六月六日
僕は約束の時間より五分ほど早く着いた。
駅の方を見ていると彼女の姿が見えた。彼女は僕を見るなり小さく手を振って駆け寄ってきた。
「早いわね」
「そんだけ楽しみだったってことだよ」
「はいはい、それよりも今日はどこに行くの?」
僕は指を小さく見える観覧車をさした。
「遊園地だよ」
その遊園地は県下一番といってもお世辞にも流行っているとはいえず人もまばらだった。
「ここも変わらないね」
「そうね、あの時と変わらず寂しい雰囲気ね」
そう、ここは僕が彼女に告白した場所だった。
あの時はお互い少し緊張していたのを今でも覚えている。僕たちも少しずつ変わっていったそれでも変わってないものがあるのが何だか嬉しかった。
「何から乗ろうか」
「やっぱりジェットコースターからでしょ」
「えー、僕高いところダメなんだけど」
「ほら、早く」
ミカははしゃいで僕の手を取って早歩きでジェットコースターまでエスコート連れて行った、その癖に彼女は僕以上に腰を抜かしていた。
ベンチで休みながら人の流れをゆっくりと眺めていると彼女の視線が家族連れにつられて行くのが分かった。
「可愛いね」
「うん」
「私たちもあんな風になれるかな」
「そうだね…」
僕たちにそんな未来は来ないと分かっていても僕にはそうとしか言えなかった。
「よし、次のアトラクションに行きましょ」
「もう大丈夫?」
「当たり前よ、それに今日は全制覇するわよ」
そう言ってミカは勢いよくベンチから立ち上がり僕の手を引いて歩き出した。
そこから僕たちはお化け屋敷にコーヒカップと次々とアトラクションを巡っていった、それこそ本当に全制覇する勢いだった。
最後はやっぱりこの遊園地の目玉の観覧車だった。
「綺麗だね」
茜色に染まっていく町を見下ろしているミカを見ながらそう言った。
「そうね」
「うん、本当に綺麗だ」
「そう?ちょっと大袈裟じゃない?」
夕日が窓に乱反射してそれに照らされる彼女は本当に綺麗だった。僕はこの記憶を持って死ねるのだからなんて幸せだろうか。
「そういえばちょうどこのくらいの高さで告白されたのよね」
「そうだね、あの時ほど緊張したのは後にも先にも無いよ」
あの時の事を僕はまだ鮮明に覚えている。頂上で告白しようと決めていたものの情けないことに勇気が出ずに結局半分ほど下った時に彼女に促されるように告白したのだ。彼女が嬉しそうに返事をしてくれた顔や呆れてた顔が今でもついこないだの事の様に思い出せる。
「あら、あれよりも緊張するのはあと一回はあるんじゃないのかしら」
「……そうだといいな」
「はあ、やっぱりあなたは私が居ないと駄目ね」
彼女はあの時と同じように少しあきれ顔でそう言った。
「手、繋いでもいいかな?」
「どうしたの?いきなり」
「ダメかな?」
「いいわよ、ほら」
いぶかし気に差し出された手を繋ぐと彼女の体温は少し高くて暖かかった。僕はこの暖かさに甘えてしまった。あの時とは違いこの暖かさに甘えてしまうことにした。
そのまま僕たちは未来を語った。
夏は海に行こうとか冬はどこに行こうか、なんて僕はこない未来を思い描いて彼女と未来の約束を取り付けてしまった。