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願い事

とりあえず今日のところはワガナオに引っ込んでもらった。さっきの願い事は無しだ。

話を全て聞き終えた後に、そのことを忘れるために1ヶ月を失うなんて馬鹿馬鹿しい。


眠れなくなったメリルは、ベッドに寝転んで沢山考えた。

叶えられない願い事もあるが、大抵の願いは叶えてくれるという指輪の悪魔。

代償は軽くない。

ロイドの命を救うため、メリルはすでに5年分の時間を悪魔に捧げてしまっている。


でも、とメリルは思った。

中身は20歳だがもう25で、助けた恋人はすでに他の女性と家庭を築いている。

子供も生まれ、目標だった軍人にもなれた。

それに比べて自分には何もない。

恋に破れ、日常を失い、何も持たず実家に出戻り。親孝行できず、妹には疎まれている。


(でも、私にはこの指輪があるわ)


数年を犠牲にすれば、このまま生きるよりも確実に良い人生が掴める。

何年捧げることになるかは、願い事の程度次第だそうだから、またワガナオに聞いてみれば良いことだ。


(ロイとよりを戻したい、という願い事も叶えてくれるのかしら)


メリルは考えた。

ロイドを心変わりさせるか、ロイドの妻を心変わりさせるか、もしくは……不慮の事故で。恐ろしい考えが浮かんで、ぞっとした。


好きな人の奥さんに死んでもらおうなんて、一瞬でも思い付いたことが怖かった。

2人には生まれたばかりの子供がいるのだ。

ロイドのことはもう諦めなくてはいけない、絶対に。


(そうよ、私も新しい恋をして。素敵な人が現れて、私を好きになってくれたらいいのに。それをワガナオに願う?……ううん、好きになってくれるだけでは不安だわ。好きになってくれて、結婚したい。素敵な人と出会って、愛し愛されて、プロポーズされて、幸せな家庭を築きたい。そうしたらもうロイのことも忘れられる……)


翌朝呼び出した指輪の悪魔にそれを伝えると、ずいぶん困った顔をされた。


「出来ない願い事?」


「いや、願い事の内容が抽象的すぎるよ。『素敵な人』ってのがまず分からないし。好みってあるでしょ。だからって好みをあれこれ並び立てて、そういう人を出してくれって言われても無理だよ。俺、神様じゃないもん。人間は創れない。そういう人間を探してくれってのも無理。実在する『この人』ってのをちゃんと指定してくれたらいいけど。俳優の誰某とかさ。あと『幸せな家庭』ってのも、何を幸せに感じるかは人それぞれじゃん。絵に描いたような仲良し家族に見えても、実際はどうか分かったもんじゃないし」


見た目年齢10歳くらいのワガナオだが、言うことがいちいち達観している。

確かに、とメリルは唸った。


「じゃあ具体的に『この人と結婚したい』っていう願いなら、叶えてくれるのね? その場合、対価はどのくらいなの?」


「そうだなぁ、それも相手によるかな。困難な相手ほど、対価は多く払ってもらうよ」


「困難な相手って? それも抽象的ね」


「その都度聞いてよ、ターゲットが定まったら。あの人はいくら、あの人ならいくらって教えてあげるから、それで決めてくれればいい」


「じゃあ参考までに。映画俳優の、ロビン・アンダーソンなら?」


「ちょっと待ってね、調べる……ロビン・アンダーソン、と。へえ、彼みたいなのタイプ?」


「じゃないけど、例えばの参考値で聞いておきたくて」


「この国の人気俳優だね。3年でいいよ」


3年か。もし彼の大ファンなら、悪魔に3年捧げるくらいで結婚出来るならと喜んで飛び付きそうな気もする。


「で、どうする?」


「考えとくわ」


「了解。けど、別に結婚イコール、女の幸せじゃないと思うなあ、俺は。いい男を好きなだけはべらせて、一生遊んで暮らせるだけの大金が欲しいっていう願い事でもいいんだよ?」


悪魔はにっと笑った。




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