アルヴィンの出自
そのままアルヴィンに連れられて、学園寮ではなくなぜか公爵家の屋敷に戻った。理由を聞いても答えてくれなかったが、戻ってみると驚いたことに父と母が揃ってふたりを迎えた。
「お父様、お母様?」
不思議そうに声を上げるセシリアには答えず、父の視線はアルヴィンに向けられている。
「セシリアを連れて、エイオーダ王国に戻ろうと思います」
アルヴィンは父にそう宣言した。
「そうか」
この言葉に驚くことなく、父は静かに頷いた。
「お父様? アルヴィン? エイオーダ王国って?」
理由もわからず狼狽えているセシリアに説明してくれたのは、母だ。
「アルヴィンは、エイオーダ王国の王妃陛下の甥だったのよ」
「え?」
驚きの声を上げるセシリアの前に、アルヴィンは許しを請うようにひざまずく。
「すまない。隠していたわけではないが、あの場では説明できなかった。俺の名はアルヴィン・ビィスタ。エイオーダ王国の王家の血を引く、ビィスタ公爵の息子だった」
「エイオーダ王家……。公爵……」
驚くことばかりだったが、そう言われてみると、ローダナ王国の王太子の態度は納得できる。あの国は、エイオーダ王国の魔導具にかなり助けられていると聞く。だから、向こうとしてもエイオーダ王国の公爵の息子と揉めたくはないだろう。
しかも彼の母は王妃陛下の姉であり、アルヴィンは国王の血縁に当たるそうだ。その国王夫妻には、いまだに後継者がいない。
「なんとか理解できたけど。でも、どうして……」
今まで黙っていたのか。そう尋ねる前に、アルヴィンは事情を語ってくれた。
「父はきっと俺が逃げ出したことでますます怒りを募らせ、会えば今度こそ殺されるかもしれないと思っていた」
アルヴィンの父は強く、まともに戦っても敵う相手ではない。当時、国王さえも手出しはできなかった。
いずれ戻って戦わなくてはならない。
幼いあの日からずっとアルヴィンはそう思っていた。
けれどセシリアと出会い、その傍で生きると決めてから、アルヴィンに父に対するこだわりも祖国に対する思慕も消えていた。
「だが、ここでローダナ王国の王太子が出てきた。セシリアを奪われないためには必要なことだと、ブランジーニ公爵の力を借りて叔母に連絡を取ったんだ」
父も、アルヴィンの正体をそれまで知らなかったらしい。
叔母からの返信はすぐに届き、数年前にアルヴィンの父が亡くなったこと。それからずっと、アルヴィンの行方を捜していたと書かれていたようだ。
「ならばセシリアを奪われないために、使える手段はすべて使おうと決意した」
そして父と相談し、セシリアを連れてエイオーダ王国に帰ると決めたようだ。
アルヴィンはひざまずいたまま、セシリアを見上げる。
「報告が遅れてすまない。俺と一緒にエイオーダ王国に来てくれないか。立場は変わってしまうかもしれないが、セシリアを愛する心だけは、なにがあっても変わらない」
答えは、考えるまでもなかった。セシリアは何度も頷き、アルヴィンの腕の中に飛び込む。
「もちろんよ。あなたと一緒なら、どこにだって行くわ!」
しっかりと抱き合う。でも両親の前だったことを思い出し、セシリアは慌ててアルヴィンから離れた。
それでも繋いだ手だけは離さない。
「ユージンが学園を卒業したら、家督を譲り、私達もエイオーダ王国に移住する」
「え? お父様とお母様も?」
父もエイオーダ王国には以前から興味を持っていたようで、さらに王家との確執が面倒になってきたこともあり、一緒に移住することも検討していたようだ。
後継者になりたかった兄は喜ぶかもしれないが、あの兄だ。公爵家を任せていいものか少し不安になる。
でも、苦労しても自業自得だとしか思わない。
セシリアもまた父と同じように、この国にも公爵家にも未練はなかった。
父が大切なのは母だけのように、セシリアだってアルヴィンだけだ。
(わたし、お父様にとても似ていたのね)
もともと望んでいた公爵の地位だ。兄の実母は亡くなっているが、母方の祖父母は健在なので、きっと力になってくれるだろう。
「……すまなかった」
そんなことを考えていたセシリアに、父はぽつりと謝罪した。
「お父様?」
「アルヴィンから聞いた。お前の魔力のこと、そして〝護り子〟のことを。マリアンジュを守ってくれてありがとう」
ふいに涙が出そうになって、アルヴィンの腕に顔を埋める。
父にとって大切なのは、これからも母だけだろう。でも父のセシリアを見る瞳は、以前よりも少しだけ優しかった。




