改革の覚悟
「ロドリック。お前は、時代を逆行させる気らしいが、その影響を考えたことはあるのか?」
「以前の姿が望ましければ、戻るのは容易なはず。何と言っても前例がありますからな」
「その前例は、代償が必要だったはず。それは、どうするつもりだ」
前ハデイユ候は、そんなことかと言いたげに軽く鼻を鳴らした。
「いつの時代にも、一族の中には、それに相応しい者がいるはず。そう、それに帝国のためでもありますぞ。我が一族の者しか❝魔法使いの器❞にはなれぬゆえ、その対価を求めるのに何の問題もないはず」
相応しい者とはよく言ったものだ。それは、単なる犠牲とも言える。そして、常に要件に会うものが現れるとは限らず、現れなければ、完全なる生贄だ。何を成すにも対価が必要なのだから。
「皇帝陛下の意見は違うようだが」
「初代皇帝がロクシエラ妃を娶って戴冠できたのは、周知の事実。帝国の真の主が誰であるか、知らぬ者がいるとでも?」
その主が魔法を肯定していないのに、昔の栄光を忘れられない一族は、いつまでも過去に囚われる。欲深い者の説得は困難で、ただでさえ、苦手分野だというのに。アルシンダは、密かにため息を吐いた――――だから、一族の長など嫌なんだ。
「時代を変えるのは、改革に他ならない。既に前に進んでいるものを逆行させるのは、前進するより難しく、時に大きな犠牲が出るぞ。その覚悟があるのか」
「公爵閣下。貴女が、一族のために覚悟を決めてくだされば、我ら一同従いますぞ。何より、世界のためにもなる」
そう言うと、一族を代表する重鎮は、如何に昔が素晴らしかったか滔々と語りだす。
神話のような時代。女神が存在し、魔法使いの力が世界に遍く行渡り、人々の暮らしは豊かで望みは全て叶えられた。いつからか女神は姿を消したが、偉大な魔法使いはいまだ健在で、バージェス公爵の意向を常に尊重する。だからこそ、昔のような時代を再現し、一族が世界を掌握することが可能なはずだ。
それこそ、帝国を世界で最も偉大な国として他国を従わせ、頂点に君臨する。
妄想だ。
アルシンダはそう断じたが、実は、実現不可能なことではない。それが一番厄介だった。
「ロドリック。海の魔物がなぜ強大なのか、知っているか?」
「海は陸とは違うゆえ、進化も異なるのでしょう」
「それが、お前の魔法使いの見解か」
「通説では、海は未開の地故と」
「お前の魔法使いは、強力な結界を張っているのに、大きな被害が出る。だが、陸地の結界は最小限でも、被害は少ない。この現象は何故だと思う」
「陸の魔物は、海ほど強大ではありませんからな」
「それが何故か、一度考えてみるがいい。私たちの賭けの結果が出る時に、もう一度、答えを聞かせてもらう」
年若い女公爵は、優雅な動作で立ち上がった。一族の長として、十分説得は試みた。これ以上しつこい年寄りの相手をしていたら、暴言を吐いてしまいそうだ。
それでも、忘れずに最後に一言付け加える。
「その時には、お前の魔法使いの意見も必ず聞かせてくれ。でなければ、この話は無効だ」
おそらく、その魔法使いが全ての元凶のはずだから。




