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その頃、メリルは実家で父親に嫌味を言われていた。


「それにしてもお前、もう少し早く戻ってくれば良かったのに。あいつが結婚する前に。結婚前なら、新しい女がいても取り戻せたろう。子供まで生まれたらもう手遅れだ。あの男と一緒になるために、お前は大学進学しなかったし、ずっとアルバイトで支えて来たのにな。全部無駄。骨折り損のくたびれ儲けだ」


それはメリルも重々感じているが、口に出さないようにしてきた気持ちだ。

父親に溜め息混じりに代弁されて、メリルの気持ちはずしりと重さを増した。

「 ごめんなさい」と謝るしかなかった。


自室に引っ込んでから、指輪の悪魔を呼び出した。


「ねえ、思ったんだけど。願いを叶えて貰う前に周囲に事情を話して、失踪する期間を伝えておくことって出来ないの? 5年待ってて、必ず戻るからって」


「願い事に関することは、人に話しちゃいけない。別の理由をつけて、待っていてって言うのは自由だけど」


「そうなのね……。だけど、ロイドを助けたときの私はそうしなかったのね」


「だね。切羽詰まってたし、俺のことも幻覚か夢かと思って、半信半疑だったからね。指輪から悪魔が出てきて、時間と引き換えに願い事を叶えるよ、なんて普通すぐに信じられないよ」


ワガナオはそう言い、笑った。


「でも1度叶えた後だから、今は信じられるでしょ? 他の人には、そんなこと話しちゃ駄目だよ。頭のおかしい人と思われちゃうよ。それにもし信じたとしたら、君を恐れるだろうね。悪魔に寄生されてる契約者なんだ。君から指輪を外させて、また神殿にでも納めるか、君から指輪を奪って自分の物にしたいと考えるんじゃないかなぁ。どちらにしろ、契約者が死なないと指輪は外れない。殺されちゃうよ?」


愉快そうに笑うワガナオを見て、やはり悪魔なのだなと思った。


「で、次の願い事は決まったの? 度々呼び出して、話だけって。俺は寂しい君の話し相手になるために、悪魔やってるんじゃないんだからね。願い事があるときだけ呼び出してよ」


「分かってるわよ」


悪魔の言い草にメリルは少しむっとして返した。


「もし、今後何も願わないままだったら?」


「願い事は無理強いしないから、そうなっても仕方ないけど、暇だなあ。まあ俺はふて寝するかな。何もしなくても、どうせ100年以内に君死ぬでしょ? そしたら指輪は自然に外れるし、また誰かと縁が繋がれば、新しい契約者を得る」


なるほど、とメリルは思った。

自分がいつか死ぬときに備えて、この指輪に関する遺言は書いておいたほうが良さそうだ。

願い事を叶える悪魔のことは書かずに、「一緒に棺に入れて埋葬してください」ぐらいが良いだろう。


そうなる頃の自分は、何者になっているだろう?

この指輪を使えば、前にワガナオが提案したような逆ハーレムを築く大金持ちにもなれるだろうし、国家権力者にだってなれるかもしれない。ただし、時間と引き換えに。


もしくは、生涯独身の寂しい独居老人になっているかだ。


階下から、妹が母親に文句を言っている声が聞こえてきた。

記憶喪失といっても検査で異常なく元気なのだから、甘やかしていないで働かせろと主張している。メリルのことだ。



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