1-4 生まれ変わり
「お茶をお持ちいたしました」
セリーナの目が怖いので、あまり頻繁にロンに関わる仕事をするわけにもいかない。とりあえず当てられた仕事をしながら、機会を窺うことにした。
そうしてやってきたお茶の当番。ロンに直接会うのは一日ぶりだった。
片手でお盆を持って、扉を叩いてから伺いを立てる。
「入って」
ロンの声がして、扉を開けて中に入った。
「ジャネット」
お茶を運ぶのはもう何度もしているのだけど、今日の彼はちょっと違った。机の上の書類から顔を上げてにこやかに微笑む。
作り笑いは綺麗だけど、ちょっと胡散臭い。
ロン、ちょっとおかしくなっただけじゃなくて、腹黒にもなってしまったのかしら。
まあ商人は多少腹黒じゃないとだめらしいけど。
お父様が私みたいに隠し事ができない性格は商人に向いてないって言った。だから、私はどこかにお嫁に出すと……。
そう言えば、私には婚約者がいたわね。お父様の商売仲間のガント家の長男。私と同じで嘘がつけない、腹芸ができない感じで商人になれるのかなあと心配してたっけ。無骨な感じで商人というよりどっちかっというと兵士が似合う感じだったわね。
懐かしい。確か同い年だったから、今はきっと家庭を持っているわね。
少しだけ寂しい気持ちがするけど、私は死んだ存在。だから仕方ない。
「ジャネット、お茶を」
「あ!申し訳ありません」
ぼんやりとしていて、カップにお茶を注ぐのを忘れていた。
「すぐ淹れ直してきます」
「必要ないよ」
テーブルに置いたティーポットをお盆に戻そうとしていると、止められた。
「ほんの少し時間がたっただけだ。冷めてないよ。それよりもちょっと話し相手になって」
「は、はい」
何やら空色の瞳が物騒に輝いているように見えて、気が引けたけど私は返事をして、そのままカップにお茶を注いだ。
「ジャネット。生まれ変わりって信じる?」
え?
唐突すぎて反応ができなかった。
立ったまま固まっている私に構わずロンは続ける。
「なくなった魂はそのまま天に昇り神の世界に住むと言われているけど、ごく稀にその魂が再び戻ってきて新しい肉体に宿ることがあるんだって」
彼は執務用の椅子からお茶が用意してあるテーブルに移動して、ソファに体を預ける。そして片手に持っている本を私に見せた。
『前世を信じますか?』
え????
なんて題名なの?
っていうか、そんな本があったんだ。
ということは私みたいに前世の記憶がある人がいるってこと?ロンの話を信じると、天から魂が戻るって新しい肉体に宿るってことよね。
「この話はとても興味深いんだ。もし、もし姉上の魂が再び戻って新しい肉体に宿っていたら、そう想像すると居ても立っても居られない」
「……本当の話なのですか?」
「残念ながら、これは作り話だ。だけど可能性がないわけじゃないだろう?」
ロンは私をじっと見つめていた。
空色の瞳は真剣そのままで、本当にその可能性を信じているみたいだった。
っていうか、実際そうだし。
「もし、生まれ変わった姉上にあったら、お詫びをしたい。そして会えなかった十七年の溝を埋めたい。屋敷に戻ってきてもらって前の部屋に住んでもらって、ずっと一緒に暮らすんだ。姉上がいたら僕は何もいらない」
……だめだ。
もし私が生まれ変わりだというと、まずいことになる。
そんな予感がして、私は口を噤む。
「ジャネット。君はどう思う?生まれ変わりはあると思う?」
「そ、そうですね。そういうこともあるかもしれません。ただ、旦那様はお姉様に執着しすぎではないでしょうか?あなたの未来は、あなたのものです。お姉様はあなたがそのようになってしまうのを望んではいないはずです」
「どういう意味?」
「あの、その」
ロンが見たことがないような剣呑な表情をしていて、怖くなった。
私が知っているロンはとても可愛くて優しい弟。
目の前の彼は私の知らないロンだった。
「……君がそう言っても僕は変わらない。僕は姉上を思い続けるよ。だって、誰にも迷惑をかけていないだろう?僕は、ハレット家の跡取りとしての義務を果たしている。あ、ただ僕の後続だけが問題だけどね」
ロンはふわりと微笑む。
とても綺麗で見惚れるくらい。
でも怖いと思った。




