ー第1話左遷(させん)
ー第1話左遷
合川は本来なら、出世コースに乗って地方の署長をやっているはずのキャリアだった。それが、警察庁の派閥争いに巻き込まれた。争いに勝った派閥の仕返しのとばっちりをくらい、この訳のわからない対策室に室長として着任させられた。
ー警視庁オカルト対策室室長を命じる
辞令と一緒に渡された紙には、対策室の場所と、部下の氏名と略歴が2名分に、対策室の目的が書かれていた。
それによると、対策室は警視庁庁舎地下7階と有った。
「7階のどこだよ。だいたい、庁舎って地下7階も有ったか?。」
合川は地下鉄に揺られながら、つぶやいた。対策室の目的に目を落とす…。
ー本年度より新設される当オカルト対策室は、各事件現場より、超自然現象として報告される事案を収集し、解析し、対策を講じる事を目的とする。
「どこの現場がそんな事を報告してるんだ?。有り得ない。」
合川は言いながら、部下の略歴に目を移した。
皆川時政警部補
警視庁交通機動隊勤務5年
平野俊太巡査
警視庁電算機犯罪課開発班勤務7年
「これじゃあ…何もわからん。」
合川は紙を背広のポケットにたたんで入れた。
霞ヶ関に向かう通勤ラッシュにもまれながら、合川は警視庁庁舎に飲み込まれて行った。
合川敬介27才。公安部課長から県警の署長に栄転するはずだった。しかし、彼を引き立てていた警視が、警察学校校長に左遷されたと言う噂が流れて3日目に、封筒がデスクに届けられ自分も失脚した事を知った。
封筒のメモには、4月1日にオカルト対策室に出勤しなければ、辞表を提出せよと書かれていた。
合川はどんな派閥抗争が有ったのかを、知るポジションに無かった。ただ、失脚した警視からメールが送られてきた。
:Message
合川。オカルト対策室長を辞退するな。我々の最後の希望だ。
合川には意味不明だった。我々とは誰なのか?封筒の中身は何も答えてくれない。
合川は庁舎のエントランスに入って、エレベーターの上を見た。
「やっぱり地下は3階までだ。こりゃあ辞表を書けって事か…。」
いぶかしげに合川をよけて、エレベーターに向かう人並みに背を向けた。
辞表を提出する時に詳しい事情が判るかもしれない…合川は外に向かって重い足を上げた。
その背中に走ってくる足音がした。
170cmくらいの陸上自衛隊員風の男が、合川の前に回り込んできた。
「皆川時政警部補です。合川敬介警部でしょうか?。」
「うん?。そうか皆川か?。せっかく着任したが、対策室は地下7階だ。まだ、これから掘るらしい。できてるのは、まだ3階までだ。」
皆川は輝くような笑顔で笑った。こういう部下は得ようとして得られない。最悪な状況下で、士気を保つ為には必要不可欠な人員だ。
「ここでは詳しくご説明できません。ご案内します。こちらに…。」
皆川は半身になって、合川を見ながら促した。
皆川は、メインエレベーターの右手奥に向かって合川を導いた。
トイレがあり、その横に廊下が伸びている。庁舎のメンテナンス用の部屋があり、作業員以外の立ち入りを禁じていた。
「まさか、フロアのモップ掛けか?仕事は?。」
「ここじゃ有りません。やらせれば、超一流の仕事をしてみせますが…。」
皆川はメンテナンスルームを通り過ぎて、さらに奥の作業用エレベーターの前で止まった。
合川は上を見た。
「ここはまだ4階までみたいだが?。」
「ご心配なく。乗りましょう。」
開いたエレベーターに向かって皆川は言った。
扉が閉じると、皆川はカードを取り出して、停止階パネルの下側に当てた。
ヒュッ。
とその部分が開いて、5 6 7のボタンが現れた。
皆川は7を押した。
「どういう秘密基地なんだ?。国会は知ってるのか?。」
「知りません。知ってるのは、総理と警察庁長官。命令系統としては、内閣調査室の直轄になります。…着きました。」
エレベーターを出ると、警備員の居るゲートがあり、そこで合川は自分のカードを渡された。
「着任。おめでとうございます。お待ちしておりました。」
4人の警備員に敬礼で迎えられた。
厚いゲートが開いた。広いフロアを何だか分からない電子機器が埋め尽くしている。その間を20人近い人員が動いている。これは左遷なんてものではない。
何かの最前線に送り込まれたのだ。何か深刻な事態が進行している。そして、準備はまったく整っていない。
何故なら。室長の自分が、何が相手であるのかも知らないのだ。
ー次話!
第2話自損事故に続く…。




