一族の実力者 4
ライエルク帝国建国後、ロクシエラ妃は3人の皇子と一人の王女を出産し、第一皇子と共にバージェス公爵家を興し、旧魔法帝国の領土をそのまま引き継いだ。魔法帝国は、その名の通り❝赤の魔法使いイシャーナ❞が支配する帝国で、魔法や魔術具、魔道具がいきわたり、生活の不便はほとんどなかった。
それが、人の文明の発達に伴い、様相が変化していく。生活していくうえで、魔法に頼らない部分が増えると、高度な魔法を使える者が減少した。燃料を生み出すのに魔法ではなく、木を使い、松明や獣脂を利用すれば、深い森が減少して凶悪な魔物の出現が少なくなった。今や、討伐隊が全滅するほどの大物が出ることは滅多になく、魔法が廃れつつある外国では魔物の被害自体がそれほどないとまで言われている。
バージェス公爵家は、その動きを特に止めようとはしていなかった。魔法使いの加護は厚いが、もともとが❝過ぎた力は身を亡ぼす❞が家訓の家門だ。イシャーナの力を頼みにはするが、それは主に、公爵の責務を果たすため、若しくは命の危機に関すること。事実、歴代の当主の中には脚や腕を失いながらも、義務とばかりに魔物討伐の指揮を執り続けた者、失明して当主の座を退いた者もさほど珍しくもない。だが、それは公爵家に限った考え方で、ハデイユ家をはじめとする分家にとっては、到底受け入れがたい方針だった。
炎は確かに大きな力だが、それを得るためには森を伐採し、長らく保たせるためには脂を得なければならない。しかし、そうして得た炎は、辺りを煤だらけにして時に家や人を焼いて大火を起こし、決して扱いやすいものではなかった。
不便があればこそ、工夫をするという側面はあるだろう。だが、なぜ魔法があるのに、わざわざ不便を託って工夫をするのか。何より魔法があれば、我が一族は世界の頂点に君臨することが出来るのに、なぜ他の者に権力を握らせるのか、全く理解することが出来なかった。
何よりハデイユ家には、伝説の四大魔法使いほどではないが、強大な力を持つ魔法使いが仕えていた。その力たるや、周囲の海に結界を張り、海の魔物の脅威から帝国全体を守っているほどだ。そして、今やハデイユ侯爵領は、最も魔法が残る、おそらく世界一便利な土地。それがロベルトの父、前ハデイユ候の誇りだった。
ゆえに彼は、決して公爵家の、つまり現在当主であるアルシンダの方針を受け入れるつもりはなかった。代々バージェス公爵は、圧倒的な剣の腕と卓越した経営手腕、カリスマ性を備えた人心掌握術により、異論を寄せ付けなかった。だが、今はどうだ?
未だ子供の域を出ない、それも少女だ。今こそ、我が一族が頂点に立つべき時。それが世界のために、❝魔法使いの器❞を、ずっと提供してきたことへの見返りではないか!
たとえ、❝赤の魔法使いイシャーナ❞の意に反することだとしても。それこそが正しい形と、彼はそう信じて疑わなかった。




