19 一族の実力者 3
我ながら嫌味な言い方だと、自覚してはいる。
アルシンダは、5歳で父と死に別れた後、一族の屋敷を1~2年で転々とした。
当時、分家筆頭であるハデイユ侯爵だったロドリックは、アルシンダを迎えて自分に都合よく教育するつもりだったが、乳母を筆頭とする世話係や教育係は前公爵と魔法で誓約を交わしていたため、叶わなかった。
彼らとの契約は、アルシンダが10歳になるまで。その時まで彼らは、アルシンダに必要な養育と教養を、最上の環境で整える義務を負っていた。
ジアンナ・メイアが証人となって交した魔法誓約を、解除できるほどの魔法使いは存在しない。もし破れば、一族にまで累が及ぶほどの強力な魔法契約である代わりに、莫大な報酬が約束され、証人がジアンナ・メイアとあっては、違反する者などいるはずもない。おまけに、手駒となるはずだった息子は、公爵の薫陶を受け、父親であるロドリックをほぼ敵方と見なしている節があった。
現況が不利と見るや、ロドリックは、すぐさま方針を転換した。侯爵邸で引き取るつもりだったのを、一族のほかの分家を転々とさせることにしたのだ。契約は、養育と教育内容に関することだけで、場所の特定はしていない。領地を知るため、などと最もらしいお題目をつけて油断させ、時が来たら手元に戻せばよい――――そう結論づけた。
結果から言えば、あらゆる策略は全くの徒労に終わった。分家に派遣した選りすぐりの❝陰❞の暗躍も、他の当主たちと交した密約も何一つ役に立たなかった。8歳で侯爵邸に引き取ったアルシンダは、既にバージェス公爵としての矜持を持っており、体よくロベルトを帝都に追い払って、かなり手荒く説得したが、決して己の意志を変えようとはしなかった。
それどころか、手ひどく反撃を喰らって、現在の関係は最悪だ。それは、今までの会話によく表れている。修復はすでに不可能だった。
己が絶対と自負している侯爵領を、暗に自分の物だと言われたロドリックは、額に青筋が浮かびそうになるのを堪えながら、表面上は穏やかさを保ちつつ、それとなく牽制した。
「たとえそうであったとしても、いつ何時、誰から指摘されぬとも限りませんからな」
「ほう。つまり、そのような下らぬ指摘をするような小物の思惑を、気に掛けろと」
ああ言えばこう言う。今度こそ額に青筋を浮かべるのを見ながら、内心とは違う、耳あたりの良い言葉を口にする。
「まあ、いい。そなたは私の父と変わらぬ歳だ。年長者の言葉は、尊重することにしている」
そう、彼の顔が引き攣っているのは、こちらの態度だけが原因ではない。あの見事な細工のサークレットは、痛みを抑えてはくれないはずだから―――――。




