卵が先か鶏が先か
遠い遠い宇宙の彼方。
ある時限、ある時空でその世界はひっそりと滅んだ。
神が存在する世界だ。
人に加護を与えた神々が居た。
それは奇跡、神秘、魔法と様々な呼ばれ方をした。
一概に言えるのは、神々が齎したものであるということだった。
だから思い違いをした。勘違いをした。
加護を与え、信仰の対象となった神々は履き違えた。
『人々は我が意のままに動く人形』だと。
互いに下界に降りて国同士を争わせた。お告げなどと嘯き、悪感情抱かせ、どちらが勝つか賭けた。
多くの国々が神々の『お告げ』に踊らされ、憎しみ合い殺し合った。
神々が人を操って一万年過ぎた。
理不尽に神の『お告げ』で故郷を奪われた少年が居た。
少年は恨んだ。
神を、国を、恨んだ。
家族が居た。
友人が居た。
……恋人が居た。
一万年の時を経て初めて投じられた一粒の礫であった。
大海に投じられた礫は小さな波紋を生むだけ。
後は波に掻き消されて消えていく──はずだった。
波紋は波紋を呼んだ。
『何故祝詞を捧げていた我らを神は救わなかったのか』
『一生を神に捧げた報いがこれか』
『真面目に生きていれば幸せで居られるのではなかったのか』
小さな波紋は小さな波紋を呼び、軈て大きなうねりとなった。
時代の流れもあっただろう。
人々の欲望が膨れ上がったのも原因かもしれない。……或いは知を得たからか。
なんであれ、ただ『お告げ』を聞くだけの人形ではなくなった。
神に怒ることを覚えた。
始まりの少年は『神滅』という組織を作り、神々と神殿を撃つことを御旗に、理不尽に奪われた者達を率いて各地に散った。
『神滅』の組織員は神の加護を嫌悪した。
誰一人、奇跡も神秘も魔法も使わなかった。
斬られた腕を繋ぐ奇跡はない。
飲めば病を癒す神秘の秘薬はない。
掌から炎を出すことも、枯れた大地に雨を降らすこともない。
死にゆく者を優しく見守った。よく頑張ったと労った。
病に効く薬を作った。試行錯誤を重ねた。
自分達の力で火を起こし、大地に大河から水路を引いた。
始まりの少年から広がった波紋──大きくなったうねりは二百年の時を超えて神に届いた。
人々は神の加護に頼らなくなった。
それは世界規模では小さな村程度に過ぎなかった。
『神滅』を名乗りながらも、同じ大地に立たない者には手が届かない。
しかし、神殿はそこにある。
『神滅』は標的を神殿に絞った。
関わりの深い浅いは関係なかった。ただ出入りした。それだけである。
多くの信者が殺され、廃れた神殿も十を超えた頃──神の一柱が滅んだ。
ただ、友神とも呼べる者と談笑している最中であった。
『ある女に夫と姿を偽って抱いてやった』
『神の子を孕めて本望だろう』
そんな下卑た話題だ。
天界と自らが呼ぶ世界は混乱した。
神は死なない。病には掛からないし傷を負っても秒で治る。
寿命は存在しない。
不老不死である。
そう思われていたからだ。
それを皮切りに、一柱、また一柱と、神が滅んだ。
こうなれば恐慌状態だ。
死を知らぬ神々は為す術なく滅んだ。
知らないからこそ怖い。
知らないからこそ対処出来ないでいた。
そして数百居た神は片手で数えられる程にまで減った。
『神が人を産んだのではない』
途方に暮れる、残された神々にそう告げた者が居た。
『人の思いが、祈りが神を産んだのだ』
そう続けた。
……少し冒頭に戻ってみようか。
思い違い、勘違い、そう前授したのを覚えているだろうか?
神々は人を生み出したのは自分達である。そう考えた。
『我が子らよ』と『お告げ』の冒頭で語れば、人は我が父と、母よと頭を垂れた。
だから勘違いした。いや、錯覚と呼ぼう。
神は存在する。
その世界を作った創造神は確かに居る。
だが彼らではない。
彼らは人々が祈りを捧げ続けたその先に生まれた『概念』でしかない。
『概念』が思考を得て実態を得た。それだけの存在に過ぎなかった。
奇跡とは、神秘とは、魔法とは、神々が与えた加護ではなく、人々が信じて得た人々の思いの力であった。
であらば、人々が使わなければ?
使わない道具の仕舞い場所を覚えているだろうか?
存在自体、忘却してしまうのでないか?
それが世代が代わればどうだろう。あった事すら知らないのではなかろうか。
…………さて、世界が滅んだ。
そう『私』は冒頭で語った。
創造神もまた人々の信仰に繋ぎ止められた『概念』であった。
当然神殿も存在した。
正確には『概念』ではなかったが、信仰で力を得て書き換えられてしまったのだ。
人の思いとはそれほどまでに強かったと言える。
創造神──いや、『私』は最後の神として、この言葉を次世代の神に残そう。
人々の思いは強い。
欲深さから来るものと考えている。それも、『私』の本質をも変えてしまう程だと言えば納得ができるものであろう。
決して侮ってはならない。
思い通りにはならぬ。
人は神を滅ぼせる。
『次世代の神よ心に刻め──神を産んだのは人だ』
何やら思い付いたので書いてみました。
(令和3年3月30日 追記)
補足説明を。
まぁ、経緯と言いますか、思い付いた切っ掛け的な話です。
創作物で語られる神様は信仰で力を得る云々って話が多いです。
信仰を失えば力が弱くなる。だから、神々で信仰の取り合いをするって話を、映画だったか小説だったかで見た覚えがあります。
そのクセ、人は神が生み出した。そんな内容です。
では、神の起源は?
人の信仰がなければ力が弱いのに、どうやって人を生んだのか?
生命を生み出すのに差程力は必要なかったのか、それとも人を生み出したから力を失ったのか……
理由付けをしてある作品もあれば、スルーしている作品も多い。
それが悪いって話ではなく、なんとなくこんな感じ? って思いついたのが今作です。
まぁ、大分作り甘いですけど。吐き出せてスッキリしてます。
PS
『神滅』と『鬼滅』……思い浮かばなくて引っ張られました。編集時に気が付いて、「まぁ、いいか」ってスルーしました。