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魔法帝国の黄昏  作者: MAKIYA
 後継者の条件
16/24

16 公爵の条件 3 錬金術を制する者

なかなか話が進まなくて、すみません。

結構な長編になるので、伏線が多くて・・・。

一応、全て回収する予定ですので、お付き合いいただいてる方、気長にお読みいただけると、嬉しいです。


 

「これら全てを、技術で建造するのは、無理です」

 朝早く、別棟を訪問した子爵は、厳かに宣言した。その手に持つのは、昨夜アルシンダとロベルトが整理した、大量の構想図。

 昨日、子爵と打ち合わせをしたアルシンダは、すぐに庭園の大まかな構図を決め、巨大な噴水のデザインをいくつか描き上げた。今日は、それがどこまで可能かを探る段階だ。

「なぜだ?水は宮殿から引き込めばいいし、ポンプは、()()()()()()()()()を埋め込めばいい。簡単な事だろう?」

「それでは、全て技術とは言えません」

「私は、()()()技術で造る、と言ったんだ。水の引き込みとポンプは、噴水とは別だ」

 堂々と詐欺まがいの言葉を吐く主人に、子爵が呆れた目を向けると、

「それに、できないわけじゃない。そうだろう?」

 技術、と言うより理論的には可能だ。ただ、天文学的な金と、気の遠くなるような労力が必要となるから、現実的でないだけだ。おまけに維持するのも容易ではない。こんな庭園(モノ)を一から造ったら、ユクライネン公爵家が没落どころか、帝国が斜陽国家になるかもしれない。


「つまり、うまく()()()造れ、と。皇帝陛下は、何と仰りますかな」

「だから、二つ提案するんだ。技術のみのものと、()()()()()()()ものと。ああ、それぞれ必要経費を計上するのも忘れないように」

 そして、詐欺師の親玉のような笑顔で付け加えた。

「錬金術の発想は、化学の発展に役立つと聞いた。()()()()()()()()()()()()、より良い結果が出るだろう」

「・・・・・・承りました」

 期待していると言われた子爵は、頬が引き攣るのを自覚しながらも、辛うじて愛想よく応えた。


 バージェス一族と言われるが、その名を名乗るのは、実は、公爵家以外には子爵家ただ一つのみ。他の家は、第一皇子が公爵家を興したときに、領地の地名を名乗ることとされた。

 子爵家がバージェスの名を認められた理由は、❝賢者の石❞を創造した錬金術師の、直系の血を引いており、なおかつその才能が受け継がれていたから。そして、イシャーナが錬金術を事実上封じた後も、連綿とその研究を続けてきた。子爵家には、イシャーナが地上に残した、❝賢者の石❞の一部が秘匿されている。

 完成した様々な技術を、時には、近隣諸国へ伝授して実用化し、他国で発展した技術を再び取り入れ、さらに研究するなどして、領地は繫栄してきた。子爵領は、今現在、世界で最も進んだ技術だけでなく、唯一、錬金術が存在する場所だった。

 つまり、アルシンダは、他国との研究を進め、うまく立ちまわって(不自然でないように)()()()()()()()()()()と言っているのだ。

 個人の力量と周囲の状況を見極めて、ぎりぎり実現可能な要求を、当然のようにしてくる。このくらいでなければ、これからの時代、特殊な立場のバージェス公爵などは、務まらないだろう。子爵は、一族の当主に相応しい、と認めた己の眼は間違っていなかったと思った。そうなれば、確認したいことは、一つだけ。


「ところで、お二人は、いつ正式に婚約されるのですか?」


 突然の爆弾発言に、二人して瞬時に固まった。この攻撃は、完全に予想外だった。

「閣下は、女性だと公にされました。昨夜、ここ(別棟)でお二人だけで過ごされたと、聞き及んでいますが」

 二人の様子に、訝し気に問いかける。

 当然だ。帝国の成人は、15才、もしくは社交界デビューとされている。アルシンダはどちらでもないが、先日公爵として正式に認められた。以降は、成人として扱われるのが慣例だ。婚姻年齢は、男は20才から、女は18才前後だが、たいてい10~13才前後で婚約、高位貴族であれば、幼少時から結ばれることも珍しくない。

 現在皇太子の婚約者が、事実上宙に浮いているせいで、高位貴族の婚約が滞っている状態だが、せいぜいあと一年もすれば、動き出す。バージェス公爵の婚約時期としては、決して早くはない。

「婚約はない。そもそもそういう関係でもない。別室で休んだから、問題はないはずだ」

 平然と噓を吐く。どうせ、バレやしない。

「閣下。先ほどのことと言い、それでは、バージェス公爵家の外聞が、大いに損なわれましょう」

 男のはずの公爵が女性だった、技術で造ると宣言した庭園に、錬金術を使う。この2件だけでも他家では一大スキャンダル、それどころか謀反と言われ、処分を受けてもおかしくはない。挙句に、二人きりの館で一晩過ごして、別室だから問題ないとは、己の仕える主家は詐欺師の家系か、と言いたくなる。

「私たちの結婚に、旨味があると思うか」

「それは・・・」

 ない。連綿と、表向きは一枚岩、一蓮托生のような繋がりを保ってきた。だが、他との婚姻を必要としない、それこそがバージェス一族。そして、あと一、二代はそれが通用するはずだ。

「黙っていればわからない。だから、この話は無しだ。私も、以後気を付ける」

「・・・・・・御意」

 当主の意思は尊重するが、頭の中は、疑問だらけ。旨味というからには、一族以外との婚姻を想定しているのだろうが、さほど意味があるとは思えない。それでも、頭を切り替えた。

 17才と12才。他家では大問題だが、箝口令も引いたことだし、ギリギリ、スキャンダルは抑え込めるだろう。権力とは、便利なものだ。


 


「ハデイユ侯爵」

 庭園の構想が決定し、午後の打ち合わせまでの休憩時間に、ロベルトは厩舎に来ていた。

 気まぐれかつ無茶が好きな主が、いつまた何時、突然単騎駆けで帰る、と言い出さないとも限らない。油断大敵、愛馬の準備を怠ることはできない。そんな時、ロベルトにに声をかける少年がいた。

「・・・わざわざこんなところまで、何の用だ?」

「そんな嫌そうな顔しなくても。もちろん、用があるから来たんだよ」

 屈託なさそうに話しかけてくる彼は、今年15才になる、ジェレミー・マーカス・デ・バージェス。バージェス子爵家の嫡男だった。

 爵位からならば、二人の間には結構な身分差があるが、バージェス子爵家は、一族の中で、帝国におけるバージェス公爵家のような位置づけであるため、不敬には当たらない。また、彼は、若くともいくつかの新しい理論を完成させ、錬成陣を組み上げた優れた錬金術師でもあり、先ほどの打ち合わせにも同席していた。


「公爵閣下は、皇太子殿下との婚姻を考えてるの?」

「殿下は、婚約者がいるだろう」

「ふうん?じゃあ、なんであなたとじゃないの?」

「・・・・・・俺を幼女趣味にするつもりか」

「そんなにおかしい年齢とは、思えないけどね」

「今更そんな気にはなれない」

 そう、今更だ。

 10年以上側にいて、常に気を配ってきた。そのせいで、知らなくていいことまで知ってしまった。何も知らなかったら、否、せめて、今まで何事もなく過ごせていたら—―――――そう、思わなかったわけではないが、それこそ今更、だ。何もなかった頃には、戻れない。

「そうなんだ?だったら、僕が名乗りを挙げても構わない?」

「・・・・・・!?」

 顔に出なかったのが、奇跡なほどの衝撃を受けた。

「本当の意味での、バージェス公爵家の分家は、うちだけなのは知ってるよね。だけど、扱いが結構雑で、ちょっと嫌気が差しているんだ」

 もちろん、本家は丁重に扱ってくれるから、表向きは敬意を払ってもらっているけどね。そう言って、無邪気そうに笑う。

「今までうちは、本家の影を引き受けてきた。だけど、時代が変わるなら、分かれた家が一つになってもおかしくないよね」

 

 ❝赤の魔法使いイシャーナ❞は世界から錬金術を奪ったが、その必要性は十分に理解していた。だが、誰にでも扱わせるほど寛容ではなかったし、彼女が守護する公爵家の優位性を保つためにも、扱う者は限られた方がよい。大っぴらになるのもまずいから、表に出る者と、影に隠れる者とに分けた。

 そして、影の部分が、世に注目されるこの時に、文字通り表裏一体となって、栄光を享受したい、ということなのだろう。

 だが、とロベルトは思う。

 目の前の少年は、その代償に、どれほどのものを要求されるのか、考えたことがあるのだろうか。帝国一の大貴族。特別な一族を率いる、若き当主と、その夫。

 豊かで小さな領地の中で、好きな研究をしていれば、地位と財力を維持できる、という立場とは、根本的に違うのだが。

 ・・・・・・まあ、いいか。そう思いなおす。いずれにしても、選ぶのは―――――。

「公爵閣下の選択に、不満はない。好きにしろ」

「よかった。正直、あなたと張り合っても、勝てる気がしなくて。じゃあ、そういうことで」

 言うことは言った、とばかりに去っていく後ろ姿に、ロベルトは、ため息を吐く。

 自分が頭を下げるに足る男。そうは言ったが、別に、年下でも格下でも構わない。それが、彼の主のためになるのなら、大した問題ではない。ただ、相応の覚悟だけは、持っていてもらいたい。切実に、そう思った。



「この規模の噴水は、巨大なポンプが必要ですが、地中に埋め込むのは、管理の面でも、勧められません」

「ポンプの材質は、腐食しやすい。錬金術で、新しい材質を錬成した方が、より確実です」

「ポンプの動力は、魔道具を使う方が、現実的です。高低差を利用した場合、噴水の位置を下げる必要があり、現実的じゃない」

「設備は、巨大な地下空間に収容する。その部分を外国の技術者に」

 午後の打ち合わせは、数人の錬金術師と技術者を交え、白熱した議論となった。その中で、ジェレミーは積極的に発言し、己の価値を示そうとしたが、父である子爵は、別段後押しする様子もなく、現状を変えようという気は、ないように見えた。


 この後、ロベルトからジェレミーの意志を聞いたアルシンダは、面倒そうにこう答えた。

「好んで、厄介ごとに首を突っ込むとは、変わった趣味だ」

「子爵家は、貴族というよりは、職人よりの考え方をするはずなんだがな」

「なら、その地位を守ってやるのが、当主の務めということでいいな」

 ジェレミー・マーカス・デ・バージェスは、数年後、西庭園の噴水が建造され、子爵家の名声が帝国に轟いた時、アルシンダに結婚の申し込みをすることになる。


 

 ともあれ、子爵家に一週間ほど滞在し、必要事項を決めた二人は、よく晴れた朝、ハデイユ侯爵家に向けて出発したのだった。






 

 





 

 

 

 

 


長編って、途中で行き詰ったりしますね。

面白い、続きが気になると思ったら、☆マークいれてくださると、励みになりますので、よろしくお願いします。

また、読みづらいなどご意見ありましたら、教えてください。


ちょっと違う話が浮かんだので、少し、気分転換に書いてみようかなんて、思っています。

だいたい、10,000字くらいの短編になる予定です。

よろしかったら、そちらもご覧ください。

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