伝説の足掛かりになる魔獣の話
ああ、飢える飢える飢える
渇く渇く渇く
満たされない満たされない満たされない
喰らえど喰らえど 殺せど殺せど
満たされない
「だ、誰か助けてくれぇ!」
「クソォ!!何でこんな事になっちまったんだ!?」
「何で!?何で私がこんな酷い目に会わなければならないの!?」
「おお神よ!我々を救いたまえ!」
「お願いします!どうか、どうかこの子だけは!!」
「へ、へへもうダメだ~俺たちゃここで死ぬんだぁ」
私と対峙する人間は皆、同じようなことを口にする。
怒声、嘆き、命乞い、祈り、あきらめ
その全ての言葉にたいし私の行動は変わらない。
貫き、噛み砕き、啜り、喰らい、蹂躙する。
時に一撃で、時に時間をかけて。
私の確定している運命…その瞬間が訪れるまでの暇潰しとして、飢えを少しでも満たし渇きを潤す物として、私は人間を無慈悲に喰っていく。
「おお!大いなる神の獣よ!汝の怒りは最もだ!愚かにも邪教を崇める愚者が増え、汝の使える神が蔑ろにされているこの世に絶望し、怒り、暴れているのだろう?なれば!我々と共に穢れ、間違った世界を浄化し正そうではないか!!」
百年も暴れていれば何を勘違いしたのかこういった手合いも現れる。
私が神の獣?下らない事を言う。
たとえ私が本当に神の獣だったとして、何故こやつらは当たり前のように自分たちの味方をしてもらえると思っているのか。
理解できない。
「手始めにこの…神に愛された子だけが名乗る事を許される〔聖女〕を名乗り、民を導く我らの邪魔をするこの愚かな娘に神罰をお与えください!」
私の前に放り出されたのは縄で縛られた十にも満たないであろう娘。
私は娘を素通りし適当な奴の体を貫く。
最初はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた連中の顔が青ざめ散り散りに逃げ始める。
目視できていた連中を皆殺しにし、全ての死体を娘に見えるように喰らう。
その後娘の縄を斬り放置した。
「凶悪な魔獣よ、覚悟しろ!」
ようやく私の生も終わりの時が来た。
二人の男女が私の前に立つ。
男に覚えは無いが女は見覚えがある。
あの時の娘だ。
産まれたときから解っていた、私はこの二人に殺されるのだと。
神に愛された者に殺され、その者を勇者と聖女にするのだと。
その為に満たされない飢えと潤わない渇きを与えられたのだ。
男は私を切り刻んだ。
女は呪文を唱え私を焼いた。
私は死んだ。
願わくば次の生は飢えず渇かず暖かい場所で穏やかな死が迎えられる生でありたい。






