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理の世界  作者: 和音
21/26

強制解放

「おりゃあ!」

コングラーの剣が魔王の体を切り取ったかと思えば、

「はあっ!」

魔王の拳がコングラーの肉を抉る。

「光魔法『光弾』!」

コングラーから放たれた光の球が魔王の体に風穴を開けたかと思えば、

「安寧の棺!」

魔王から放たれた黒い糸がコングラーの体をズタズタに切り裂く。

魔王とコングラーの、一進一退の激しい殺し合いが始まった。

異様な空気が辺りを包み込む。

トムファーは依然として意識が戻らず、『時の支配者』はいまだにゴルヴァーと戦っているため、この勝負において援軍は望めない。

つまり、純粋な力比べに持ち込まれた。



魔王は速度の利を失うどころか、光速で移動するコングラーに追いつけずにいる。

そして、『解羅』の発動で、体力、魔力ともに限界が近い。

また、コングラーの使うことができる魔法は、具現化した『光』を放つ魔法と、光速で移動する魔法のみだが、それでも魔王はかなり苦しめられた。

それほどまでに、『闇』は『光』に弱い。



しかし、だからといってコングラーが優勢というわけではない。

コングラーも慣れない魔法の多用により、何倍もの速度で体に疲労が蓄積する。

さらに、魔力の減少も著しく、いつ魔力切れによって倒れるか分からない。

そして、精神がかなりすり減ってしまっている。



つまり、2人の力は拮抗し、どちらが勝ってもおかしくない状況となっていた。

しかし、それでも、終わりの時は刻一刻と近づいていた。









その戦いが始まって、二十分程が経過した。

相も変わらず2人の拳と剣とがぶつかり合う音が部屋に響いている。

魔王は体のあちこちに穴が開き、コングラーはそこらじゅうから血を流している。

2人とも満身創痍で、いつ倒れてもおかしくない。

そんな状況で、とある出来事が起きてしまった。

「……ん?」

コングラーの左目が機能を失い始めたのだ。



魔法というものは、全身を使って発動されるが、主に脳と腹、特に脳を使う。

そのため、魔法の発動の仕方を覚えたばかりのコングラーにとって、二十分という時間は、いくら覚醒したばかりとはいえど、脳の血管を破壊するには十分すぎた。

そして、脳が破壊されたことで、片目は失明した。



「限界が来たようだねえ!」

コングラーのその異変に魔王はいち早く気づき、左側にまわって戦うようになった。

「くっ……!」

コングラーはそれに対し全力で抗ったが、片側が見えないという条件は、保たれていたその均衡を容易く崩した。

それに加え、コングラーは魔法の使用を制限され、その戦いは再び一方的な蹂躙へと変わりつつあった。



「おりゃあ!」

コングラーは全力を出して戦った。

だが、魔法が使えず、左目も使えない人間の全力など、魔王にとっては赤子同然だった。

魔王は手を抜きコングラーとやり合ったが、それでも、段々と、コングラーの肉体は削られていった。

そして、ついに魔王の右手が、コングラーの首を軌道に入れた。

コングラーは、今度こそ死んでしまうはずだった。



しかし、それに待ったをかける存在が、()()()()()()



「否定魔法『固定』!」



その瞬間、魔王の体と、その周囲が切り取られる。

コングラーは声の発せられた方向を見る。

「トムファー……!」

コングラーの目から流れた一筋の透明な涙が、ゆっくりと頰を伝った。

「何してる!早くその場から離れろ!」

コングラーはハッとして再び魔王の方向をみる。

そこには、ゴリゴリと固められた空気を削っている魔王の姿があった。

「はっ!」

コングラーはトムファーのいる方へと飛びのく。


バギンッという破裂音と共に、魔王は自由を得た。

「思ったよりも早いねえ、まあ、『理の支配者』は人と比べて頑丈だからもあるだろうが、それにしてもだ」

コングラーの血がこれでもかと付着した両手を、ゆっくりと打ち鳴らす。

「見直したよ、『否定の支配者』、少しはやるようだ。……ただねえ、残念ながら、君は大丈夫でも、君の相方はもう死にかけなんだよ、戦闘が苦手な君にとって、最悪の状況には変わらないだろう?ここは一つ取引と……」

「黙れ」

魔王の言葉を、トムファーの静かだが圧のこもった声が制した。

「このままじゃきついなら、()()()()()()()()()()()

トムファーは自身の剣を取り出し、手をかざした。

「本当は、反動が大きいからやりたくなかったんだがな」

紫色の異様な空気がトムファーから発せられる。

それと呼応するかのように、トムファーの剣がカタカタと動き出した。

「……いいねえ」

魔王は狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「戦いを長引かせた甲斐があったよ。さあ来い!私たちの関係に終止符を打つぞ!『否定の支配者』!」

「ふーっ」

トムファーは目を閉じ、魔法を唱える。


「否定魔法」


パリンッと部屋の窓が割れる。

それとほぼ同時に、トムファーの左目につけられていた眼帯が外れた。

眼帯の下には、紫色の呪文のようなものが刻まれた目があった。

その目は、時間が経つにつれて光量を増し、『理の支配者』にふさわしいほど禍々しい魔法陣を浮かべた。



「『解呪の印』」



唱え終わると同時に、トムファーの剣が低い唸り声をあげる。

紫と黒が混ざった光が放たれ、部屋が淡い闇に包まれる。

「ぐおっ……!」

魔法によって無理やり力を解放された剣が、自我を持ったかのように激しく動き出し、それを押さえ込んでいたトムファーの両腕に黒い光がまとわりついた。

タンッと魔王はトムファーと少し距離を取る。

得体の知れない()()の気配を感じたからだ。



やがて剣から放たれる光は少なくなり、部屋全体に明るさが少し戻った。

そして、そこに浮かび上がった光景は、誰がみても明らかだった。


尋常ではない、ということが。


剣は異様な変貌を遂げ、おおよそ剣と呼べるものではなかった。

刀身らしき部分からあちこちに第二の刀身がはえており、そして、そこからも第三の刀身がのびている。

その連鎖は、第四、第五と続いていた。

その様子は、さながら葉の落ちた大木のようだった。


しかし、それよりも恐ろしい変化をした存在が、そこに立っていた。

トムファーである。

トムファーの両腕は放たれていた紫と黒の光に侵され、真っ黒に染まり、顔も半分ほどが黒ずんでいる。鋭く尖った両目のうち、右目は赤黒く変色し、左目は不気味な魔法陣が浮かび続けている。

立っているのがやっとのようで、浅い息をつき、ふらふらと揺れている。


「そんな力があったんだねえ、凄いじゃあないか」

魔王が少し離れたところから声をかけた。

「まあ、それでも、剣を振ることができないなら、何の意味もないけどねえ」

「トムファー!」

コングラーがトムファーの元へと駆けつける。

「大丈夫?!」

「ああ、大丈夫だ」

その声は、コングラーが今まで聞いたどの声よりも優しかったが、同時に、とてつもなく恐ろしかった。

「さあ、そろそろ終わりにするぞ、コングラー」

「……うん!」

コングラーは気合いで満ちた声を出し、魔王の方へと向き直る。

「いいねえ、その意義だ。さあ、戦おう、2人とも!まあ、負けるのは君たちだがねえ」

『理の支配者』及び魔王は『楽しさ』を何より重視しているので、滅多なことがない限り不意打ちなどはしません。

ただ、個体によって何を楽しいと感じるかは異なります。

例えば、『死の支配者』は他人同士が戦っている様子を見ることが楽しいと感じます。だから死者を操って戦ってました。

逆に、魔王は自分自身が誰かと戦うことを楽しいと思います。

まあ、魔王は王様なので自由に戦うことはできませんが。

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