノンの街』、西が『カーコルド自治区』、そして、東が『ガルヴァー市街地』じゃ」
その老人の話を聞いていた人達は、皆関心の声を出す。
もちろん、トムファーも例外ではない。
「そうなのか、初めて知ったな」
そんな、2人の輝かしい戦績、『重力の支配者』撃破を讃える祭りは、夜通し開催された。
夜も更けて、あと一、二時間ほどで朝がくるという時、トムファーはようやく解放される。
一晩中祝われ、飲まされ、食わされていたようで、『重力の支配者』と戦った後よりもへとへとのように見える。
そんなトムファーは、眠ることなくコングラーがいる病院に向かう。
千鳥足になりながらも。
「……流石にまだ意識はないか」
窓からは月明かりが差し込んでいるが、それ以外の光はない、暗い部屋で、トムファーはコングラーが眠っているベッドの上に、コングラーの横に座る。
「……今日、初めて沢山の人と話したよ。一緒に飯食ったのも今日が初めてだった……なんていうか……ありがとな、広い世界に連れてきてくれて……って、聞こえてないんだったな」
トムファーがコングラーの顔を覗き込むと、少し笑っていた。
意識が戻っているようだ。
「……いつから聞いてた?」
トムファーは、顔を隠しながらそう聞く。
「最初から」
コングラーは、笑いながら答える。
「はあ……」
まだ夜は、2人の時間は、2人だけの時間は、続く。
たった数時間の、長い長い時間は。
普段漫画とか読む時はさ、「早く戦わないかな〜」なんて思いながら読んでるんだよね。
それ以外のシーンも大切なのは知ってるんだけど。
だから、多分今回の話、あんまおもろくない気が……
まあ、それはいいとして、読んでくれてありがとうございました!
感想とか書いてくれると泣いて喜びます!
じゃ、またいつか!