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王太子の結婚



それから四半世紀近くの歳月が流れた。

ロイドは順調に軍で出世し、国王の近衛兵団の副隊長になっていた。

この国は絶対君主制ではく、立憲君主制であり、国王の権力には制限があるが、それでも国王は国で最も偉大なる存在だ。

その君主を直接護衛する近衛兵団は、軍人の中でも特に名誉ある職だ。


国王には2人の王子がいる。

その兄のほう、キース王太子殿下がこの度結婚される。

結婚式前に祝賀パレードが行われることとなり、ロイドは新郎新婦が乗られるオープンカーを先導する騎士団に配備された。

国の伝統的な騎士団の制服に身を包み、煌びやかな馬具をまとった白馬にまたがり、王都の大通りを闊歩するのだ。


それは王族の結婚に際して、伝統的に行われてきた祝賀パレードだが、今回はひどく異例な点があった。

王太子のお相手が、どこの馬の骨とも分からない娘なのだ。


半年ほど前のこと。王族の私有地である避暑地の山林で、狩猟をしていたキース王太子殿下の放った弾が、民間人に当たってしまったのだ。

王族の私有地に無断で入り込んでいた者が悪いのだが、だからといって放ってはおけない。撃たれたのは、とても美しい若い女だった。

王子の一団はその娘を王宮へ連れ帰り、王族お抱えの医者へ診せた。

幸い、弾は肩を掠めた程度だったが、擦過傷から発熱し、娘は何日か寝込んだ。


キース王太子は毎日娘を見舞い、献身的に世話を焼き、彼女の回復を心から祈った。

その過程で恋が芽生えたそうだ。

何ともロマンティックな話だが、一国の王太子ともあろう御方が、あまりにもころりと簡単に絆されてしまった印象は拭えない。


相手の娘が記憶喪失者で、どこの馬の骨とも分からない素性であったことも、王室や世間を騒然とさせた。


何しろ王太子には、婚約者がいたのだ。

王族の結婚相手の候補は、何年もかけて数人に絞られ、さらに何年もかけて1人が選ばれ、正式なまどろっこしい手順をいくつも踏んで、王太子が25歳になる年に結婚することが決まっていた。


しかしそれを待たずして、キース王太子は狩猟中に撃った娘と「運命的な出会い」を果たし、何年も積み重ねていたものを全てぶち壊して、電撃結婚を決めたのである。


それは驚くほどトントン拍子に進んだ。

泥沼問題化することもなく、王太子の熱意に負けた形で国王陛下も議会も承認、国民も祝福、そして祝賀パレードへと流れるように決まっていった。

驚くべきことだ。

しかしまあ、おめでたいことだとロイドも1国民として思った。


王太子妃となられる女性と初めて顔を合わせたときには、不思議な気持ちがした。

どこか懐かしく思い、心の奥のほうに仕舞いこんでいる何かをくすぐるような、変な気分がした。


(懐かしいって……変だよな。俺の娘とそう変わらない年齢だ。こんな絶世の美女を一目見たら、忘れることはないだろうし)


特別な会話はなく、パレードの警護にあたる任務上の流れで紹介され、頭を下げただけだった。

その後、祝賀パレードは盛大に行われ、大勢の祝福に包まれて、王太子殿下のご結婚式はつつがなく終わった。

純白のウェディングドレスを纏い、終始にこやかに、手袋を嵌めた手を振っていた花嫁の幸せな笑顔が目に眩しかった。


しかしその翌日、王太子妃は忽然と姿を消してしまった。

キース王太子の話によると、初めての夜を迎えた翌朝、目覚めると妃はいなくなっていたそうだ。

王宮にはロイドの所属する近衛兵団を筆頭に、あらゆる要所に護衛、門番がいるのだ。

彼らの目をくぐり抜けて、不審者が侵入できるはずはない。


王太子妃の失踪事件に奔走しながら、ロイドは元婚約者メリルのことを思い出さずにはいられなかった。

結婚するはずだった初恋の女性は、もうすでにこの世にいない。



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