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理の世界  作者: 和音
17/26

助け舟

しかしながら、そう上手くはいかなかった。

コングラーの剣が魔王に触れるかどうかのその瞬間、コングラーの体は()()()()()()()()()()()

トムファーの右隣で、ブンッという刃風が虚しく鳴った。

理解が追いつかない2人の体に、魔王の言葉が残酷に響く。

「残念だねえ2人とも、少し驚いたが、私には一歩及ばなかった。これで分かったろう?君たちでは私に勝てないのだよ。さようなら、空間魔法『交換』」

2人の体が、姿勢そのまま空中に飛ばされる。

落下の恐怖に顔がこわばっている2人に向け、魔王は、畳み掛けるように魔法を唱えた。

「自然魔法・火『炎龍』」

部屋の中に炎でできた巨大な龍が現れた。

2人に向かって口を開き、飲み込まんと高速で迫り、そして、口を閉じる。

2人は灼熱の業火で焼かれた。

「っ……!」

「ぐっ!」

その魔法の威力自体は、トムファーの結界のおかげか大したものではなかった。

問題は、その後だった。

「ぐわああぁぁ!」

2人の体に付着した炎が、意思を持ったかのようにその身を焼き尽くし始めた。

そのせいで、コングラーは右半身を、トムファーは下半身を、それぞれ火傷し、今も炎が体を這っている。

「ククク、満身創痍だねえ、2人とも。諦めたらどうだい?」

「はっ、誰が!」

2人は先ほどと同様に魔王に斬りかかる。

「諦めが悪いねえ」

しかし、その攻撃はまた失敗に終わった。



何度も繰り返し攻撃を仕掛け、何度も繰り返し失敗に終わる。


それでも、2人は諦めなかった。

奇跡が起きるまで。



コングラーの剣が空気を斬った回数が二十回に達した時、()()()()()()

コングラーの剣の魔石が、剣全体に広がり、その秘められた力を解放したのだ。

「な、なんだ、この光は!?」

剣が神々しい光を放ちながら変形し、剣なのだが剣ではない何かになった。

形は確かに剣そのもの、しかし、それは『光』で構成されている。

魔王と同じように、再生と消滅を繰り返しているようだ。

「くっ……!」

魔王は、身に纏っている布で自身を覆った。

そこで、コングラーはいつぞやのトムファーの言葉を思い出す。




「夜は危ないんだよ。魔物が強くなる。いろんな説があるが、1番有力なのは闇が魔物を活性化させるってのだな」




その言葉は、どうやら正しいらしく、2人の体に纏わりついている炎は勢いを落とし、魔王も心なしか小さくなる。

「いまだコングラー!否定魔法『固定』!」

「おりゃあっ!」

2人は、この機を逃すまいと先ほどと同じように魔王に斬りかかる。

当然のようにコングラーは同じ場所に戻されたが、一つ今までと異なる点があった。

「ぐっ……」

振り切った剣の軌道と同じ軌道で光が放たれ、固められた魔王の体に浅い傷をつけたのだ。

魔王は『闇』でできているから、傷がついたという表現が正しいかはわからないが、それでも魔王に初めて攻撃を喰らわせることができた。

魔王はその傷をじっと見つめる。

「なるほどねえ……これが『痛い』という感覚か。初めて味わったな。認めざるを得ないようだねえ、君たちは強い」

魔王は初めて傷を負ったであろうに、余裕そうに笑った。

「だがねえ」

ニヤリと、魔王は笑う。

「その程度の攻撃しかできないのでは、君たちの方が先にくたばるのではないかい?」

その言葉は、確かに正しかった。

今までの魔王の攻撃に、2人は大量の血を流していた。

それに加え、先ほどの二十回の攻撃で、既にコングラーの体力はかなり減り、トムファーの魔力も四割ほど減っていた。

あれだけ魔法を使用してまだ六割も残っている点はさすがとしか言いようがないが、それでも限界はそう遠くないだろう。


しかし、2人は笑った。

諦めていない。

その眼の奥には、熱い熱い炎が燃え盛っている。

「そうなる前に、あんたを倒すだけだ!」

トムファーは常に魔王の体を固め、コングラーはがむしゃらに剣を振り回す。

その剣の軌道一つ一つの先に光が放たれ、魔王の体に大量の傷を作る。

「ぐおっ……!」

ついさっきまで2人を圧倒していた魔王が、苦しそうな声を上げた。




今度こそ勝てる!

そうトムファーは思った。

恐らく、コングラーがただ両断するだけでは『生の支配者』の力で生き返ってしまうだろう、だから、()()()使()()()()()()

『死の支配者』との戦いで感覚を掴み、そこから魔王城までの旅路でそれを確かなものにした。

コングラーが魔王を滅茶苦茶に斬りつけているおかげで、多分魔王はこの魔法を防ぐことが出来ず、喰らうだろう。


倒せる機会は、今しかない!


トムファーは杖を振り上げる。目の奥の炎が一気に勢いを増す。

大切なのは、理屈を考えないこと。

コングラーの能力を向上させるように、空腹を感じなくさせるように、自分自身に魔法をかけるように、感覚で魔王にこの魔法をかける。

いや、()()()()()()()

「否定魔法・奥義『そん———
























































「……ぐはっ!」

「ごはっ!」

突然、コングラーとトムファーの口から大量の血が噴きだした。

コングラーとトムファーの胴体と、トムファーの舌が、()()()()()()()()()

ただ傷がついただけではない。胴体は真っ二つに分断され、舌は蛇のように二方向に分かれるように切られたのだ。

2人は理解できないまま、床に倒れ込んだ。

誰が?暗い。いつの間に?痛い。寒い。何で?

『?』と『。』で溢れたまとまってない思考が高速で2人の脳内を駆け巡る。

「おや?これでもまだ死なないのか?」

そんな2人はそっちのけで、魔王はしばらく思考に浸り、そして、一つの結論に達する。

「…………ああ、『生の支配者』の力か。大方、生魔法『刹那の延命』だろうな。私もあれに何度苦戦させられたか。まあ、いずれ死ぬであろう。それにしてもよくやったぞ、()()()()()()()()

「ありがたきお言葉」

混乱していた2人の脳内に、『時の支配者』という単語が響く。

2人は力を振り絞り、魔王が声をかけた者の方向を見る。

そこで、2人は初めて『時の支配者』の姿を虚ろな目にとらえた。

人間の老人のような見た目で、背は低く、背中は曲がっている。体は魔王と同じようにボロい布で覆われ、杖に自身の体重を全て預けるかのような姿勢で立っている。


2人は納得できなかった。魔王がこんなことする必要などないのだから。

侵入者を容赦なく殺せばいい。わざわざ危険を冒す必要なんてどこにもない。

出し惜しみなんかしないで、最初っから全力で戦えば、傷をつけられることもなかったのに、なぜ戦いを長引かせたのだろうか。

疑問は次から次に増えていく。

しかし、魔王の次の言葉、

「やはり、希望から絶望へと転落する瞬間は、いつ見てもいいものだねえ」

それを聞いた時、2人の脳内のいくつもの違和感が一瞬のうちに線を作り、そして、一つの図形を成した。



やられた!



2人はここでようやく気づく。

結局のところ、この戦いは、魔王にとっては久しぶりの遊びでしかなかった。

なぜあの場に『時の支配者』がいなかったのか、なぜ鍵のパーツだけがあったのか、なぜコングラーの攻撃が当たは直前、()()()()()()()()

脳内で全てが繋がる。

全て『時の支配者』がこの場にいたからなのだ!


「まあ、このまま2人が苦しみながら死んでいく様子を見るのも楽しくはあるが、ちと退屈だねえ」

そう言って、魔王はおもむろに歩き出した。

2人は目前まで迫った終わりを、受け入れることしかできない。

手を動かすどころか、息をすることさえ苦しい2人に、ここから巻き返す方法は皆無なのだから。

「久方ぶりに楽しい時間だったぞ?まあ、私には赤子をあやすようなものだったがな」

魔王は杖を上げる。



()()()()()()、とトムファーは消えゆく意識の中で考える。



奇跡は確かに起きた。だけど、それは魔王の手の中を飛び出さなかった。



ここからの挽回策は、きっともう無い。



最初から詰んでたんだ。



俺たちが旅を始めたあの日から。



結局、運命は変えられない。



きっと、コングラーは殺されて、俺は取り込まれるんだろう。



きっと、魔王を倒せるやつは二度と現れないだろう。



……もう、疲れたな。



思考を放棄したトムファーの目の奥の炎は、もう消えてしまっていた。

2人の頭の上で立ち止まり、魔王は2人を見下ろす。

その顔には、微かに戦いの終了に対する悲しみが浮かんでいた。

「さようなら、小さき英雄よ。闇魔法『あんか———


魔王が唱えようとしていた魔法は、闇の海に沈める魔法だった。

普通なら2人は深い深い闇の底へと落ち、そこで死ぬはずだった、のだが、魔王が2人にとどめを刺そうと魔法を唱えたその時、

「光魔法『光弾』」

突然、その部屋の扉の、さらに後ろから、片手で持てる程度の大きさの光の玉が二、三個飛んできて、魔王の手と顔部分に穴を開けた。魔法が発動される前に。

「ぐおっ?!」

突然の痛みに魔王は疑問と苦悶が入り混じった声を上げる。

2人は死を覚悟していたため、一瞬何が起きたのかわからなかった。

当然だ、目の前で急に魔王が苦しみだしたのだから。

しかし、背後からかけられた言葉で、2人は何が起きたのか理解した。


2()()()()()()()()()()()


2人はその声に、確かに聞き覚えがあった。

何とかその声の主を見ようと顔を動かし、そして、聞き間違えではないことを知る。

その者は、確かに2人が住んでいた村、『ヒリカ村』の、()()()()()

書きたいこと全部書くつもりでいるから、多分まだまだ続くねこれ。

そんなことは置いといて、読んでくれてありがとうございました!

感想とか書いてくれると泣いて喜びます!

じゃ、またいつか!

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