3話 遭難
「うっ、頭痛がする。吐き気もだ」
俺はうめいた。
ここはどこかの森らしい。
召喚された神殿風の建物から強行突破で逃げ出して、意識が朦朧としたまま俺は飛び続けた。
どれ程の時間をどれ位の速度で飛んだか分からない。
どちらから飛んできたのかすらも分からない。
十分な距離を稼げただろうか?
足元の地面が、小さなクレーター状に陥没している。
俺はどれ位の高さから墜落したんだろうか?
そっと痛む頭を触ると大きなたんこぶができていた。
頭痛の原因はこれとして、吐気の方は?脳にダメージが?
俺が心配していると、段々と吐気は収まってきた。
一応、体は大丈夫そうだ。頭のたんこぶ以外は、痛い所も無いしな。
とりあえず、送還魔法を試してみることにした。
だが、、うまく発動、というか構築?出来ない。何かしっくりこないと言うか?
今居る場所と元の教室が繋がっている感覚もない。
そういえば、クラスメイト達を送還した時、床に魔法陣が浮かび上がっていた様な気もする。
場所か施設的な物が関係あるのかもしれない。
だからと言って、あの場所に戻るとかありえない。
他の方法を探すしかない様だ。
「さてと、、」
とにかく、奴らに関わらずに元の世界に帰る方法を探さないとな。
この世界の情報を収集する必要もあるだろう。
元の世界に帰れるまでの間、生活出来る場所を確保しないとな。
俺達を召喚した奴らが追手を出してくる危険もあるが、人里に行くしかないだろう。
飛行魔法で、どれくらいの距離を飛んだか分からないが、奴らの国から出ていればいいんだが。
俺は改めて周りを見る。
木が茂りすぎていて、遠くは見えない。
建物や道などの人工物はもちろん、目印になりそうな山なども見えない。
えーと、、俺、遭難中?
飛行魔法で飛び上がれば、何か見えるかもしれないが、また吐気が出そうでやる気がしないしなあ。
まずは、出来る範囲で現状を把握するのが先だろう。
今、俺は人気のない深い森の中にいる。
服装は学校の制服と運動靴で、帽子は無い。後は、財布、スマホ、ハンカチぐらいか。
スマホはもちろん通じない。異世界だからな。電源を落としてバッテリーを節約しておく。
「えーと、、、後はどうすればいいんだよ!」
俺は即座に途方にくれた。
しばらくして、再起動した俺は思い出した。
以前にネットで見た、パンイチのおっさんが秘境でサバイバルする動画だ。
水、火、食料を確保して、シェルターを作って雨や寒さをしのぎ、2週間ほどサバイバルする内容だった。
それで2週間安定して回せれば、長期の生活も可能とか言ってた様な気がする。
俺は、改めて周りを見る。
木が多くて、あまり遠くまでは見通せない。取り合えず、川とかの水源は見えないし、水音も聞こえない。
火は木と木をこすり合わせて点火するんだっけ?今、火だけ焚いてもしょうがない気がする。
食料は、、、何が食用になるのか分からんな。異世界はもちろん、地球の野草とかも知らんしな。
シェルターは、水や食料の確保出来る場所の近くの方がいいだろうな?
うん。出来ることが何にもない。知識チートとか全然役に立たねーじゃん!
「はああ、、、」
俺は、ぐったりとして、ため息をついた。マジでどうしたらいいんだ。
このままだと、ガチで遭難して死ぬかもしれん。
いきなり異世界に召喚された挙句、遭難死とか、、
ん?いや待て?異世界だよ。召喚特典のチートがあるじゃんよ。
アホか俺は!動転しすぎだよ!
「ステータスチェック!」
例のウインドウが目の前に現れ、俺のステータスが表示される。
名前:王間 大
職業:魔王
*身体能力*
体力量:B (94%)
魔力量:S (12%)
力:B
敏捷:B
器用さ:C
生命力:A
知力:C
魔導特性:S
*スキル*
剣術
棍棒術
体術
高位全属性魔法
高位無属性魔法
高位探査魔法
高位収納魔法
高位飛行魔法
召還魔法
送還魔法
*能力*
言語変換
あ、魔力がヤバイ程減ってるな、吐気はこれのせいか?
体力はさほど減ってない。
と、言うかパーセント表示な事にモヤモヤするが、、まあ、いいか。
身体能力は、他と比較出来ないから分からないが、低くはない様な気がする。
AとかSとかもあるからな。
こちらの世界に来てから、体が強化されている感じもあるし。これも転移特典かな?
スキルは、やはり習得数が多いんだろうな?
特に、魔法系は多い。しかも「高位」とか付いてるし。
大体、全属性って、属性幾つ入ってるんだよ!ざっくり過ぎる。
そんなに色々出来る実感は無いが、意識を向けると、なんとなく使い方は分かる様な気がする。
あと、この前、ステータスを見た時は、気が付かなかったが、スキルの下に能力欄がある。
そこに、ひっそりと「言語変換」と表示されている。
表示は地味だが、異世界に居る俺には、とてもありがたい能力だ。
能力とスキルの違いはよく分からんけどな。
で、だ。あまり見ない様にしていた、名前の下にある「アレ」。
最初に見た時と変わらず、そこに鎮座する「魔王」の二文字。
「職業:魔王ってなんだよ!」
俺は思わず、突っ込まざるをえなかった。
勇者召還じゃなかったのかよ!
そもそも、この世界に魔王が居るから、呼んだんじゃないのかよ!
魔王増やしてどうすんだよ!
「はあ、、疲れた、、」
とりあえず、「職業:魔王」は置いといて、今は、役に立ちそうなスキルがないか調べないとな。
まず、身を守る方法だが武器がない以上、近接では体術ぐらいしか使えそうにない。
正直、素手では威力が出るとは思えない。
異世界だから、ゲームみたいな高威力が出る可能性もあるが、試す気は無い。
と、なると、遠距離から魔法でいきたいところだが、魔力は低下しているんだよなあ。
なんとなく体感で、火の玉の1つや2つは余裕で撃てそうな気がするが、連射は無理だろう。
防御の魔法の方は、ほぼ反射的に使えるのは召喚の神殿から逃げる時に実証済みだ。
魔力もあまり必要ない感じだから安心だ。どの属性の魔法かは分からんけど。
何にしろ、このままでも一応、身を守ることぐらいはできそうだ。
今のところ、辺りに獣などの気配は無い様だが、この森がどの程度危険なのかは分からない。
おっと、探査魔法ってのがあったな。もう少し魔力が戻ったら使ってみよう。
それで、森の危険度が分かるかもしれない。
後は、サバイバル生活に役立ちそうなスキルだが、、
収納魔法ってのが気になる。
使えそうな物を拾い集めても、運べなければどうしようもない。
サバイバルクラフト系のゲームでは基本だからね。
「アイテムストレージ?」
俺はなんとなく唱えてみた。
と、ステータスウインドウの隣に別のウインドウが現れた。
びっしりと文字で埋まっている。
「収納品のリストか?アイテムが収納されてるって事なのか?なんで?」
アイテムリストは、俺の意思でスクロールも出来た。
結構な量のアイテムが収納されているらしい。
、、俺が入れた覚えが全く無いアイテムが大量に。