旅路
続き
読んでない人は前回のから読んでね
まあ前回は初めてだったからかなり酷いと思うんで、簡単なあらすじを
剣士のコングラー・ディルメンクと魔法使いのトムファー・イルアーは、魔王を倒す旅を始めた。
最初に紅鳥という大きな赤い鳥に出会い、コングラーは『殺す』ということにためらって、動けなくなり、2人は喧嘩みたいなことをした。
でも最終的にトムファーの言葉に説得されて、コングラーは見事紅鳥を倒しました。
ちゃんちゃん♪
コングラーは頭から垂れる血を拭って立ちつくす。
「ごめんね……うまく戦えなくて……」
重い空気が辺りを漂う。
「いや、その……なんていうか、その……俺の方こそ、すまん、怒鳴ったりして……」
空気がさらに重くなる。
「……………………」
「……………………」
2人は無言のまま、歩き出した。
2人が歩き始めて、数時間経った。
もうコングラーの頭からは血は流れていない。
「……ねぇ、トムファー」
「なんだ?」
「もう怒ってない?」
恐る恐るコングラーは聞く。
「何言ってんだ?俺は最初から怒ってないぞ?」
「えっ!そうなの?!」
コングラーは思わず大声をだした。
「ああ、何を勘違いしてるか知らんが、ありゃ俺のミスだ。お前のことを考えられなかった俺のな。だから申し訳ないとしか思ってない。ほんとにすまん」
「いや……うん、怒ってないんだ。よかった」
2人の間にある空気は、いくらか光を纏った。
「そういえばトムファー、逃れたもう1人の支配者って誰?」
「ん?——ああ、言ってなかったな。生の支配者だ」
「ふーん……」
「興味なさそうだな」
「なんかねー、興味なくなっちゃった」
「まあ別にいいが」
2人が他愛のない会話を交わしながら、草原の道なき道を歩いていると、前方に形のない何かがゆらゆらと動いていた。
「ん?トムファー、あれなに?」
「んー、あれはスライムだ」
聞いたことぐらいあるだろ、とトムファーは続ける。
「強いの?」
「いや、全然強くない」
最初の敵はあいつが良かったな、とトムファーは言った。
スライムは声を上げずに少しずつ近づいてくる。
「それよりコングラー、もう殺せるか?」
「……うん、まだこわいけど、一回やったからさ、大丈夫だよ。うん、大丈夫」
コングラーはスライムよりもさらに奥を見ながら、自分に言い聞かせるかのように言った。
「……そうか」
コングラーはスライムに向かって歩き出し、スライムの前で止まった。
「……ごめん」
そう言って、剣をスライムの左上から右下に向けて真っ直ぐに振り下ろす。
スライムは音を立てずに魔力となって消えた。
後に何かを残して。
「……あれ?ねえ、トムファー、これなに?」
それを指さしてコングラーは聞いた。
「ん?これか?これはスライムの欠片だ」
トムファーはそれを拾い上げて言った。
少しベタベタしているようだ。
「あれ?魔物は死んだら消えるんじゃないの?」
「えーっとだな、大部分は魔力となって空気中に溶けるんだが、一部分だけ残ることが多いんだ。紅鳥の時は何にも残らんかったが、今回は残ったみたいだな」
「ふーん」
「一応売れば金になるぞ?」
「カネ?何それ?」
コングラーは初めて聞いたかのように聞き返す。
「え?……あー、そうか、あの村は物々交換が主流だったから知らんのか。えっと、金ってのはだな、街とかで使えるもんだ。それがありゃ大抵なんでも買える……いや、交換できるって言った方がわかりやすいか」
「そんな便利なのがあるの?」
「ああ、ある。まあ明日の夜には街に着くだろうから、その目で確かめてみろ」
コングラーはいまいち納得していないようだった。
「これはバッグの中に入れとくとするか」
トムファーはスライムの欠片をなんでもいくらでも入る小さなバッグの中に入れた。
「ねえトムファー」
コングラーは目を少し閉じてトムファーに話しかける。
「……疲れた」
「もうか?」
「だって日がもう1番上まで来てるんだよ?」
旅を始めた時は出たばかりだった日が、今やもうてっぺんにまできている。
「確かにな。でも、コングラーは体力バカだと思っていたんだが」
「バカってなんだよ」
コングラーは静かに言った。
本当に疲れているようだ。
「んー……そうだな、2回も殺すのを経験してたしな。精神的にも疲れてるか、うん、少し休もうか」
「トムファーは疲れてないの?」
「俺は魔法で疲れないんだ」
「ズル!俺にもその魔法かけてよ」
「あー、残念だが、人に直接影響を与えるような魔法は自分以外にゃ使えねぇんだよ」
「え?でもお腹減らなくしたり能力上げたりしてたじゃん。それに、紅鳥を止めてた」
「お腹減らなくなんのは昔身につけた。能力上げるのはお前がバカみたいに剣振ってた時に身につけた。紅鳥のは、細かくいうと紅鳥の周りにある空気の動きを止めた」
「またバカって言った。それより、そんなのでいいんだ」
「魔法は剣と同じで鍛錬すれば身につく……こともある。それに、自分の中で理屈が通ればいいんだよ」
「ふーん」
「さあ、お喋りもおわりだ。今のうちに休んどけ」
「うん、わかった」
そう言われて、コングラーはそばにあった木に背をつけて眠りだした。
「……ろ。起きろ。おい、おーい」
「ん……」
コングラーが薄目を開ける。
「そろそろ出発するぞ」
「んん……もう?」
「ああ、もうだ」
「わかった……」
コングラーは目をこすりながら起き上がる。
2人は少し傾いた日の中を、北に向かって歩き出す。
暫くして、あたりは闇に包まれようとしていた。
「これ以上は進めないな。ここらで休もうか」
「え?俺はまだ歩けるよ?」
「夜は危ないんだよ。魔物が強くなる」
「なんで?」
「なんでって言われてもなぁ……よくわかってないんだよ、それが」
トムファーは困り顔で言った。
「いろんな説があるが、1番有力なのは闇が魔物を活性化させるってのだな。まあなんでもいいが」
そして、トムファーの左目が紫に光る。
「よし、これで俺の周囲に居れば魔物には気づかれない」
「この状態で進めないの?」
「ハハハ、今進んだら魔力が尽きて死んじまうよ」
「え?魔力が尽きると死んじゃうの?」
「ん?ああ。魔法使いも魔物も、どちらも微量の魔力で支えられているからな。少しでも魔力が残ってりゃいいんだが、無くなると体が支えられなくなって死ぬ」
「そうなんだ」
「まあだから、無茶は出来ねぇってことさ」
トムファーは軽く笑いを浮かべながら、寝る準備をしていた。
コングラーは剣の手入れをしようとしていた。
スライムを、もう3体倒したからである。
「ああそうだ、コングラー、剣は手入れする必要ないぞ」
「え?!そうなの?!」
「ああ、なぜだか知らんが、その剣には再生の魔法がかけられていてな、何もしなくとも勝手に直る」
多分村長がかけたんだろうな、とトムファーは言った。
「へー…………ん?あれ?トムファー、ほんの少しだけど魔石広がってない?」
剣の先端についていた緑色の魔石が剣をほんの少しだが侵食していた。
「そういや言ってなかったっけな。魔石は剣の使用者が強くなれば強くなるほど広がってって、広がりきるとその剣に秘められた力が解放されるっていう伝説があるんだよ」
コングラーは興味津々といった感じでその話を聞いていた。
「まあ弱目の個体とはいえ紅鳥を倒したし、スライムも3、4体倒してたからな、少しは広がるだろ」
「面白いね!」
「そうか?まあそうなのかもな」
変な言葉をトムファーは放つ。
「秘められた力か……」
「もちろん、秘められてなかったら解放も何もないがな」
「でも楽しみだなぁ……」
コングラーは子供のように、静かにはしゃいでいた。
「とりあえず、もう寝ろ」
「うん」
そうして2人は木に背をつけ、眠りについた。
翌朝、木の上にいる小鳥のさえずりで、トムファーは目を覚ました。
「……朝か」
トムファーは伸びをして、コングラーを起こす。
「おい、起きろ」
「……ん」
体を揺られて、コングラーは目を覚ます。
「朝だ、起きろ」
「ふわぁぁ……」
「さあ、進もうか」
「うん……」
コングラーは眠そうながらも歩き出した。
「今日の昼あたりには街に着くだろ」
「なんて街なの?」
コングラーは聞く。
「えっと……なんだったかな」
「忘れたの?」
「そもそも覚える必要がないからなあ……まあ着いたらわかるだろ」
「適当だね」
「適当だよ」
そんなことを言いながら、2人は歩く。
暫くして、コングラーが突然口を開く。
「そういえばさ、昨日も思ったんだけど、魔物ってこんなに少ないの?」
「ん?」
「いや、危険っていう割には魔物全然いないから」
「まあ確かにここらは魔王城と時の支配者の住処との間だからな。数も多くなけりゃ強くもないな」
「紅鳥は強かったけど」
「あれでも弱い方だ。もっと強えやつは平気でいる。まあ強くないって訳じゃねぇけどな」
「へー……改めて、よく勝てたな、俺たち」
「相性が良かったからな。俺が動きを止めて、お前が切る。それが頭は弱えあいつにゃうまく通じたってだけだ」
「……ちょっとぐらい褒めてもよくない?」
「ハハハ、まあお前も強かったぞ?一撃で倒してたしな」
コングラーは不服そうに頬を膨らませた。
「それよりコングラー、前の方にスライムが2体いるぞ」
「あ、ほんとだ。狩ってくる」
そう言ってコングラーは駆け出した。
「……しかし、たった1日で躊躇わなくなるなんてな」
と、トムファーは声をもらした。
その時、すでにコングラーは2匹目を殺すところだった。
「トムファー、これ入れといて」
と言って、コングラーはスライムの欠片を2つトムファーに渡した。
「あいよ」
トムファーはそれを受け取り、バッグの中に入れた。
2人が歩き始めて、そこそこの時間が過ぎた。
太陽はもうすぐ1番上まで来ようとしていた。
「お。コングラー、見ろ。道がある」
そう言ってトムファーが指さしたのは、草原のうち、草が綺麗に刈り取られ、地面が剥き出しになっているところだった。
「もうすぐ街だな」
「おお、やっとだ」
コングラーは疲れた顔で言った。
「昼前には着くな」
そう言って、2人は歩き出す。さっきよりも速い歩調で。
数分後、2人は石で護られた、長方形の大きな大きな街を見つけた。
「あれが?」
「ああ、そうだ」
「想像してた何倍も大きいね」
その四角い街は、横幅縦幅は軽く三十メートルはあり、高さは四、五メートル、そして何より、人で溢れていた。
「あれでも世界的に見ると小さめらしい」
「あれで?!」
「ああ」
そんな会話をしながら、2人はさらに街に近づく。
2人は、自分たちよりも遥かに大きな門の前に立った。
「さあ、ようやく着いたぜ」
その門の横には『カロナの街』と書かれた看板がかけられていた。
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