相応しい実力を 2
「・・・つまり、私では実力不足と言いたのか、ロドリック」
「おお、とんでもありませんとも。侯爵の剣術の腕前、戦術の巧みさ人心掌握力。どれをとっても、文句のつけようもございません――――現状では」
「当然だ。でなければ誰も当主と認めない」
結局、不満と言ってるじゃないか。
内心そう呟きながら、声に出してはきわめて尊大に肯定する。もちろん、それが長幼の序に拘る相手の感情を逆なでするのは、織り込み済みだ。アルシンダは、とある理由により、この一族一の重鎮が気に食わない。ロベルトの父親という点を考慮しても、この男の気に障る言動が取れる機会があれば、決して見逃さず積極的に攻めると決めていた。
「それでこそ、我が一族の主というもの」
しかし、相手もさるもの。内心の不愉快はおくびにも出さずに、鷹揚に賛同する。
「ですが、それは、あくまで魔物討伐に限ります」
あくまでも表面上はにこやかに、礼儀正しく話を進めながら、纏う空気が緊張した。どうやら、ここからが本番だ。
無言のアルシンダを目を細めて眺めながら、いかにも長老然とした態度を崩さないまま、丁寧に言葉を操る最側近の父親の言葉を、無感動に聞き流した。じっさい、それは既に予想していた内容だったから。
「もう一人の魔法使い?」
「そうです。女神は空間を緯糸、時間を縦糸、あらゆる生物とそれによる出来事を挿し糸に世界という運命を織りあげる。この世界は、女神が意のままに創世した壮大なタピストリ―。ご存じのはずだ」
「何を今さら。ただし、如何に女神といえど、全てが意のままというわけにいかないことは、子供だって知っていることだ」
それは、この世界創世の神話だった。一つの世界に、一柱の神。神は、その世を通じて世界を織り上げる。
この世界の創生神は女神であり、女神が創った原初の世界は不安定だった。そのため、3人の魔法使いに世界を安定させるように強大な力を与えたが、3人とも男だっため、世界は不安定なままだった。
そこで、同じ力を持つ女の魔法使いを加えると、漸く世界が安定し、4人の魔法使いは人々に魔法を教え、闇や魔モノたちから世界を守った、というもの。
もう一人の魔法使いがいるのなら、それは男なのか、女なのか。いつ、何のために加わり、いついなくなったのか。
「今更な話だ」
「そう、今更です。ですが、そこまでしてこの世界を魔法で豊かにしようとしたのが、神の御意志ということは間違いない。そうは思いませんかな」
言いたいことは予想がついた。だが、その話の帰結がわからない。今の世の中、その存在が僅かでも感じられるのは、『赤の魔法使いイシャーナ』ただ一人となって久しい。女神の意志はともかく、もう一人の魔法使いがなんだというのか。
既に魔法は衰退しはじめ、創生神である女神は、いつのころからか忘れられて久しい。今、この世界の信仰を集めているのは、女神ではなく、男神だというのに。




