ー第6話月刊オカルトハンティング
ー第6話月刊オカルトハンティング
「大丈夫ですか?。」
メガネを掛けた丸顔が合川を覗き込んでいた。体は痙攣を起こしたように震えている。なんとか半身を起こそうとすると、男が手伝ってくれた。
「ケガは?有りませんか?。」
合川は震えながら、体を見渡した。
「とりあえず。手足は残ってるようです。」
「私は二荒清明と言います。雑誌に記事を書いてます。あなたは?。」
二荒は、柔らかく丁寧に言った。低くよく響く声だった。
「警視庁の合川と言います。あなたに聞きたい事が有りまして…。」
「刑事さんですか?。何でも聞いて下さい。」
「少し落ちつかせて下さい…。」
横を見ると、柘植は完全に失神していた。
競馬場関係者が集まって来て、大騒ぎになった。彼らは18頭もの馬がどうしてコースに入ったのか記憶をなくしていた。うろたえる彼らに、馬の暴走の件は口外しないようにと落ち着かせた。ただし、友近信治の爆死は愛知県警を呼ばない訳にはいかない。
気がついた柘植に、後の処理を頼んで、合川は二荒清明とカメラマンを桶狭間ポイントに連れて行った。友近信治の写真を撮らない事に対する交換条件として…。
「とりあえず、取材しても良いですか?。」
二荒もカメラマンも、取材を始めた。
二荒はハロン棒の周辺を歩き回りながら、レコーダーに向かってしゃべり続けていた。その様子や二荒が示す場所を、カメラマンは丹念に撮影する。19時過ぎに、愛知県警が現場検証を始めた。
それを見て、二荒は取材を切り上げると言った。
「二荒さん。私は警視庁オカルト対策室の室長を務めてます。ご協力を御願いしたい。」
二荒は黙ってうなづいた。合川は右手首を見てから、もう一度二荒を見つめた。数値は0%だった。
現場検証が終わるのを待って、柘植の車に二荒も含めて乗り込んだ。塚ポイントと鳥羽伏見ポイントの話をすると、二荒は深くうなづいた。
「…脅迫を受けてまして。私はミステリーレポートと云う雑誌に連載を持ってまして、心霊スポットを回ってるんです。もうひとつライバル雑誌がありまして、オカルトハンティングと云う雑誌なんですが…その編集長が私に取材をやめるように、しつこくミステリーレポートの編集部に電話を掛けて来てるんです。」
「何と?。」
「二荒を心霊スポットに入れるのをやめろ。二荒が死ぬぞ…と。まぁ、ライバル雑誌なので、編集部はそのつど言い返してあしらってたらしいんです。私は携帯を持ってませんから、まったく知りませんでした。でも、鳥羽伏見ポイントの取材の後…編集部に呼ばれて、気をつけろと言われました。取材妨害が有るかもしれないと…。」
「オカルトハンティング…ですか。事情聴取してみましょう。ビックネームの殺し屋3人に、二荒さんを殺害するように依頼してたかもしれません。」
柘植が続けて言った
「でも…3人共事故死した。するはずのない凡ミスを犯して…。」
二荒は目を閉じていた。その様子を見て、合川は言った。
「二荒さんは、どうお考えになります?。」
「霊障だと…言わせたいんですか?。刑事さんなのに?」
「私達は、霊を空間にメモリーされた電気信号として計測する技術を持ってます。友近信治が爆死した時、あの空間には96%の霊魂がひしめいていました。爆弾のエキスパートに有りえない行動をさせるには、充分です。」
そう言うと、二荒は驚いて言った。
「それは、マクナマラ式霊測器ですか?。マクナマラ エレクトロニクスの実験室で研究されていると言う噂の?。」
合川はチラッと右手首を見た。確かに、英語でマクナマラとロゴが入っている。
「そうみたいだ。」
二荒に向かって、表示版を見せた。
「これは、凄い。警察も心霊現象を認めたとはね。でも、何故霊は、殺し屋と刑事さん達を襲ったんだろう…。」
「二荒さんを救う為と云うのは?」
「何故、霊が私を救うのです?」
「心当たりは?。」
「バチは当たっても感謝されてるとは…思いませんね。」
合川は、この時右手首の霊測器が0%を表示している意味に気付かなかった。
ー次話!
第7話ラストトラップに続く…。




