6.君とディスカバリー
22時に翠のバイト先の最寄り駅で待ち合わせた。夜も遅いし、少し話したら帰る予定だ。
今は21時半。少し早いけど、心を落ち着かせる時間が必要だからちょうどいい。
意味もなくSNSを見たり、音楽を無闇に変えてみたり、わかりやすくソワソワしてしまう。しょうがない、こんなこと初めてなんだから許してほしい。
インスタの何十回目かのスワイプをしたタイミングで翠からメッセージがきた。
『もう駅にいる?どの辺?』
『いる!東口の改札出たとこ』
『え、どこだろう』
ふとスマホから顔を上げると、キョロキョロする翠の後ろ姿を見つけた。
「翠!」
「わ!びっくりした…って、え!?何その服!!」
「へへ」思わず後ろ髪を触る。
そう、俺は今昨日買った古着を着ている。今までの俺の服装を見慣れている翠からしたら、俺の姿を見つけられないのもわからなくない。
「ど、どう?」
「え!めっちゃいい!どうしたのこれ、どういう心境の変化?」
「昨日偶然健に会ってさ、見繕ってもらったんだ」
「あ、そうなんだ」
健という言葉を聞いて、翠が言葉を詰まらせ、目をそらされる。
俺も喉の奥が詰まったような感覚を味わう。
「翠、あの」
「この間は伝わらなかったかもだけど、私健と何にもないよ。私が健のこと好きとか、逆もだけどそういう感じじゃないんだよ」
「あの」
「私が真似したのは本当だけど、でも、ただ素敵な服だなと思っただけなの。別に好きだから追っかけてるとかじゃなくて」
「翠、聞いて」
「ごめんね。あの頃と何も変わらなくて。けど今は自分の目線で好きなもの選んでるつもりだよ。この間のこともう気にしてないから、慶も気にしないで…」
「気にしないわけないだろ!」
翠が驚いたように顔を上げる。
「この間のことは、本当にごめん。全部俺の八つ当たりだし、翠はちっとも悪くない。あれから自分なりに考えて気づいたことがあって、ちょっと、ちょっとでいいから俺の話聞いてくれる?」
翠は少し間を置いてコクン、と頷いた。
「俺、昨日古着見に行ってさ、自分で初めて着てみてやっとわかった気がしたんだ、翠の気持ち。新しいこと知れて楽しかったんだよな。違う?」
翠は小さく首を振る。
「そうだよな。俺もすごい楽しくて、古着着るの。なんか違う自分になったみたいでさ」
「そ、そう。わかるよ」
「高校の頃、小説とかバンドにハマったのも同じだったんでしょ。新しいことがひたすら面白くて、翠はただ楽しんでただけなのに、俺があんなこと言って、終わらせた」
「うん」
「本当にごめんな。俺の想像力とか、器とか、会話とか、全部が足りなくて翠に悲しい思いさせた」
「ううん、それは私も悪くて」
「ううん、俺だよ。だから、また挽回するチャンスをくれないかな。彼氏として」
それまで揺れていた目がやっと合った。
「翠の好きなこと、好きなもの、もっと俺に教えてよ」
翠の目から涙が一筋流れた。それを擦り付けるように、体ごと俺の胸に飛び込んできた。
「あのね、私まだあのバンド好きだよ」
「うん」
「まだ慶の背中追っかけたままなのかもしれない」
「うん」
「それでもいい?嫌って言わないで」
「絶対言わない」
「それから、もっと慶の好きなもの教えて。今の慶が好きなもの」
「うん」
そうして、何年経ってもほどけなかった心を、俺たちはまた強く結び直すのだ。
初めてで拙い出来だと思いますが、ちらっとでも見ていただいた方ありがとうございました!!
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