初めての強敵
あらすじ
剣士であるコングラー・ディルメンクと魔法使いのトムファー・イルアーは、魔王を倒すために必要な、四つの鍵のパーツを手に入れるため、4人の『理の支配者』を倒す旅を始めた。
前回、初めての支配者『時の支配者』と戦うため、その住処に行ったところ、そこには鍵のパーツのみがあり、『時の支配者』の姿はどこにもなく、2人は肩透かしを喰らった。
ようやっと書きたいところ。
楽しい。
じゃ、本編へGO!
2人が東に向かって歩き始めて、約一ヶ月が経過した頃、この世界屈指の雪山『ゴガ山脈』の中腹にいた。
トムファーがどうしても行きたいと言ったからである。
それは、『時の支配者』を倒すことなく鍵のパーツを手に入れてしまい、肩透かしを喰らった直後のことだった。
「あっ、そうだ。なあ、コングラー、ちょっと寄りたいとこがあるんだが、行ってもいいか?」
「えっ?うん、別にいいけど、どこ?」
「えーっと、見せたほうがはやいか」
そう言って、トムファーは地図を取り出す。
例の、四方が崖で囲まれるように、中央に魔王城がくるように、作られた地図だ。
トムファーは地図の右上を指す。
「ここにある、『ゴガ山脈』ってとこなんだが」
「いいけど……なんで?」
コングラーは早く魔王を倒したいため、必然的に少し強めの声色になった。
「えーっと、この山に生えてるイノバウド草って草が、ある薬を作るために必要でな」
「ふーん……まあ、いいけど」
そして現在、2人はその山にいる。
「ねえ、本当にこんなとこにあるの?」
雪は降っていないものの、辺りは一面雪で覆われ、草の一本も生えていない。
当然、魔物一匹いやしない。
「ああ、多分生えてるはずだ」
「ほんとにー?」
探し始めてから、とっくに三時間は経った。
辺りを包む静寂を壊すかのように、突然、コングラーが悲鳴に近い声を上げる。
「ねえ!トムファー!これ!」
指の先には、なんと大きな足跡があった。
もちろん、2人のものではない。
「……まだ新しいな」
「魔物?」
「いや、どうだろうか……こんな雪山に住む奴なんていないはず、なんだが」
2人は恐怖心を抱えながら、その足跡を辿る。
良くも悪くも雪は降っていないため、見通しは良い。
だから、それに出くわすまで、そう時間はかからなかった……
2人は、雪に隠れて何かを観察していた。
「トムファー、あれ……」
「シッ、静かに」
そこには、巨大な雪玉で構成された、大きな人型の何かがいた。
お腹にあたる部分には、怪しげな紋様が刻まれていて、操られているように見える。
目や口、耳など、ありとあらゆる感覚器官がなく、あるのは、合計六つの雪玉だけだ。
コングラーは言わずもがな、トムファーの頭にさえ、それの情報はない。
「なんだよ、あれ……」
その時、
ギュルンッ、と、その雪の塊の頭が、頭にあたる雪玉が、回転した。
「マズイッ!」
見つかってしまったようだ。
その雪の塊は、2人が駆け出すよりもはやく、お腹に刻まれた紋様を紫に光らせ、自分ごと2人を雪の壁の中に閉じ込めた。
高さは4メートルは超える。
逃げ場は、ない。
「ねえ!トムファー!どうしたらいい!」
「知るか!んなもん!戦うしかねぇだろ!」
またも紋様が光り、2人目掛けて雪玉が飛んで来た。
雪玉といっても、雪合戦で使われるような大きさではなく、雪だるまを作るときに使うような大きさのもの。
当然当たったら死ぬわけで、2人は死に物狂いで戦闘を開始する。
まず、トムファーの目が光り、
「ウェンティオルーグノイヌイクンジ!」
2人の能力が向上する。
その後、トムファーは例の物体の動きを止める魔法で、コングラーは魔石が少し広がり、緑の目立つようになった剣で、各々向かって来る雪玉に対処する。
辺りには雪玉の壊れる音と、2人の声だけが響いた。
2人が戦闘を始めてから、どれほどの時間が経っただろうか。
投げられた雪玉の数は、恐らく50は超えるだろう。
しかし、おかしなことに、投げられたはずの雪は、どこにも積もっていない。
その雪を再利用しているのか、はたまた雪自体が魔力でできたものなのか、誰にもわからない。
一つ確かなのは、限界はすぐそこまで迫っている、ということだけだ。
トムファーは当然として、体力に自信のあるコングラーにさえ、疲れが見える。
幸いなことに、その雪の塊は雪玉を投げる以外の攻撃をして来なかった。
が、それでも、2人を倒すにはそれで十分だった。
十分すぎるくらいだった。
恐らく、あと少しでも戦闘が長引いていれば、2人の旅はここで終わっていただろう。
しかし、そうはならなかった。
「!」
トムファーの脳裏に、とある仮説が浮かび上がったためである。
もしかして———!
「なあ!そこにいるんだろ!出てこいよ!『生の支配者』!」
そう、魔王から逃れた2人の支配者がうちの1人、生の支配者が、この雪の塊を作った、という仮説である。
「…………」
返事は当然ない。
が、それは確かに当たっていた。
雪玉の量が幾ばくか減ったのが、その何よりの証拠だ。
「心配するな!俺らは『時の支配者』を倒し、鍵のパーツを手に入れた!敵じゃない!」
そう言って、バッグから、その鍵のパーツを取り出して、天に掲げる。
もちろん、半分は嘘である。実際には、会ってすらいない。
しかし、『生の支配者』の姿を拝むには、それだけで十分だった。
天から降りてきたのは、白い、妖精のようなものだった。
髪の代わりに触手のようなものが数本生えていて、各々好きな方向にウネウネと動いている。
目は黄色に光り、優しそうな、怖そうな雰囲気を醸し出している。
トムファーと同じくらいの大きさのそれは、神と見間違うほど、神々しかった。
「ヨク、気ガ付イタナ、ソウダ、アノ子ハ、私ノ魔法デ作ッタ子ダ」
『生の支配者』があの子と呼んだ雪の塊は、とっくに動がなくなっていた。
「ああ、雪を自由に動かす奴なんて、この世界であんたぐらいのもんだろ」
「マア、ソウダナ」
少し笑って、そう答えた。
『生の支配者』は、2人を、ある小屋に案内した。
雪で作られてはいるが、温かみのある、落ち着ける小屋だ。
部屋の真ん中には、雪でできた机と椅子があり、2人をそこに座らせた。
奇妙なことに、冷たくはない。
「珍シイナ、コンナ雪山ニ、誰カガ来ルトハ」
『生の支配者』は2人をもてなした。
先程の償いのつもりなのかもしれない。
「実は、イノバウド草って草を探しにきたんだが、何か知らないか?」
こう言うときに話をするのは、大抵トムファーだ。
コングラーは気まずそうに静かにしている。
「イノバウド草?ソレナラ、栽培シテルゾ、イクラカ持ッテイクカ?」
「いいのか?」
「アア、先程迷惑ヲ掛ケテシマッタシナ、チョットシタ罪滅ボシダ」
そう言って、『生の支配者』は小屋の奥からイノバウド草を二本持ってきた。
白い、綺麗な、小さな花だ。
「コレデ、足リルカ?」
「ああ、助かるよ、ありがとな」
「礼ニハ及バナイ。ソウダ、ツイデニ、オ前ラヲ守ル魔法モカケテヤロウ」
『生の支配者』の目が光り輝く。
「コレデ、一度ダケ、死ンデモ生キ返ルコトガ出来ル」
「なんか、悪いな、こんだけ色々貰えると」
「何ヲ言ウ、言ッタダロ、タダノ罪滅ボシダト」
2人は、小屋を後にする。
「良い人だったね、『生の支配者』さん」
コングラーが言う。
小屋を出た途端、元気だ。
「まあ、そうだな」
「なんか……含みのある言い方だね」
「いや、『理の支配者』なのに、あんな優しいとさ、なんか裏があるんじゃねえかって思ってな」
「考えすぎだよ」
「考えすぎか」
そんなことを言い合いながら、2人の旅は続いていく。
一方、2人を見送った『生の支配者』は困惑する。
「ウェンティオルーグノイヌイクンジ……コノ呪文ハ、既ニ失ワレタ魔言語ノハズ……ナゼアノ少年ガ知ッテイルノダ……」
戦闘は見てるだけで楽しいな。
それはともかく、読んでくれてありがとうございました!
感想とか書いてくれると泣いて喜びます!
ダメ出しも是非!
じゃ、またいつか!