二人で海水浴!! 01
※この短編のお話は、作者の代表作『転生した元魔王の甘々百合生活』の宣伝を兼ねた番外編です。第一章読後推奨ではありますが、初見の方でも読みやすい内容となっております。少しでも本編が気になっていただけたら、幸いです。
この世界には、嘗て人間界を恐怖に陥れた魔界の女王…魔王アリエ・キー・フォルガモスが存在した。
完全なる強さの指標…世界ランク。そのトップに君臨し、個体レベルは脅威の100億越え。
如何なる勇者も、その最恐の魔王を前にすることなく、朽ち果てることを約束された。それは即ち、魔王の御前に居座る数多の幹部たちが強者揃いゆえ、肝心の魔王を拝むことも許されない…そんな環境に足を突っ込むことになるからである。
しかしそんな魔王アリエは、強くなりたかったわけでも、魔王になりたかったわけでもない。ただ、魔族としての人生を送りたかっただけだったのだが、気づけば彼女は世界最強の魔王へと成り上がっていた。
魔王としての人生に、何の価値も見いだせない。そう思っていた彼女を最も苦しめたのが、彼女を守護する魔族や幹部が全員男だということ。
昔から男に対して恋愛感情の一つも芽生えなかったアリエは、若くてイケメンな魔族たちに囲まれたとしても、カッコいいとは思うものの、トキメキはしない。
なぜ?そんなの、理由は一つに決まってる。
――魔王アリエは、女の子好きなのだ…。
今現在、世間を賑わせている大きな話題。それは、魔王アリエに関するものだ。
前述の通り、魔王アリエ・キー・フォルガモスは、嘗て存在した最恐の存在。人間界に出回る新聞には、『世界最恐の魔王、アリエ・キー・フォルガモス死亡!!』という記事がデカデカと大見出しで書かれている。
人間界は、当然歓喜に包まれた。世界一の嫌われ者であった魔王が死んだのだから…。
だが、中には彼女を死を信じない者もいた。
きっとどこかで生きている。あの人が死ぬわけない。またどこかで復活してくれる…。
そんな声もちらほら上がり始めていた頃、人間界の端くれのとある浜辺で、二人の少女が平和にバカンスを楽しんでいた。
「ほら、こっちだよ!アリア!!」
「うん、今行くよ!」
美少女に手招きされ、名前を呼ばれた黒髪の女の子が砂の上を裸足で歩く。
見た目は、只の人間の女の子。しかしその中身は、同性の女の子に対してドキドキしてしまう、嘗て最恐と謳われた存在…。
(ハァ~、まさか人間の女の子と一緒に海で泳ぐことになるなんて~!もう、感激!!今日は最高の海日和だよ~!!)
そんなことを考えながら、間抜け面を晒す彼女の名は〝アリア〟。元最恐の魔王である…。
―――――――――――――――
海へ行くことになったきっかけは、同居人であるルナが部屋を整理していた時に、押し入れからある物を見つけたからであった。
「ごめんね、アリア。押し入れの整理、手伝ってもらっちゃって」
「いやいや、この家はもう私の家でもあるから、言ってくれればいつでも手伝うよ」
いつ見ても、可愛らしさ全開の茶髪の美少女、〝ルナ〟と隣り合わせに座り、彼女の衣服を一緒になって分別する。今は季節の変わり目で、冬服から夏服への衣替えの時期だから、その準備を手伝っている次第だ。
まさか、人間の女の子と一つ屋根の下で二人暮らしをしてるなんて…。前世の私じゃ考えられなかったな、こんなシチュエーション。
ルナの横顔を見てドキドキしつつ、洋服を畳んでいく。そんな時、押し入れの隅の方に畳まれてあった物を見つけ、ルナは懐かしく思いながらそれを広げた。
「あ、懐かしいわ~これ。小さい頃、よく着てたのよね~」
「それ、水着??」
可愛らしいフリルが付いた、ワンピース仕様の白い水着だ。
見たところ、かなり小さめ。子供の時に着たことを思い返し、ルナは悲し気な顔を見せる。
「昔、親と一緒に海へ遊び行ったっけ…。それっきりね、これを見るのは…」
「ルナ…」
「記憶には新しくないけど、なんとなく覚えてる。また、行ってみたいわ…海」
ルナの両親は、7年前に亡くなっている。その件については、大方私が関わっているから、よく知っているんだけど、彼女の辛さを全て理解した訳じゃない。
私が友達でいてくれればそれでいいってルナは言ってくれたけど、私だって友達である以上、両親を思い出す度に辛そうな表情を見せる彼女を放っては置けない。そう思い、私はある提案を持ちかけた。
「ねえ、ルナ…。行ってみない?海…」
「え…?」
「あ、いや…今すぐにじゃなくていいんだ!その…両親の事とか、まだ気持ちの整理が出来てないだろうし。過去を思い出して辛い思いをするなら、止めておいた方がいいし、ええっと…」
上手く言葉が見つからず、あたふたする様子の私を見て、ルナはクスリと笑った。
「ふふ…アリア、ほんっと可愛いんだから」
「かわっ!!?」
「ごめんね、変なフォローさせちゃって。でも、すっごく嬉しい!アリアが海に行こうって、誘ってくれたことが」
「ルナ…」
「じゃあ、行こっか!海に!」
「ふえ…?」
「ふえ、じゃないでしょ?アリアが言ったんじゃない。海へ行こうって」
まさかこんなに早く返事を貰えるとは思ってなくて、呆けた顔をしてしまう。そんな私の手を取って、ルナはにっこり笑った。
「思い立ったが吉日ってね。さてと、二人分の水着買わないと!ほら行くよ、アリア!」
「う、うん!」
お互いの手が触れて、心臓が脈を打つ。
こうして、私たちは海へ遊びに行くための準備を始めたのだった。