六月二十三日
「いらっしゃい」
「お邪魔しまーすって、部屋どうしたの?」
ミカは僕の部屋の変わりっぷりにビックリしたようだった。前彼女が部屋に訪れた時に比べると部屋は大分寂しくなっていた。
この部屋に残っているのは幾つかの家具とぽつんと置かれた睡眠薬だけ。
「ちょっと部屋の整理したんだ」
「それにしては物なさすぎでしょ」
「別にいいでしょ、僕の部屋なんだから」
「それはそうだけど…」
少し不貞腐れながらミカは床に座り込んだ。
床を見つめながら話の切り口を探した。
「なにこれ?」
ミカは机の上に置いてあった睡眠薬を突き出した。
「べつにいいだろ何だって」
「何よ、その言い方」
「私は亮介の彼女なのよ、心配だってするわよ」
「はー、うるさいな」
「煩いってなによ、私は心配しちゃいけないって言うの!」
バンッと音を立てながら錠剤が床に散らばった。
いきり立ったミカが僕の胸倉をつかんだ。
「別れよう」
「は?」
「いつもいちいち上からでうざかったんだよ!」
「何よ、それ」
彼女の端正な顔が歪んだ。
「だから別れようって言ったんだよ、お前みたいな女うんざりなんだよ」
左頬に大きな衝撃が走った。
目に涙を一杯に貯めた彼女の右手が赤くなっていた。
「私は、あなたのことが…」
「ほら、そうやってすぐ暴力ふるじゃないか」
何も言わずに立ち尽くしていたミカの目からこらえきれなかった涙がこぼれはじめた。
「さっさと出て行ってくれ、もう顔も見たくない」
「私だってあんたみたいな男顔も見たくないわ!」
勢いよくそう言って扉を壊す勢いでミカは部屋から出て行った。
床に転がった錠剤の一つが少し溶けかけていた。それを見つめていると僕の真下の錠剤も何故だか溶け始めた。
僕らの終わりはこれで良かったのだろうか、そんな後悔が何度も頭の中によぎりその度これで良かったと口に出した。
「良かったのか?」
いつの間にか部屋の中に入ってきていた紅華が唐突にそう尋ねてきた。
「何が?」
「好きなんだろ?彼女の事」
「好きだからだよ、ミカは僕にはもったいないほど素敵な人だ。だからこれで良かったんだ」
自分に言い聞かせるように良かったと何度もつぶやいた。
これで彼女は僕の事なんてすぐに忘れてもっと彼女にふさわしい人を見つけれるだろう、だからこれで良かったんだ。
「ならなんで泣いているんだ?」
「え?」
顔をなぞるといつの間にか涙があふれていた。
「だってしょうがないじゃないか…本当に愛してたんだよ」
「ああ」
「本当は僕が彼女のこと幸せにしたかった。でも僕じゃダメなんだ、だからこれで良かったんだよ。これでいいはずなんだ」
堰を切ったかのように涙と言葉が止まらなかった。それを飲み込むようにこれで良かったんだと繰り返した。