13 天涯宮の魔法使い または2人の魔法使い 2
ウン十年前に思いついたお話です。
剣と魔法、錬金術、昔はもっとそれらしいエピソードがたくさんだったのですが、なんだか、ずいぶん違ってしまって・・・(;^_^A
何はともあれ、楽しんでいただけたら幸いです!
――――――世界から錬金術を奪った――――――
その言葉を聞いても、イシャーナは、特別何も言わず、感情の読めない微笑を浮かべて、テオフィルスを見つめている。
「―――ああ、別にそれは構わないんだ。貴女を責めているわけじゃないし、そんなことはどうでもいい」
そう、彼―――彼らはそんなことに興味があるわけじゃなかった。
「わからないのは、創り出しておきながら、取り上げたのは、何故か、ということだ。おまけにご丁寧に、只人には近づけないような魔法を施して、わざわざ地上に欠片を残した」
いくらなんでも、行動に一貫性がなさすぎる。それがずっと不思議だったのだ。
もし、イシャーナの目的が、❝魔法を使わない世界❞ならば、錬金術は結構有効な手段だ。モノを介する分、研究が進めば、魔法を使わずに実現できることも多くなる。
他国では、実際そうして様々な成功例が多くなり、それは新しい分野として、❝化学❞と呼ばれている。錬金術が世にあれば、もっと発展していたはずだ。
魔法を使える者が減少している以上、手順を踏めば誰でも扱える❝化学❞は、人々にとって身近になりつつあるのだから。
「そなたは、思い違いをしている。わたくしは、出来上がった物に魔力を与えただけ。あれを創ったのは、わたくしではない」
そう言って、イシャーナが見上げた先には、紅く輝く巨大な柱石があった。
いつの間にか周囲は一変し、花もテーブルセットも消え失せて、今や何もない大広間に二人は立っていた。
複雑な文様が刻まれ、磨きこまれた黒水晶のような床、何本もの高い柱に囲まれた空間。奥には、結晶石のような深紅の柱石が聳え、その前には玉座のように、荘厳な椅子が据えられている。
「あれを創ったのは、錬金術師だ」
「・・・冗談?僕でも、創れる自信はないんだけど」
「彼の魔力は特殊で、普通の魔法や魔術は使えなかった。」
初めて聞く話だ。
永い時を経て生成される石は、様々な力を内包している。宝石、貴石と呼ばれるものならば尚更、中でも特殊、かつ強大な魔力を秘めた石は、魔石と呼ばれている。
❝賢者の石❞は、本来なら混ざり合うはずのない、それらの大いなる力を持った石を融合、錬成して創られたものだ。
決して人には成せぬ技。それゆえ、長い間、神が創ったと語り継がれ、誰もが求める、奇跡の具現。それが、❝賢者の石❞。
イシャーナは、四人の魔法使いのうち、唯一の女性だ。そのせいか、昔から彼ら三人には使えない、生命にかかわる魔法を使うことができた。何より、それの純度の高い真紅の輝き。
知るものは少ないが、❝赤の魔法使いイシャーナ❞の赤は、火だけを表しているわけではない。生命の火の赤、命の源である血の赤をも表しているのだ。
だから、イシャーナが創ったと思っていたのに、まさか錬金術師が創ったものだったとは!
今よりずっと昔は、人はみな、ある程度の魔法が使えた。魔法を使えなくても、魔法陣を組んで魔術を使って生活をしていた。それができないとなると、生活するのに大いに支障が出る。
なぜなら、生活に必要な魔道具は、魔法、魔術を使うことを前提に作られていたため、どちらも使えないとなると、人に頼って生活せざるを得ない。極端な話、一人では、蛇口から水も出せないのだ。
「彼の魔力は、物質を通常とは違う原理で、変化させることができた。それに気づいたから、錬金術にうちこみ、自分でも魔道具を使えるように、さまざまな方法を試みた。❝賢者の石❞は、その集大成だ」
「つまり、その男は、魔法や魔術がなくても、暮らせるように魔道具を改造した?」
「少し違う。彼が目指したのは、誰かが魔力を注ぐことによって、広範囲の魔道具を作動させることができる―――所謂媒体となる物だ」
それはまた、画期的な発想だ。それまでの錬金術とは、魔力の使い方が全く違う。なるほど、特殊な魔力を持つ者は、その特殊さを理解し、何とかして使いこなそうと試行錯誤を繰り返した、ということか。
「文字通り心血を注いで、石は完成したが、発動しない。その頃、魔力はあっても、使えない人間が増えてきていたこともあって、彼は、自分の命と引き換えにしてでも、完成を願った。――――――だから、わたくしが後を引き受けた」
そこまで語ると、イシャーナはテオフィルスを見つめて、静かに続ける。
「その後どうなったか、そなた達もよく知っているはずだ」
もちろん、知っていた。持てる膨大な魔力すべてを注ぎ込み、それと一体化し、完全に吸収されそうになっていたイシャーナを、彼ら三人が補完の魔力を注ぎ込むことで、何とか自我の喪失を防いだ。
つまり、❝賢者の石❞とは、希代の錬金術師と魔法使い四人が創り上げた、文字通り奇跡の石だったのだ。
「あんな大層なものになるはずではなかった――――――。あれは、人の世には過ぎたモノ。それゆえ隠したが、わたくしだけのものではない。だから力ある者のみ近づけるように、魔法を施し、地上に欠片を残したが・・・」
道理で万能薬だ、黄金を生成できるだ、果ては人造生命体だ不老不死の妙薬だのと、人の世の物とも思えない噂が絶えないわけだ。天涯宮に移す際に残した欠片を、当時発見した者が利用したのだろう。
魔法使いは、己の魔力を、大気に含まれるマナ(魔素ともいう)と融合させることによって、意図する現象を引き起こす。魔力が足りない場合、魔方陣を組んで補う。
魔方陣を組まなければ、望む現象を引き起こすことができない者を魔術師と称し、魔法も魔法陣も使えないが、錬成陣を組んで物を融合、生成し、目的の物を創り上げる者を錬金術師と称する。つまり、全て魔法の亜流だが、目的が同じならば、魔法、魔術、錬金術の順に、必要とする魔力は少なくて済む。
錬金術とは、魔力は少なくとも、物の本質を理解して、生成するに必要な物質を過不足なく集め、正しい錬成陣を組んで発動させる、といういくつもの才能がある者のみが使える、ある意味特殊な術なのだ。
ただし、大掛かりな錬金術は、それなりに負担がかかる。魔法や魔術とは違って、物を利用するため、術者の力で足りればよいが、不足した場合、または術者が未熟だった場合。錬金術が失敗した時、使った力は、数倍になって術者本人に跳ね返る。
その代償は、恐ろしく高くついたはずだ。❝賢者の石❞に纏わる噂は、常に残酷さに満ちている。人の世から隠したのは、そのあたりが原因か。
人の究極の欲望は不老不死、❝化学❞の究極の目的は、人造生命体にあるという。
そのままにしておけば、犠牲者は増え、権力者の醜い争いに発展しこそすれ、本来の願いは、決して叶えられることはなかっただろう。
いつの世も、大いなる力は、大いなる権力に利用される。人々に対する恩恵などは、微々たるものなのだ。
本来の目的を達成するために、イシャーナは文字通り身命をかけ、彼ら三人は、彼女を失わないために、力を貸した。その結果、人の手には余るものが出来上がり、彼らとの契約により、彼女は、天涯宮に囚われている。
「・・・・・・後悔してる?」
沈黙の後、テオフィルスは、さまざまな意味を込めて、短く問いかける。
「世界は穏やかで、わたくしは自分の意志をもって、存在している。――――――感謝しているとも」
返事を聞いたテオフィルスは、嘘吐きめ、と心の中で小さく呟く。
彼は、そもそもイシャーナが、生に執着していないことを誰よりよく知っていたが、口に出しては、こう言った。
「それなら、いい。僕達は、貴女の邪魔をしたいわけじゃない。だけど、貴女の命を脅かすようなことを、認めるわけにはいかない」
「そなた達は、過保護すぎる」
イシャーナは、哀し気に微笑む。それは自分にはその価値がない、と言っているようで、テオフィルスに暴力的な感情を呼び起こす。
「貴女は、彼女のことになると、昔から無茶ばかりする」
だが、テオフィルスは、全く違うことを口にして、❝賢者の石❞を見上げた。
正確には、いつも彼の感情を搔き乱す原因である、その前の椅子に座る者を。
「あの❝お人形❞は、いつかは、生命を持って動き出すの?」
「さあ?その時は、あの姿では無いやもしれぬな」
二人の魔法使いの視線の先には、玉座のように荘厳な椅子に座る、ゆるやかに波打つあかがね色の長い髪、陶器のような白い肌、花のような淡紅色の唇をした、20代と思しき女性。
当代バージェス公爵、ヴィクセル・アルシンダ・デ・ラ・バージェスが、成長したらこうもあろう、と思われる姿が、目を閉じて座していた。
賢者の石の登場ですが、ほぼ勝手に想像したものなので、世間一般とはかなり乖離があります。異世界ファンタジーということで、ご容赦ください。
また、あまり本筋とは絡まないので、期待していた方、申し訳ありません。
結構長い話ですが、結末は決まっているので、お付き合いいただけたら、大変うれしいです!
ジャンル、タグでまだ迷っております。
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