18 一族の実力者 2
ロドリック・アルト・デ・ラ・ハデイユは、バージェス一族で最重鎮と言っていい地位にいる。
当主の座こそ息子に譲ったが、当の息子は侯爵領に寄り付かずただひたすらに主家に跪づき、次男三男は長男の補佐こそすれ、なり替わろうなどと微塵も考えていない。よって、侯爵領内で彼の権限は絶大だが、言い換えればそれ以外に影響を及ぼすことはできない。
彼は、常に不満だった。四大魔法使いほどではないが、侯爵家も独自に強大な魔法使いを擁していた。一族の力を合わせれば、帝国どころか世界に多大な影響を及ぼすことが出来る。力あるものは無い者を助け、代わりに敬われ、授けた恩恵に値する対価を得るべき―――――それこそが、高貴なるものの義務というものではないか。
だが、先祖代々公爵家はその義務を疎かにしている。それが、彼、先代ハデイユ候の見解だった。
仰々しい出迎えと、使用人たちの無言の圧をやり過ごしたアルシンダは、通された最上の応接室でロドリックと対峙していた。
「魔物の匂いがする。ここまで入り込まれるなんて、侯爵家の力も衰えたものだ」
「先日、大量の傷ついたベアウォルフが出現したのです。誰かが送り込んだのでしょう」
「それは災難だったな。だが、傷ついていたのなら片付けは簡単だったろう」
暗に、助かって良かったな、と嫌味を言う。大量のベアウォルフに襲われた恨みは忘れていない。
何しろ次から次へと湧いて出るし、アルシンダの剣が効かない。おまけに、群れのリーダーは目くらましで発見できないときた。ロベルトが来なかったら、ジアンナの世話になっていたところだ。
そのジアンナは、寝室に贈ってやれと言ったのに、応接室にしたらしい。それはそれで体面が傷つく、地味な嫌がらせには違いない。
このタヌキじじいには、昔から恨みがたっぷりとある。やり返してはいるが、どうしても後手に回るのは否めない。ここらでケリをつけなければ、今後の計画に大いに差し障る。
「ところで、正式に女公爵となられたのに、そのような態度は感心しませんな。貴女には、帝国最高位の貴族女性に相応しい立ち居振る舞いが求められているのですよ。お忘れなきよう」
さすが古狸。自分の所業を棚に上げて、こちらの瑕疵を論うテクニックは一流だ。
だけど、負けるわけにはいかないから、ここはにっこりと笑って反論だ。
「我が公爵家の当主には、魔物討伐の指揮を執る義務がある。それで理想的な貴婦人とは。寝言は寝てから言うものでは?」
「おお、無論、その場に相応しい、ということです」
そのくらい使い分けろと、好々爺の笑顔で、かなりエグイ要求をしてくる。出来なければこれ幸い、公爵に相応しくないとでも言うつもりなのだろう。全く、とんでもない爺だ。クソジジイ。コッソリ心の中で罵倒しながら、効果的な一撃を練り上げる。
「ここは私のテリトリーだ。なぜそんな必要が?」




